【第五章 共和国】第六十四話 尋問
尋問を始めようとしたが、”意味がない”と解ってしまった。
生き残っている奴も壊れてしまっている。
まともに会話が出来ない。苦痛を与えられても、”へらへら”と笑っている。指を切り落としても、足の骨を折っても反応がない。痛みを感じないのか?
うめき声を上げるから、痛みは感じるのだろうけど、言葉が通じない動物や魔物を相手にしているような感覚になる。
「エイダ。死んでも構わない。記憶を抜き取ってくれ」
『了』
クォートとシャープの後をついてきた奴らだと報告を貰った。
俺を襲ったナイフの解析を進めている。大本は解ったのだが、まだ不明な部分も多い。
やはり、帝国が使っていた”黒い石”が材料のようだ。鋭くはないが、スキルが付与されている。毒の様な物も付与されていた。毒は、解析中だが、俺たちが知らない毒のようだ。
聞けなくなってしまったが、カルラが知っていなかったのだろう。知っていたら、自分にも対処を行っているはずだ。
エイダが抜き取った記憶から襲撃の様子は大まかに解ってきた。
俺は刺された。
脇腹だ。いきなり刺されて、俺は倒れた。
そして、追撃をしてきた奴らを、カルラが一掃した。
第二撃に来た奴らを、アルバンが対応した。
カルラは、俺を助けようと持っているポーションやワクチンを俺に使い始める。
ここで効果があったのか解らない。
アルバンが倒しきって戻ってきた。
その時に、倒したと思っていた奴なのか?伏兵なのか?存在は解らないが、俺たちに襲い掛かってきて、カルラが俺を庇って刺された。カルラを刺した奴を倒そうとしたアルバンが別の奴に刺された。
刺されながらも、アルバンは反撃をして、二人を無力化した。
順番は理解が出来た。
問題は、目的だ。
ナイフを落とした時点で、こいつらの精神が壊れて、動かなくなっている。
”ひゃはひゃは”笑っている奴は居る。
よく見れば、アルトワ町の町長の妻だった奴だ。他にも、俺たちを襲撃した奴らの家族だ。
復讐なのか?
復讐と言われれば、理由は解るが、どこからかナイフを入手した。
本数も、27本?探せばまだあるかもしれない。全部、回収しておく必要があるだろう。こんなナイフは存在しないほうがいい。
帝国というか、やつらの組織が作っていたのだとしたら、何か対策を考える必要がある。
必ず、対峙する時が来る。今は、まだ対峙できない。俺には力がない。
「マスター」
クォートが、周りの探索から帰ってきた。安全の確保は絶対だ。何度でも確認をしておこう。カルラとアルバンをこれ以上の傷をつけずに連れて帰る。俺ができる最大の行いだ。絶対に、連れて帰る。
「クォートは、奴らの回収が終わったら、ナイフの探索と回収を頼む」
クォートには、散らばっている奴らの回収を頼む。
奴らは、捨てておきたい気持ちがあるが、”黒い石”に浸食されている場合に、放置したらどんな影響があるか解らない。共和国がどうなろうと構わないが、アルトワ・ダンジョンに居る連中に被害がでる可能性を考えれば、放置はできない。
「かしこまりました」
クォートには、俺たちを襲撃した奴らの回収をシャープと行ってもらっている。
散らばっている奴らも居る。魔物に襲われた奴らも居る。アルバンが無力化した奴らは、精神は壊れているけど、身体は大丈夫だ。動けなくはなっているが、生きては居る。人としては、死んでいるかもしれないが、生命活動は続いている。
どうやら、俺には天罰が下ったようだ。
笑い声を上げている人物が、俺に天罰を与えたと騒いでいる。
気持ち悪いうえに、気分も悪い。
「煩い。黙れ!」
顔を蹴り上げる。
歯が数本折れる音がするが気にしない。簡単には死なせない。殺さない。なんとか、精神を戻す方法を探す。戻したうえで、罪と罰を与える。それこそ、死んだ方が”まし”だと思えるような苦しみを与える。与え続ける。カルラもアルバンも望んでいないことは解っている。俺は、俺のために、こいつらを許せない。
そして、こいつらは道具だ。
ナイフで人を殺して、ナイフが訴えられて、罰せられることは考えられない。だから、道具を使った奴らを探して殺す。
壊れたレコードの様に、同じことを繰り返す。
「エイダ。こいつら、精神支配とか、精神系のスキルは見られないのだよな?」
『是』
やはり、秘密はナイフか?
「なぁこいつら、生きているよな?」
『生命活動の確認は出来ています』
「そうだよな・・・」
何か、違和感がある。
生きているのは、生きているのだろう。精神が壊れただけなのか?
ナイフに付与されていたスキルが原因なのか?
俺が、ヒューマノイドタイプに行っているように、人格のインストールができるのか?
そんな事ができるとは思えないが・・・。精神を壊したうえで、上書きを行う。同調する。スキルか?
ナイフの解析を進めないと解らないことだらけだ。
そして・・・。
大きな問題も存在している。
カルラとアルバンの死を伝えなければならない。
ヒルデガルドに何と言って詫びればいいのか・・・。詫びて済むような話ではない。ユリウスにも、報告をしなければ・・・。
クォートと一緒にナイフを集めていたシャープが戻ってきた。
「マスター。ナイフは、全部で31本です」
「そういえば、捕えた奴らは?」
「死者を含めて、31名です。私とシャープの後ろに居た者は、30名です」
「一人増えているのか?」
「はい」
「シャープ!こいつらの服装で、一人だけ違った奴は居ないか?」
「調べます」
「居たら、そいつだけは、別枠で頼む。もし居なかったら、手を調べてくれ」
「”手”ですか?」
「あぁ手が綺麗な奴が居たら、そいつが主犯格の一人だ」
「わかりました」
シャープに任せておけばいいだろう?
服や手を調べて行けば、わかるはずだ。
クラーラが言っていたことがヒントになるとは・・・。
俺の予想が当たっていたら、俺はまた奴に乗せられたことになるのか?
「マスター。一人だけ、手が綺麗な者が居ました」
ダメだ。
感情が抑えられない。
爆発しそうだ。
「エイダ。シャープが見つけた奴は・・・」
『死んでいます』
「だろうな。そいつが、ナイフを作って、黒い石をばらまいた奴だ。名前は解らない。クラーラが”殺した”と言っていた奴だ。そいつだけは、最初から死んでいたのだろう」
『わかりません』
「大丈夫だ。俺が、”そう”と考えているだけだ。正しくても、正しくなくても、どちらでも構わない」
エイダとクォートとシャープには答えられない。
当たり前だ。感情が芽生えていると言っても、元はAIだ。答えが無いのは解っている。必要もない。納得が出来れば、十分だ。
死んだ奴は、帝国の人間なのだろう。
クラーラの言葉からは、妖精の涙とかいう組織の人間なのだろう。席次があるようなことを言っていた。何番目なのか解らないが、クラーラに簡単に殺される程度だとしたら、実力は俺と同じくらいなのだろう。
「エイダ。クォート。シャープ。奴らはスキルで運ぶ。国境を目指すぞ」
「はい」
クォートが代表して答えている。
カルラなら・・・。
違う。考えても仕方がない。
—
国境までは、行商も居なかった。
国境の壁が見え始めた。
カルラとアルバンは、何としても一緒に帰るとしても、問題は死にかけている奴らだ。国境を越えられるとは思えない。
いくら、共和国の国境が緩くても、通過は無理だろう。
俺たちだけなら、俺の身分を明かして、強行突破が可能だとは思う。
「なぁカルラ・・・」
そうだな。
これからは、俺が考えて、俺が動かなければ、エイダもクォートもシャープも動かない。
わかったよ。カルラ。
明日になれば、何かが変わるとは思えないが、今日は休もう。
国境の検問が見える丘で、休息を取ろう。
疲れた。
俺は、ここで何をしているのか?
何日が経った?
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