【第三章 復讐の前に】第十話 駒?
ユウキは、新居になる家の前に居た。
鍵はない。電子キーだ。パスワードと生体認証が組み込まれた扉をつけている。
監視カメラも、見つけさせる為のカメラと、隠されているカメラと、スキルで見られない状況になっているカメラを確認している。
玄関に入った。
「そうか、革靴かぁ・・・」
ユウキは、玄関に揃えて置かれていた靴を見ている。
学校には、学校指定の革靴が必要になる。他にも、学校指定とされている物が存在している。
全てとは言わないが、学校の理事の息が掛かった場所からの購入が”推奨”されている。
ユウキが準備したのではない。
ユウキが、学校に通うと聞いて、児童養護施設の先生たちが用意してくれた。金銭的な負担が掛かる為に、購入費用は全てユウキが用意した。
「この安物の靴が、2万とは・・・」
靴を持ち上げて、確認する。
値段は、あらかじめ聞かされている。予備の靴と合わせて二足の購入を行っている。
制服と靴と指定のシャツを購入して、シャツは洗濯を考えて、購入している。ユウキは、バイトで生活をするという建前がある。建前であるのは、すぐに解ってしまうだろうが、建前は必要だと考えている。
学校に通うのに必要になった物は、他にもある。
靴下まで”推奨”の業者が決められていた。
最初は、納得ができないと反発する気持ちも有ったが、最後には見事だと思い始めてしまった。
玄関から、応接室に入って、ポストに入っていた手紙を開封する。
学校から通知された物だ。
鼻薬を嗅がせたのがよかったようだ。自宅を割り出して、”お願いをした”だけのことはある。
学校から、バイク通学の許可証が届いた。
通学で使うバイクを登録して、駐車場代を払うようだ。
まだ、バイクは届いていないが、ナンバーの取得は終わっている。免許は、まだ取得ができていない。入学式前には受けに行って取得予定だ。許可証の提出は、後日でも問題はないようだ。
バイクの置き場所は、教師が使う駐輪場を使うように指示されている。
駐輪場は、4月分から賃料が発生するらしい。
丁寧に、許可書の書類には、振込先を黒塗りして、別の振込先が書かれていた。書類には、申請を許可する教諭の個人の口座が書かれていた。
「(ははは。愚かだな)」
ユウキは、スキルを発動して、黒塗りされていた部分を修正した。
元々の振込先がわかったことで、金額の確認をする。通常の3倍をユウキに振り込ませるつもりのようだ。
「(さて、森田さんよりは・・・)」
ユウキは、書類をスマホで撮影してから、今川に送付した。
『ユウキ!』
「あっ!今川さん。早いですね」
『なんだ、あれは?』
「え?ネタです」
『ネタなのは明かるけど、こっちに来られるか?』
「拠点ですか?」
『そうだ。俺も、20分くらいで拠点に着く』
「そうだ。森田さんは?」
『一緒だ。お前に渡すバイクを運んでいる』
「それは、丁度良かった」
『書類を持ってきてくれ』
「わかりました」
ユウキは、壁のグランドファーザークロックを確認する。
20分は、時間的には微妙だ。
荷物をまとめて、家を出て、ロックをする。
裏には、浜に繋がる道がある。遊歩道と言えばいいのか解らないが、ユウキの家の一部で私有地だ。
遊歩道を含む、500平米がユウキの家の土地になる。
元々は、マンションが建築予定だったが、少しまえの台風で計画が頓挫したのを、ユウキたちが買い取った形だ。
家は、ほぼ新築の4SLDKだが、敷地の殆どが庭になっている。庭が広い。家の裏には、3台の車が停められる場所がある。それとは別に、駐輪場が確保されている。1人で住むには贅沢な広さだ。
浜に繋がる道は、松が視線を遮り、私有地で人が入ってこない。
浜は、購入が出来なかったが、外れの位置にあり、人が来ることはない。富士山が見えないことや、波が立っているために、消波ブロックがある為に、景観もよくない。桟橋がある場所までは、歩いて5分くらいだ。
ユウキは、周りを確認してから、スキルを発動する。
拠点の自分の部屋だ。
部屋に備え付けているボタンを押下する。
これで、ユウキが拠点の執務室に居ると皆が解るようになる。
ドアがノックされる。
「ユウキ!」
ドアのノックとほぼ同時に、ドアが開けられて、人が飛び込んできた。
「マリウスか?珍しいな。ヴィルマは?」
「お!元気だぞ?今川さんと、森田さんが来ている。それよりも!あのバイク!かっこいいな!俺にも」
「そういえば、マリウスたちは、免許の取得はできるのか?」
「できるぞ?国籍取得の申請を出している。馬込さんの話では、近々受理されるらしいから、そうしたら免許の取得もできる」
「欲しがるのは、マリウスだけじゃないだろう?」
「ん?レイヤとリチャードとフェルテとエリクとモデスタは、確実だな。原付?は、ロレッタやサンドラやイスベルが欲しがっていた」
「わかった。わかった。何がいいか決めておいてくれ。まとまったら、ヒナが森田さんに注文できるようにしておく」
「サンクス」
開いたドアを、ノックする音で、誰かが訪問してきたことを感じたユウキがドアを見ると、その森田をヒナが案内してきた。
後ろには、今川が続いていた。
ユウキと今川の話は長くなるので、先に森田が話を切り出す。
「ユウキ」
森田は、電子キーを投げる。
「鍵ですか?」
「あぁ電子キーに変更した。エンジンスターターも付けた。他も、要望通りにした」
「ありがとうございます」
ユウキは、簡単に説明を受けた。
あとは、現物を見ながら説明すると言って、森田は部屋を出て行った。ヒナとマリウスも一緒に森田の後に続いた。
「今川さん。座ってください」
「あぁさっそくだが、送られてきた書類の原本はあるか?」
ユウキは、書類ケースから今川に送った書類を取り出す。
他にも、学校に関連する書類を全部持ってきている。今川に見てもらおうと思ったからだ。
「持ってきています」
「見事に、横領だな」
「だと思います。ここまでだとは思っていませんでした」
「それでどうする?」
「今、訴えるメリットが少ないですよね?」
「メリット?この教師を・・・。あぁそうか、蜥蜴の尻尾なんて欲しくないってことか?」
「はい」
今川は、何を考え始める。
ペンを指の間に挟んで、上下に動かし始める。徐々にペンの動きが早くなり、指の間でダンスをするようにペンが踊り始める。
少しの間。
ユウキは、ペンのダンスを眺めていた。
ペンのダンスが止まった。
「ユウキ。金はあるよな?」
「ありますよ。億に届く程度なら・・・。すぐに動かせます」
「そんなにいらない。駐輪場の料金と、教師への振込を行えるか?」
「いいですよ。処理しているのは、俺じゃないですけど・・・」
「誰だ?」
「馬込さんです。正式には、馬込さんが依頼している弁護士です」
「そうか、わかった。ユウキから話をしておいてくれ」
「わかりました」
「俺は、この書類の真偽と、この教諭に取材を申し込む」
「ははは。わかりました。学校側へのアプローチは?」
「この程度では、意味が無いだろう?ユウキも学校の内部に、駒が欲しいだろう?」
「ありがとうございます」
書類は、コピーを今川に渡して、原本はユウキが管理して、馬込に渡すことに決まった。
その後、狙いを定めた教諭の情報を受け取った今川は、ユウキに一言だけ告げてから立ち上がった。
「やりすぎるなよ」
「相手次第です」
「そうだな」
今川は解っている。
ユウキたちが、人を殺すことに躊躇しないことを・・・。そして、実際に殺したことがあることも解っている。
最初は、怖いと感じていたが、ユウキたちと触れ合って、どこにでもいるとは言い難いが、よくいる”青年”だと感じている。
森田から聞いたバイクの改造も、よくある”最強のバイク”だと思えてしまう。
法律に抵触しなければ、なんでもやるだろう。
それだけではない。ユウキたちは、不思議なスキルと呼ばれている力がある。スキルを使えば、だれにも気が付かれずに、人を殺すことも出来てしまう。今川だけではなく、ユウキたちと付き合いがある者たちは、ユウキたちが無暗に人を殺すという短絡的な行動にでるとは思っていない。だからこそ、スキルは秘匿されるべきだと考えている。
その役目は、自分たち大人だと思っているのだ。
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