【第三十一章 本腰】第三百十八話

 

 粛清が始まった。
 正確には、アトフィア教だけではなく、チアル大陸外の勢力と繋がっていた者たちを焙り出して捕えた。

 流した情報やスキルカードによって懲罰を決めた。
 アトフィア教と繋がっていた者に関しては、1段階上の懲罰を行うことに決定した。

 行政区の一部に喰い込まれていた。
 ここまで喰い込まれているとは考えていなかった。

 ルートガーは、身元調査を過信しすぎたといっているが、しょうがない。

 まずは、流出した情報の調査が先だ。

「それで?」

「流出した情報は、公開されている物だけだ」

「ん?公開されている?」

「あぁ正確には、行政区にいる者なら、申請すれば、誰でも閲覧が可能な資料だ」

「そんな物を、アトフィア教や他の大陸の奴らが欲しがったのか?意味がわからない」

 声に出てしまったが、本当に意味が解らない。

 それなら、正規ルートで申請を行えば、情報を渡しても大きな問題にはならない。

「あぁ・・・。お前からしたら、流出しても大丈夫だと思える情報でも、他の大陸の為政者たちは・・・」

「ん?どういうことだ?そんな重要な情報があったのか?人口比率や種族の比率とかだろう?あとは、SAやPAの情報だけだろう?」

「はぁ・・・。他にも、SAとPAを繋ぐ街道の情報や、海図も公開しているよな?」

「海図は、行商を行う時に必要な情報だろう?商人たちに渡して、その代わりに商人たちからも潮の情報を貰っている。別に、知られても困らない」

「あのな。為政者が、領地の情報を公開するか?」

「問題がなければ、公開すると思うぞ?個人の情報はやりすぎだけど、行政の情報は出した方が安心だろう?」

「そうだな。安心だな。安心できるだろう・・・」

 ルートガーが何を言いたいのかよくわからない。
 別に見られて困るような情報はない。それに、財政の情報を見られても、困らない。そして、俺を殺して代わりができると思うのならやってみるといい。失敗した時にどうなるのか考えるくらいの知恵は持っていて欲しいとは思うが・・・。

 ルートガーが、眉間に消えそうもない皺を作って説明を開始した。
 俺の常識から外れた話だが、納得ができた。

それで、行政区で大量の粛清者が出た理由も納得ができた。

 元々、公開されている情報を欲しがっている奴に売っていた。アトフィア教に繋がっていたわけではない。繋がっていたのは、仲介した連中だけだ。行政区で働いている連中で粛清された奴らは、脅されたり、スキルカードに釣られたり、動機はいろいろだが、アトフィア教に与したとは思っていない。
 悪いと思っている奴も少なかった。

「わかった。情報の流出には、今までよりも重い懲罰を課す」

「わかった。公開は辞めないのだな?」

「今、辞めても意味がないだろう?」

「まぁそうだな」

 ルートガーと情報の取り扱いの話をまとめる。
 公開は辞めないが、情報を渡すときに二重チェックを行うことに決めた。

 情報の転売をしている者を見つけた場合には、行政区に知らせてくれたら褒賞をだすことにした。

「他には?」

 ルートガーではなく、クリスティーネが書類を広げて説明を始めた。

 外務は、ルートガーではなく、クリスティーネが担当することにしたようだ。実際には、外務のとりまとめを、クリスティーネが行う。ルートガーは、内務を取りまとめる。
 ルートガーから打診があって許可をだした。

 シロが担当していた部分も、徐々にクリスティーネに移譲することに決まった。

 エルフ大陸との交易は順調だ。エルフ族も、内部をまとめるのに忙しく外向きの対応は行えていない。
 俺たちが抑えた港が唯一の接点になっている為に、一種の鎖国のような状況になっている。港がある場所が、出島の役割になっている。エルフ以外が、港から内陸に出ないようにしっかりと監視を行っている。その為に、鎖国状態になってしまっているが、エルフの性質は、外部との接点をすくなくすることで発揮できる。外部に出たがっているエルフも港に行けばいいと思えば、”いつでも行ける”と考えるようになって、内部に留まるようになっている。らしい。

 問題を起こしたドワーフたちも、中央大陸のダンジョンで鉱石がドロップすることで、騒動は収まった。そして、ドワーフ大陸に残っていた者たちも、中央大陸に移動を開始しているようだ。情報では、元々のドワーフ大陸には、少数だけが残っている状態になってしまっているようだ。

「なぁクリス。ルート。ドワーフの大陸には、ダンジョンはないのか?」

「鉱石が採取できる場所があったという話だが、ダンジョンだとは聞いていない」

 何か釈然としない。
 多分、鉱石が採取していた場所は1箇所だけだと教えられた。その場所から、いろいろな鉱石が採掘できた。表現が難しいが”狂っている”ように思うのは、俺だけのようだ。そういう物だと認識されてしまっている。
 聞いた限りでは、ダンジョンではないのだろう。でも、ダンジョンだと思えてしまう。
 魔物が出てこないのには何か理由があるのだろう。調べたくなってきた。

「ルート」

「ダメだ」

「ん?」

「ドワーフ大陸に行きたいのだろう?」

「なぜ?」

「お前の行動から考えれば・・・。俺も動けないから、信頼できる者を・・・」

「わかった。最初は、それでいい。もし、ドワーフ大陸にあった鉱山が、ダンジョンだったら、俺が行くからな」

「・・・。わかった。復活させるのか?」

「出来るのなら、復活させた方がいいだろう?ドワーフたちが、中央大陸にいると、また問題が発生する可能性が高い。あの手の者たちは、出来れば、まとまって・・・。他の種族や価値観が違う者たちと生活しないほうがいい。エルフと同じだ」

「まぁ・・・。そうだな。一部をのぞいて人の話を効かない連中が揃っている。お前の考えはわかった。ひとまずは、人を派遣する。人員は、こっちで選ぶけどいいか?」

「ルートに任せる」

 今までの流れで考えると、大陸にダンジョンが存在している。

 それだと、アトフィア大陸だけにダンジョンが存在していないと考えるのは不自然だ。
 しかし、アトフィア教は魔物を他の大陸から調達しようとしている。

「ルート。アトフィア教の情報は?」

「解っている所だけまとめた。古くから知られている内容だけだ。最新の情報として、未確認だが、アトフィア教が割れているという情報がある」

「割れている?派閥か?」

「どうやら、もっと深刻な状況のようだ。外部に情報が出ないように、大陸内で治めているようだが、どうやら、小規模だが紛争に発展した場所があるようだ」

「紛争?アトフィア教同士か?それとも、民衆対権力者か?」

「それが、情報が逸らされているのか、よく解っていない」

「情報統制か?」

「欺瞞情報が流れてきて、確認ができない」

「内部には?」

「アトフィア教の教徒以外が居て目立たないと思うか?」

「・・・。無理だな。俺たちに協力する時点で、アトフィア教とは相反する思想だな」

「あぁスキルカードで転びそうな連中を使ってみたが、ダメだった」

「そうか・・・。俺も方法を考えてみる」

「ん?」

「捕えた、アトフィア教の連中が居るだろう?」

「あぁ」

「教徒なら、怪しまれないだろう?」

「それは・・・。だが、奴らが、俺たちに協力させるのは、無理だぞ?」

「ははは。それくらいは解っている。でも、協力しているとは解らないように、協力させることはできるだろう?」

「え?」

「例えば、レベル7契約で、俺たちに情報を送るように無意識下に刷り込んでみるとか・・・。レベル8記憶で記憶を抜き取っても、狙った情報は難しいが、調べるために必要な最初の情報は得られるだろう?」

「・・・。そうだな。わかった。ひとまず、何ができるのか動いてみる」

「頼む。アトフィア教の現状を知りたい。特に、大陸がどうなっているのかだ!」

 引き続きアトフィア大陸の様子は、ルートガーが調べることになった。
 俺が言った方法は、ルートガーが情報の入手に失敗した時のバックアップとして考えるようだ。バックアップの準備は、クリスティーネが外務を行いながらすることに決まった。

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