【第八章 王都と契約】第十五話 そのころ・・・3

 

 西沢は、ゴーチエは宰相派に金を流している豪商の息子だ。所謂、武器を売って稼いでいる所謂武器商人の一族だ。武器の中には、奴隷も含まれている。もちろん、正規のルートから仕入れた奴隷だけではなく、奴隷狩りなどで捕えられた違法奴隷も含まれている。

 西沢が、同級生たちのグループからの脱退を考えていた。

(このままではジリ貧だ)

 西沢ロラ・ゴーチエは、豪商の息子だ。
 ただの豪商ではない。武器商人だ。それも、王国だけではなく、近隣諸国に武器を売り歩いている。武器の代金を、金ではなく、奴隷との引き換えも行っている。入手した奴隷で、戦闘が可能だと思える者には、戦闘訓練を行って奴隷として販売している。最近始めたことだが、成果が出始めている。
 その為に、西沢は立花たちのグループと距離を取ることを考えていた。
 奴隷は商品だ。そして、影響力を得るための道具でもある。立花たちに流していれば、商品は消耗品になってしまう。渡しても、男ならいたぶって殺す。女なら飽きるまで犯してから殺す。奴隷商と考えれば、商品が売れればそれでいいのだが、影響力を得たいと考えている西沢には不満が募り始めている。まず、立花たちは商品を調達してくる自分に感謝がない。
 しがない”男爵家”の長男でしかない立花に従っていてもこの先があるとも思えなかった。

 西沢は、自分と同じようにグループから離れることを考えている者を誘った。
 慎重に進める予定で居たのだが、簡単に物事が進んだ。

 奴隷を立花たちに流していた商人は、ゴーチエ家だけではない。ゴーチエ家は、豪商であり武器商人だ。パシリカを受けたばかりの者たちと取引をしない。間に入る商人もいなかった。その為に、ゴーチエ家からの商品奴隷は、ロラ西沢が個人的に引いてきた。
 そして、流しの商人を行っていた、ブォーノ家の嫡男が、イアン細田だ。
 細田も、立花たちに商品奴隷を流していた。細田は、ゴーチエ家と違って、盗賊や野盗から奴隷を買い入れるために、違法奴隷だけの商売だ。正規の奴隷商に奴隷を流して、ロンダリングを行う手法で稼いでいる。立花たちに渡していたのは、商品奴隷に適さない者たちだ。

 細田も西沢と同じように、奴隷を渡しても感謝すらしない者たちに嫌気を覚えていた。
 そして、細田は西沢の態度に自分と同じ感情を感じ取った。

 二人は、奴隷を徐々に絞ることにした。
 そして、他にも協力が期待できる者を探した。

 三塚と冴木は、協力関係の構築が簡単にできた。そして、意外な事に、加藤が西沢のグループにすり寄ってきた。しかも、大物を連れてきた。

 三塚と冴木と西沢と細田は、実家の影響を抑えつつ、加藤が連れてきた大物の派閥にしっかりと入り込むことに成功した。

 勢いを失った、立花と山崎と橋本と森中と川島は、王都で燻り始めた火種を感じて、王都からの脱出を考え始めていた。
 しかし、王都からアゾレムの領地には、マガラ渓谷を越えなければならない。アゾレムの名前を出せば通過は可能だが・・・。

 立花たちは、レベルだけは奴隷を殺して上がっているが、スキルの習熟は行っていない。レベルだけが高い素人になっている。

 リンが、王都に到着した時に、西沢たちは、宰相派閥に組み込まれて、立花たちは王都からの脱出を行った。

 立花たちが向かった先は、アゾレムに借金があり、我儘が通りやすい子爵家だ。
 子爵家は、元は伯爵家だ。リンがハーコムレイに渡した書類で、裏家業が暴かれて、当主は蟄居させられて、裏家業を行っていた嫡男は縛り首になった。降爵して子爵家となって、今は遠縁の者が子爵家の立て直しをしている。
 そこに、前当主が借りた物を返せとやってきた者たちがいる。
 歓迎は出来ないが、歓迎しなければならない状況だ。

 そして、遠縁の者も愚かだ。
 王家が行った粛清を、派閥の理論に押しはめて、自分たちの力を殺ぐために使ったと考えた。
 裏家業は、嫡男だけが行っていたわけではない。代々の当主が行っていた。現在は、遠縁の者が表を取り仕切って、裏側を前当主が仕切り始めた。空だけなら、発覚時点で子爵家を潰してしまえばいいだけなのだが、大小の違いはあるが、王太子が主導する粛清で、粛清された貴族家は派閥の長であった宰相を頼った。宰相は、頼ってきた貴族家を切り離した。切り離した方の宰相派閥も派閥の力が弱まったと思っているが、切り離されたほうは、自分たちがやってもいない事案まで被せられて切り離されて、断罪された。
 そんな切り離された者たちが、アゾレムの嫡男と優秀なジョブを持つ者たちを匿った元伯爵家を頼るのは自然な流れだ。
 どの貴族家も、脛に傷を持っている。裏の事業を行うのにも、民から税を吸い上げるのも、民を奴隷に落として金に変える事も、近くを通る行商を襲って、荷を奪って兼ねに変える事も、何も躊躇しなくなった。
 貴族が連合して、盗賊になった。常備兵による盗賊行為。

 それを、アゾレム男爵の嫡男が率いている。
 男爵家の次男である橋本クシジナや教会の枢機卿の息子が加わっている。正規兵による盗賊行為だ。元伯爵家を頼ってきた貴族の領内であればいくらでも言い訳ができる。正当な処理だったという事が出来た。盗賊を探していて、怪しい行動があった為に捕えた。捕える時に、暴れたので戦って殺した。荷物を調べたら、領内で禁止されている物が発見された。権力を持つ者たちは都合がいい言い訳ができる。自分たちの正当性を証明できる状況だ。
 立花たちはレベルだけは高いために、行商人が連れているような護衛では太刀打ちできない。優れたスキルも持っているために、力技でも簡単に勝ててしまう。人を殺すという快楽と力を求めた。立花たちは捕えた者たちを簡単に殺してしまっている。
 行商人が殺されている状況は、噂として近隣に流れるが、皆殺しにされているために証拠が残っていない。また、領主たちからの発表でも盗賊団を捕えるために、正規兵が動いている状況が説明された。その為に、正規兵が行商人や商隊に近づいても危険だとは考えない。簡単に、立花たちが仕事を終えられる状況が出来上がっている。
 率先して動いているのは、奴隷兵だが、捕えた者を尋問して殺しているのは立花たちだ。

 立花たちの所にいる川島マルビンは、行商人や商隊を襲うのをやめさせた。義憤に駆られてではない。苦情が上がってきても、苦情を伝えてきた者たちを殺してしまうので気にしてはいない。それでも、辞めようと言い出したのは、もっと簡単な方法を思いついたからだ。

 立花たちが身を寄せた元伯爵家は、王家直轄領を挟んで北方連合国ノーザン・コンドミニアムがある。
 北方連合国ノーザン・コンドミニアムは、20以上の小国家が連合国として活動を行っている。川島が言い出したのは、北方連合国ノーザン・コンドミニアムに赴いて村々を襲うことだ。
 流石に、自分たち5人だけでは、危険な上に面倒なのは目に見えているので、戦闘ができる奴隷を連れて行くことを提案していた。

 子爵家も立花たちを最初は歓迎したのだが、やっている事が非道な上に、自分たちの評判にも関わってきている状況を良く思わなくなってきていた。
 その為に、200名ほどの戦闘奴隷と素行不良な騎士20を立花たちに預けて、北方連合国ノーザン・コンドミニアムへの侵攻計画を黙認することにした。もちろん、貴族家とは関係がないことを念押ししている。戦争になっても、国境は王家直轄領が守っているので、大丈夫だという算段をしたうえで・・・。立花たちを送り出した。

 いろいろな思惑が交差した結果だが、皆が相手を利用していると考えて、自分の利益を優先した結果だ。

 災厄は、北方連合国ノーザン・コンドミニアムに押し付けられた形になる。
 しかし・・・。

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