【第三章 魔王と魔王】第十六話 【神聖国】

 

神殿の広間。
神聖国は、宗教国家であり、玉座は存在しない。身分としての”王位”はない。神の代弁者である”聖王”が存在している。

聖王は、広間の中央に座っている。背後には、地球に住んでいる人ならほとんどの人が知っている。神の像が置かれている。これだけで、知るものが見れば、神聖国は”ダンジョン”や”魔王”と関わりがあると解ってしまう。それでも、聖王は十字架を掲げている。転生前は、それほど”神”を信じていたわけではない。しかし、ダンジョンマスターになり、”神”の存在を感じるようになった。そして、まだダンジョンが小規模の時に、神聖国の前身である小国がダンジョンに攻めてきた。命の危険を感じて、”神”に縋った。縋ったのは、”神”だったが、”神”は助けてはくれなかった。

しかし、ダンジョンは”神”の代わりに、彼を助けた。
彼が闇雲に呼び出した者たちが、ダンジョンに踏み入った者たちを討伐した。そこで、得たポイントを使って、彼はダンジョンの守りを固めた。

100年くらいは、小国との小競り合いが続いた。彼は、小競り合いから多くのことを得た。多くは、自分自身を守るための手法であり、領地を広げる方法だ。
戦闘で勝つことで、領地が広がっていった。戦闘で勝利をおさめないと、ポイントが有っても領地を広げられない。男は、小国との戦闘を繰り返した。小国を飲み込むほどに成長した時に、彼はダンジョンマスター兼”聖王”となった。

彼は、慎重に小国を内部から切り崩した。
彼に、従順な者にスキルを与えて、強化した。そして、最終的には、全ての貴族家を潰した。

小国の王から、王位を譲られる形で、小国の王位についた彼は、神託を受けて、聖王と名乗り、身分制度を廃止した。

小国は大きくなり、神聖国と名を変えた。正式名称は、元の小国の名前を冠して、ルドルフ神聖国となった。
聖王は、王位ではない。身分制度は存在しない。神聖国で、神の声を聞くことができる者が”聖王”となる。神の意思に寄って、国家が運営される。

神聖国は、近くにあるダンジョンを飲み込み成長した。
ダンジョンマスターを下すことで、ダンジョンの資源を奪えることに気が付いた、彼は、ダンジョンを積極的に潰した。
200年くらいが経過してから、遠征できる場所にダンジョンが存在しなくなってしまった。その過程で、新しく芽生えたスキルも多いが、彼は、眷属を持っていない。正確には、眷属の作り方が解らない。また、解ったとしても、魔物を自分の配下に加えようとはしない。

安定した運営が出来ていた。
神聖国は帝国/連合国/王国/皇国とならぶ巨大国家に成長した。

彼は、誰も信頼していない。
側に置くのは、奴隷だけだ。

安定していた神聖国だが、魔王ルブランが台頭してきてから、安定に綻びが見え始めた。

まず、基礎インフラとなっていた奴隷の入手が難しくなっていた。
そのために、奴隷の値段が跳ね上がってしまった。今まで、使い捨てにしていた獣人奴隷も、使い捨てに出来なくなってきた。それだけではなく、協定を結んでいた連合国からの資金の流入が徐々に減り始めてしまった。
連合国が、魔王ルブランに挑んで負けたのが大きな理由だが、そのあとで魔王ルブランが、連合国の国境に作った。”ギミックハウス”が問題だ。連合国に神聖国から提供されていたスクロールが流れる事態になってしまった。

問題意識は、側近にも共有されている。

「魔王ルブランは、出てきたのか?」

聖王ルドルフは、イライラした声で、側近たちに質問をぶつける。

「はい。魔王ルブランの確認が出来ました。しかし」

「逃げられた。それだけではなく、”負けた”のだな」

「・・・」

聖王ルドルフは、遠征部隊を送るのには、否定的だった。
自分が、ダンジョンとの戦いで、勝利をおさめて領土を増やした経緯から、負ける可能性がある場合には、ダンジョン勢力としての出陣は控えた方が良いと思っていた。

聖王は、遠征部隊が負けたことは把握していた。
元々、魔王カミドネのダンジョン近くまでが、魔王ルブランの領地となっていた。領地を奪われたのだ。利用価値が無かった森だけなので、聖王ルドルフとしては、それほど大きな問題だとは考えていない。

「猊下」

「獣たちや、下級神官たちが、魔王カミドネに殺されたのは解っている。魔王ルブランは、どこまで出てきた?」

魔王ルドルフは、魔王カミドネだけを相手していればいい状況では無くなってしまっているのに危機感を持っている。
今までの魔王だと思われる者たちは、好戦的だが、神聖国に敵対する様子は見せなかった。

しかし、魔王ルブランに併呑された魔王カミドネは、神聖国だけではなく、王国に牙を剥いた。

今までと違って、ダンジョンに潜って震えているだけの魔王が、表に出てきて戦いを指揮している。
魔王ルブランは、女だと言われているが、表に姿を見せておきながら、暗殺に襲われたという情報や、実際に戦闘行為に関する情報が一切ないのが気になっている。戦場に出るだけでも、”死”が目の前にあるのに、なぜ戦場に姿を表すのかわからない。死ぬのが怖くないのか?魔王ルドルフには、魔王ルブランの行動は理解ができなかった。

「森の手前で姿を確認されています」

「森の手前か・・・。魔王カミドネは、姿を見せたのか?」

「いえ、魔王カミドネは、見つかっていません」

「そうか、情報収集は、いつもの部隊を使ったのか?」

「はい。内部に入れた者たちは、戻ってきません」

「わかった」

魔王ルドルフは、地図を広げながら、物見たちが確認した位置や配置を記載させた。
予想通りに、魔王ルブランは、魔王カミドネの領域から出てきていない。他の魔物や兵たちだけを送り出しているのが解る。自領の状況は確認ができるが、他領は物見を放って確認させている。

全滅した状況は、魔王ルドルフは確認していて把握が出来ている。相手の方が上手かっただけで、強さでは同等だと考えている。

兵たちを全滅させた手腕や、その後、自分の領地を奪った手際。そして、全てを奪うのではなく、守り易い場所までを支配した状況から、聖王ルドルフは苦々しく思いながら魔王ルブランの危険性を1段階アップさせた。

敵対するのは、得策ではない。
しかし、魔王ルブランの思想とは相容れない部分が多すぎる。そのために、神聖国として、魔王ルブランと魔王カミドネを無視することはできない。存在を容認するのも論外だ。
あくまで、表向きの活動としては、敵対していて、裏では手を握る方法が無いか考えている。

「猊下。少しだけ問題が発生しております」

「問題?」

「はい。王国との交易路が、魔王カミドネに潰されてしまいました」

「交易路?」

側近は、地図を示して、今までの交易路は、王国から森を突っ切るように、ほぼ直線で神聖国まで伸びていた。
しかし、魔王カミドネが森を掌握したことで、川に沿った形で移動しなければならなくなった。橋が落されたのが大きな理由だが、せっかく落とした橋を架ける動きがあれば邪魔してくるのは明白だ。そのために、新しく川沿いに交易路を設定する必要がある。

「川沿いは、相応しくない」

「猊下?しかし、最短距離なので、交易に必要な日数を考えれば・・・」

「”神”が言っている。魔王カミドネが、スキルや弓を使って攻撃して来られない距離に交易路を設置しろ。あと、王国の面倒な奴らは文句を言い出すだろう。そのために、王国との中間地点の街を作成して、中間地点の街までの交易路を作成しろ」

良くも悪くも、神聖国は魔王ルドルフが支配する国だ。
”神”の言葉を伝える事で、皆がそれに向かって動き出す。

魔王ルドルフの統治は、飴と鞭をしっかりと使い分けている。
文句はあるが、それ以上に悪い者たちが居るために、魔王ルドルフに取って代わろうとするも者が産まれない。

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