サイト小説の記事一覧
2020/05/01
【第八章 リップル子爵とアデヴィト帝国】第二十六話 神紋
ヤスは、リーゼの家で昨晩の結果を含めて聞こうとしていた。 先触れに出た、テンが戻ってきて、リーゼが家に居ると告げられた。マルスに確認すれば済むのだが、ヤスはメイドに仕事を与えたのだ。 リーゼは、家で待っていると言われたので、手土産になるお菓子を持って、リーゼの家に向かう。 「旦那様。ファーストです。リーゼ様がお待ちです」 「ありがとう」 ファーストが、ヤスを案内して、リーゼの家に入る。リビングで、リーゼが緊張した面持ちで待っていた。 「ヤス。昨日の話だよね?」 「そうだ。何があった?」 リーゼがヤ…
続きを読む2020/05/01
【第四章 襲撃】第四話 観察
夕花は、朝の6時に目が覚めた。二日目の夜も何もなかった・・・はずだ。今までとは違う柔らかいベッドで寝ていた。白く綺麗な天井。カーテンから差し込む優しい光。すべてが、しばらく感じられなかった物だ。そして、自分が”奴隷”として六条(文月)晴海に買われたのを思い出した。 (昨日も、何もされなかった) 2日連続だと自分に魅力がないのかと思えてしまう。 夕花は、ベッドからゆっくり起き出した。夕花は、控室にあるベッドに入る時に、晴海から呼び出された時の為に、下着を脱いで寝ていた。寝る時に脱いだ下着を見つめてから、…
続きを読む2020/04/30
【第四章 襲撃】第三話 考察
晴海は、夕花が寝ているのを確認してから、部屋のリビングに戻った。 情報端末には、次々と能見に頼んだ仕事が完了した情報が表示されていく。 (流石だな。仕事が早い) 晴海はローテーブルに、キャビネットから取り出したウィスキーを取り出す。キャビネットを探すが、欲しいもう一つの酒が見つからない。 ホテルのルームサービスで、氷とアマレットを注文する。普段は、飲まないが今日くらいはいいだろうと思ったのだ。 すぐに、先程対応したコンシェルジュが氷とアマレットを持ってきた、ロックグラスと短めのバースプーンも持って…
続きを読む2020/04/30
【終章】最終話 始まり
「ママ!行ってきます」 「気をつけるのよ」 「うん。大丈夫。スズとナツミと一緒だから!」 真帆は学校でいじめられている。家では、”いじめられている”とは言っていない。両親を心配させたくなかったのだ。 家から出る時には、無理にでも元気に出ようと思っているのだ。 両親は、真帆の気遣いを嬉しく思いながら、実際に”いじめられている”状態が解っているのだ。放置しているわけではない。学校に相談したが、担任の杉本が出てきて”いじめなんてない”と言うだけだ。校長に話をしたが何も変わらなかった。家族はそれでも諦めなかっ…
続きを読む2020/04/30
【第八章 リップル子爵とアデヴィト帝国】第二十五話 ディアスとヤスとルーサ
ディアスは姿勢を正して、ヤスを正面から見る。 「ヤスさん。イチカちゃんが言った”お願い事”は忘れてください」 「子供を助けてくれってやつか?」 「はい」 「なぜだ?」 「皇国と帝国を敵に回す可能性があります」 「そうだな」 ヤスの問題はないという態度にディアスは焦りを覚えて、きつい口調になってしまう。 「ヤスさん!解っているのですか?」 「ディアス。解っている」 「いいえ、解っておられません。帝国はどこまでも貪欲に神殿を狙ってきます。皇国も同じです。リップルとかいう子爵家とは違います」 「そうだろうな」…
続きを読む2020/04/29
【第八章 リップル子爵とアデヴィト帝国】第二十四話 子供と名前とイチカ
「旦那様。テンです。おはようございます。朝からもうしわけございません。ディアス様とイチカ様が面会を求めてお越しです」 「うーん。わかった。工房の執務室に通しておいてくれ、着替えたらすぐに行く」 「かしこまりました」 (昨晩の話かな?まぁ子供関係だろう) — 昨晩 子供が寝ているのを確認して、ヤスとリーゼは寮に入った。 子供たちは一つの部屋でまとまって寝ていた。ベッドを使うわけでもなく、床で、部屋の奥で肩を寄せ合いながら寝ていた。 それを見たリーゼが急に怒り出した。 「(ヤス!なんなの!)」…
続きを読む2020/04/29
【第四章 復讐】第六話 最後の1人
警察の取調室。一人の男が警察官と対峙していた。ドアは閉められている。取り調べの前に、警察官がしっかりと宣誓している。取り調べの様子が録画される事や、記憶として残される事、弁護士を呼ぶのなら先に呼んで欲しいという事だ。 男は、杉本という名前だ。 元小学校の教師だ。元というのは、10日前に依願退職しているからだ。依願退職となっているが、スポンサー(親戚の山崎)からの圧力があり、辞めるしかなかった。本人は辞めるつもりはなかった。来年には、校長が見えていたのだ。校長になってから、無難に6年過ごして、スポンサー…
続きを読む2020/04/28
【第八章 リップル子爵とアデヴィト帝国】第二十三話 ディアスと子供とリーゼと神紋
神殿のリビングに戻ったヤスは、気持ちを落ち着かせるために、アルコール度数が強い蒸留酒を煽った。 一杯だけで止めたのは、この後、ディアスが訪問してくると思ったからだ。 喉を焼くほどの強いアルコールを感じながら、ヤスは子供たちの怯えた目を思い出していた。 「旦那様。お水です」 「ありがとう」 ファイブから水を受け取り、喉の疼きを抑える。一気に、水を流し込んで目を閉じて考える。 自分は、ただの”トラック運転手”だ。それ以上でも、それ以下でもない。異世界に来て、分不相応の力を手に入れた。力に振り回されるな…
続きを読む2020/04/28
【第四章 復讐】第五話 須賀谷真帆
須賀谷真帆の毛髪は、ナツミが保管していた。正確には、ナツミが子供の時に使っていたブラシに毛髪が残っていた。お泊り会をしたときに、ナツミがマホに貸した物だ。そのまま使わないでしまわれていたのだ。ブラシからナツミとスズ以外の髪の毛を探して、白骨死体から見つかった物と突合した。結果、かなりの確率で白骨死体が須賀谷真帆だと断定された。 翌日、白骨死体が須賀谷真帆だと確定した。 記憶を無くしていた、那由太が仏舎利塔に現れたのだ。 那由太のDNAと白骨死体のDNAが調べられた。兄妹関係が確認されて、行方不明にな…
続きを読む2020/04/27
【第四章 復讐】第四話 立花祐介
西沢円花が、東京に向けて高級外車を走らせ、日野香菜が別荘で悪態を付いている頃。立花祐介もマスコミから身を隠すように父親から命令されていた。立花祐介は、他の二人と違って細かい指示はされなかった。 蝿のように集ってくるマスコミに見つからないようにすればいいと考えたのだ。 立花祐介は、インテリジェンスビル(高度情報化建築)にある自身が契約した最上階の部屋に居る。 同級生で、同窓会の時に犠牲となった山崎の実家が持っているビルの最上階をタダ同然で借りているのだ。 タダ同然というのにも理由がある。毎月の賃料は…
続きを読む2020/04/27
【第八章 リップル子爵とアデヴィト帝国】第二十二話 子供たち
「旦那様。旦那様」 ヤスは、久しぶり・・・、でも無いけど、ゆっくりと寝た。 「リビングに、水を用意しておいてくれ」 外からの呼びかけに布団の中から答える。 「かしこまりました」 メイドが、扉の前から消えるのを気配で察してから布団から出た。 服を着替えてから、リビングに向かう。 「旦那様。おはようございます。ファイブです」 「おはよう。マルス。デイトリッヒやサンドラの帰還はまだだよな?」 『はい。まだ、神殿の領域内にはおりません』 「わかった。子供たちへの対応を先に行ってしまおう。その前に、食事と報告…
続きを読む2020/04/26
【第八章 リップル子爵とアデヴィト帝国】第二十一話 リーゼに頼み事
「マルス。それで、リーザは?」 『地下を出て、自宅に戻りつつあります』 「誰か付いているのか?」 『個体名ファーストが付いています』 「今から行けば、家で捕まえられるな」 『はい』 ヤスは、地下の執務室を出て、リーゼの家に向かった。 「旦那様。ファーストです。リーゼ様は、お部屋でお待ちです」 「ファーストか、ありがとう。マルスから連絡が入ったのか?」 ヤスはドアの前で待つファーストから、リーゼが待っていると告げられる。 考えられるのは、マルスだけなのだが、ファーストに確認した。 「はい。情報端末に連絡…
続きを読む2020/04/26
【第四章 復讐】第三話 日野香菜
西沢円花が、東京に高級外車を走らせている頃、日野香菜は父親が用意した別荘に居た。 日野香菜も、西沢円花と同じ様に地元では有名だ。祖父が長年に渡って町議会で委員長を勤めた。地盤を継いだ父親は、町議会から県議会に、そして国政に打って出た小選挙区では相手候補が強すぎて負けてしまったが、比例で復活当選を果たしている。 その娘なのだ。現在、同じ派閥の議員の息子と婚約をしたばかりなのだ。 そこに、スキャンダルと言える、同窓会での事件が発生した。日野香菜も他の参加者と同じで参加する予定ではなかったのだが、なぜか参…
続きを読む2020/04/25
【第八章 リップル子爵とアデヴィト帝国】第二十話 ディアスの報告
「ヤス様。子供たちは・・・」 ディアスが言葉を詰まらせる。カスパルが、慌ててディアスの表情を見るが、泣いているわけではない。どう説明していいのか、自分の考えが正しいのか、正しかった時に神殿に影響が出てしまうのではないかといろいろ考えてしまっただけなのだ。 「大丈夫だ。ディアス。教えてくれ」 「はい。子供たちは、帝国を通って来たようです」 「ん?ディアス。ちょっとおかしくないか?」 「今、”帝国を通ってきた”と言ったよな?間違いじゃないよね?」 「はい。彼らの言葉を信じるのなら間違いなく、彼らは、ラインラン…
続きを読む2020/04/24
【プレゼン10分前】気がついてしまった罠
「どうする?」 「どうするも、提案書は出したのだろう?」 「提出した」 俺は、システム屋のプログラマをしている。 社長にはしっかりと説明して、俺の肩書はプログラマになっている。人が少ない零細企業なので、プログラマでも仕様書も書けば、客先に提案を持っていく、それだけではなくメンテナンスからハードウェアの修理まで何でもこなす。 今日は、以前から話が社長の所に話が来ていた、大規模システムのプレゼンを行う日だ。 「行くしか無いか」 「すまん。無駄な時間だな」 俺のボヤキに社長は謝罪の言葉を口にする。 「いい…
続きを読む2020/04/24
【情報の虜囚】悪意と善意
綺麗だな。 あちらこちらで僕が撒いた種が増えている。拡散され続けている。こんなに嬉しいものだったのだ。 街の中にも青い紫陽花が増えている。 街だけじゃなく国中を覆うように種を拡散しなければならない。 僕の望みは、この国の隅々まで青い紫陽花を咲かせることだ。 見届ける必要はない。 種は拡散し始めた。僕の手を離れたのだ。もう止まらない。止める手段が存在しないのだ。 伸び切ってしまった手足を切り落として小さいベッドで眠らない。受領した快適を手放せる者がどれほど居るのだろう。種の拡散を止める方法は存…
続きを読む2020/04/24
【都会へのUターン】地獄だった田舎暮らし
「オーナー。どうしましょうか?」 「お前は、何度言えばわかる。俺のことは”まさ”と呼べと言っているだろう!?」 「だって、オーナーはオーナーじゃないですか?」 「いいから、まさと呼べ!次は無いからな」 いつもの朝の風景だ。 俺は、新宿・・・。と、言っても有名な歌舞伎町ではなく曙橋という場所で生まれ育った。 新宿で過ごして大学も新宿にある2流の大学に入った。何も考えずに入れたIT企業に入社した。ブラック企業一歩手前の会社だった。働いて身体と心を壊した。地元に居るのが怖くなった。TV番組で取り上げられてい…
続きを読む2020/04/24
【私が作る最高のお祭り】プロポーズされた!最高のお祭り!
「そっちに逃げたぞ!」 「大丈夫だ。アキが待っている」 「また、アキのところかよ?!」 「アキの奴、何人目だよ。俺が連れてきたメスもアキが壊していたぞ?」 「しょうがないだろう?そういうルールなのだからな。ほら、次の祭りに行くぞ!それとも、アキの後で壊れてなければやるか?」 「そうだな。昨日は、一匹にしか出してないからな。アキの後で犯すことにする」 「殺すなよ?」 「そんなヘマはしないよ。薬漬けにして売るのだろう?」 「あぁアナルも犯しておけよ。薬漬けの後に好きものが買い取ってくれるからな」 「わかった。わ…
続きを読む2020/04/24
【4で割り切れて】400で割り切れて・・・
空になったコップをテーブルの上に置いて旧友に愚痴を言う。 「ヨウコ!聞いてよ」 学生時代からの親友であるヨウコに話を聞いてもらう。 「はい。はい。今日はどうしたの?また、いつもの人?」 「そうなの聞いて!うるう年って有るでしょ?」 「うん」 「計算方法って知っている?」 「マキ。私のこと馬鹿にしているの?文系でもそのくらい知っているわよ。4で割り切れる年でしょ?」 「でしょ!でしょ!それでいいよね!」 私は、注文していたモスコミュールを一気に煽る。 ヨウコの顔が”今日も長くなるのか”と言っているよう…
続きを読む2020/04/24
【第四章 復讐】第二話 西沢円花
西沢円花は、旦那が会社の資金を流用して購入した高級外車を走らせていた。 「なんで私が、私は社長夫人なのよ!」 旦那のIT企業は本社を地元に置いて、都内に支社を作っていた。規模は、支社の方が大きいのだが、本社機能だけを残している。 「あの人も、あの人よ。今更、なんだって言うのよ!」 円花は、先日警察から呼び出しを受けた。地元の古くあまり使われていないキャンプ場で白骨化した死体が見つかったのだ。 同窓会の時に起きた凄惨な事件と相まってマスコミが騒いだ。 見つかった当初は、20年近く前の白骨死体とだけ報…
続きを読む2020/04/24
【第八章 リップル子爵とアデヴィト帝国】第十九話 カスパルの報告
動かない二人を見てヤスは戸惑っていた。部屋の前で立って待たれるとヤスが困ってしまう。それに、どこから突っ込んでいいのか解らないのだ。 ヤスも神殿から出る時に、二人を見送っているが、その時にはしていなかった腕輪をしている。それも、二人でお揃いの腕輪だ。 『マルス。お揃いの腕輪は、結婚の証なのか?』 『婚約指輪と同等と考えてください』 『わかった』 ヤスは、二人を観察した。おそろいの腕輪以外ではおかしなところはない。座っていたソファーから立ち上がって二人を招き入れる。 「いい加減に入ってこいよ」 「あっ。…
続きを読む2020/04/23
【第八章 リップル子爵とアデヴィト帝国】第十八話 嫌がらせ作戦実施中??
ヤスは、ユーラットの駐車スペースに戻ってきた。メイドにカードを渡して、FITのロックを外す。 運転席に乗り込んだ。 『マスター。東門に向かう。ルートが構築されました』 『お!どんなコースだ』 『ディアナに転送しました』 カーナビに、レイアウトが表示される。上から見たコースと高低差が解るようになっている。表示が切り替えられるようになっている。 『マルス。なんで、130Rからの高速S字が有ったり、立体交差が有ったり、わざわざ登ってから下りながら90度ターンをするようなコースになっている?』 『マスターの満…
続きを読む2020/04/22
【第八章 リップル子爵とアデヴィト帝国】第十七話 関所の村を説明
アフネスは、手に持っていた試算表をヤスに渡した。 「ふぅーん。アフネス。これで、ユーラットはいいのか?」 「問題はない」 「今更ながらの質問だけど、ユーラットのまとめ役は、アフネスなのか?」 「ん?確かに今更な質問だが、私ではない。村長は、しばらく空席になっているが、まとめ役はロブアンだ」 「え?」 「何かおかしいか?」 「いや、なんでも無い。・・・。・・・。・・・。そうだ!忘れていた」 「なんだ。ヤス?」「ヤス殿?」 「カイルとイチカの事は聞いているよな?」 ヤスの問いかけに二人は渋い顔をしたが頷いた…
続きを読む2020/04/21
【第八章 リップル子爵とアデヴィト帝国】第十六話 ユーラットに寄り道
ヤスは、関所の村をルーサとイレブンに任せた。 マルスも反対していないので、これが正解だったと思っている。 『マスター。セカンドが、FITで向かっています』 『わかった』 ヤスがユーラット方面に歩いていると、10分程度進んだ所で、FITが見えてきた。セカンドが運転しているのだが、ヤスが見えてきた時点で速度を落として、手前で停まった。 「旦那様。セカンドです」 「ありがとう」 セカンドは運転席を降りた。ヤスと運転を変わるのだ。 運転席に乗り込んだヤスは、窓を開けてセカンドに声をかける。 「セカンドはど…
続きを読む2020/04/20
【第四章 襲撃】第二話 情報
夕花は少しだけ考えていた。 晴海が、自分を主寝室に呼ぶのではないかと・・・。 紅茶を飲み終わって、二人の間に沈黙が訪れる。 両者とも人付き合いが得意な方ではない。 晴海は、それなりの経験はあるが、人付き合いという面では受け身だ。 当然だろう。金持ちの子息なので、周りが勝手に興味を持って話しかけてくる。晴海の興味を引くためにいろいろな話題を振ってくるのだ。自分から話題を振るような必要は夕花と話をするまで必要なかった。 「晴海さん」 「なに?」 「今日は、どうされますか?」 晴海は時計を見る。 (…
続きを読む2020/04/20
【第四章 襲撃】第一話 監視
晴海は着信を確認してから、通話モードに切り替えた。 「何かあったのですか?」 着信は、コンシェルジュからだ。 「文月様。夜分に申し訳ありません。先程、親戚を名乗る者が夕花様の事を問い合わせてきました」 晴海は夕花を見て、少し考えた。 不思議に思った事が2点ある。 「なぜ夕花だと?」 「はい。具体的に、写真を見せられました。当ホテルのエステを使われる前の夕花様に似ていらっしゃるお写真でした」 「夕花の名前を聞いたのか?」 「いえ、写真だけを見せられました」 「それで?」 「お泊りになっていないとお答え…
続きを読む2020/04/20
【第三章 秘密】第三話 会話
「夕花」 「はい。晴海さん」 晴海は、夕花を自分が座るソファーの前に座らせた。 「夕花の事を聞きたいのだけどいいかな?」 「私の事ですか?」 「そうだ」 「・・・」 夕花は、晴海がどんな答えを望んでいるのかわからない。わからないが、必死に考えた。 「どうした?」 「いえ・・・。お話できるような事はないと思います」 晴海は少しだけ困った顔をする。しかし、夕花に問題があるわけではない。晴海に大きな問題があるのだ。話を聞きたいとだけ言われて、どんな話をすればいいのか考えられる人間がどれほど居るだろうか? …
続きを読む2020/04/20
【第三章 秘密】第二話 準備
「晴海さん」 「夕花。部屋で待っていてくれ。外からノックを3回したら鍵を開けてくれ」 「はい?」 「今から少しコンシェルジュに忘れた頼み事をしてくる」 「わかりました」 晴海は、夕花に先に部屋で待っているように言って、自分は一度ロビーに戻った。 コンシェルジュに頼んでおきたい事が有ったからだ。 「文月様。何か?」 「もうひとつの部屋の事を問い合わせた者が居たら教えて欲しい」 「かしこまりました。どの様にお伝えすればよろしいでしょうか?」 「端末にメッセージを遅れるだろう?」 「はい。大丈夫です」 「秘匿…
続きを読む2020/04/20
【第三章 秘密】第一話 部屋
六条晴海が、待っている場所まで、文月夕花を連れてきたのは、赤髪の女性だ。 エスコートしているというセリフが似合っている。 「ご主人様」 「夕花。綺麗になったね」 少しだけ俯いて頬を赤く染める。 「よろしいのですか?」 「問題ない」 六条晴海は、赤髪の女性から、文月夕花の手を渡された。 紙幣を丸めた物をチップとして渡す。一礼して女性が立ち去った。 文月夕花はどうしていいのかわからないようだ。 「夕花。座っていいよ」 「はい」 そう言われても、六条晴海はラウンジにあるバーカウンターに座っている。横…
続きを読む2020/04/20
【第三章 秘密】閑話 夕花
私の名前は・・・。あんな奴の名字なんて名乗りたくもない。 考えただけで・・・気分が・・・。悪くなる。 父は、愚者だった。 お金が欲しいくせに、汚い癖に他人に悪く言われるのがイヤで他人には文句を言わない。母にだけは強く出られる小心者だった。 働き者ではなく、小心者と怠け者で自分で考えることができない愚者だった。 父は、知人から持ちかけられた共同経営の話に乗った。 最初は会社がうまく回ってかなりの売上が出ていた。歯車が狂いだした。最初は些細なミスだったのかも知れない。父は、他人から責められる事に我…
続きを読む