【第二十一章 密談】第二百十六話

 

平和は長続きしない。
そう思っていた・・・。

実際に、今までは呪われているかのように事件が発生した。
そういう事だと諦めていたのだが、実際に暇になってしまうと、寂しくも思えてしまう。

「ご主人様」
「どうした?」

ホームでゲームを楽しんでいると、珍しくリーリアが話しかけてきた。
少し神妙な雰囲気なのが気になってしまう。

「ご主人様・・・」
「どうした?」

本当に何か有ったようだ。
コントローラーをシロにあずけて、リーリアと一緒に応接室に移動する。

「リーリア。何があった?」
「はい。まだ確認中なのですが・・・」

「あぁ」
「大陸が一つ新種にやられました」
「どういう事だ?」
「はい。チアル大陸と中央大陸を挟んだ反対側にある大陸なのですが、人種は殆ど住んでいません」
「そう聞いた。でも、エントやドリュアスやリザードマンなどの意識ある者たちが住んでいるのだろう?」
「はい。ゼーウ街にいました、メイドドリュアスに接触してきたようです」
「接触?なにか要望でもあったのか?」
「はい・・・。それがです・・が・・・」
「なんだよ。歯切れが悪いな。遠慮するなよ」
「ありがとうございます。ご主人様。その、イチの大陸と呼ばれていたのですが、その大陸の者たちが、チアル大陸への移住を求めています」
「移住?」
「はい」

「移住は・・・。そうか、移住は問題ないとしても移動手段が無いのだな」
「そうです。エントやドリュアスはなんとかなるかも知れませんが、他にもいろいろな魔物種がいるようです」

そう言えば、湿地帯のリザードマンたちは受け入れられているよな?
チアル大陸なら問題は少ないか?

ダンジョンの中でも魔素をなくす事もできるからな。
そうなると、万が一の事を考えると、チアルダンジョンかな・・・。

決めた!

「受け入れは、ロックハンドに階層を増やして行おう。エントやドリュアスは魔の森でいいだろう?」

スーンの眷属になるわけではないので、俺の手足となって働いてもらうよりも、魔の森の管理をしてもらったほうがいいかも知れない。他の種族は、種族特性に合わせた場所や環境を作って住まわせたほうがいいだろう。

オリヴィエを呼び出して、大まかに考えた設定と条件を伝えた。
二人ともそれで問題ないという事だ。

時間的に考えると、やはり新種は同時にすべての大陸を襲ったのかも知れない。
襲われた大陸が壊滅した。そして、生き残りが逃げるだけの時間にはこのくらい必要なのだろう。

「それでリーリア。魔物種はまだ大陸に残っているのか?」
「そのようです。一部は、中央大陸の森に移動したようですが、連絡は途絶えているという事です」
「人数は?」

人数というのもおかしな感じだけど、的確な表現がないので、人数と表現しておく。

「伝えてきた者の言っている事を信じれば、最大で1万。最小では、中央大陸に移動した1、500だという事です」

1万体はすごいけどダンジョン内なら住めるだろう。問題は、種族の数だよな。

「わかった。オリヴィエ。リーリア。救出作成を開始する」
「は」「かしこまりました」

作戦は簡単にはできなかった。
龍族を派遣して、ピストン輸送しようかと思ったけど、流石に目立つ上に魔物種を特別扱いしているのかと余計な疑惑を持たれてしまう。

今回の件は、ルートガーや元老院を巻き込むわけには行かない。
そういう事で・・・。

「スーン。どう思う?」
「旦那様。正直に申してよろしいのですか?」
「うん」
「無視されるべきだと思います。リーリアも、旦那様にお伺いを立てるまでもなく黙殺すべきです。旦那様を危険に晒すなど有ってはならない事です。そもそも・・・」

スーンの説教が俺を飛び越して、リーリアとオリヴィエに飛び火した。
もともとこんなキャラクターではなかったのだが、いろいろ思うところが有ったのだろう。

「スーン。すまない。今回の事は、俺が決めた事だ」
「旦那様・・・。どうしても救済なさいますか?」
「悪いな。魔物種を救済したいと考えている。それに、魔の森の管理を魔物種にやってもらいたい」
「わかりました。リーリア。オリヴィエ。後でゆっくりとお話をしましょう。旦那様。今回の件は、ルートガー殿や元老院には?」
「言っていない」
「さすがに、事情くらいは説明しないと問題になるでしょうから、私とリーリアとオリヴィエでルートガー殿と元老院にはお伝えいたします」
「そう?それじゃ頼むね。それで、どうしたらいい?」

少しだけスーンは考えてから
「旦那様。シャイベ殿かティリノ殿にダンジョンを作ってもらう事はできないのですか?」
「・・・。中央大陸にダンジョンを作るという事か?」
「はい。場当たりな対処になってしまうかも知れませんが、中央大陸のどこかに旦那様が管理できるダンジョンを作って、そこからロックハンドに転移門を設置すればよろしいかと思います。旦那様の事ですから、転移の時に微妙にずれる現象は解決済みでしょう?」

スーンが言っているのは指定したイチから微妙にずれる現象が確認されていたことだ。

球体による誤差範囲だと思っている。実際には違うかも知れないが、いきなり遠距離を飛ばない限り問題はない。
それ以前にホームを一度経由すれば誤差なく転移できる事は確認済みだ。

そう考えると、ホームを介する方法しか今回は考えられない。
ダンジョンを複数作って順番に転移させる事もできるのだが、全体的な効率と俺の手間を考えると、一度で済ませたほうがいいかも知れない。俺が管理しているダンジョンには新種は入ってこないというのは仮説未満の希望的観測に基づく考えだ。

仮説の実証実験を行う意味でもちょうどいいのかも知れない。

「それで、どこに作ればいいと思う?」
「ゼーウ街の元スラム街と港街。あとできましたら、森の中に作成すればいいでしょう」

少しだけ安堵の表情を浮かべているリーリアにチアルとシャイベを連れてくるようにお願いする。

「チアル。産まれたばかりのダンジョンコアではダメだろう?」
「最低でも、この前と同じくらいに・・・あっ!」
「どうした?」
「何個か、ダンジョンコアを作って忘れていました」
「作っていた?」
「はい。もうしわけありません」
「それはいいけど、どのくらいだ?」
「すでにダンジョンコアとしては十分育っています」
「わかった。ありがとう。三個使えそうか?」
「はい。問題ありません」

それは僥倖。
ダンジョンを作る所は、ゼーウ街と中央大陸の森の入り口と港街だ。
ゼーウ街と港町はついでに作っておくだけで、本命は中央大陸の入り口に作るダンジョンだ。

「ご主人様」
「ん?」

少し離れた所で、スーンに説教されていたリーリアが戻ってきた。

「今回のダンジョン作成のお役目ですが、私とオリヴィエにまかせていただけないでしょうか?」
「ん?」
「シャイベを伴えば問題なく設置はできると思います。設置されましたら、ご主人様には、ホームからダンジョンの制御を行っていただきたいと思います」
「どうやって移動するつもりだ?」
「はい。それに関しては、スーンからお話いたします」

スーンが一歩前に出て説明と言うか、移動に関しての理由を含めて話しはじめる。

「旦那様。今回は、エントとドリュアスが主体となっていますので、私たちで環境を整える所まで実行したいと思います」
「わかった。それで?」
「はい。ホームからパレスケープに移動しまして、そこから船で移動したいと考えております」
「エリンたちに頼む事もできるぞ?」
「目立ってしまいます。それに、同族が増長してしまったら、旦那様に顔向けできません」
「うーん。わかった。スーンに任せる」
「ありがとうございます」

スーンとオリヴィエとリーリアがその場で作戦というか、手順を考えた。
通常の商隊に混じって移動する。船で中央大陸に渡る事になる。

三名はリヒャルトとも面識があるが、リヒャルトは今回の件からは外す事が決定した。
同じくゼーウ街の関係者も無視させてもらう。

ダンジョンの入り口は、街の中に作る場合には、家を購入して地下を作成してダンジョンを設置する。
森の近くは、洞窟を探して偽装する事に決まった。

スーンとオリヴィエとリーリアにシャイベが一緒に行く事になった。
戦力的には十分すぎる。スキルカードも持たせたので大丈夫だろう。

オリヴィエの代わりができる者が居ないけど、俺がホームに引きこもっているので問題はなさそうだ。
リーリアの代わりに、ステファナとレイニーが頑張ってくれている。

フラビアとリカルダは、カトリナを手伝いにロックハンドの工房に行っている。
報告は受けているから、気にしてもしょうがないと思いつつ、本当に困るようならなにか考える事にしようとは思っている。

スーンたちがダンジョン作成に向ってから一ヶ月が経過した。
予定では、そろそろ連絡が来るころだと考えられる。

「カズトさん」
「ん?お!シャイベが帰ってきたって事は、無事ダンジョンが作られたのか?」

シロの肩に止まってシャイベが休んでいる。戻ってきたようだ。

「シャイベ?」
「マスター。できました。確認お願いします」

RAD を開くと、名前が無いダンジョンが三箇所できている。
入り口だけのようだ。

ゼーウ1~3と名付けた。ゼーウ1が森の中に有った洞窟の奥のダンジョンで、ゼーウ2が元スラム街。ゼーウ3が港町になる。
用事が終われば閉じてしまうかもしれないダンジョンに名前を考えるのが面倒になってしまっただけだが、忘れないようにするにも良かったのかも知れない。

ゼーウ街と港町のダンジョンは、1階層だけにしてダンジョンの領域で街全体を覆うようにした。
セキュリティもしっかり設定しておく、パーミッション設定で俺の関係者のロールだけが認証されるようにした。

ロールでの適用ができるようになって、大分セキュリティの管理が楽になった。正確な言い方をすると、抜けがなくなってチェックが楽になったというべきなのかも知れない。

ゼーウ2と3のダンジョンは、俺の身内しか入る事ができない。
ホームに移動するためだけのダンジョンになっている。他のダンジョンと同じ様に、小部屋を作って転移門だけを置いている。
もちろん、魔物は出ないようになっている。要望も何も聞いていないし、今後も聞くつもりは無いのだが、ダンジョンを作って支配領域にした事で、新種の魔物が出てこないようなら、中央大陸に安全地帯ができた事になる。
新種に関しては、情報も揃っていないので、少しでもいいから手がかりが欲しいと思っている。

ゼーウ1のダンジョンは、エントやドリュアスをホーム経由でロックハンドに移動させる事が目的になっている。
誰でも通れるようにはしていない。スーンには手間だろうが、許可証を発行させるようにしている。

そして、中央大陸で魔物種を誘導する役目は、スーンが行う事になった。眷属を連れて、中央大陸と滅ぼされた大陸を周ってくる事になった。受け入れは、ロックハンドのダンジョンに新しい階層を追加した。一部は、魔の森に散ってもらう事になる。
協力を申し出てきた者に関しては適正を見てから、カトリナの所で働いてもらう事になりそうだ。

受け入れ側は、執事エントメイドドリュアスが順番に担当する事になった。

「マスター」

オリヴィエとリーリアが帰ってきた。
やはり、二人が居ないとホームがしまらない。

「どうした?」
「移住組からご挨拶がしたいという申し出ですが?」
「面倒だな」
「そうおっしゃるかと思いました。代替え案として、奥様に出てもらうのはどうでしょうか?」
「シロにか?」
「はい。奥様にお伺いしたら、問題ないというお返事をいただきました」
「オリヴィエ。お前、ルートガーに似てきていないか?」
「なんのことでしょうか?」
「わかった。俺が出ればいいのだろう?」
「はい。ロックハンドに作られました新しい階層で偉そうにしていていただければ十分です。格付けは終わっていますので、各種族の代表にだけ挨拶させます」

オリヴィエの要望に了承した。
シロを出すよりはマシだろうと思う事にした。

ロックハンドには、すでに数種類の魔物が移住を開始している。
魔素を弱くした環境の方が良いという事だったので、ロックハンドの新しい階層は、魔素が弱くなっているし魔物もポップしない。

エントとドリュアスは、光と水があれば十分という事だった。
他の魔物も元いた環境になるべく合わせる様にした。

狩場にする階層を一つ追加して用意した。食用の魔物がポップする場所と果物や森のめぐみを期待できる場所を作った。
鉱石を食べる魔物も居たので、要望通りに鉱石が採掘できる場所も作った。

現状で、オリヴィエが言うにはほぼすべての種族が移住をしていて、これ以上は種族が増える事はなさそうだ。新しく環境を作る必要が無いという事になる。
代表が俺の前にひざまずいたり、服従のポーズをしている。

オリヴィエとリーリアが口上を述べて、種族の代表が一言二言話して、俺が聞いているだけで、謁見と言うか魔物種との会合は終わった。

どうやら、見積もりが甘かった事も判明した。
全部で2-3万体は集まりそうな雰囲気があると言われた。階層を広げるよりも、階層を追加して管理するほうが、融通や状況対応ができそうだったので、3階層ほど追加した。

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