【第四章 スライムとギルド】第四十八話 今後の話(1)

 

貴子嬢が、話をしている最中に立ち上がった。
真子が起きたから迎えに行ってくると言い出した。俺が行こうとしたが、円香に止められた。

秒針の進みが遅い。まだ、30秒しか経っていない。真子は、大丈夫なのか?本当に治ったのか?立てるのか?

真子が部屋に入ってきた。
貴子嬢に支えられているが・・・。立っている。俺に向って、治った手を広げて見せている。

真子の足が治った。真子が歩いて居るのを見ても信じられなかった。貴子嬢が”幻影で見せている”と言われたほうが・・・。現実味がある。

真子が夜に魘される声を何度も聞いて過ごした。

真子が自分で歩いている。貴子嬢に支えられているが、自分の足で立っている。
指も治っている。顔を暗くしていた傷も治っている。

肩のモモンガが、なぜか嬉しそうにしているのが不思議だが、違和感がない。真子の一部になっているのか?繋がっているから、真子と一緒に居ても違和感がないのか?

知らない間に立ち上がっていた。
円香に背中を押された。

真子に近づいて、肩に触れると、貴子嬢が真子から離れた。

真子は、まだ一人では立てないのか、俺の方に身体を預けてきた。

今は、椅子に座って、真子に芽生えたスキルの話をしている。

真子は学校に行きたい?貴子嬢も?

問題は・・・。ない。円香も頷いている。
円香が、貴子嬢に聞いている。ギルドからの要請なら、復学もできると思うと言っているが、貴子嬢は、元の学校への復学は望んでいないようだ。真子からは、”余計な事をいうな”というオーラが漏れている。貴子嬢と一緒に通いたいのか?

「真子。学校も大事だけど、先に引っ越しをするからな、引っ越し先で学校を探そう」

「うん!」

真子も引っ越しには前向きなようだ。
ギルドの近くで探せばあるだろう。

少しくらいなら離れていてもいいと思うが、近い方が何かと便利だ。

真子も、足が治っているので、免許を取りたいと言い出すだろう。バイクと車?市内で生活をするのなら、必要になる。

「でも、お兄ちゃん。この家はどうするの?」

「このまま維持をしておこうと思う。時々、掃除にくることにする」

何か、円香には腹案があるような感じだが、まずは俺の考えで話を進めさせてもらおう。

「え?」

「目くらましだけど・・・」

円香が手を上げる。
真子には伝えなくてもいいと言いたいのだろう。

「孔明。この家は、ギルドの支部として使いたい。いいか?」

「支部?」

「そうだ。緊急時に使える場所があると助かる」

何かを考えているようだ。
家の維持が出来るのなら、問題はないと思っている。

「・・・。わかった。真子もいいよな?」

「うん」

真子の了承が取れれば、俺は家の場所にはこだわりがない。
業務に支障がなければいい。

「貴子さん。貴方にお願いがあります」

「なんですか?」

「この家の維持と、監視をお願いしたい」

「維持は、わかりますが、監視とは?」

「多分だが、真子のスキルが知られれば、ゴミムシの様な連中が寄ってくる。その対処を頼みたい」

「具体的には?」

「無断で侵入しようとするような者は、殺さなければ、何をしても構わない」

「おい。円香!」

「わかりました」

「貴子嬢!」

「孔明!これからは、ギルド側のターンだ。いい加減に、私も奴らの行いには、うんざりしている」

「・・・。解っている。解っているが・・・」

「孔明。未知のスキルを日本で使って、人を傷つけた場合にどうなる?」

「え?未知のスキル?」

「そうだ」

難しい問題だ。
現在の法律で、”風”のスキルで相手を傷つけた時には、傷害罪が成立するのか微妙な状況だ。法律が追いついていない。海外では、ギルドに要請して、スキルの危険性を調べる流れになっている。
日本では、政府や行政がギルドに依頼してくるのは、魔物の駆除だ。スキル持ちを調べる方法など、ある一定の状況整備が終わってしまっている状況では、現在の法律に当てはめようとしている。
未知のスキルを持っている貴子嬢が本気になれば、検証が不可能な状況になる。本人にしか再現が出来ない方法の犯罪を、今の日本で捌けるとは思えない。

「・・・。警察は証拠を固められない。裁判になっても、裁判が維持できるとは思えない」

「そうだ」

そうか、円香はギルドの地位をあげるのではなく、貴子嬢の立ち位置を確保するつもりなのだな。
興味本位で近づいてくる、マスコミを牽制するのにも使えるかもしれない。真子を守る為にも、必要な事なのかもしれない。

「円香さん。孔明さん。この家を守るうえで何か注意しなければならないことはありますか?」

注意ではないが、留意しておいたほうがいい事がある。

「貴子嬢。この家の周りは、一般の家庭が多い。真子の事を知っている人たちが多いから、人の出入りが少なくても不思議には思われない」

「そうなのですね」

「家政婦を頼んでいたが、あって解約することにした」

「それなら、簡単な掃除は必要ですね」

「頼めるか?」

「ライ。どう?」

ライ殿が貴子嬢の膝の上で跳ねる。

「丁度、ライの分体が大きくなりすぎているので、こちらの家に居させてもらえると、助かります」

いろいろ突っ込みたいが、突っ込んではダメな話だ。
スライムの分体が大きくなる?何かを吸収しているのだろうか?

「あと、広めのベランダがあるので、エントかドリュアスにも来てもらえば、守りは大丈夫だと思います」

「あぁ・・・。貴子嬢に任せよう」

「ありがとうございます。あと、出来たら・・・」

貴子嬢が、真子を見ている。

「どうした?」

「その・・・。エントかドリュアスと呼んでいる草木が魔物になってしまった者たちですが、私の眷属になるのを拒否した子たちで、相性を見てからになるとは思いますが、真子さんか孔明さんの眷属にしてもらえないでしょうか?」

俺は、円香を見てしまった。凄くいい笑顔だ。

「はい!」

真子が手を上げる。

「うん。円香さんや、蒼さんにも相性を見て欲しい」

「いいのか?」

「うん。他にも、保護している子がいるから・・・。どこかで、相性を見てもらいたいとは思っている。私の所では、保護が難しい子も居るから・・・」

「保護が難しい?」

「動物同士の相性は、眷属になれば無くなるけど、眷属にならないと、動物や魔物の基本は、弱肉強食だから・・・。裏山が広いと言っても、野生動物で考えると・・・。手狭だから・・・」

貴子嬢が言っている内容は理解が出来た。
そして、申し訳なさそうにしている理由も、自分たちで保護しておきながら、ギルドに押し付けようとしていることを気にしているようだ。

「貴子嬢。貴子嬢が言い出さなければ、俺からお願いしていた」

「え?」

「現状の通信技術を使わない連絡方法が欲しいと思えば、貴子嬢たちが使っている眷属間の連絡方法を使うしかない」

「そうですね」

「ギルドとしたら、それだけでも武器になる。貴子嬢が保護している者たちを、俺たちの眷属にすれば、俺たちも新たなスキルが芽生える可能性があるのだよな?」

「はい。あと、完全には無理ですが、私が知っているスキルなら調整は可能だと思います」

「調整か・・・。その話は、ギルドに戻ってからでいいか?」

「はい?」

「貴子さん」

「はい?」

「ギルドに所属して欲しいが無理か?」

「私が?」

「そうだ。ギルドとしては、貴子さんの知識や見識は、有益だと判断している。そして、人柄も信頼に値する」

「・・・。私、スライムですよね?」

「大丈夫だ。戸籍を持っているのだから、人間として登録ができる。あとは、スキルでごまかせばいい」

貴子嬢をギルド職員にするのは、俺も賛成だ。
連絡が常に取れる状況にして欲しい。

そして、真子の側に居て欲しいと思っている。

「・・・」

「それに、ギルドに所属してもらえれば、明かせない情報に触ることができる」

「え?」

「貴子さんを、スライムにした者を見つけることができるとは言わないけど、魔物に関する情報や警察や自衛隊や消防と言った、組織からの情報が齎される可能性が、個人よりは高い」

貴子嬢の表情が変わる。

「そのうえで、対組織になった時に、個人で戦うよりは、ギルドとして戦う事ができる」

「え?」

貴子嬢は驚くが、円香は貴子嬢の最終的な復讐相手は、ギルドの敵だと予測をしている。
そして、真子の復讐相手も同じ組織の人間だろう。

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