奴隷市場の記事一覧

2020/07/31

【第十章 終幕】最終話 僕が愛した人

 住職にお願いをする為に、夕花は晴海の元を離れた。 ”ぶぅ~ぶぅ~ぶぅ~ぶぅ~”  間の抜けた呼び出し音がなる。  晴海の情報端末が鳴っている。 (持ってきてしまったようだ。戻って謝ろう)  夕花が、住職を探すのを止めて戻ろうとした時に、夕花の情報端末が鳴った。 (え?僕?だれ?礼登さん?) 「はい」 「よかった。夕花様。晴海様は、ご無事ですか?」 「え?今、私の母親のお墓に来ていて・・・」 「え?晴海様は!」 「何が有ったのですか?」 「佐藤(さとう)太一(たいち)が、晴海様と夕花様を探し出して成敗すると…

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2020/07/31

【第九章 復讐】第十話 平穏

 不御月巌の死亡が伝えられた。  研究施設や不御月が持っていた裏の権益はことごとく奪われた。  巌は、失意の中で死んでいった。生に執着して、家族を殺し続けた老人は、独り寂しく死んでいった。四肢を切断された状態で”病死”していた。誰ひとりとして、巌の死を追求しようとはしなかった。巌を守る者はなく、見送る者も居なかった。  島の地下には、膨大な資料と一緒に実験室が設置されていた。  移植を行う為の施設だと判明した。それだけではなく、禁忌となっているクローンの製作も行われていた。  ”人食いバラ”の暗号は、施設に…

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2020/06/16

【第九章 復讐】第九話 終結

船上で行われた粛清劇から1ヶ月が経過した。 城井貴子は、旧姓の朝日を名乗って、大学に復帰した。 忠義は、自分の代で”能見”を終わらせるという望みを晴海に託していた。六条は、足抜けを認めていなかったが、家が潰れれば話は変わってくる。そのために、新見に能見を吸収させた。家が吸収されるならから、出ていきたい者は出ていけと新見に宣言させたのだ。 忠義の願いは叶った。残りの人生を晴海の為に命をかけると忠義(ちゅうぎ)を誓った。 新見は、文月を襲撃した犯人を、能見を使って特定した。大陸系の集団を使った不御月の仕業だ。残…

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2020/06/15

【第九章 復讐】第八話 闘争

部屋の中に、湯呑が割れる音だけが木霊する。 「夏菜!」 「はっ」 「そのクズを連れて行け、礼登と秋菜に合流しろ。死ななければ何をしても構わない。自白剤の使用も許可する。不御月の関与と、文月と襲撃者の所在を喋らせろ」 「かしこまりました」 「礼登にも秋菜にも言っておけ、手足を切り落としても構わない。だから、殺すな!」 「はっ」 夏菜が直亮(なおあき)の首にワイヤーを巻きつけて部屋から連れ出した。 「ふぅ・・」 晴海は、椅子に座り直した。 「最悪だな」 「はい」 応じたのは、忠義だ。貴子と会った時点から城井が怪…

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2020/06/13

【第九章 復讐】第七話 昼夜

静かな時間が流れた。 礼登から漂ってくる血の臭い。耳を切り落とされた直道(なおみち)からも新鮮な血の臭いがしてきているが、気にするものは居ない。 「秋菜。そこで、うずくまっているクズを俺の前から排除しろ」 「何を、めか」「豚。口を開くな、臭い」 直道(なおみち)が、”めかけ”と言いかけたので、秋菜が強硬手段に出た。直道(なおみち)の耳がなくなった場所を殴って、黙らせた。 「秋菜。豚が可愛そうだ。豚は、餌を貰っている者になつくからな。最後に殺されて食べられる瞬間まで、主人を信じているのだからな」 「はっ。もう…

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2020/06/12

【第九章 復讐】第六話 破綻

「幸典(ゆきのり)。新見家は、なにか言いたいことがあるのか?」 「お館様にお聞きしたいのですが、合屋家から返還された物を六条家としてどうされるのですか?」 新見が晴海に問いただした内容は、合屋と寒川以外が聞きたいと思っている話だ。 六条家が絶対の上位者なのは変わりがないが、六条家だけでは、返還された物を動かせないのは自明なのだ。 「そうだな。六条で持っていても手に余るな」 「それでは!」 直道(なおみち)が身を乗り出して話を遮った。 「直道(なおみち)様。お館様のお話中です。お控えください」 いつの間にか、…

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2020/06/11

【第九章 復讐】第五話 合屋

「泰史(やすふみ)!」 「はっ」 「泰章(やすあき)に、市花。新見。城井を呼びに行かせろ。泰史(やすふみ)は、寒川を迎えにいけ。寒川の望みを聞き出してから戻ってこい」 「かしこまりました」 夕花が会議室のロックを解除する。 泰章(やすあき)は、頭を下げて部屋から出ていった。 「晴海さん。なんだから嬉しそうですね」 「そうか?」 「はい。僕、少しだけ嫉妬してしまいそうです」 晴海は、夕花の頭をくしゃくしゃと撫で回した。 「夕花、もうすぐだ。俺の問題と夕花を狙っている奴らが繋がるかも知れない」 「え?晴海さん?…

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2020/06/10

【第九章 復讐】第四話 芝居

 部屋の温度が上がったように思える。  泰史(やすふみ)に視線が集中する。忠義と礼登以外は、泰史(やすふみ)を凝視している。夕花も、泰史(やすふみ)を見てしまっている。  泰史(やすふみ)の次の言葉を誰しもが待っているのだ。 「お館様。私は、合屋家は、無関係です」  泰史(やすふみ)は泣きそうな声で、晴海に訴える。  だが、晴海は臨んだ答えではないと泰史(やすふみ)を追求する。 「泰史(やすふみ)!違うだろう?」  夕花が、意を決して、晴海の名前を呼ぶ。自分の考えを口にしていいのか迷ったが、晴海が机の下で夕…

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2020/06/09

【第九章 復讐】第三話 糾弾

 晴海は、カップを持ち上げて飲もうとして止める。 「そう言えば、先代の事件の時に、お前たちはどこに居た?」  晴海の問いかけに答えられる者は居ない。  それぞれに理由があるのだが、言い訳になってしまう。もう一つ、各家が何をしていたのか明確に出来ない理由があるのだ。 「お館様」 「直道(なおみち)か?」  晴海だけではなく、夕花を除く者の視線が、城井直道(なおみち)に集中する。次期当主となっているが、正式には晴海が認めなければ、現当主が認めても、家は継げない。そして、晴海は直道(なおみち)よりも若い。夕花の存…

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2020/06/08

【第九章 復讐】第二話 忠誠

 先頭を歩いている。礼登が、ドアを開ける。  中には、10人ほどが円卓に座って居る。上座には、4つの席が空いている。  入口に全員の視線が集中する。  礼登が開けた扉から忠義が先に部屋に入り、扉を押さえる。晴海が部屋に入り。夕花が続く。  晴海が手を差し出すので、夕花は戸惑いながらも晴海の手を取る。晴海の横に並んで歩くように誘導される。夕花は、晴海の腕に自分の腕を絡ませる。  夏菜と秋菜が部屋に入ったのを確認して、礼登が扉を閉める。 「六条家、現当主。晴海様の御前です」「いつまで座っているつもりですか?」 …

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2020/06/07

【第九章 復讐】第一話 側仕

「夕花。可愛いよ。気にしなくていいのに・・・」 「駄目です。私が嘲られるだけなら構いません。でも、晴海さんが馬鹿にされるのは我慢出来ません!」 「うーん。大丈夫だよ。僕を馬鹿にしたら、その家は終わりだよ。解っていて、そんな愚行は犯さないと思うよ」 「違います。その場で言われる位なら我慢出来ます。帰ってから言われるのが我慢出来ないのです!」 「わかった。時間はまだあるから好きにしていいよ」 「ありがとうございます」  晴海と夕花は、礼登が用意した会議を行うクルーザーに移動している。大学に顔を出して、駿河から礼…

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2020/06/01

【第八章 踊手】第九話 端緒

 晴海はコーヒーを飲みながら情報端末を操作している。  かばんの中にはタブレットも入っているが、逃げる場合を考えて、すぐに動ける状態にしてある。  夕花のエステの施術は予定終了時間を少しだけ過ぎたが、概ね予定通りに終わったようだ。 ”晴海さん。終わりました”  晴海の情報端末に、夕花からのメッセージが届いた。  晴海は、夕花がビルから出てくるのを、コーヒーショップから見えていたので、支度をして夕花に近づく。夕花も晴海に気がついた。 「夕花。綺麗になったね」 「ありがとうございます」  うつむきながら晴海に礼…

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2020/05/31

【第八章 踊手】第八話 文月

 晴海は、夕花を助手席に乗せて市内に向かった。 「晴海さん。どこに?」 「明日の準備」 「え?準備?晴海さんの?」  夕花が驚くのも当然だ。  昨日の段階で、準備が終わったと晴海は宣言しているのだ。  夕花にも、明日の会談は重要な物だと説明している。 「ううん。夕花の準備だよ。綺麗になろう!」 「え?僕?なんで?」 「ん?夕花は、僕の奥さんだよ」 「はい」 「うん。うん。一族の者が揃うからね。夕花のお披露目の意味を込めて、会ってもらおうと考えたのだよ」 「・・・。えぇぇぇぇ。僕、聞いていませんよ?」 「うん…

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2020/05/30

【第八章 踊手】第七話 準備

 大学に通い始めて3日が過ぎた。  晴海と夕花は、屋敷と学校での生活を楽しんでいる。  屋敷では、片時も離れない。離れるのを恐れているかのように常に一緒に居る。学校では、研究室の設営がまだ出来ていないために、夕花は図書館に通い詰めている。晴海は、その時間を利用して、城井から蔵書や他の家の情報を聞いている。  そして、晴海が期限を区切った会談の前日。  礼登が城井を訪ねてきていた。城井に会うためではなく、晴海に会うためだ。 「城井。明日は、どのくらい集まる?」  晴海は、正面に座った城井に質問をする。まとめ役…

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2020/05/29

【第八章 踊手】第六話 疑惑

 晴海は、夕花と別れて、城井貴子の部屋に向かった。  ドアをノックすると部屋から返事があった。 「文月さん。お待ちしていました」 「教授。お時間を頂きありがとうございます」  晴海が丁寧な言葉遣いをしているのは、城井の秘書が今日は一緒だからだ。 「晴海様。大丈夫です。この者は、我家の者です」 「そうか、わかった」  城井の後ろに控えていた女性が頭を下げる。  名乗らない所を見ると、城井家に属している分家筋なのだろう。晴海も、気にはしないで話を開始した。 「城井。それで、六条からの本のリストは出来たのか?」 …

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2020/05/28

【第八章 踊手】第五話 秘鍵

 晴海は、夕花の隣に戻った。  能見と話をして情報が増えてモヤモヤした気持ちを、頭を冷やすためだ。  情報端末で、表向きの情報を読んで見て、情報を整理してみる。  文月コンツェルン  東京都に本家を置く企業の集合体。爪楊枝から大陸弾道ミサイルまでがコンセプトのような企業だ。第三次世界大戦の後に大きくなった企業体で、戦争特需をうまく利用した。本体は、上場しているわけではなく、子会社や孫会社を次々と上場させ本体は株式の取引で大きくなった。  現在の会長は112歳になる文月巌だ。日本の平均寿命が、110歳だと言わ…

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2020/05/27

【第八章 踊手】第四話 遺伝

 部屋に入った二人は疲れているのもあって、風呂に入ることにした。 「晴海さん。お風呂の準備をします」 「頼む」  晴海は、礼登から渡されるはずだった資料を従業員から受け取った。  夕花が風呂の準備を始めたのを見て、封筒を開けて資料を見た。  資料は、予想通り夕花の母親の情報だった。 (大物だな)  夕花の母親は、東京都の裏社会をまとめている家の出だ。昔風に言えば、反社会的勢力の家の生まれだ。東京の裏を支えると言っても過言ではない。裏の顔も表の顔も持っている。表の顔の時に使う家の名前が”文月”だ。本当の家名は…

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2020/05/26

【第八章 踊手】第三話 薯蕷

 晴海は図書館に用事があるわけではなかった。  祖父が寄与した蔵書があるはずなのだ。その中から、歴史に関係する本ではないが、”人食いバラ”とかの稀覯本もあると思っている。晴海の数少ない家族との思い出の中に祖父の書庫で見た”人食いバラ”が忘れられないのだ。  図書館の中は、静かだった。書生が居るわけではなく、ガードロボットが管理をしているだけだ。  晴海と夕花は、情報端末で身分を説明した。 「夕花、好きにしていいよ。僕も、気になる本を探したいからね」 「わかりました」  夕花は、晴海から離れて、歴史書が置いて…

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2020/05/25

【第八章 踊手】第二話 城井

 晴海が運転する車は、旧国道150号を西に進む。  ここは、前世紀から石垣いちごを生産している場所だ。晴海は、窓を開けて外の空気で車の中を満たす。伊豆に居たときは違う潮の匂いが二人の鼻孔を擽る。 「夕花。寒くないか?」 「大丈夫です」  ここ百年の気候変動で日本もかなり平均気温が下がっている。氷河期が訪れようとしているのは間違いない。しかし、駿河の気候は安定している。地質学的に考えても不思議な場所なのだ。平均気温が下がって琉球州国でも年に数日は雪が降り何年かに一度は積もるような状況なのに、駿河は雪が降っても…

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2020/05/24

【第八章 踊手】第一話 上陸

「晴海さん。本当に、このままで・・・。行くのですか?」 「うん。だって、夕花が負けたのだから諦めようね。大丈夫。駿河が近づいてきたら着替えるのだし僕以外に夕花のそんな姿を見せたくないからね」 「解っていますが・・・。うぅぅぅ。恥ずかしいです。全裸の方が恥ずかしくないですよ・・・」  夕花も今の格好になって混乱している。晴海の前で裸になるのに慣れているので、裸の方が”まし”だと思ったのだが、客観的に考えて裸でクルーザーを動かすのはシュールだし危ない感じがする。 「大丈夫だよ。見ているのは僕だけだからね」 「そ…

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2020/05/23

【第七章 日常】第八話 濫觴

 晴海と夕花は、晴海の運転する車で屋敷に帰ってきた。  翌日も試験が控えていた。翌日は、運転免許の更新と限定解除を行うのだ。教習所に通えばよかったのだが、能見が夕花に晴海と一緒に居る時間を大切にしてくださいと助言したので、免許更新時に試験を受ける方法を選択した。  夕花の誕生日ではなかったが、奴隷になったことで効力が停止されていた免許を復活させるためには手続きが必要になっていた。同時に、バイクの免許の取得を行うので、丸一日試験場に居る状態になる。  晴海も、夕花に合わせてバイクの免許を取得する予定にしていた…

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2020/05/22

【第七章 日常】第七話 怠惰

 欲望をぶつけ合った翌日は昼過ぎまで惰眠を貪っていた。  起き出した二人は、昨晩の状態で放置された布団を見て、笑いあった。それから、”おはよう”のキスをしてから、洗濯物をまとめた。体力を使い果たしたと言っても若い二人は起きる頃には体力”も”戻ってきていた。  洗濯物をまとめる作業をしているが、服を着たわけではない。風呂から上がってきたのと同じ全裸なのだ。  晴海は、夕花の形のいいおしりを見て自分が反応しているのに気がついた。 「晴海さん」 「どうした?夕花?」  晴海もそれだけで解った。  夕花は、晴海の反…

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2020/05/21

【第七章 日常】第六話 性愛

 夕花は、立ち上がった。晴海は夕花の姿を目で追った。  二人が居る露天風呂は星や月の明かりだけに照らされている。入ってくるときには、足元を照らすライトが点灯するが人が居なくなれば消えてしまう。  振り向いた夕花を照らすのは星の明かりだけだが、晴海には夕花がしっかりと見えている。夕花が微笑んでいるのも見えている。 「晴海さん」  夕花は、他にも言葉を考えていた。抱いて欲しいと口に出そうと思っていた。  しかし、自分を見つめる晴海を見てしまうと、名前を呼ぶのが精一杯だった。名前を呼ぶだけで心臓の音が晴海に聞こえ…

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2020/05/20

【第七章 日常】第五話 確認

 晴海と夕花は精神的に疲れてしまった。晴海に送られてきた、家の情報は嘘ではないが本当でもなかった。うまく編集されていたのだ。全容だと思っていたものが一部でしかなかったのだ。 「晴海さん。先に、荷物を受け取りませんか?それと、食堂と7階のキッチンを見ておきたいのですが駄目ですか?」 「いいよ。食料もある程度は買ってきていると言っても、手探り状態なのは間違い無い。いろいろ調べよう」 「はい」  7階へ直通になっているエレベータはすぐに見つかった。  エレベータに乗ってみて解ったのは、パネルが新しくなっているので…

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2020/05/19

【第七章 日常】第四話 住居

 狙っていた通りに、暗くなってから、六条が所有する離れ小島の前に到着した。  ナビが示しているのは、島の中央ではなく、海沿いになっている。島の全体が私有地なので、地図は表示されていない。 「晴海さん。入口が封鎖されています」  夕花が指摘した通り、島の入り口は封鎖されている。  厳重な門の扉が閉じられている。島に向かう道路にも高い壁と鉄柵で海からの侵入を防いでいる。  門には、ガードロボットが配置されている。武装が許可された物だ。 「大丈夫だよ」  晴海は、情報端末を取り出して近づいてきたカードロボットに認…

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2020/05/18

【第七章 日常】第三話 報告

 晴海の運転する車は、旧国道414号を白浜方面に向けて走っている。年号が使われており、昭和や平成や令和と呼ばれていた時代と道は変わらない。伊豆中央道が出来てからは時間が停まってしまったような場所だ。  古き良き時代が好きで移り住んでいる者は居るが、そのような人物は多くない。生活の殆どを自給自足でまかないながら生活をしているので、生活道路となっている旧国道414号にも車の影は少ない。  国が管理していた速度規制が撤廃され、全ての道路で地域の生活様式に合わせた速度制限が定められた。  旧国道414号線の様に生活…

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2020/05/17

【第七章 日常】第二話 出発

 晴海の目覚めは最高ではなかった。  昨晩、晴海は全裸の夕花に抱きつかれて寝たのだ。寝る寸前まで、夕花が身体を押し付けてくるので、耐えるのが大変だった。夕花は、晴海が反応したのを感じて安心したのか足を絡ませるようにして晴海を触りながら眠りについた。  晴海が寝たのは、夕花の寝息が聞こえてきてから30分ほど経ってからだった。  晴海の方が早く起きた。まだ身体を密着させている夕花のおでこに軽くキスをしてから、布団から抜け出した。  身体が夕花からする甘酸っぱい匂いで満たされていた。腕や足には夕花の柔らかい感触が…

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2020/05/16

【第七章 日常】第一話 告白

「晴海さん?」 「あっごめん。僕の奥さんがあまりにも可愛かったから見惚れていたよ」  晴海は本当に夕花の浴衣姿に見惚れていた。 「もぉ・・・。でも、嬉しいです」  晴海は、一つの出来事を忘れていた。頭の片隅には有ったのだが、能見との連絡ですっかり忘れてしまったのだ。晴海は、浴衣姿の夕花を隣に座らせた。  夕花は、言われたとおりに、浴衣姿のまま、風呂から出た状態で、晴海の横に座る。座るまでは良かったのだが、座った後で顔をあげられなくなってしまった。  風呂には、浴衣だけは一式用意されていた。  情報端末だけで…

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2020/05/15

【第六章 縁由】第七話 到着

「夕花。どの辺りを走っている?」  ベッドから起き出した晴海は、勉強をしている夕花に話しかけた。  モニターを見れば、大まかな位置は解るのだが、夕花に聞きたい気分だったのだ。 「先程、海老名サービスエリアを通過した所です」 「そうか、ありがとう。コーヒーが欲しい。濃い目に作ってくれ」 「かしこまりました」  夕花は、お湯を沸かして、ドリップを行う準備を始める。  濃さの調整は、ホテルでやっているので問題にはならない。  10分後に、牛乳をたっぷりといれたコーヒーが出来上がる。夕花は、自分の分も用意して晴海の…

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2020/05/14

【第六章 縁由】第六話 過去

 晴海と夕花を乗せたトレーラーは圏央道を走っている。  制限速度内で、ゆっくりした速度を保っている。  晴海は、ベッドで横になっている。やることが無いわけではないが、急いでやるべきことが無いのだ。  夕花は、資格の勉強を再開した。すぐに必要になるわけではないが、試験の日付を考えると、勉強を再開しておいたほうが良いと思ったのだ。  勉強をしながら、晴海を観察している。  夕花は、自分の生まれも育ちも解っていたと思っていた。奴隷になって、市場で売られて、晴海に買われて、ここ数日で世界が一気に変わってしまったのだ…

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