約束の記事一覧
2024/09/22
【第六章 約束】第十二話 決断と覚悟
報告を聞いたユリウスは苦悶の表情を浮かべていた。 「最悪だ」 側に居てほしいと思っている人物は、ホームタウンに戻っている。 もしかしたら、こちらに向かっているのかもしれないが、”影”からは何も情報が入ってこない。 ユリウスの言葉は、控えていた従者にも届いているのだが、従者はユリウスの言葉を聞いても、何も反応しない。従者は、反応ができない。反応してはダメだと思っている。今のユリウスに助言ができる者は天幕のなかには居ない。 ユリウスが苦悶の表情を浮かべている理由がわかっているので、従者も声をだすことが…
続きを読む2024/07/08
【雨上がりの乾いた傘】彼女が持つ赤い傘
雨上がりの彼女は目立つ。そして目を引く。 ずぶ濡れなのに、持っている赤い傘は濡れていない。拭いた様子はない。傘としての役割を放棄しているようにも思える。 彼女は自分が濡れているのを気にしている様子はない。 決まった道順を歩いて、決まった場所で立ち止まって・・・。傘を前に出す。彼女にだけ見えている者に話しかけてから、傘を大事そうに抱えて決まった道順で帰る。 雨上がり、彼女が持つ”赤い傘”だけが濡れていない。 僕は、彼女に話しかけることにした。僕の想像が間違っていることを・・・。祈って・・・。届かな…
続きを読む2024/07/04
【第六章 約束】第十一話 共和国の闇
「殿下?」 「ん?」 「それで、調べるのですか?」 「命令だからな・・・。そんな顔をするな。私としても、調べないほうがいいような気がしている」 ユリウスは、燃え残った紙片を見つめている。 重要な文面は残されていない。しかし、ユリウスやハンスたちの頭には命令の形で書かれていた”共和国の闇”が残っている。 確認しないほうがいいのは、自分たちというよりも、ライムバッハ家のためだ。 「殿下。ご命令を・・・」 ユリウスは、天幕の中でもっとも信頼できる者を探した。しかし、ユリウスが求める者は、”約束”を守るため…
続きを読む2024/05/03
【第六章 約束】第十話 待ち人
豪奢とは思えないが、奇麗に整えられた天幕の中で、同じく粗末ではないが質素な福に身を包んだ男が報告を聞いていた。 同年代の男を背後に従えている様子は、男がある一定の権力を持っている事を現している。 天幕での生活は長期化しているが、本人たちはまったく気にしていない。連れてきた者たちも、交代で帰国させている。すでに、包囲網は完成している。そのうえで、窓口を開けて待っている状況だ。 「ユリウス殿下。彼の方は、無事に国境を越えられました」 「そうか・・・。クリスにも・・・。必要ないか?」 「はい。別の者が、報告…
続きを読む2024/03/02
【第六章 約束】第九話 共和国(3)
議会は荒れていた。 食料の問題で招集されて開催された議会だが、今は違う話が主軸になっている。 もともと共和国は、いくつかの王家が帝国や王国に対抗するために集まった小国家群と言い換えてもいいのかもしれない。 最初は、軍事力で他国を圧迫していた国の意見が通っているような状態だったが、国家間の調整となによりも帝国と王国の圧力に屈する形で、小国家群は一つの国にまとまる選択をとった。 その時に採用された方式が、共和国制だ。 小国家は、そのままにして発言力を強めようとした。 小競り合いは発生したが、そのた…
続きを読む2024/01/03
【第六章 約束】第八話 共和国(2)
ユリウスたちは、使者との約束を守っている。約束の期間は、戦闘行為を行っていない。城門近くでの炊き出しを行うだけに留めている。 使者の言葉を、そのまま情報として民衆に流した。民衆は、得る事ができなかった情報に喰い付いた。王国を非難する者も居たが、それ以上に共和国のやり方に憤慨する者が多かった。そして、自分たちの国の上層部なら”やりそう”だと考えている。 共和国は、建前として多数派による政治だと宣伝をしている。 ユリウスも、共和国の政治体制は、認めている。しっかりと運営が出来ていれば、政治が機能していれ…
続きを読む2023/12/13
【第六章 約束】第七話 共和国(1)
アルノルトが、カルラとアルバンを連れてウーレンフートに向かっている頃。 アルトワダンジョンを出たローザスたちは、アルノルトから提供された地図を使って進軍していた。 「殿下!」 「どうした?」 「αダンジョンの周辺を抑えました」 「わかった。最低限の人数を残して、δダンジョンに迎え」 「はっ」 ダンジョンの名前は、デュ・コロワ国が名付けているが、ユリウスたちは、アルノルトが使っていたαβγという呼称で呼ぶことにした。攻略しているダンジョンの確保が最優先された結果だ。 攻略順ではないが、攻略ダンジョンを…
続きを読む2023/11/28
【第六章 約束】第六話 無言の帰国
状況の説明と今後の方針を決定した。 共和国の相手は、ユリウスに任せる事に決まった。 俺は、王国に帰還して、エヴァを迎えに行く。 『エイダ。集まったか?』 『十分な量の確保に成功しました。馬車に積んであります』 『わかった。ありがとう』 ユリウスたちとは、アルトワ・ダンジョンで別れた。アルトワ・ダンジョンには、クリスティーネが残る。 俺よりも先に、ユリウスたちが出立した。 共和国を攻め落とすのには、情報が伝わる前に重要拠点を攻略しておく必要がある。 ダンジョンの確保は必須だ。実効支配は完了してい…
続きを読む2023/11/12
【第六章 約束】第五話 想定外の出来事
ライムバッハ領の領都には、私たちが執務を行っている邸がある。ライムバッハ辺境伯の邸とは別に用意された場所で、私たちが生活する場所が一緒になっている。 私の執務室は、邸の入口に近いが場所にある。 客人対応が多いのが私だ。ユリウス様に客人対応を任せられない。当代のライムバッハ辺境伯はカール様だ。私たちが支えるべき人物だ。しかし、ユリウス様の現在の肩書は別にして”皇太孫”という立場があり、権限を持っていると思われてしまう。他の者たちでは、客人が爵位を持っている場合に、”軽く見られた”と言い出す者が居る(可能…
続きを読む2023/10/28
【第六章 約束】第四話 行動方針
ユリウスはまだ何か言っているが、クリスティーネが納得したので、ダンジョン・コアの説明は、共和国を落としてからに決まった。 俺が攻略したダンジョン以外にも、共和国内にはダンジョンが存在している。現在は緩やかにだが、俺が攻略したダンジョン以外のダンジョンで共和国の屋台骨を支えている。共和国の弱体を狙うのなら・・・。ダンジョンは攻略しておいた方がいいかもしれない。 クォートとシャープがヒューマノイドタイプの戦闘員を連れて戻ってきた。 共和国への侵攻計画を共和国の領土で練っている。 すでに進入を果たしているので、ど…
続きを読む2023/10/10
【第六章 約束】第三話 目標と罠
共和国に攻め込む者たちを含めて、アルトワ・ダンジョンに移動した。 実効支配している場所を確認してから、落としどころを考える事になった。 俺たちが見聞きしてきた情報を、皆に伝えたところ、今なら共和国の半分は無理でも、1/3くらいは取れると考えているようだ。 経済戦争を行うのには、お互いに準備が足りていない。 「ユリウス。共和国への対応だが・・・。適当な落としどころを決めてくれ、王家に渡すにしても、飛び地では管理が難しいだろう?」 「それは・・・」 「アルノルト様。大丈夫です。考えがあります」 「え?」 クリス…
続きを読む2023/09/07
【第六章 約束】第二話 電撃作戦
「ユリウス!」 「アル。俺は、お前にも文句を言いたい。共和国に行くのは、お前の自由だ。だが、困ったことがあれば、なぜ俺を俺たちに連絡を入れない!」 「ん?なんの事を言っている?」 「お前!」 ユリウスが、何故か怒り出した。 昔から変わらない。何か、説明が抜けている。俺が持っている情報と、ユリウスが持っている情報に差異が生じているのだろう。 「ユリウス様。アルノルト様には、それでは伝わりません」 頼りになるクリスティーネがユリウスの怒りを抑えるように嗜める。 「アルノルト様」 クリスティーネは、ユリウスが落ち…
続きを読む2023/08/17
【第六章 約束】第一話 皆?
ここは? だるい。 ん?草の匂い? あぁ・・・。 眩しい。ダメだ。俺は、天を空を感じていいのか? 俺は・・・。 生き残ってしまったのか? 手が動く、腕も動く・・・。 天を・・・。”天”なぞいらない。俺を庇って死んだ・・・。アルバン、カルラ・・・。アーシャを・・・。 「アル!」 誰だ? 俺の手を握るのは? 「アル!?」 また、違う奴か? 頭が痛い。 思考に靄がかかっているようだ。考えたくない。起きるのも・・・。 「アルノルト・フォン・ライムバッハ!」 誰だ? そうだ。 俺は、”アルノルト”。 違う。 俺は・・…
続きを読む2020/08/27
【手紙と約束】届いた手紙
「おばあちゃん!なんかTV局の人が来ているけど?」 「なにごとだい?」 「わからない!でも、なんか・・・。アメリカの人と一緒に来て『”ようすけ”からの手紙を届けに来た』と言っているよ?」 「よ・・・う・・・すけ?」 「え?・・・。あっ・・・。う・・・ん?通していい?」 「離れで待っていてもらってくれ。婆もすぐに行く」 洋介さん。貴方からの手紙なの? もう私は97歳にもなってしまったのよ? いつまで待っていればいいの? — おばあちゃんがTVで紹介された。 でも、そのおばあちゃんは放送を…
続きを読む2020/07/31
【第九章 復讐】第十話 平穏
不御月巌の死亡が伝えられた。 研究施設や不御月が持っていた裏の権益はことごとく奪われた。 巌は、失意の中で死んでいった。生に執着して、家族を殺し続けた老人は、独り寂しく死んでいった。四肢を切断された状態で”病死”していた。誰ひとりとして、巌の死を追求しようとはしなかった。巌を守る者はなく、見送る者も居なかった。 島の地下には、膨大な資料と一緒に実験室が設置されていた。 移植を行う為の施設だと判明した。それだけではなく、禁忌となっているクローンの製作も行われていた。 ”人食いバラ”の暗号は、施設に…
続きを読む2020/06/16
【第九章 復讐】第九話 終結
船上で行われた粛清劇から1ヶ月が経過した。 城井貴子は、旧姓の朝日を名乗って、大学に復帰した。 忠義は、自分の代で”能見”を終わらせるという望みを晴海に託していた。六条は、足抜けを認めていなかったが、家が潰れれば話は変わってくる。そのために、新見に能見を吸収させた。家が吸収されるならから、出ていきたい者は出ていけと新見に宣言させたのだ。 忠義の願いは叶った。残りの人生を晴海の為に命をかけると忠義(ちゅうぎ)を誓った。 新見は、文月を襲撃した犯人を、能見を使って特定した。大陸系の集団を使った不御月の仕業だ。残…
続きを読む2020/06/15
【第九章 復讐】第八話 闘争
部屋の中に、湯呑が割れる音だけが木霊する。 「夏菜!」 「はっ」 「そのクズを連れて行け、礼登と秋菜に合流しろ。死ななければ何をしても構わない。自白剤の使用も許可する。不御月の関与と、文月と襲撃者の所在を喋らせろ」 「かしこまりました」 「礼登にも秋菜にも言っておけ、手足を切り落としても構わない。だから、殺すな!」 「はっ」 夏菜が直亮(なおあき)の首にワイヤーを巻きつけて部屋から連れ出した。 「ふぅ・・」 晴海は、椅子に座り直した。 「最悪だな」 「はい」 応じたのは、忠義だ。貴子と会った時点から城井が怪…
続きを読む2020/06/13
【第九章 復讐】第七話 昼夜
静かな時間が流れた。 礼登から漂ってくる血の臭い。耳を切り落とされた直道(なおみち)からも新鮮な血の臭いがしてきているが、気にするものは居ない。 「秋菜。そこで、うずくまっているクズを俺の前から排除しろ」 「何を、めか」「豚。口を開くな、臭い」 直道(なおみち)が、”めかけ”と言いかけたので、秋菜が強硬手段に出た。直道(なおみち)の耳がなくなった場所を殴って、黙らせた。 「秋菜。豚が可愛そうだ。豚は、餌を貰っている者になつくからな。最後に殺されて食べられる瞬間まで、主人を信じているのだからな」 「はっ。もう…
続きを読む2020/06/12
【第九章 復讐】第六話 破綻
「幸典(ゆきのり)。新見家は、なにか言いたいことがあるのか?」 「お館様にお聞きしたいのですが、合屋家から返還された物を六条家としてどうされるのですか?」 新見が晴海に問いただした内容は、合屋と寒川以外が聞きたいと思っている話だ。 六条家が絶対の上位者なのは変わりがないが、六条家だけでは、返還された物を動かせないのは自明なのだ。 「そうだな。六条で持っていても手に余るな」 「それでは!」 直道(なおみち)が身を乗り出して話を遮った。 「直道(なおみち)様。お館様のお話中です。お控えください」 いつの間にか、…
続きを読む2020/06/11
【第九章 復讐】第五話 合屋
「泰史(やすふみ)!」 「はっ」 「泰章(やすあき)に、市花。新見。城井を呼びに行かせろ。泰史(やすふみ)は、寒川を迎えにいけ。寒川の望みを聞き出してから戻ってこい」 「かしこまりました」 夕花が会議室のロックを解除する。 泰章(やすあき)は、頭を下げて部屋から出ていった。 「晴海さん。なんだから嬉しそうですね」 「そうか?」 「はい。僕、少しだけ嫉妬してしまいそうです」 晴海は、夕花の頭をくしゃくしゃと撫で回した。 「夕花、もうすぐだ。俺の問題と夕花を狙っている奴らが繋がるかも知れない」 「え?晴海さん?…
続きを読む2020/06/10
【第九章 復讐】第四話 芝居
部屋の温度が上がったように思える。 泰史(やすふみ)に視線が集中する。忠義と礼登以外は、泰史(やすふみ)を凝視している。夕花も、泰史(やすふみ)を見てしまっている。 泰史(やすふみ)の次の言葉を誰しもが待っているのだ。 「お館様。私は、合屋家は、無関係です」 泰史(やすふみ)は泣きそうな声で、晴海に訴える。 だが、晴海は臨んだ答えではないと泰史(やすふみ)を追求する。 「泰史(やすふみ)!違うだろう?」 夕花が、意を決して、晴海の名前を呼ぶ。自分の考えを口にしていいのか迷ったが、晴海が机の下で夕…
続きを読む2020/06/09
【第九章 復讐】第三話 糾弾
晴海は、カップを持ち上げて飲もうとして止める。 「そう言えば、先代の事件の時に、お前たちはどこに居た?」 晴海の問いかけに答えられる者は居ない。 それぞれに理由があるのだが、言い訳になってしまう。もう一つ、各家が何をしていたのか明確に出来ない理由があるのだ。 「お館様」 「直道(なおみち)か?」 晴海だけではなく、夕花を除く者の視線が、城井直道(なおみち)に集中する。次期当主となっているが、正式には晴海が認めなければ、現当主が認めても、家は継げない。そして、晴海は直道(なおみち)よりも若い。夕花の存…
続きを読む2020/06/08
【第九章 復讐】第二話 忠誠
先頭を歩いている。礼登が、ドアを開ける。 中には、10人ほどが円卓に座って居る。上座には、4つの席が空いている。 入口に全員の視線が集中する。 礼登が開けた扉から忠義が先に部屋に入り、扉を押さえる。晴海が部屋に入り。夕花が続く。 晴海が手を差し出すので、夕花は戸惑いながらも晴海の手を取る。晴海の横に並んで歩くように誘導される。夕花は、晴海の腕に自分の腕を絡ませる。 夏菜と秋菜が部屋に入ったのを確認して、礼登が扉を閉める。 「六条家、現当主。晴海様の御前です」「いつまで座っているつもりですか?」 …
続きを読む2020/06/07
【第九章 復讐】第一話 側仕
「夕花。可愛いよ。気にしなくていいのに・・・」 「駄目です。私が嘲られるだけなら構いません。でも、晴海さんが馬鹿にされるのは我慢出来ません!」 「うーん。大丈夫だよ。僕を馬鹿にしたら、その家は終わりだよ。解っていて、そんな愚行は犯さないと思うよ」 「違います。その場で言われる位なら我慢出来ます。帰ってから言われるのが我慢出来ないのです!」 「わかった。時間はまだあるから好きにしていいよ」 「ありがとうございます」 晴海と夕花は、礼登が用意した会議を行うクルーザーに移動している。大学に顔を出して、駿河から礼…
続きを読む2020/06/01
【第八章 踊手】第九話 端緒
晴海はコーヒーを飲みながら情報端末を操作している。 かばんの中にはタブレットも入っているが、逃げる場合を考えて、すぐに動ける状態にしてある。 夕花のエステの施術は予定終了時間を少しだけ過ぎたが、概ね予定通りに終わったようだ。 ”晴海さん。終わりました” 晴海の情報端末に、夕花からのメッセージが届いた。 晴海は、夕花がビルから出てくるのを、コーヒーショップから見えていたので、支度をして夕花に近づく。夕花も晴海に気がついた。 「夕花。綺麗になったね」 「ありがとうございます」 うつむきながら晴海に礼…
続きを読む2020/05/31
【第八章 踊手】第八話 文月
晴海は、夕花を助手席に乗せて市内に向かった。 「晴海さん。どこに?」 「明日の準備」 「え?準備?晴海さんの?」 夕花が驚くのも当然だ。 昨日の段階で、準備が終わったと晴海は宣言しているのだ。 夕花にも、明日の会談は重要な物だと説明している。 「ううん。夕花の準備だよ。綺麗になろう!」 「え?僕?なんで?」 「ん?夕花は、僕の奥さんだよ」 「はい」 「うん。うん。一族の者が揃うからね。夕花のお披露目の意味を込めて、会ってもらおうと考えたのだよ」 「・・・。えぇぇぇぇ。僕、聞いていませんよ?」 「うん…
続きを読む2020/05/30
【第八章 踊手】第七話 準備
大学に通い始めて3日が過ぎた。 晴海と夕花は、屋敷と学校での生活を楽しんでいる。 屋敷では、片時も離れない。離れるのを恐れているかのように常に一緒に居る。学校では、研究室の設営がまだ出来ていないために、夕花は図書館に通い詰めている。晴海は、その時間を利用して、城井から蔵書や他の家の情報を聞いている。 そして、晴海が期限を区切った会談の前日。 礼登が城井を訪ねてきていた。城井に会うためではなく、晴海に会うためだ。 「城井。明日は、どのくらい集まる?」 晴海は、正面に座った城井に質問をする。まとめ役…
続きを読む2020/05/29
【第八章 踊手】第六話 疑惑
晴海は、夕花と別れて、城井貴子の部屋に向かった。 ドアをノックすると部屋から返事があった。 「文月さん。お待ちしていました」 「教授。お時間を頂きありがとうございます」 晴海が丁寧な言葉遣いをしているのは、城井の秘書が今日は一緒だからだ。 「晴海様。大丈夫です。この者は、我家の者です」 「そうか、わかった」 城井の後ろに控えていた女性が頭を下げる。 名乗らない所を見ると、城井家に属している分家筋なのだろう。晴海も、気にはしないで話を開始した。 「城井。それで、六条からの本のリストは出来たのか?」 …
続きを読む2020/05/28
【第八章 踊手】第五話 秘鍵
晴海は、夕花の隣に戻った。 能見と話をして情報が増えてモヤモヤした気持ちを、頭を冷やすためだ。 情報端末で、表向きの情報を読んで見て、情報を整理してみる。 文月コンツェルン 東京都に本家を置く企業の集合体。爪楊枝から大陸弾道ミサイルまでがコンセプトのような企業だ。第三次世界大戦の後に大きくなった企業体で、戦争特需をうまく利用した。本体は、上場しているわけではなく、子会社や孫会社を次々と上場させ本体は株式の取引で大きくなった。 現在の会長は112歳になる文月巌だ。日本の平均寿命が、110歳だと言わ…
続きを読む2020/05/27
【第八章 踊手】第四話 遺伝
部屋に入った二人は疲れているのもあって、風呂に入ることにした。 「晴海さん。お風呂の準備をします」 「頼む」 晴海は、礼登から渡されるはずだった資料を従業員から受け取った。 夕花が風呂の準備を始めたのを見て、封筒を開けて資料を見た。 資料は、予想通り夕花の母親の情報だった。 (大物だな) 夕花の母親は、東京都の裏社会をまとめている家の出だ。昔風に言えば、反社会的勢力の家の生まれだ。東京の裏を支えると言っても過言ではない。裏の顔も表の顔も持っている。表の顔の時に使う家の名前が”文月”だ。本当の家名は…
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