【第六章 約束】第六話 無言の帰国

 

 状況の説明と今後の方針を決定した。
 共和国の相手は、ユリウスに任せる事に決まった。

 俺は、王国に帰還して、エヴァを迎えに行く。

『エイダ。集まったか?』

『十分な量の確保に成功しました。馬車に積んであります』

『わかった。ありがとう』

 ユリウスたちとは、アルトワ・ダンジョンで別れた。アルトワ・ダンジョンには、クリスティーネが残る。

 俺よりも先に、ユリウスたちが出立した。
 共和国を攻め落とすのには、情報が伝わる前に重要拠点を攻略しておく必要がある。
 ダンジョンの確保は必須だ。実効支配は完了しているが、村や町には手を出していない。俺が確保しているダンジョンが属している町や村を確保するのが最初の狙いだ。
 そのうえで、ユリウスたちは共和国の一つであるデュ・コロワ国の首都を急襲する。

 今までは、時間が味方していたが、これからは時間との勝負だ。
 ダンジョンがある町や村の確保は重要だ。首都に情報が伝わる前に首都近郊を固める必要がある。矛盾する二つの作戦を同時に遂行しなければならない。ユリウスは自信を見せていたが、少しでもタイミングがずれたら作戦が失敗するだけではなく、ユリウスたちにも被害が出る可能性がある。

 俺がアルトワ・ダンジョンの出立を遅らせたのにも情報の拡散を防ぐ狙いがあった。

「アルノルト様」

「クリス。俺は、ウーレンフートに戻る。アルトワ・ダンジョンは任せる。エヴァと合流して、王都での用事を済ませたら戻ってくる」

「はい。でも、アルノルト様が戻られる前に、デュ・コロワ国が国としての体裁を持っているとは・・・」

「そうだな。ユリウスの態度を見たら・・・」

「はい。なので、急がなくても大丈夫です。それに、エヴァンジェリーナ様がすぐに動けるとは思えません」

「それは大丈夫だ」

「え?」

「俺に考えがある。普段のエヴァを知っている人が殆どいないというから・・・。多分、成功すると思う」

「そう・・・。アルノルト様に、何か考えがあるのね」

「そうだ。最終的には、エヴァとお義母さんの協力が必要になる」

「”お義母さん”・・・。そうね。でも、大丈夫だと思うわ」

「あぁ」

 クリスティーネが、奥歯に物が挟まった感じの物言いだが気にしてもしょうがない。どうせ、問いただしても答えないだろう。

「そうだ。クリス。アルゴルとのコミュニケーションは大丈夫か?」

「えぇ大丈夫ですわ」

 アルゴルは、エイダの代わりにクリスに従者?として付けた、ヒューマノイド・キャットだ。クリスティーネが・・・。猫タイプがいいと強硬に主張したので、ネコ型になったヒューマノイドだ。権限は、エイダよりも劣るが、アルトワ・ダンジョンを制御するのには十分なスペックを持っている。
 内部のプログラムは、クォートとシャープを中心に強化した物だ。人型ではないので、従者としての補助機能は眠らせてある。クラスとしては実装してあるので、アルゴルを人型に拡張することも可能だが、クリスティーネがネコ型を気に入っているので、クラスがアクティブにはならないだろう。

 足下にアルゴルがいる。
 クリスティーネを守るような対乳だが、ネコの為に”守る”というよりも”守られている”感じだ。

 丁度、エイダとクォートとシャープがヒューマノイド・ホースを繋いだ馬車を持ってきた。
 ユニコーンとバイコーンは、クリスティーネに預けることにした。アルトワ・ダンジョンから動かないと言っても、連絡は必要になる。カルラ衆がいると言っても、通常の連絡も必要だ。その為に、”足”は必要だ。通常の馬を置いておくことも考えたが維持費や速度を考えて、ユニコーンとバイコーンを使うことになった。
 俺は、記憶するだけなのに、馬に似せたヒューマノイド・ホースで十分だ。戦闘力は必要ない。
 護衛としては、クォートとシャープがいる。威嚇の意味も込めて、騎士風のヒューマノイドも連れている。クォートとシャープが操れるようになっているので、十分な抑止力になるだろう。

 クリスティーネとは、エイダを通して連絡ができる。
 アルトワ・ダンジョンから離れる前に、確認を行った。

 エイダとアルゴルがダンジョン経由で繋がっている。

 馬車に乗り込んで、エイダが準備をしてくれた物で、アイテムを作る。
 必要なことだと理解している。

「アルノルト様。国境です」

 クォートとシャープも、俺を”アルノルト様”と呼ぶように言っている。
 シンイチ・マナベの身分は、今後も必要になってくるが、今回は”アルノルト・フォン・ライムバッハ”の身分が必要だ。

「進んでくれ」

「はい」

 クォートに指示を出す。
 国境なので、並んでいるが、無視して進む。

 その為の身分だ。身分を保証する書類もクォートに預けている。

 そして、俺の後ろには二つの棺がある。
 カルラとアルバンをウーレンフートに連れて帰る。

 エヴァンジェリーナに弔ってもらう。俺が二人をウーレンフートに連れて帰る理由だ。カルラは違うが、アルバンの故郷はウーレンフートだ。カルラも一番長く過ごしたのがウーレンフートだと言っていた。だから、二人に休んでもらうのはウーレンフートが良いと考えた。

 今からの行動は共和国に対する楔になる。

 もちろん、馬車は止められる。
 しかし、共和国側の国境警備兵を無視して馬車を進める。

 剣呑な雰囲気が出たところで、王国側にいる国境警備兵が駆け寄る。

 茶番だが必要な茶番だ。
 共和国側にも既に通達を行っている。

 ライムバッハ家の者が、共和国側から王国に帰国するという通達は済ませてある。
 俺たちが静止を無視して、王国側に急ぐのも伝えてある。静止された所に、王国側から兵士が出てきて、俺たちを保護する。

 共和国側の国境警備兵は、王国側から賠償を貰う。
 しかし、共和国内で発生した”王国貴族の暗殺未遂事件”を告げられて、賠償ではなく、通達を共和国内の各国に行うことになる。ここからは、時間との勝負だが、俺が国境に到達するころには、ユリウスがデュ・コロワ国の首都に迫っている。

 今から急いでも、国境からの移動を考えれば手遅れになる。
 しかし、デュ・コロワ国以外の国には、必要な情報だ。王国は、正当性を主張できる。警備兵は、自分たちの仕事をしたが、遅かったと言い訳ができる。他の国への伝達を急ぐ理由も、俺がこの場で、ライムバッハ家の者であることや、暗殺はデュ・コロワ国の者が主導していたと宣言を行ったことで、デュ・コロワ国以外の国への報告を優先したと各国に説明ができる。

 馬車は、最初の約束通りに、抵抗らしい抵抗もなく、王国に入った。
 これで、共和国側に並んでいた者にも、王国側に並んでいた者にも、王国と共和国で何かあったのだと考えるだろう。そして、噂が千里を走るだろう。

「アルノルト様」

 見覚えがある騎士が俺の前で跪いた。

「あぁ」

「カール様にお会いしますか?」

「辺境伯は、元気にしていますか?」

「はい。殿下たちが居なくなって最初は寂しそうにしておいででしたが、邸の者たちや、領民との交流で、優しい笑顔を・・・」

「そうか・・・。すぐにウーレンフートに行かなければならない。カールに会ってやりたいが・・・。俺のやるべきことが終わってから会いに行く」

「残念ですが、わかりました。ライムバッハ家の家臣一同。アルノルト様のおかえりをお待ちしております」

「ありがとう」

 ライムバッハ家に古くからつかえてくれている兵士が俺の前で頭を下げてくれる。
 そして、”待っている”と言ってくれた。

 カールが辺境伯の地位を継ぐのは、陛下に寄って定められたことだ。
 俺がサポートに戻ることは可能だが、俺にはまだしなければならないことがある。

 馬車に積まれている棺を思い出す。
 無言の帰国になってしまった二人を連れてウーレンフートに戻る。

 やることが増えた。
 でも、対象が増えなかった。

 約束ではない。俺が俺である為に必要なことだ。

 帝国が後ろに居るのなら、帝国を潰す。
 組織だけが単独で動いているのなら、組織を潰す。

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