【序章】第三話 第495代目当主

 

 読んだ。
 理解できたかは、不明だが、読んだ。

 部屋の中心で、テーブルの上に置いた紅茶を飲みながら、考えをまとめている。

 あの本・・・。
 本当に悪意しか感じなかったが、大事なことが書かれていた。途中でチュートリアルのような物まで書かれていた。

 チュートリアルをいきなり実行しようと思って、踏みとどまった。次のページを見たら、実行したら失敗すると書かれている。3ページほど進んだら、”実行の注意点”が書かれていた。人を馬鹿にしたような作りだが、しっかりと読み込んで考えれば、”クセ”のような物がわかる。

 ページに”実行してみよう”や”やってみて”と書かれていなければ絶対に実行しないほうがいい。それがどんなに魅力的なことでも、実行までのプロセスや注意点があったり、”絶対に実行しないように”と書かれていたりする。
 第490代目当主が、”性奴隷”の項目で失敗している記述が有った。490代目当主としては魅力的な提案だったのだろう。それを実行して、出てきた”性奴隷”にあれを食いちぎられて死んだ。説明には、他人の”性奴隷”を召喚するので、間違っても実行しないようにと書かれていた。

 しかし、よく解った。
 プレシアには、魔法もスキルも存在する。種族も、獣人やドワーフやエルフが存在して、人族も居る。そして、それらのハーフも存在している。ジョブと呼ばれる物もあり、ステータスも存在している。魔法は、スキルの一種だと説明されていた。そして人族や獣人やドワーフやエルフや他の種族を合わせて、人類と呼ばれている。魔物も存在している。獣も存在している。魔物と獣の違いは、魔核で判断できる。魔核が存在しているのが、魔物で、存在していないのが獣だ。

 だが、俺が使えるスキルは一つだけ、”ハウス”というスキルだ。
 これが未だに意味がわからない。使い方もわからない。なんでもできるが、何もできそうにない。

 俺が当主になった、ハウス6174に名前を付ける事から始まった。

 名前をつけろと言われても、急には思いつかない。パソコンがあれば適当に調べて・・・。ハウス6174で、俺が495代目。
 うーん。うーん。思い出せ!うなれ、俺の脳細胞!

 あっ!
 カプレカ!カプレカ数。気になって、計算してみたら、間違い無さそうだ。前に読んだラノベで出てきた数字だ。

 大切な事は、マンガとアニメとラノベが教えてくれる。

 ハウスの名前は、『カプレカ』にしよう。何か、まずかったら・・・。考えないようにしよう。

”スキル起動 ハウス6174”

 おぉぉぉぉぉぉぉぉ
 異世界に来たのを実感できる。目の前に、ARで見るような画面が広がる。
 マニュアルに、名前を決めてから起動するように書かれていたから、名前を決めてからやって正解だ。30秒以内に決めないと、下記からハウスの名前が選ばれると書かれていた。下記の名前が酷い。この世界で禁止用語になっているのか知らないけど、一番まともなやつで、『こかんがかゆい』だ。これから、死ぬまで付き合う場所の名前としては酷すぎる。これで、”一番まし”だと思えるのだ。酷いのだと・・・(以下、略)モザイクが必要だな。

 出ているテキストボックスに”カプレカ”と入力して確定を選択する。
 名前を確定させると、スキルが再起動する。

 次は、ポイントを確認する方法が書かれている。しかし、”方法”が書かれているだけなので、実行はまだ先にしたほうがいい。
 読み込んで、”ポイントを確認して”と書かれるまで、しっかりと読んで覚える。

”スキル起動 ハウス6174”

 え?表示・・・。あっそうか、ハウスに名前を着けたら、その名前でしか表示されない。

”スキル起動 カプレカ”

 名前を入力する画面は表示されない。
 ポイントを確認する前に、”個人情報の登録を行え”と書かれていたので、個人情報の登録を行う。スキル画面(スキル起動で出てくる表示を、スキル画面と呼べと書かれていた)に手を添える。手の平に軽い痛みを感じた。スキル画面にOKが出るまで手は動かさない。5秒ほど経過してから、今度は手のひらに暖かさを感じた。スキル画面に”OK”と表示が出たので、手を離す。
 画面には、”個人認証・終了”と書かれている。本には、次から、本に手を触れるだけで、スキルが起動すると書かれていた。

 本に手を置く。
 本当に、スキルが起動した。そして、スキル画面には、本に説明が有ったように、”本を自動でスキルに取り込みます”と出てきた。これは、任意と書かれていたが、実行すると、俺が今まで読んだ本の内容が、索引と目次が付いてスキルに統合されるようだ。やらない理由はない。本を一度は読まなければならないが、読んだ内容を確認するには楽ができる。特に、先代たちの日記は読み返す必要がある。検索もできるようになるのはありがたい。だから、目次も索引に存在していなかったのだ。

 個人認証ができるようになって、やっとポイントの確認ができる。

 個人認証を行わないで、ポイントの閲覧を行うと、ポイントの抹消が発生する。らしい。

”ポイント確認”

 え?は?馬鹿なの?
 ポイントの残数が、3,912,657,840となっている。約40億?なにができるのかわからないけど、これが”10,000(初期値)”になると考えたら、個人認証をしなかった先代たちは・・・。

 ここから、本は1万のポイントを使って、ハウス(カプレカ)を拡張する方法や、服や食べ物や飲み物だけではなく、いろいろな物の召喚方法が書かれていた。召喚になると、試す方法だけ書かれていて、実際に”実行しなさい”などの言葉がなくなった。簡単に言えば、物資の召喚は、ポイントを使って、俺の居た世界(地球)から取り寄せる方法だ。ポイント(1ポイント)=通貨(10円)だと説明されていた。通貨の基準が、俺が住んでいた場所になっている。この世界の物資も取り寄せることができるが、俺が認識できていないから今は無理なのかもしれない。選択肢が出ていない。説明にも、選択肢が出ていないのが当然のような記述がある。

 カプレカの拡張は、まずは部屋の拡張を行う。
 しかし、拡張の前にやらなければならないことがあった。部屋の初期化だ。これも、手順に従っていれば、問題はない。
 本来ならポイントを消費するらしいが、本に従っていれば、初回に限っては、0ポイントでの初期化が可能になり、現在の部屋が、カプレカに権利が移譲される。これをやらないと、大変なことになってしまうと書かれていた。

 次に行うのは、”トイレを作る”ことだ。扉を付けて、部屋を作って、トイレを作るようにと、説明がされている。説明どおりに、ポイントをつかって部屋に扉を作って、トイレを配置する。所謂、”ぼっとんトイレ”だ。ポイントが余っているから、上位の高級シャワートイレの設置も可能かもしれないが、最初は”本”にかかれている通りに進める。トイレの設置に必要になったポイントは、合計で1,000と表示されている。本に載っている通りだ。

 次は、キッチンの設置が書かれている。
 魔法道具の設置を行うようになっているので、今の所は指示に従う。今後、カスタマイズが可能なことは、本にも明記されている。キッチンは流石に高かった、4,000ポイント必要だった。10,000ポイントだと思うと、もう1/2を使った計算になる。水が出て、排水されて、1口のコンロがあるだけの簡単なキッチンだ。
 服や、家具を、取り寄せていたら、もっと少なくなっているだろう。

 俺の姿は、ベッドに使われていたシーツを身体に巻いているだけだ。でも、全裸で無いだけで、気分が違う。

 本も半ばに差し掛かった。

 本に書かれていた最後の指示を実行したのが、2日前。

 明日になれば、俺が当主になってから、丁度・・・。7日目。

 ポイントを盛大に使って、俺の安全を確保した。本当に、安全になったのかわからない。先代たちの知恵を見ても、時代ごとで方法が違っている。直近の者達は参考にならない。長くても、2年。短いと(極端な例を除いて)1ヶ月程度で討伐されている。2年ほど生き延びている者も、見逃されている感じがするだけで、実際には数ヶ月で討伐されている者とそれほど大きな違いはない。
 やり方が根本的に間違っているようにしか思えなかった。

 膨大な(494代が溜めたポイントらしい)ポイントを使って、堅牢なハウスカプレカを作ると決めた。

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