【第一章 スライム生活】第二十三話 マスコミ

 

「柚木ちゃん。話を調べてくれた?」

 面倒な奴に見つかってしまった。
 中央に返り咲きたいと常々言っているが、この男がやっているのは、犯罪の”ギリギリ”とかではない、犯罪行為だ。

 それで、中央から飛ばされたのに、こりていない。

「はぁ」

「ほら、柚木ちゃんの知り合いに、ギルドの職員が居るでしょ。彼女にちょっと渡してね」

「無理です」

「そんな事はないよ。頼むよ。ほら、なんとかの、なんとかも、金次第とかいうでしょ?なんとかなるよ」

 茜に、そんなこと買収工作をしたら、私は間違いなく、翌日の朝日は拝めないだろう。茜は、真面目なだけではなく、この手の犯罪が嫌いなのだ。父親の事があるから余計に・・・。

 この人は、本当に苦手だ。気持ちが悪い。ねっとりした視線も何もかもが気持ちが悪い。

「無理です。ご自分の伝手を頼られてはどうですか?山本さん」

「ちっ。使えない女だな。中央に連れて行ってやろうと思う。俺の優しさがわからないのか?あぁ」

「はぁ私は、中央には興味がないので、他の、興味がアリそうな人をお誘いください。次の打ち合わせがありますから、失礼します」

 クズは、どこにでも居る。
 この職場は、クズの割合が多い。山本は筆頭だが、そんな山本に媚を売る上層部も存在している。

 今から、山本が持ってきた企画の打ち合わせだが、正直に言うと”ギリギリ”という表現が使われているが、全体を通して見るとアウトだ。気が重い。上層部がやる気になっているのが、もっと嫌だ。この企画から外して欲しいと願い出ているが、許可が出ない。でも、山本の話を断り続けているから、そろそろ外されるだろう。外されて、仕事を変えてもいいとまで思い始めている。

 え?

『千明。今、大丈夫?』

「少しなら・・・。茜。急にどうしたの?」

『あぁ・・・。会えない?』

「大丈夫だけど・・・。茜は大丈夫?」

『うん。平気。それよりも・・・。え?あっ・・・。千明。今朝の情報番組だけど、千明は関係している?』

 まっすぐな茜だな。思わず笑いそうになってしまった。多分、上司の・・・。あぁ榑谷さんに言われて、私に確認をするために、連絡をしてきたのだろう。

「あれは・・・。あっちょっと待って、場所を帰る。5分くらいしたら、リターンする。私も、茜に聞きたいことがあるの!」

『千明の用事が急いでなければ、今日の夕方とかに会えない?直接、見て欲しい物もある』

「わかった。メールで時間だけ送るから、待ち合わせ場所を教えて」

『ごめんね。急に・・・』

「いいよ。私も、知りたかったから・・・。今朝のニュースね。持ち出せる情報を持っていくよ」

『うん。無理しないでね』

 茜からの電話は、今朝のスクープだろう。
 清水にスライムが現れた。それを、”住民が動画で撮影していた”ことになっている。それだけなら問題は無かった。多分、ない。動画を持ってきたのが、山本だったのが気になるくらいだ。
 しかし、山本の入れ知恵で、スライムを捕獲した人に、懸賞金を出すと言ってしまった。金額は、些細な額だ。魔物は、法律が追いついていない。法務と相談して決定したと言っているが、絶対に違う。

 ”魔物は、野生動物でないので、捕獲を行っても問題ではない”というのが、上層部を説得する時に、使った山本の根拠だ。

 そして、捕まえれば、今まで魔物やスキルを独占してきた”ギルドや自衛隊に、一矢報いることが出来る”というのを聞いて、上層部が納得した。

 マスコミは、危ない橋を渡る必要がある。
 別に否定するつもりはないが、自分自身は安全な場所に居て、住民に情報提供だけではなく、危険な魔物への接触を推奨するような報道は、間違っている。

 朝のニュースが終わって、やはりSNSで炎上した。

 SNSは私が担当だ。住民からの情報は、皆無だ。完全に、ガセだと思われる情報は来ているが、有力な情報は来ていない。
 ギルドは、何かしらの情報を握っている可能性がある。ギルドは、”市”や”行政施設”に設置している監視カメラの情報を取得出来る。山本は、私に違法な方法で、情報を入手しろと言っている。

 なんで、奴のようなクズの為に、私が犯罪に手を染めなければならない。断固として拒否だ。
 そうだ、ギルド絡みだと、今からある会議も関係している。

 会議は、山本の独壇場だった。
 中央から、タレントを引っ張ってきて、富士の樹海でキャンプ?イカれているとしか思えない。そんな企画に、タレントを出す方も出す方だ。最悪のケースが考えられる企画だ。静岡や山梨や岐阜や長野は、魔物の被害が出ている。そのために、危機感が他の県よりは強い。少しだけ離れている場所では、魔物への危機感よりも、スキルへの関心が強い。

 特に、中央に居るクズは、”不老”や”長寿”や”魅了”や”透視”とかクズい使い方が想定されるスキルの情報を欲しがっている。

 スライムを捕まえても、スライムではスキルを得られない。
 魔物に関わる仕事をしている人なら誰でも知っているような話さえも、目の前に座って、偉そうにしている山本は知らない。指摘しても、”そんなのは、ギルドと自衛隊が隠しているだけで、魔物だから、スキルを得られる。ダメだったら、そのときに仕込みを行えばいい”と言い出す始末だ。それは、タレントにスキルを持たせることに繋がるのだが、出来ないとは言わないが、今の情勢では不可能に近い。

 山本の企画は、自衛隊から却下された。富士の樹海は、住民以外の出入りを禁止している。また、近づくことも許可されないと返答が来た。山梨側にも連絡をしたが、色好い返事は貰えなかった。山梨側も、危ない橋を渡りたくないのだ。

 これで諦めてくれたら嬉しいのだけど・・・。

 会議が終わった。何も進展しなかった。山本が諦めるだけで終わるのに・・・。

 上司に連絡を入れて、今日は上がらせてもらう。

 職場を出たところで、茜から連絡が入った。

”千明。いつでも大丈夫。車?”

 茜にコールする。

「茜。こっちも終わった。電車だよ」

『スクランブル交差点にあるカラオケを覚えている?』

「うん」

『里見で入っている』

 カラオケなんて、茜らしくない選択だけど、何か理由があるのかな?
 あそこは、持ち込みが出来たな。

「わかった。何か、買っていく?マックとか?」

『いいよ。ルームサービスで』

「高いよ?」

『経費にする。上司の許可は貰っている』

「え・・・。わかった。急ぐね」

『いいよ。ゆっくりで・・・。待っているね』

「うん!」

 あの感じだと、茜はカラオケに入っている。急ごう。タクシーを使ったほうがいいかな。

 カラオケの受付で、聞いたらすぐに案内してくれた。
 え?最上階?嘘だよね?
 確か、パーティールームで結婚式の2次会とかに使われる部屋だ。この階は、他に部屋が無い。

「茜!」

「千明。久しぶり」

「久しぶり!じゃないよ。なんで、パーティールームなの!バカなの?」

「酷いな。プロジェクターが使えるのが、この部屋だけだったからね」

「それなら、レンタル会議室や、家の会社でも・・・」

「それも考えたけど、上司に”ここ”を進められた」

 上司って、榑谷さん?
 あの人って、異例の経歴を持っていると聞いたけど、いろいろ謎が多い人らしい。日本支部の所属だが、本部の職員だって噂もある。山本のクズが、中央に居るときに、虎の尾を踏んだ。その案件に、榑谷という名前が出ていたのを覚えている。

「え?」

「ここは、防音がしっかりしていて、外に音が漏れない。盗聴の危険があるけど、それは・・・。これで!対応できる。ネットも高速回線が入っているし、VPN接続も可能。食事も出る。ドリンクバーもある。最高でしょ?」

 確かに、秘密の話をするのには向いているのかもしれない。
 最上階なら、ドリンクバーが付いているから、注文しなくていい。食べ物も、最初に頼んでしまえばいい。値段を考えなければ、いい場所だろう。
 たしか、最低2時間で、1時間2万だったと思う。簡単に言うと、10分で出ても4万?そんなに重要な話なの?

 茜。恨むわよ。

「・・・。ねぇ。茜。それは・・・」

「これ?盗聴の装置を調べる奴。ギルドで支給しているアメリカ製の一級品」

 絶句。
 見たところ、確かに言っている通りなのだろうが、絶対にそれだけではない。
 そして、間違いなく日本では販売の許可が出ないものだ。そして、値段も・・・。私の記憶に間違いがなければ、小型車が1-2台買える金額だ。

「・・・。そうね。気にしない方向で考えるわ。それで、今日のニュースの件ね」

「マスコミは、どこまで、あのスライムの情報を掴んでいる?」

 茜らしい。直球の問いかけだ。
 さて、どうしよう・・・。

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