魔法の世界でプログラムの記事一覧
2024/09/22
【第六章 約束】第十二話 決断と覚悟
報告を聞いたユリウスは苦悶の表情を浮かべていた。 「最悪だ」 側に居てほしいと思っている人物は、ホームタウンに戻っている。 もしかしたら、こちらに向かっているのかもしれないが、”影”からは何も情報が入ってこない。 ユリウスの言葉は、控えていた従者にも届いているのだが、従者はユリウスの言葉を聞いても、何も反応しない。従者は、反応ができない。反応してはダメだと思っている。今のユリウスに助言ができる者は天幕のなかには居ない。 ユリウスが苦悶の表情を浮かべている理由がわかっているので、従者も声をだすことが…
続きを読む2024/07/04
【第六章 約束】第十一話 共和国の闇
「殿下?」 「ん?」 「それで、調べるのですか?」 「命令だからな・・・。そんな顔をするな。私としても、調べないほうがいいような気がしている」 ユリウスは、燃え残った紙片を見つめている。 重要な文面は残されていない。しかし、ユリウスやハンスたちの頭には命令の形で書かれていた”共和国の闇”が残っている。 確認しないほうがいいのは、自分たちというよりも、ライムバッハ家のためだ。 「殿下。ご命令を・・・」 ユリウスは、天幕の中でもっとも信頼できる者を探した。しかし、ユリウスが求める者は、”約束”を守るため…
続きを読む2024/05/03
【第六章 約束】第十話 待ち人
豪奢とは思えないが、奇麗に整えられた天幕の中で、同じく粗末ではないが質素な福に身を包んだ男が報告を聞いていた。 同年代の男を背後に従えている様子は、男がある一定の権力を持っている事を現している。 天幕での生活は長期化しているが、本人たちはまったく気にしていない。連れてきた者たちも、交代で帰国させている。すでに、包囲網は完成している。そのうえで、窓口を開けて待っている状況だ。 「ユリウス殿下。彼の方は、無事に国境を越えられました」 「そうか・・・。クリスにも・・・。必要ないか?」 「はい。別の者が、報告…
続きを読む2024/03/02
【第六章 約束】第九話 共和国(3)
議会は荒れていた。 食料の問題で招集されて開催された議会だが、今は違う話が主軸になっている。 もともと共和国は、いくつかの王家が帝国や王国に対抗するために集まった小国家群と言い換えてもいいのかもしれない。 最初は、軍事力で他国を圧迫していた国の意見が通っているような状態だったが、国家間の調整となによりも帝国と王国の圧力に屈する形で、小国家群は一つの国にまとまる選択をとった。 その時に採用された方式が、共和国制だ。 小国家は、そのままにして発言力を強めようとした。 小競り合いは発生したが、そのた…
続きを読む2024/01/03
【第六章 約束】第八話 共和国(2)
ユリウスたちは、使者との約束を守っている。約束の期間は、戦闘行為を行っていない。城門近くでの炊き出しを行うだけに留めている。 使者の言葉を、そのまま情報として民衆に流した。民衆は、得る事ができなかった情報に喰い付いた。王国を非難する者も居たが、それ以上に共和国のやり方に憤慨する者が多かった。そして、自分たちの国の上層部なら”やりそう”だと考えている。 共和国は、建前として多数派による政治だと宣伝をしている。 ユリウスも、共和国の政治体制は、認めている。しっかりと運営が出来ていれば、政治が機能していれ…
続きを読む2023/12/13
【第六章 約束】第七話 共和国(1)
アルノルトが、カルラとアルバンを連れてウーレンフートに向かっている頃。 アルトワダンジョンを出たローザスたちは、アルノルトから提供された地図を使って進軍していた。 「殿下!」 「どうした?」 「αダンジョンの周辺を抑えました」 「わかった。最低限の人数を残して、δダンジョンに迎え」 「はっ」 ダンジョンの名前は、デュ・コロワ国が名付けているが、ユリウスたちは、アルノルトが使っていたαβγという呼称で呼ぶことにした。攻略しているダンジョンの確保が最優先された結果だ。 攻略順ではないが、攻略ダンジョンを…
続きを読む2023/11/28
【第六章 約束】第六話 無言の帰国
状況の説明と今後の方針を決定した。 共和国の相手は、ユリウスに任せる事に決まった。 俺は、王国に帰還して、エヴァを迎えに行く。 『エイダ。集まったか?』 『十分な量の確保に成功しました。馬車に積んであります』 『わかった。ありがとう』 ユリウスたちとは、アルトワ・ダンジョンで別れた。アルトワ・ダンジョンには、クリスティーネが残る。 俺よりも先に、ユリウスたちが出立した。 共和国を攻め落とすのには、情報が伝わる前に重要拠点を攻略しておく必要がある。 ダンジョンの確保は必須だ。実効支配は完了してい…
続きを読む2023/11/12
【第六章 約束】第五話 想定外の出来事
ライムバッハ領の領都には、私たちが執務を行っている邸がある。ライムバッハ辺境伯の邸とは別に用意された場所で、私たちが生活する場所が一緒になっている。 私の執務室は、邸の入口に近いが場所にある。 客人対応が多いのが私だ。ユリウス様に客人対応を任せられない。当代のライムバッハ辺境伯はカール様だ。私たちが支えるべき人物だ。しかし、ユリウス様の現在の肩書は別にして”皇太孫”という立場があり、権限を持っていると思われてしまう。他の者たちでは、客人が爵位を持っている場合に、”軽く見られた”と言い出す者が居る(可能…
続きを読む2023/10/28
【第六章 約束】第四話 行動方針
ユリウスはまだ何か言っているが、クリスティーネが納得したので、ダンジョン・コアの説明は、共和国を落としてからに決まった。 俺が攻略したダンジョン以外にも、共和国内にはダンジョンが存在している。現在は緩やかにだが、俺が攻略したダンジョン以外のダンジョンで共和国の屋台骨を支えている。共和国の弱体を狙うのなら・・・。ダンジョンは攻略しておいた方がいいかもしれない。 クォートとシャープがヒューマノイドタイプの戦闘員を連れて戻ってきた。 共和国への侵攻計画を共和国の領土で練っている。 すでに進入を果たしているので、ど…
続きを読む2023/10/10
【第六章 約束】第三話 目標と罠
共和国に攻め込む者たちを含めて、アルトワ・ダンジョンに移動した。 実効支配している場所を確認してから、落としどころを考える事になった。 俺たちが見聞きしてきた情報を、皆に伝えたところ、今なら共和国の半分は無理でも、1/3くらいは取れると考えているようだ。 経済戦争を行うのには、お互いに準備が足りていない。 「ユリウス。共和国への対応だが・・・。適当な落としどころを決めてくれ、王家に渡すにしても、飛び地では管理が難しいだろう?」 「それは・・・」 「アルノルト様。大丈夫です。考えがあります」 「え?」 クリス…
続きを読む2023/09/07
【第六章 約束】第二話 電撃作戦
「ユリウス!」 「アル。俺は、お前にも文句を言いたい。共和国に行くのは、お前の自由だ。だが、困ったことがあれば、なぜ俺を俺たちに連絡を入れない!」 「ん?なんの事を言っている?」 「お前!」 ユリウスが、何故か怒り出した。 昔から変わらない。何か、説明が抜けている。俺が持っている情報と、ユリウスが持っている情報に差異が生じているのだろう。 「ユリウス様。アルノルト様には、それでは伝わりません」 頼りになるクリスティーネがユリウスの怒りを抑えるように嗜める。 「アルノルト様」 クリスティーネは、ユリウスが落ち…
続きを読む2023/08/17
【第六章 約束】第一話 皆?
ここは? だるい。 ん?草の匂い? あぁ・・・。 眩しい。ダメだ。俺は、天を空を感じていいのか? 俺は・・・。 生き残ってしまったのか? 手が動く、腕も動く・・・。 天を・・・。”天”なぞいらない。俺を庇って死んだ・・・。アルバン、カルラ・・・。アーシャを・・・。 「アル!」 誰だ? 俺の手を握るのは? 「アル!?」 また、違う奴か? 頭が痛い。 思考に靄がかかっているようだ。考えたくない。起きるのも・・・。 「アルノルト・フォン・ライムバッハ!」 誰だ? そうだ。 俺は、”アルノルト”。 違う。 俺は・・…
続きを読む2023/08/08
【第五章 共和国】第六十五話 心の死
ここは? ”クスクス” ”クスクス” ”おきた” ”めざめた” ”久しぶり!” ”久しぶり” え? 久しぶり?俺は、ここは・・・? 前にも、こんなことがあった・・・。よな? あれは・・・。 そうだ。 エリとエトか? ”そう” ”おもいだした?” 思い出した。 アリーダ様は? ”もうすぐ” ”くるよ” 何か、準備をしているのか? ”準備!” ”準備?” 疑問で返されても困るのだけど? ”困る” ”困って” わかった。 待っていればいいのか? ”うん” ”そうだよ。待っていて!” 待つのはいいけど、ここは? ”…
続きを読む2023/07/29
【第五章 共和国】第六十四話 尋問
尋問を始めようとしたが、”意味がない”と解ってしまった。 生き残っている奴も壊れてしまっている。 まともに会話が出来ない。苦痛を与えられても、”へらへら”と笑っている。指を切り落としても、足の骨を折っても反応がない。痛みを感じないのか? うめき声を上げるから、痛みは感じるのだろうけど、言葉が通じない動物や魔物を相手にしているような感覚になる。 「エイダ。死んでも構わない。記憶を抜き取ってくれ」 『了』 クォートとシャープの後をついてきた奴らだと報告を貰った。 俺を襲ったナイフの解析を進めている。大本は解った…
続きを読む2023/07/18
【第五章 共和国】第六十三話 声なき声
戦闘は終わった。 体力も気力も限界だ。 精神的に疲れたので動きたくない。 カルラも珍しく座り込んでいる。アルバンは、横になって目を閉じている。 確かに、周りには脅威になるような物はない。 クォートとシャープもユニコーンもバイコーンも機能が十全に使えるようになって、確認をしてから移動を開始した。 クォートたちが帰って来るまで休憩する。 さすがに、疲れた。 葬送を終わらせて、やっと終わった感じがしている。 辺りは、先頭の余韻が漂っているが、しばらくしたら消えるだろう。 自然が戦闘を隠して、元の状態に戻すだろう。…
続きを読む2023/06/27
【第五章 共和国】第六十二話 DoS攻撃?
黒ドラゴンの正体が、人を核にしたキメラだった。 煙が天に上がる。 森の木々を越えたあたりで、煙が霧散する。 それぞれ・・・。待つ人の所に向かっているようにも思える。 「兄ちゃん?」 「アル。お疲れ。カルラは?」 「姉ちゃんは、防具をまとめている」 さっそく動き出している。 アルバンの視線を追うと、カルラが防具をまとめている姿が目に飛び込んできた。 俺とアルバンは、攻撃をかわすために、全力だった。スキルを使わない戦いは辛かった。 途中からスキルを全開で使わなければならなかった。 本当に、嫌らしい敵だ。 「旦那…
続きを読む2023/06/21
【第五章 共和国】第六十一話 黒ドラゴン
黒ドラゴンは、黒い靄を纏っているようにも見える。 ブラックドラゴンではなさそうなのは・・・。不幸中の幸いか? 考えていても意味がなさそうだ。黒ドラゴンは、既に戦闘態勢だ。 四体の龍を呼び出す。 黒ドラゴンに突っ込ませるが、ダメージを与えているようには思えない。靄は、一瞬だけ剥がれるがすぐに元に戻ってしまう。それだけではない。龍を吸収しているようにも見える。 アルバンとカルラも、後ろを気にしながら攻撃を加えるが、黒い靄が崩れるだけで、すぐに戻ってしまう。 「カルラ!」 「はい。スキルで攻撃します」 「頼む。ア…
続きを読む2023/06/06
【第五章 共和国】第六十話 死闘
クラーラ! お前だけは、お前だけは・・・。 『アルノルト様。その”絡繰り”はダメです』 指を鳴らす音が響いた。 「アルノルト様!」 カルラが慌てて、俺に駆け寄ってくる。 剣は構えたままだが、クラーラの姿が見えない。スキルを使うが、クラーラを補足さえできない。 「アルノルト様!クォートとシャープが!」 カルラに指摘されて、二人を見ると、糸が切れたかのように、身体から力が抜けて、座り込んでいる。 バックアップは作成してあるので、復元はできるだろう。 しかし・・・。 その前に、クラーラは、”何を”やったのだ? そ…
続きを読む2023/05/16
【第五章 共和国】第五十九話
丘の頭頂部に座っていると、注ぎ込む太陽が気持ち良い。風も気持ちがいい。吹きおろしの風だ。 「アル!」「アルバン!」 何があった? 俺とカルラは、武器を抜いて走り出した。 丘から駈け下りる。 数十メートルの距離がもどかしい。 「クォート!シャープ!」 ダメだ。 森から出てくる奴らを抑えるだけで精一杯だ。二人が苦戦しているわけではない。連携が阻害されている。 違和感しかない連中だ。強いわけではない。数が多いわけではない。でも、ダメージをダメージとして認識していない? 武器を恐れていない。 でも、武器の扱いに慣れ…
続きを読む2023/05/01
【第五章 共和国】第五十八話 合流
俺とカルラは、荷物や馬車を置いて、アルバンが戦っている場所に急いだ。 アルバンが負けるとは思っていない。 俺とカルラが問題に思っているのは・・・。 アルバンが、相手を殺してしまう可能性があることだ。 アルバンの過去にも影響しているのだが、アルバンにはトリガー(トラウマ)が存在している。トリガーが引かれると俺やカルラが対応しないと、抑えられない。今回は、大丈夫だとは思うが、何があるかわからない。 アルバンを襲った奴らが殺されようが、どんな酷い結末を迎えようが、気にしない。 しかし、アルバンが落ち込むのは避けた…
続きを読む2023/04/18
【第五章 共和国】第五十七話 襲撃者?
しまった! 内通者の存在自体が罠の可能性を完全に忘れていた。 王国に帰ることで頭がいっぱいだった。 共和国のダンジョンが弱かったことや、思っていた以上に共和国の連中が弱かったから、気を抜いてしまっていた。 俺たちだけが、共和国内で実践形式の訓練をしていたわけではない。 帝国の奴らも、共和国を狙っていても・・・。それなら、俺たちを見つけて、情報を抜こうとしていても不思議ではない。 俺が、帝国の立場でも同じ事を考えただろう。 そして、実行する。 内通者が仕立て上げられたら、内通者に情報を送らせる。 情報が流れて…
続きを読む2023/04/13
【第五章 共和国】第五十六話 同行者?
クォートとシャープとの合流まで、半日程度の距離に到着した。 順調な行程に、少しだけ不安を覚える。 俺たち側には、問題は出ていない。 アルバンが暇をもてあましたのが、問題と言えば問題になっている程度だ。俺もカルラも、それぞれでやることがある。何もないアルバンだけが暇を持て余している状態になってしまっていた。狩りに出かけようにも、目的が合流なので、俺たちから離れての行動は許可できない。食料の調達や素材の確保も現状では必要ない。流石に、文句(グチ)は言っていないが、何もない状況に飽きているのが目に見えてわかってし…
続きを読む2023/03/28
【第五章 共和国】第五十五話 内通者
準備が出来た馬車を、あえて王国とは逆の方角に馬車を進めた。 カルラは、反対したのだが、俺が押し切った形だ。 3つの情報を流した。流し方にも工夫をした。俺たちの情報だと解るようにした物と、俺たちだと解らないようにした情報だ。 ・アルトワ町に寄ってから共和国内の別の国から王国に帰る ・馬車は囮で、徒歩で王国に向かっている ・数多くの嘘情報を流して、裏切り者を探している。実際にはダンジョン内に隠れている者をあぶりだす。 情報を流して、すぐに効果が現れた。半日程度で状況が変わったのには驚いた。しっかりと、耳が設置さ…
続きを読む2023/03/20
【第五章 共和国】第五十四話 密談
アルトワ・ダンジョンの周りには、動物がちらほらと見受けられるが、魔物や人は存在していない。 街道から外れている状況で、且つ、その街道が殆ど使われていないことを考えれば、当たり前の結果だが、野盗が隠れている可能性も考慮した。 動物を見つけられたから、盗賊は居ないと思っていた。 アイツらは、近くに居る動物は狩りつくす。狩りつくした上に、盗賊行為を行う。知恵が付いたゴブリンだ。見つけ次第、殲滅が正しい対応だと思っている。使い道もあるので、殺さずに捕まえることが多いのだが・・・。共和国に入ってからは、野盗は殺してい…
続きを読む2023/03/13
【第五章 共和国】第五十三話 出立準備
アルトワ・ダンジョンの要塞化は、残りは中身をソフトウェアを整える段階に入った。ここからは、時間がかかる為に、アルトワ・ダンジョンに残る者たちに任せることになる。 残る者たちの手助けに鳴るように、警報装置を設置した。 結界を応用した物だが、消費を抑えた魔法(プログラム)が完成した。かなり機能を削ったが、アラーム程度には使える。アルトワ・ダンジョンに近づいた者をマーキングするだけの魔法だ。 正規の手続きをしないで、城壁を越えたらアラームが鳴るようになっている。 出来たらブラックリストを作りたかったが、そこまで組…
続きを読む2023/03/06
【第五章 共和国】第五十二話 要塞化
俺は、カルラとアルバンをアルトワ・ダンジョンの拠点に残して、最下層に移動した。エイダと二人で駆け抜けた。 『マスター』 「ウーレンフートから、ラックを持ってきてくれ」 『了』 エイダに指示を出す。ラックサーバで、アルトワ・ダンジョンと周辺を構築する。 城塞を作るには、組み込んでいるサーバーではパワーが足りない。アルトワ・ダンジョンは、共和国内のダンジョン(サーバー)を管理する必要もある。モニターを行うだけでも、十分なパワーがないと重要な情報を見逃すことがある。 各ダンジョンには、最低限の施設だけを残すように…
続きを読む2023/02/20
【第五章 共和国】第五十一話 再びのアルトワ
ダンジョンの攻略を終わらせて、王国に帰還するために、拠点を築いたアルトワ町に向かっている。 より正確に言えば、アルトワダンジョンに向かっている。 俺たちだけなら、アルトワダンジョンの最下層からウーレンフートに移動することも出来るのだが、国境で証拠を残す必要がある。 『マスター』 俺の横で静かに作業をしていたエイダが話しかけてきた。 「終わったのか?」 『是』 クォートとシャープと合流して、報告を受けたのだが、俺たちが攻略を見送った小さなダンジョンや、未発見状態だったダンジョンを攻略してきた。眷属を自由に増や…
続きを読む2023/02/13
【第五章 共和国】第五十話 幼き記憶
おいらの名前は、アルバン。 親に与えられた名前は、別にあるのだが、兄ちゃんから、”真名(まな)”を教えない設定でかっこいいと言われた。凄く気に入っている。真名(まな)は誰にも教えない。おいらだけが知っている。魂の名前。 兄ちゃんには、もちろん真名(まな)を教えている。 でも、普段は、アルと呼んでくれる。慣れているのもあるが、しっくりくる。自分が呼ばれていると思える。今更、真名(まな)で呼ばれてもしっくり来ない。 兄ちゃんには、おいらの事は、クリス姉ちゃんから指示を受けたおっちゃんと一緒に旅(行商)をしてきた…
続きを読む2023/02/06
【第五章 共和国】第四十九話 カルラノート
私は、カルラ。 カルラの名を継いでから5年が過ぎた。今の主は、クリスティーネ・フォン・フォイルゲン様。フォイルゲン辺境伯家のご息女で、ユリウス・ホルトハウス・フォン・アーベントロート皇太孫の婚約者だ。貴族家にしては珍しく、恋愛からの婚姻(クリスティーネ様が断言されていた)らしい。 クリスティーネ様からの指示を聞いたときに、不思議に思った。クリスティーネ様と幼年学校からのクラスメイトで少しだけ変わった感性を持っていると教えられた、アルノルト・フォン・ライムバッハ。フォイルゲン辺境伯家と同等の辺境伯の跡継ぎと、…
続きを読む2023/01/23
【第五章 共和国】第四十八話 浸食
話しかけてきた男は、またダンジョンに潜るらしい。男たちの後ろに居た商人風の男は、ダンジョンに潜らないようだ。 しかし、商人風の奴は・・・。視線が気になる。確かに、商人に見えるが、何か違和感がある。 しっかりとした根拠があるわけではない。ねちっこく観察されているように思える。商人の視線”だけ”ではない。値踏みしているような視線は、何度も向けられたことがある。辺境伯の跡取りを見るような視線とも違う。敵対している者を見るような視線でもない。 未知な視線だ。確実に俺を見ている。実に気持ちが悪い。 商人風の男は、別の…
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