【序章】第一話 転移?転生?貴族?勇者?

 

 ”ここ”は、”どこ”だ?

 俺は、確か・・・。

「はぁはぁはぁ」

 苦しい。考えるのもイヤになってしまう。
 生きたい。生きたい。生きたい。

 楽しみにしていたイベントは軒並み中止。それでも、歯を食いしばって生きてきた。

「苦しい」

 安物のベッドが軋む音と、俺が酸素を求める音だけが部屋の中で響いている。感染が確認されたときに、病院の確保ができましたら連絡しますと言っていた担当者。食事と水分を運んでくれると言っていた担当者。
 あれから、何日が経過したのかわからない。ただ、解っているのは、俺のスマホがあれから鳴動したことがない。何度、連絡をしても繋がらない。

 部屋に有った食べ物はすでになくなっている。飲み物は、水道がある。塩を少しだけ入れた物が冷蔵庫で冷やしている。エアコンもまだ使える。

 なぜ・・・。俺が?
 感染が確認される前の2週間は、部屋に籠もっていた。幸い、仕事は部屋でできる。人にも合わない。会議は、遠隔で参加できていた。食事も、一度の買い物で大量のレトルト食品や冷凍食品を買い込むようにしていた。でかけた時に、コンビニの前で屯していた・・・。俺よりも年配の人たち・・・。タバコを吸っていた。煙が、俺に・・・。

 あっ・・・。立ち上がれない。
 息苦しい・・・。

 俺・・・・。

 そうだ。
 俺は、重度の肺炎で・・・。多分、死んだ。

 でも、俺は生きている?

 身体は動くし、頭も働いている。

「え?なんだ?これは?」

 目の前に翳した手は、俺の手ではない。しかし、反対の手で触ってみると、俺の手だ。横になっている場所も、俺の部屋ではない。こんな高級な布団は持っていない。どこかのホテルに泊まっているのか?自宅療養が難しい者は、ホテルで療養・・・。違う。そんな連絡は受けていない。そもそも、天蓋付きのベッドが入るようなホテルを療養で使うはずがない。
 周りを見回すが、知っている物が何一つない。物は、わかる。ベッドだし、布団だし、サイドテーブルだし、部屋にはエアコンは無さそうだが、空調が聞いているように快適だ。
 ベッドのサイズもキングサイズを大きく越えている。3-4人が同時に寝られるだろう。そこに、一人で寝ている。
 天井には、ライトが無さそうだが、天井が仄かに光っている。

 息苦しさはない。
 立ち上がれそうだ。

 布団を跳ね除ける。予想していた事だが、180cm(自称)あった身長が・・・。高身長はモテる条件だと思っていたが・・・。
 小さな足が見えた。気のせいだと思っていたが、短くしていた髪の毛は、かなりの長さになっている。そして、日本人らしく綺麗な”白髪”になっていた髪の毛は、銀髪に変わっている。アニメでよく見ていた、銀髪だ。少しだけテンションが上がる。30の半ばに差し掛かった頃には、前髪は全て白髪になっていたはずなのに、綺麗な銀髪だ。

 まさかと思って、ある部分を確認した。大丈夫だ。前世?では、使う機会は無かったが、無事に存在はしている。

 もう認めよう。異世界転生だ。前世の知識もある。チートもあるかも知れない。そして、この天蓋付きのベッド。勝ち組転生に違いない!
 王族は面倒そうだ。上位貴族は面倒な派閥争いとかありそうだから、子爵家の三男くらいだと嬉しい。専属メイドとか居たら嬉しい。夢が広がる。ハーレムなんて面倒なだけだろうけど・・・。女の子同士で仲がいいのなら、2-3人なら・・・。
 妄想で、ある一部が大きくなる。前世よりも確実に大きい。よく手で触っていたから覚えている。大きさだけではない・・・。

 今は、そんな”こと”をしているときではない。
 メイドが部屋に入ってきたり、両親や妹が入ってきたり、それこそ可愛い妹が居るかもしれない。部屋に入ってきて見られたら言い訳の前に、羞恥心で死んでしまう(社会的にも・・・)。

 そう言えば、俺・・・。服を着ていないな。

 違和感はそれだけではない。音がしない。貴族の家だから、静かなのかも知れないが、生活音が全くしないのは異常だ。貴族の生活を知らないから、これが普通なのかも知れないが・・・。

 あと、半身を起こして周りを見てみるが、考えないようにしていたけど・・・。

 扉が存在しない。窓もない。部屋なのは間違いない。部屋に存在しているのは、豪華な天蓋付きのベッドとサイドテーブル。それと、豪華な毛の長い絨毯。そして、一冊の分厚く大きな”本”だけだ。

 起き上がると、全身が確認できる。
 やはり、全裸だ。手足が長い。平均的な日本人が持っている肌の色ではない。チン長は目測で1・・・。違う。身長は、150cm程度だろうか?比較対象がないからはっきりとは、いえないが・・・。目線の高さから・・・。

 異世界転生なら、神様なりが出てきて説明して欲しい。
 日本での俺は、死んでいるのだろうから、勇者召喚ではないだろう。それに、姿が変わってしまっている。転移でもない。転生になるのだろう。

 転生モノの定番と言えば、
「ステータス!」「鑑定!」「プロパティ!」

 だめだ。イメージが大事?自分自身を鑑定するイメージでやってみるがだめだ。
 そうだ、魔力があるか確認しよう。ベッドの上で座禅を組んで瞑想してみるが、何も発生しない。

 わかっている。理解している・・・。あの分厚い”本”を読むしか無いのだろう?
 読み切る前に、欲しい情報に辿り着く前に餓死する自信しかない。

 その前に、本当にこの部屋には扉や窓がないのか?
 貴族なら、服くらいは置いてあるだろう。メイドに知らせるような道具も見当たらない。

 ベッドの下や、布団の中や、サイドテーブルの引き出しを探してみたけど、何も見つからない。

 探しものは、”本”以外の物。できれば、呼び出しができるような物。見つけにくいとは思えないけど、”カバン”は無いから”カバン”の中は探せない。”つくえ”もサイドテーブルしかないから”つくえ”の中も探せない。探したけれど、見つからない。
 諦めたら、そこで終わりだ。探したけれど、見つからない。何も見つからない。でも、探すのは諦めない。探すのを諦めて、”ダンスを踊る”にも一人で踊っていたら愚か者みたいだ。それに、夢の中には行きたくない。この場所が現実だと思っていたい。だから、まだまだ探す。這いつくばってでも、この場所が現実だって証拠が欲しい。
 夢だとしたら・・・。あの苦しい、息苦しい、高熱で意識がはっきりとしないけど、息苦しいことだけはわかる現実には戻りたくない。

 ここが、現実であってほしい。餓死する寸前までは、生きていたい。

 部屋は広くない。あっ間違い。俺の住んでいた部屋よりは広い。俺は、8畳という触れ込みの部屋に住んでいたが、その部屋の2-3倍はある。ドアもなく、窓もない。そんな部屋にキングサイズを超える天蓋付きベッドをどうやって運び込んだ。空調が整っているだけかも知れないが、窓や隙間が無いのに、微かに空気の流れを感じる。密閉された空間ではない。
 壁には、よくわからないが文様が施されている。触ると、ほんの少しだけど暖かさを感じる。

「あぁぁぁ!!!」

 よくわからない。声は、子供の声だ。声変わりをしているようには思えない。そうなると、14-5歳?くらいか?それにしては、(ある一部は)大きい。

 そうだ!一度、寝てみたら、神様や、少しだけおっちょこちょいな可愛い女神様や、ロリ巨乳(個人的には、「貧乳はステータスだ。希少価値だ」の方が好み)が、出てきて優しく、手取り足取り現状を教えてくれる。と、信じたい。

 思考がおかしな方向に言っている。
 寝てみるのは、現状で、できる事の一つだ。”本”を読む以外で、唯一・・・。そう、唯一、できることだと考えてよいだろう。

 寝てみて、夢だったら・・・。立ち直れない。
 やはり、”本”を読むしか、現状を把握する方法はないようだ。

「はぁ・・・」

 寝よう。
 そうだ、現実逃避かも知れないけど、寝よう。寝て起きても状況が変わらなければ、これは夢ではない。

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