【第二十一章 密談】第二百十五話

 

住居の問題と酒精の問題とミュルダの特産問題が片付いた。
片付いたのは良かったのだが、この事がミュルダ以外の場所から苦情が届いた。

当然だが、無視させてもらった。
いちいち答えていられないのが原因だが、それ以上にダンジョンを作って、そこの環境を整えたのだからもういいだろう?
俺は、そう思っていたのだがどうやら代官は違った意見を持っていたようだ。

いちいち特産物なんか作っていられない。
それに、SAやPAはもともと休憩場所以上には考えていない場所なのだ。それが、周りの集落が集まってきたりして、街の様になってしまった場所が多く居なっているだけなのだ。

それで、俺は何をしているのかというと、各SAやPAや道の駅からの要望に答える簡単な方法を思いついてしまったのだ。

「シロ。それで、調整は上手く言っているのだな?」
「はい。問題は無いです」

シロとフラビアとリカルダが調整を行っていた、モンスターをハントする実写版ゲームを名産が無い各ダンジョンに配置する事に決めた。
本来ならマップを無制限に作ってオープンフィールドのようにして遊べるようにしようかと思ったが、ホームの中だけにして、各ダンジョンに配置するのは一つの地形だけにする。
ボス級のモンスターも一体だけにして、各ダンジョンの特色にする。
モンスターを出すためのスキル道具を作って、一ヶ月単位でランダムに変更するようにした。
モンスターたちが出る階層はゲームで使うアバターと眷属蟻・蜘蛛・蜂しか入られない。

素材は、管理している区に渡される形にした。もちろん、眷属たちが持っていく事になるのだが、大事な部分市場に流せないはこの時点で抜き取っている。その素材をアバターの操作をした者とどういう風に分けるのかは、管理している区に一任される事になる。

このモンスターをハントするゲームは、商人たちが喜んだ。
職人たちが新しい素材が得られると喜んだ。

ただし、一度にできる人数が限られているので、予約制になる事が決定した。
そして、モンスターの種類は完全なランダムになっているので、当たりの時期やハズレの時期が存在する。モンスターの強さの調整はできない事になっている。フラビアとリカルダとシロが調整して勝率が5割り程度になるようになっている。
初見ではほぼ倒せないだろうという事だ。
雑魚に関しては、負ける事は無いが、雑魚で体力が削られていると、ボス戦に突入してもほぼ勝てる見込みは無い。

次に予測される部分を、開発部(笑)では調整を行っている。
今日は、その確認とリリース時期の調整にやってきた。

「ツクモ様。言われた通りの物を作りましたが必要なのですか?」
「すぐには必要ないけど、遊ぶ人が増えてきたら、必要に・・・って、要望が上がってくると思うよ?」
「わかりました。調整は、奥様がおっしゃっている通りに問題ありません」
「そうか、見せて」
「はい」

フラビアが、レベル3の魔核が組み込まれているカードを取り出した。
アバターや武器は戦歴が記憶されている物だ。

これを読み込ませると、アバターの姿形が変更する。
その上で、使い慣れた武器や防具を使う事ができるのだ。

自分ではすごく頑張ったと思う。今はまだ参加者が少ないから、アバターの変更はそれほど需要が無いかも知れないが、増えてきたりしたら必要になってくるだろう。それだけではなく、戦歴は素材の分配の時に参考にする機能なので、実装の依頼が来ている。

「問題はなさそうだな」
「はい。でも、よろしいのですか?」
「何が?」
「男性でも女性の姿になれたり、獣人が人族やドワーフやエルフになれてしまいます」
「やってみてどうだった?」
「すごく参考になりました」
「だろう?スキルは、初級だけしか使えない?」
「はい」

この世界の種族間の差はそれほど大きくない。努力で埋められる程度の差になっている。
そのために、ゲーム内では差が出るようにした。人族はオールマイティだが全部が一番にはなれない。獣人族はそれぞれの特色に合わせたパラメータがずば抜けているが、魔力に関しての適正は低い。ドワーフは、力が強い上に魔法も少しは使えるが他のパラメータが壊滅的に悪い。エルフは魔法に対する適正は高いし敏捷性が高くなっているが、力や体力が低い。
俺のイメージでパラメータを調整してもらった。

結果、ソロでプレイするときには、オールマイティがいいのだが、パーティーを組むと考えると獣人族を入れたり、ドワーフやエルフを混ぜるなどの対応が必要になってくる。

モンスターをハントするゲームを、各ダンジョンに配置するのにはいろいろな目的がある。

まずは、人の動きを活発にする事。
これは、ダンジョン内にできた新しい素材入手方法を皆が利用する事で、時間の経過とともに浸透していく事が期待できる。
情報の伝達に難があるが、それがまた楽しそうだ。モンスターは1ヶ月で入れ替わる事を宣言している。
したがって情報を得てから動き出したのでは間に合わない可能性が高い。それなら、とどまっていればいいのかと言えばそうではない。情報を得るためにはある程度のスキルカードが必要になる。その事からも、スキルカードは情報の対価として動く事が予測できる。
その上で商隊も上手く立ち回らなければならない。素材は美味しいかも知れないが、それを追っかけ回してもいいことは無いだろう。契約する冒険者?を確保して戦わせる事で対応するかも知れない。

ダンジョンの特色を出す。
半分は成功したと言える。モンスターをハントするゲームが配置されている場所は公表されている。
また、各ダンジョンのフィールドも公表されている。モンスターによっては絶対に出現しないフィールドや出やすいフィールドが存在する。これらがダンジョンの個性となる。その上で、代官に裁量が任される部分が特色となる。

細かい狙いは他にもあるが概ねこの2点が上手く行けば良いと思っている。
報告書を眺めているだけだが、概ね問題はなさそうだ。

「大丈夫のようだな」
「そうですね。もう少し、種族的な調整は必要だと思います」
「シロの意見か?」
「いえ、皆の総合的な意見です。今のままだと・・・。あっそういう事ですか?」
「どういう事?」
「獣人族が強すぎるのです」
「その事ね。確かに、獣人族は強いけど、単独だと対応は無理だろう?」
「はい。パーティーには必ず入れないと、龍族?には対応できません」
「そうだろうな。熊族でも獅子族でもいいから、体力と力があるやつを盾役にしないと難しいだろう?」
「はい。でも、種族は一度決めたら変えられませんよね?」
「そのつもりだよ」
「そうなると、獣人族を使っている人がいろんなパーティーに参加する事になりませんか?」
「なるだろうな」
「よろしいのですか?」
「問題になる?」
「ならないですが、その絶対数が少なくなる可能性があります」
「そのときには、新しいキャラクターを作ってもらえばいいと思うよ。スキルカードで新しいカードを買えばできるでしょ?」
「え?カードは、1枚だけなのでは?」
「ん?無料で配るのは1枚だけど、複数枚持ってはダメとは言っていないよ。カードの値段は均一にするけど、それで問題はないと思うけど?」
「そうですね。カードを複数持てるのなら、いろいろな戦い方が試せるという事ですね」
「そうだな。実際、冒険者ギルドから魔物で同じ物が作られないかと言われている」
「できますよね?」
「あぁできる。けど、作らない」
「理由を聞いていいですか?」
「面白くないから」
「・・・。そうですよね」

リカルダの少しだけ呆れた声が聞こえたのだが、わざわざモンスターの形態にしたのにも理由がある。
魔物を軽く見ないためだ。
そして、魔物を出していないのは、ゲームである事を認識させるためだ。

したがって、冒険者ギルドからの要望は却下した。
商隊からも意見が上がってきた。素材に関しての要望だが、同じ様にゲームである事を理由に却下した。素材に関しては、代官としてくれとだけ伝えてある。

シロとフラビアとリカルダの調整したシステムを、受け取って、RADに組み込む。
ホームからでも作業ができるのは楽でいいのだが、反映して配置するのに時間が必要なのが少しだけいただけない。

しょうがないのかも知れないのだが・・・。もう少し楽にできるようになってもいいとは思う。

全部のダンジョンに新しい機能を追加するまでに、1週間ほどかかってしまった。
そして、実はこれからが大変なのだ。

利用している遊んでいる者たちに機能を追加した事の告知を行っていない。
ゲームの画面上に、小さくバージョン情報を表示しているのだが、そんな物を確認している人間は皆無だろう。

今日は、告知をどうするのかを決定するためにルートガーをホームに呼び出している。
伝言にはフラビアに走ってもらった。最初は、シロが行くと言っていたのだが、フラビアとリカルダがそんな些事に奥様が行くべきではないという事で、ゲーム内で討伐タイムを競った結果、フラビアがルートガーを呼びに行くことになった。
ルートガーにも予定があるので、当初は5日後と言われたのだが、リカルダとフラビアが二人でルートガーの所に赴いて溜まっていた事務作業を片付けたので、予定よりも2日早くルートガーがホームに訪れた。

「ツクモ様」
「ダメだ」
「まだ何も言っていませんよ?」
「言わないでも解る。フラビアとリカルダを回してほしいという事だろう?」
「・・・。はい」
「ダメだ!」
「でも、あの書類の」「ダ・メ・だ!」
「はぁ・・・。わかりました。今は諦めます」
「今も何も、今後も渡す気持ちは無いからな」
「彼女たちに何をさせるのですか?」
「決まっている。シロの手助けだ」
「それなら、俺が他に手配します」
「ダメだ。フラビアとリカルダの願いでもあるからな」
「・・・。二人の願いと言われたら、引きますが・・・。時々でいいので手伝ってもらえるようにお願いできますか?」
「そうだな。今回の様なときには、手伝うように言おう」
「ありがとうございます」
「それで、本題だけどいいか?」
「はい。伝言では、”あのげーむ”に改良を加えたと聞きましたが?」
「そうだ。見てもらったほうが早いだろうな。シロ!フラビア!リカルダ!準備を頼む」
「はい」「かしこまりました」「かしこまりました」

ルートガーとディスプレイ?越しに観戦している。
都度説明を入れている。

今回のアップデートはルートガーも渡りに船だったようだ。
もう要望が上がってきているようだ。その上で、キャラクターのデザインの変更をパーソナライズできる機能や武器や防具の話しは面白そうだとなにかブツブツ言いながら考えている。

適応した事も説明した。
カードも、ハントカードと呼称する事が決まって、最初の1枚も販売する事がルートガーから提案された。
ハントカードがなくてもゲームは問題なく楽しむことができる。パーティーを組んだり、最初から用意しているアバターでやらなければならない事や、戦歴が無いから素材の受け取りで優遇されないなどのデメリットがあるが試すだけなら十分だ。

ルートガーの考えにも納得できるし、ハントカードの値段を少し抑える事にした。
作り方はそれほど難しくはないが、カトリナの所で作りしか方法がない。ある程度の数が作られた時点で、機能を公表する事に決まった。

チアル大陸の全部を巻き込んだ、モンスターをハントするゲームブームが訪れる事になった。
もともとは、難民の対策と俺とシロの暇つぶしから始まった開発だが、いつの間にか大陸が熱狂するブームになっている。

このゲームは特に、生産職や商人たちや文官が楽しんでいる。
ゲームの楽しみ方としては正しい。

利用料として支払ったスキルカードが少しだけ戻ってくる感じで楽しんでくれている。
ハントする様子を見ながら食べ物や飲み物を楽しむ店も出始めている。

そのうち大会を企画してもいいかも知れない。

「それで、ルート。難民は増えているのか?」
「はい。確実に増えています」
「ドワーフか?」
「はい。ドワーフが多いです。港からの報告で、ドワーフの大陸はほぼ新種によって滅ぼされたと思っていいようです」
「そうか・・・。タイムラグがあるから、正確な日付はわからないだろうが、滅ぼされるほど出てきているのなら、なんでチアル大陸には出てこないのだろうな」
「わかりません。港からも新種の出現の報告は来ていません」
「そうか、港以外からも?」
「はい。各区からの報告が来ていますが、ロックハンドで確認された物が最後です」

やはり、チアル大陸に出てきていない理由がなにかあると考えたほうがいいかも知れない。
ドワーフ大陸が滅ぼされたと言っているから大陸を見に行けば仮設くらいは考えつくかも知れない。

それにしても、平和なのはいいことだな。

 

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