【第四章 連合軍】第十八話 【連合国】バチョウと仲間たち
戦場になった場所には、うめき声を上げる連合国の兵士たちが居る。
五体満足で立っているのは、バチョウだけだ。
そのバチョウも、着ている防具は、兵士たちの返り血で赤黒くなっている。
しかし、防具に武器やスキルでつけられた傷は存在しない。
「バチョウ様!」
先頭でバチョウに近づいてきた、狼人族の青年が代表してバチョウの前で頭を下げる。他の者も、一緒に頭を下げるが2歩ほど後ろに下がっている。
「丁度よかった」
バチョウは、狼人と猫人に、笑いかける。
返り血で汚れていなければ、美丈夫な佇まいなのだが、返り血が赤黒くなり、恐ろしさを醸し出している。その状態で、笑っているので、獰猛な”何か”が目の前で自分を狙っているのではないかと錯覚してしまう。獣人族は、力の上下にははっきりと序列をつけている。バチョウが恐ろしくも、頼もしい存在であると認識を強めた。
「はい。戦場の後始末に来ました。後から、200名ほどが駆けつけます」
「そうか。後詰ではないのだな?」
「はい。後詰は必要ないとカエデ様から連絡が入りました」
「そうか?向こうはうまく行っているのだな?」
「はい。ご報告を致しましょうか?」
「いや。必要ない。俺は・・・。いや、俺たちは、俺たちの役割を全うしよう」
「はい!」
バチョウの指示で、狼人と猫人が戦場で倒れている連合国の兵士たちを仕分けしていく、魔王から選別用のスキルがついた道具を与えられた者たちだ。元奴隷で、第二陣に当たる者たちだ。”看破”が付与されたアイテムで、兵士たちを選別していく、魔王が作ったアイテムで、量産がおこなわれている。捕虜を尋問する時に利用する。獣人族でも、無条件では受け入れていない。選別で最低限の事柄のチェックがおこなわれる。そのあと、城塞村に移送されてから、カプレカ島で入島チェックがおこなわれて、入島が叶えば治療がおこなわれる。
魔王カミドネが管理している場所にある獣人族の集落から引き取り手が現れれば、その時点で引き渡しがおこなわれている。
今回も、獣人族が1,000名単位で従軍していた。
奴隷紋が判明した者は、バチョウも気絶させるだけに留めているが、戦闘中なので、手加減が難しい場合もあり、かなりの者が身体の欠損状態になっている。魔王からは、獣人族を助けるために、バチョウや仲間が傷つくのは容認できないと宣言が出ている。バチョウも、殺さなければなんとかなると解っているために、戦闘力を奪う方に注力していた。
戦場の後始末を、後方に来ていた者たちに任せたバチョウは、返り血を流し終わって着替えをした状態で、連合国の方をにらみつけている。
「バチョウ様。捕虜の移送が終了しました」
「そうか」
「どうされましたか?」
「ん?ロキとキサか?他の者は?」
「皆、揃っています」
そこには、狼人族と猫人族の6名が跪いている。皆が元奴隷の青年だ。
この6名は、バチョウが鍛えている者で、今回もバチョウが苦戦するようなことが有れば、助力のために控えていた。バチョウの戦闘力は認識していて万が一は無いと解っている。しかし、数で押された場合に、包囲されて同時に攻撃をされた場合に、倒されるようなことはなくても、怪我をしてしまうことが考えられた。包囲された場合に、バチョウの周りで支援ができるように訓練された者たちだ。
「魔王様からの指示は?」
バチョウは、まっすぐに連合国が逃げた方角を見ながら問いかけた。
「ルブラン様からは、連合軍の撃退が終了したら、”自由に動け”と指示を受けております」
ニヤリと笑うバチョウ。
ロキとキサは、ルブランにしか謁見が出来ない。魔王への謁見は許可されていない。
「ロキ。キサ。貴様たちへの指示は?」
代表してロキがバチョウの質問に答える。
「”バチョウ様に従え”との事です」
バチョウは、ルブランから話を聞いていて、了承していたのだが、魔王ルブランとして、魔王からの指示をバチョウに許可を出した。
「よし!魔王討伐と行くか!連合国のトップであるエルプレの魔王は、カエデたちに任せるとして、俺たちは他の国が囲っている軟弱な魔王を討伐するぞ」
「え?」
「なんだ?嫌なのか?」
「いえ、作戦を聞いていなくて・・・」
「大丈夫だ。魔王様の許可は取っている。従属を申し出てきた魔王以外は討伐してしまえと言われている」
「「「「「「はっ」」」」」」
もともと、狼人も猫人も好戦的な面を持ち合わせている。
バチョウの訓練を受けていることから、攻撃に特化している面もあり、攻略に参加するのは、望むところだ。
そして、皆の想いは一つだ。
【魔王は魔王様、お一人だけだ】
一人の魔王による支配が、元奴隷だった者たちの考えであり信念になっている。魔王様による統一が、魔王城に居住できる者たちの共通の目的になっている。当の魔王は、統一なんて考えていない。できるとも思っていない。
—
ナツメとキア
カエデとロアとシア
別々に行動を行っている。
逃げる連合国に混じって、連合国内に潜入を成功させている。
バチョウが暴れる事が解っていたので、連合軍が恐慌状態になることは既定路線だった。5名は、早めの撤退に紛れ込んでいた。
「キア。バチョウの様子は?」
「すごく楽しそうだと・・・」
「ははは。そうだろうな」
ナツメとキアは雑談をしているが、敗軍と一緒に敗走している最中だ。最低限の声量で会話をしている。周りから奇異に思われないように、適度に防具を汚している。キアが抵抗したが、ナツメが上位者として指示を出した。
実際には、魔王から下賜された武器や防具ではなく、連合国軍から奪った武器と防具を身に着けている。
「カエデは?」
「別で行動をしています。エルプレで合流予定です」
「わかった。暫くは、このままだな」
「・・・。はい」
キアも連合軍の環境が劣悪だと考えてる。実際には、敗軍と考えれば、環境は悪くないのだが、カプレカ島と比較してしまっている。
—
「ロア。シア。状況は?」
「オールグリーン」「問題なし」
カエデと一緒に行動しているのは、ロアとシアだ。
3人は、敗軍と一緒に行動しているナツメとキアと違って、商人を装って連合国に入ることにしている。
商人の装いも、王国との取引をしていた行商人から買い付けている。
連合国の軍に突撃をして、蹴散らした。
3人は、バチョウが暴れ始めたタイミングで戦場を離脱して、商人に偽装した者たちと合流した。
商人部隊は、エルプレ国にあるダンジョンにアタックするために、カエデとナツメとロアとキアとシアの装備と補給物資を持ってきている。
3人と商人に扮した者たちは、エルプレに向けて移動を開始した。
3人にナツメとキアを加えた5人がダンジョンの攻略を行う。
その間に、商人に扮している者たちが、エルプレで破壊工作を行うことになっている。
破壊工作を行うのは、ダンジョンの支配領域になっているのが、どの辺りなのか把握する為だ。
魔王の推測では、エルプレの支配領域は広くないと予測していた。新生ギルドが把握していない可能性もあるのだが、ボイドから流れてきた情報を分析した結果。エルプレは、ダンジョンマスターを拘束しているように感じている。その為に、ダンジョンマスターである魔王は、支配領域を広げるのではなく、スキルスクロールなどをエルプレに提供して延命を計っている可能性が高い。
連合国の他の国でも、同じようにダンジョンを支配している国があるという分析結果が出ている。そちらは、後日に回すことになっているのだが、実際には自分の役割が終わったバチョウが配下の者を引き連れて、ダンジョン討伐に乗り出してしまっている。
魔王からは、ダンジョンの支配は考えなくてよいと言われている。
人間と共存するにしても、いいように使われているような連中なら、自分よりも強大な敵が出てきたときに寝返る可能性があると考えている。
誰か一人くらいは、自分から従属を申し出る者が居る可能性を考えている。最初の一人を直接従属にして、その者に連合国内の魔王たちを統率させようと考えている。
魔王ルブランをトップに置いた魔王のピラミッド構造の構築を考えている。
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