ちょっと切ない短編集の記事一覧
2024/07/08
【雨上がりの乾いた傘】彼女が持つ赤い傘
雨上がりの彼女は目立つ。そして目を引く。 ずぶ濡れなのに、持っている赤い傘は濡れていない。拭いた様子はない。傘としての役割を放棄しているようにも思える。 彼女は自分が濡れているのを気にしている様子はない。 決まった道順を歩いて、決まった場所で立ち止まって・・・。傘を前に出す。彼女にだけ見えている者に話しかけてから、傘を大事そうに抱えて決まった道順で帰る。 雨上がり、彼女が持つ”赤い傘”だけが濡れていない。 僕は、彼女に話しかけることにした。僕の想像が間違っていることを・・・。祈って・・・。届かな…
続きを読む2024/07/07
【スノードロップ】ひとふさの髪
彼女が僕のところに帰ってきた。 でも、彼女は哀しそうな、もうしわけなさそうな、それでいて怒った表情をするだけで、僕には彼女が何を言っているのかわからない。 彼女が居なくなってから、たったの1週間だ。 その間に彼女に何があったのか、彼女の家族は教えてくれなかった。 親切な隣人たちが、僕にいろいろと教えてくれた。 教えてくれるだけなら親切な人だと感謝もするが、聞いてもない彼女の家族のことを教えてくれる。 僕が可哀そうな人になってしまっている。 マスコミを名乗るゴミのような人間までも寄ってくる。そ…
続きを読む2023/10/26
【勝手な人】月夜の出会い
本当に勝手な人。 勝手に、私を好きになって、勝手に私の心を独占して・・・。 結婚の話も、貴方が言い出した。 そのつもりだったけど・・・。嬉しかったけど、雰囲気くらい作って欲しかった。 私の考えを確認した?してないよね?勝手に、私の両親に話をしたよね?たしかに、連絡先は聞かれたけど・・・。 今日だって、急に車を出すから乗れ?急がせないのは嬉しいけど、先に言ってくれたらもっと嬉しい。 用事が無いのは確認されていたけど・・・。それにしても急だよね?どこかに行くの? え?伊豆? 今から? 大丈夫? そういえば、伊豆…
続きを読む2023/08/06
【騎士二人】門番と騎士
私は、王家に仕えている。 仕えていると言っても、下っ端の下っ端の下っ端だ。しかし、私はこの仕事に誇りを持って挑んでいる。陛下から任命された職務だ。 「先輩」 最後まで残った部下だ。 軽いが、仕事はきっちりとやる。 「なんだ?」 「誰も来ませんよ」 この時間だと、貴族連中が陛下に面会を求めて訪れる。 「煩い。お前は・・・」 「はい。はい。わかっています。でも、この国はもう終わりですよ?」 「違う」 「違いませんよ」 「国王は残っていますが、有力な貴族連中も、皆が・・・」 「陛下だ。言葉を慎め。まだ陛下がいらっ…
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