家族の記事一覧

2021/01/17

雪上の愛情

私は、雪が嫌い。私から、母さんを奪った雪が嫌い。同じくらいに、父さんが嫌い。 本当は解っている。母さんを殺したのは、私だ・・・。雪ではない。 私が、初めて無断外泊をした日。母さんは、死んだ。 私が住む地方では珍しく、その日は雪が振っていた。当たり一面を白く染め上げるくらいの雪だ。私は、地面に降り積もる雪に、自分の足あとが残るのが嬉しくてテンションが上がっていた。友達に誘われて、遊びに行った。スマホも携帯もそれほど普及していない時だ。家には連絡をしなかった。小さな・・・。小さな・・・。そして、大きな反抗だ。私…

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2020/08/27

【手紙と約束】届いた手紙

「おばあちゃん!なんかTV局の人が来ているけど?」 「なにごとだい?」 「わからない!でも、なんか・・・。アメリカの人と一緒に来て『”ようすけ”からの手紙を届けに来た』と言っているよ?」 「よ・・・う・・・すけ?」 「え?・・・。あっ・・・。う・・・ん?通していい?」 「離れで待っていてもらってくれ。婆もすぐに行く」  洋介さん。貴方からの手紙なの?  もう私は97歳にもなってしまったのよ?  いつまで待っていればいいの? —  おばあちゃんがTVで紹介された。  でも、そのおばあちゃんは放送を…

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2020/08/27

【残された赤】赤い視界

 君が俺の所から旅立って、もう23年が経っているよ。  でも、やっと、やっと、やっと、俺は君の所に行ける。  でも、俺はもう40を超えて、50に近くなってしまっているよ。君に嫌われないか不安でしょうがない。  頑張ったよ。君が好きだと言ってくれたスーツ姿。同じ形のスーツを着られるように、体型を維持しているよ。  髪の毛も薄くなるかと思ったけど、薄くならないで良かったよ。  白い色の髪の毛が目立つけど、君の所に行くときには、あの頃と同じで茶色に染めていくよ。  もう少しだから、もう少し・・・。  もう少しだけ…

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2020/08/27

【止まってしまった時計】動き出す時間

PM10時50分  病院の椅子に座る女性の手には、3時で止まってしまっている血塗られた時計が握られている。  3時で止まってしまった時計。あれから、何時間が経っているのか、女性にはわからない。わからないが、興味はなかった。  女性は血塗られた時計を、止まってしまった時計を握りしめている。動きを止めてしまった時計。  ただ時計を握りしめて居る。  女性は、時計に向けて何を祈っている。  その祈りを止める事は誰にもできない。 ★☆★ PM2時40分 「沙織!早くしないと塾の授業に間に合わないわよ!」 「大丈夫!…

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2020/08/27

【発覚】大事な事は、奴らが教えてくれる?

 俺は、心霊現象と言われる類の物が好きになれない。  怖いからではない。見えてしまうからだ。  いつ頃からだろうか?  俺は、心霊現象を認知する事ができる。幽霊と言われる物がはっきりと見えてしまうのだ。相手も、俺が見えている事が解るのだろう。コンタクトを取ってきたりする。 「田村!どうした?疲れ切っているぞ?」 「うるさい。話しかけるな」 「おっおぉ・・・」  会社の同僚の村田だ。  同期だという事もあり、よく飲みに行ったりしている。お互いの事情もある程度は知っている。  違うな。奴の事情は、奴から聞いたわ…

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2020/08/27

【新しい絆】新しい傷

 僕の左手首には、古い傷がある。  手首に横一文字に切られた傷だ。リストカットをしたかのように見える。  高校受験のときに、担任から傷の事で注意を受けた。 「平田。その傷は隠しておけよ」 「なんでですか?」 「俺は、お前が自殺なんてしていないのは知っているが、始めて会う人には伝わらないだろう?不快に思う人が居るかもしれないからだ」 「そんな高校には行きたくありません」 「お前な」 「だってこの傷は、ママが僕を守ってくれた証拠です」  最後までしっかり言えたと思う。思うけど、涙が出てきてしまう。 「わかった。…

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2020/08/27

【ぬくもり】背中に感じたぬくもり

 背中に感じていたぬくもりがなくなってから、5年が経過していると教えられた。  冬になると実感として感じてしまう。  ついこの間までは、背中に当たる彼の背中から確かなぬくもりを感じる事ができていた。  そして、途中から加わったもう一つのぬくもりが・・・。  本当に、それだけで良かった。  私には、彼から感じるぬくもりと、彼と私が望んだぬくもりの二つがあれば十分だった。そして、新たに加わるはずだったぬくもり。ぬくもりの数だけ幸せを感じる事ができた。  たったそれだけのことだったのに、私が寒くて凍えそうなのに、…

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2020/08/27

【一冊の本】忘れられた絵本

 私は、この図書館が好きだ。  でも、街の事情とやらでこの図書館は今月末で閉じることが決っている。  今日は、その月末だ。ほとんどの本が持ち出されている。近隣の図書館や学校に送られているのだと言っていた。残された本は、痛みが激しかったり、引き取り手が居なかった本達だ。  閉じることが知らされた時に、私は会社を休んで図書館を訪れることに決めていた。会社の同僚にはバカにされたが、自分が好きな場所がなくなるのだ、そのくらいはいいだろうと思っている。  図書館に残された本は、欲しい人が持ち帰っていい事となっていた。…

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2020/07/31

【第九章 復讐】第十話 平穏

 不御月巌の死亡が伝えられた。  研究施設や不御月が持っていた裏の権益はことごとく奪われた。  巌は、失意の中で死んでいった。生に執着して、家族を殺し続けた老人は、独り寂しく死んでいった。四肢を切断された状態で”病死”していた。誰ひとりとして、巌の死を追求しようとはしなかった。巌を守る者はなく、見送る者も居なかった。  島の地下には、膨大な資料と一緒に実験室が設置されていた。  移植を行う為の施設だと判明した。それだけではなく、禁忌となっているクローンの製作も行われていた。  ”人食いバラ”の暗号は、施設に…

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2020/06/16

【第九章 復讐】第九話 終結

船上で行われた粛清劇から1ヶ月が経過した。 城井貴子は、旧姓の朝日を名乗って、大学に復帰した。 忠義は、自分の代で”能見”を終わらせるという望みを晴海に託していた。六条は、足抜けを認めていなかったが、家が潰れれば話は変わってくる。そのために、新見に能見を吸収させた。家が吸収されるならから、出ていきたい者は出ていけと新見に宣言させたのだ。 忠義の願いは叶った。残りの人生を晴海の為に命をかけると忠義(ちゅうぎ)を誓った。 新見は、文月を襲撃した犯人を、能見を使って特定した。大陸系の集団を使った不御月の仕業だ。残…

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2020/06/15

【第九章 復讐】第八話 闘争

部屋の中に、湯呑が割れる音だけが木霊する。 「夏菜!」 「はっ」 「そのクズを連れて行け、礼登と秋菜に合流しろ。死ななければ何をしても構わない。自白剤の使用も許可する。不御月の関与と、文月と襲撃者の所在を喋らせろ」 「かしこまりました」 「礼登にも秋菜にも言っておけ、手足を切り落としても構わない。だから、殺すな!」 「はっ」 夏菜が直亮(なおあき)の首にワイヤーを巻きつけて部屋から連れ出した。 「ふぅ・・」 晴海は、椅子に座り直した。 「最悪だな」 「はい」 応じたのは、忠義だ。貴子と会った時点から城井が怪…

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2020/06/13

【第九章 復讐】第七話 昼夜

静かな時間が流れた。 礼登から漂ってくる血の臭い。耳を切り落とされた直道(なおみち)からも新鮮な血の臭いがしてきているが、気にするものは居ない。 「秋菜。そこで、うずくまっているクズを俺の前から排除しろ」 「何を、めか」「豚。口を開くな、臭い」 直道(なおみち)が、”めかけ”と言いかけたので、秋菜が強硬手段に出た。直道(なおみち)の耳がなくなった場所を殴って、黙らせた。 「秋菜。豚が可愛そうだ。豚は、餌を貰っている者になつくからな。最後に殺されて食べられる瞬間まで、主人を信じているのだからな」 「はっ。もう…

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2020/06/12

【第九章 復讐】第六話 破綻

「幸典(ゆきのり)。新見家は、なにか言いたいことがあるのか?」 「お館様にお聞きしたいのですが、合屋家から返還された物を六条家としてどうされるのですか?」 新見が晴海に問いただした内容は、合屋と寒川以外が聞きたいと思っている話だ。 六条家が絶対の上位者なのは変わりがないが、六条家だけでは、返還された物を動かせないのは自明なのだ。 「そうだな。六条で持っていても手に余るな」 「それでは!」 直道(なおみち)が身を乗り出して話を遮った。 「直道(なおみち)様。お館様のお話中です。お控えください」 いつの間にか、…

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2020/06/11

【第九章 復讐】第五話 合屋

「泰史(やすふみ)!」 「はっ」 「泰章(やすあき)に、市花。新見。城井を呼びに行かせろ。泰史(やすふみ)は、寒川を迎えにいけ。寒川の望みを聞き出してから戻ってこい」 「かしこまりました」 夕花が会議室のロックを解除する。 泰章(やすあき)は、頭を下げて部屋から出ていった。 「晴海さん。なんだから嬉しそうですね」 「そうか?」 「はい。僕、少しだけ嫉妬してしまいそうです」 晴海は、夕花の頭をくしゃくしゃと撫で回した。 「夕花、もうすぐだ。俺の問題と夕花を狙っている奴らが繋がるかも知れない」 「え?晴海さん?…

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2020/06/10

【第九章 復讐】第四話 芝居

 部屋の温度が上がったように思える。  泰史(やすふみ)に視線が集中する。忠義と礼登以外は、泰史(やすふみ)を凝視している。夕花も、泰史(やすふみ)を見てしまっている。  泰史(やすふみ)の次の言葉を誰しもが待っているのだ。 「お館様。私は、合屋家は、無関係です」  泰史(やすふみ)は泣きそうな声で、晴海に訴える。  だが、晴海は臨んだ答えではないと泰史(やすふみ)を追求する。 「泰史(やすふみ)!違うだろう?」  夕花が、意を決して、晴海の名前を呼ぶ。自分の考えを口にしていいのか迷ったが、晴海が机の下で夕…

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2020/06/09

【第九章 復讐】第三話 糾弾

 晴海は、カップを持ち上げて飲もうとして止める。 「そう言えば、先代の事件の時に、お前たちはどこに居た?」  晴海の問いかけに答えられる者は居ない。  それぞれに理由があるのだが、言い訳になってしまう。もう一つ、各家が何をしていたのか明確に出来ない理由があるのだ。 「お館様」 「直道(なおみち)か?」  晴海だけではなく、夕花を除く者の視線が、城井直道(なおみち)に集中する。次期当主となっているが、正式には晴海が認めなければ、現当主が認めても、家は継げない。そして、晴海は直道(なおみち)よりも若い。夕花の存…

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2020/06/08

【第九章 復讐】第二話 忠誠

 先頭を歩いている。礼登が、ドアを開ける。  中には、10人ほどが円卓に座って居る。上座には、4つの席が空いている。  入口に全員の視線が集中する。  礼登が開けた扉から忠義が先に部屋に入り、扉を押さえる。晴海が部屋に入り。夕花が続く。  晴海が手を差し出すので、夕花は戸惑いながらも晴海の手を取る。晴海の横に並んで歩くように誘導される。夕花は、晴海の腕に自分の腕を絡ませる。  夏菜と秋菜が部屋に入ったのを確認して、礼登が扉を閉める。 「六条家、現当主。晴海様の御前です」「いつまで座っているつもりですか?」 …

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2020/06/07

【第九章 復讐】第一話 側仕

「夕花。可愛いよ。気にしなくていいのに・・・」 「駄目です。私が嘲られるだけなら構いません。でも、晴海さんが馬鹿にされるのは我慢出来ません!」 「うーん。大丈夫だよ。僕を馬鹿にしたら、その家は終わりだよ。解っていて、そんな愚行は犯さないと思うよ」 「違います。その場で言われる位なら我慢出来ます。帰ってから言われるのが我慢出来ないのです!」 「わかった。時間はまだあるから好きにしていいよ」 「ありがとうございます」  晴海と夕花は、礼登が用意した会議を行うクルーザーに移動している。大学に顔を出して、駿河から礼…

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2020/06/01

【第八章 踊手】第九話 端緒

 晴海はコーヒーを飲みながら情報端末を操作している。  かばんの中にはタブレットも入っているが、逃げる場合を考えて、すぐに動ける状態にしてある。  夕花のエステの施術は予定終了時間を少しだけ過ぎたが、概ね予定通りに終わったようだ。 ”晴海さん。終わりました”  晴海の情報端末に、夕花からのメッセージが届いた。  晴海は、夕花がビルから出てくるのを、コーヒーショップから見えていたので、支度をして夕花に近づく。夕花も晴海に気がついた。 「夕花。綺麗になったね」 「ありがとうございます」  うつむきながら晴海に礼…

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2020/05/31

【第八章 踊手】第八話 文月

 晴海は、夕花を助手席に乗せて市内に向かった。 「晴海さん。どこに?」 「明日の準備」 「え?準備?晴海さんの?」  夕花が驚くのも当然だ。  昨日の段階で、準備が終わったと晴海は宣言しているのだ。  夕花にも、明日の会談は重要な物だと説明している。 「ううん。夕花の準備だよ。綺麗になろう!」 「え?僕?なんで?」 「ん?夕花は、僕の奥さんだよ」 「はい」 「うん。うん。一族の者が揃うからね。夕花のお披露目の意味を込めて、会ってもらおうと考えたのだよ」 「・・・。えぇぇぇぇ。僕、聞いていませんよ?」 「うん…

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2020/05/30

【第八章 踊手】第七話 準備

 大学に通い始めて3日が過ぎた。  晴海と夕花は、屋敷と学校での生活を楽しんでいる。  屋敷では、片時も離れない。離れるのを恐れているかのように常に一緒に居る。学校では、研究室の設営がまだ出来ていないために、夕花は図書館に通い詰めている。晴海は、その時間を利用して、城井から蔵書や他の家の情報を聞いている。  そして、晴海が期限を区切った会談の前日。  礼登が城井を訪ねてきていた。城井に会うためではなく、晴海に会うためだ。 「城井。明日は、どのくらい集まる?」  晴海は、正面に座った城井に質問をする。まとめ役…

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2020/05/29

【第八章 踊手】第六話 疑惑

 晴海は、夕花と別れて、城井貴子の部屋に向かった。  ドアをノックすると部屋から返事があった。 「文月さん。お待ちしていました」 「教授。お時間を頂きありがとうございます」  晴海が丁寧な言葉遣いをしているのは、城井の秘書が今日は一緒だからだ。 「晴海様。大丈夫です。この者は、我家の者です」 「そうか、わかった」  城井の後ろに控えていた女性が頭を下げる。  名乗らない所を見ると、城井家に属している分家筋なのだろう。晴海も、気にはしないで話を開始した。 「城井。それで、六条からの本のリストは出来たのか?」 …

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2020/05/28

【第八章 踊手】第五話 秘鍵

 晴海は、夕花の隣に戻った。  能見と話をして情報が増えてモヤモヤした気持ちを、頭を冷やすためだ。  情報端末で、表向きの情報を読んで見て、情報を整理してみる。  文月コンツェルン  東京都に本家を置く企業の集合体。爪楊枝から大陸弾道ミサイルまでがコンセプトのような企業だ。第三次世界大戦の後に大きくなった企業体で、戦争特需をうまく利用した。本体は、上場しているわけではなく、子会社や孫会社を次々と上場させ本体は株式の取引で大きくなった。  現在の会長は112歳になる文月巌だ。日本の平均寿命が、110歳だと言わ…

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2020/05/27

【第八章 踊手】第四話 遺伝

 部屋に入った二人は疲れているのもあって、風呂に入ることにした。 「晴海さん。お風呂の準備をします」 「頼む」  晴海は、礼登から渡されるはずだった資料を従業員から受け取った。  夕花が風呂の準備を始めたのを見て、封筒を開けて資料を見た。  資料は、予想通り夕花の母親の情報だった。 (大物だな)  夕花の母親は、東京都の裏社会をまとめている家の出だ。昔風に言えば、反社会的勢力の家の生まれだ。東京の裏を支えると言っても過言ではない。裏の顔も表の顔も持っている。表の顔の時に使う家の名前が”文月”だ。本当の家名は…

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2020/05/26

【第八章 踊手】第三話 薯蕷

 晴海は図書館に用事があるわけではなかった。  祖父が寄与した蔵書があるはずなのだ。その中から、歴史に関係する本ではないが、”人食いバラ”とかの稀覯本もあると思っている。晴海の数少ない家族との思い出の中に祖父の書庫で見た”人食いバラ”が忘れられないのだ。  図書館の中は、静かだった。書生が居るわけではなく、ガードロボットが管理をしているだけだ。  晴海と夕花は、情報端末で身分を説明した。 「夕花、好きにしていいよ。僕も、気になる本を探したいからね」 「わかりました」  夕花は、晴海から離れて、歴史書が置いて…

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2020/05/25

【第八章 踊手】第二話 城井

 晴海が運転する車は、旧国道150号を西に進む。  ここは、前世紀から石垣いちごを生産している場所だ。晴海は、窓を開けて外の空気で車の中を満たす。伊豆に居たときは違う潮の匂いが二人の鼻孔を擽る。 「夕花。寒くないか?」 「大丈夫です」  ここ百年の気候変動で日本もかなり平均気温が下がっている。氷河期が訪れようとしているのは間違いない。しかし、駿河の気候は安定している。地質学的に考えても不思議な場所なのだ。平均気温が下がって琉球州国でも年に数日は雪が降り何年かに一度は積もるような状況なのに、駿河は雪が降っても…

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2020/05/24

【第八章 踊手】第一話 上陸

「晴海さん。本当に、このままで・・・。行くのですか?」 「うん。だって、夕花が負けたのだから諦めようね。大丈夫。駿河が近づいてきたら着替えるのだし僕以外に夕花のそんな姿を見せたくないからね」 「解っていますが・・・。うぅぅぅ。恥ずかしいです。全裸の方が恥ずかしくないですよ・・・」  夕花も今の格好になって混乱している。晴海の前で裸になるのに慣れているので、裸の方が”まし”だと思ったのだが、客観的に考えて裸でクルーザーを動かすのはシュールだし危ない感じがする。 「大丈夫だよ。見ているのは僕だけだからね」 「そ…

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2020/05/23

【第七章 日常】第八話 濫觴

 晴海と夕花は、晴海の運転する車で屋敷に帰ってきた。  翌日も試験が控えていた。翌日は、運転免許の更新と限定解除を行うのだ。教習所に通えばよかったのだが、能見が夕花に晴海と一緒に居る時間を大切にしてくださいと助言したので、免許更新時に試験を受ける方法を選択した。  夕花の誕生日ではなかったが、奴隷になったことで効力が停止されていた免許を復活させるためには手続きが必要になっていた。同時に、バイクの免許の取得を行うので、丸一日試験場に居る状態になる。  晴海も、夕花に合わせてバイクの免許を取得する予定にしていた…

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2020/05/22

【第七章 日常】第七話 怠惰

 欲望をぶつけ合った翌日は昼過ぎまで惰眠を貪っていた。  起き出した二人は、昨晩の状態で放置された布団を見て、笑いあった。それから、”おはよう”のキスをしてから、洗濯物をまとめた。体力を使い果たしたと言っても若い二人は起きる頃には体力”も”戻ってきていた。  洗濯物をまとめる作業をしているが、服を着たわけではない。風呂から上がってきたのと同じ全裸なのだ。  晴海は、夕花の形のいいおしりを見て自分が反応しているのに気がついた。 「晴海さん」 「どうした?夕花?」  晴海もそれだけで解った。  夕花は、晴海の反…

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2020/05/21

【第七章 日常】第六話 性愛

 夕花は、立ち上がった。晴海は夕花の姿を目で追った。  二人が居る露天風呂は星や月の明かりだけに照らされている。入ってくるときには、足元を照らすライトが点灯するが人が居なくなれば消えてしまう。  振り向いた夕花を照らすのは星の明かりだけだが、晴海には夕花がしっかりと見えている。夕花が微笑んでいるのも見えている。 「晴海さん」  夕花は、他にも言葉を考えていた。抱いて欲しいと口に出そうと思っていた。  しかし、自分を見つめる晴海を見てしまうと、名前を呼ぶのが精一杯だった。名前を呼ぶだけで心臓の音が晴海に聞こえ…

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