【第二十一章 密談】第二百十四話
カトリナとルートガーにマンション建設を任せた。
それから、人手の補充を行ったり、難民の中から問題がなさそうな者を、選別するのにクリスが面接官を行ったりした。
1ヶ月くらいかけて、二人から苦情が出ないように環境を整備した。
丸投げしたら、俺の作業は終わったのかと思ったのだが、どうやら、そこからが仕事の開始だったようだ。
忙しく、ホームとブルーフォレストダンジョンとロックハンドダンジョンを行き来していた。
シロも手伝ってくれるのだが、事務的な事や人の配置は苦手なようで戦力にはならなかった。
どちらかというと、フラビアとリカルダの方が戦力になった。
カトリナからも、フラビアとリカルダの意見を聞きたいという事もあって、二人には時々ロックハンドダンジョンに向かってもらった。
耐久テストをしていたチームから、重大な欠陥が見つかったと呼び出しが有った時には少し焦ったが、大きな問題ではなかった。
”縮小→拡大→縮小→拡大”と1000回ほど繰り返すと、1-2cm程度の誤差が産まれてしまうという事だ。
一回の誤差は、1/100~2/100mm程度だ。誤差の範囲だし、それでどうにかなるような事は少ないだろう。
ただ、気になってしまったので、スモ○ルライトの改良に乗り出した。
縮小と拡大で同じ経路を通るように改良して、与える入力を一定にする事にした。今までは、別々の魔核から提供させていたのだが、魔核による微妙なブレで差が産まれてしまう。
一度に処理できる物は少なくなったが、大きめの魔核一つにした事で、繰り返しても誤差が生じない様になった。
正確には、1000回程度では誤差がわからない範囲でおさまっている。
数万回や数十万回のテストを行えば誤差は出てくるかも知れないが、現実的なレベルで合格だと思う事にした。
その手の些細な問題は発生したのだが、増え続ける難民への対応は問題なくできている。
難民側では問題は出なかったのだが、古くからの住民から苦情のような要望のような物がルートガーの所に舞い込んだ。
難民に提供した部屋を自分たちにも提供して欲しいという事や、部屋ではなく設備を提供して欲しいという事だ。
設備は、規格を合わせて作っているので、簡単には提供できないとは言っているが、それでも欲しいという人には単体で販売する事になった。特に人気なのが冷たい空気と温かい空気が出るスキル道具だ。システムキッチンは大きい事もあり欲しいけど断念していく人が多い。
次に人気なのが、お湯の循環システムだ。
最初は拒否しようかと思ったのだが、すでに公開してしまっているし、同じものを作ろうと思ってもなかなか難しいと判断した。設置にも、職人が必要になるので、設置から全部を行えるのは、一部の者だけになってしまっている。
難民に、ドワーフが多く交じるようになってきた。
酒場の独占による問題も出てきたが、商隊に頑張ってもらう事でなんとかしのいでいる。
酒場の商品を大量に作らないとドワーフに全部飲まれてしまう。
街全体が難民の受け入れに伴い、行政区から助成をだしているので、全部とは言わないが、かなりいい感じで景気がよくなっている。
特に、手先が器用で道具作りに精通しているドワーフへの依頼が多くなり、難民でもすぐに仕事にありつけるような状態になっている。しかし、ドワーフたちは貰ったスキルカードをすぐに酒に変えてしまっているので、地域の経済を考えればいい事だがドワーフたちの生活がよくなるわけではない。
そんな彼らドワーフの為に、作っていた酒を提供する事になった。
作ってあった蒸留酒を提供した。ドワーフ達は酒精の強さに驚いていたのだが、それ以上に今までの酒にない味や香りを楽しんでくれているようだった。
蒸留酒を提供してから数日後、ドワーフの代表と会う事になった。
依頼はいつものように、ルートガーからだ。
ミュルダ区の代官の屋敷で会うことになっている。
ミュルダの代官は、同席しない事になっている。俺とドワーフの代表だけで会う。シャイベが一緒についてきているが、シャイベは俺の護衛との連絡係としての意味合いが強い。
「ツクモ様」
「それで、俺にして欲しい事があると聞いたが?」
「はい。できましたら、蒸留酒なる飲み物を作る許可を頂きたい」
「え?」
作る許可?
「作る許可?」
「はい。スキル道具も貸していただけると嬉しい。なければ、自分たちで作る」
「ちょっとまってくれ」
「はい?」
「蒸留酒だけじゃなくて、酒精のレシピは公開しているのは知っているよな?」
「もちろんです」
うーん。
なにか認識に違いがあるのか?
「あのレシピではわからないのか?」
「いえ、器具の作り方から、酒精の作り方までわかりやすいと思います」
「それなら、勝手に作っていいぞ?材料の心配か?」
「へ?ツクモ様?勝手に作っていいとは?」
「そのためのレシピ公開だぞ?」
ドワーフの代表は、こと細かく説明してくれた。
俺が公開したレシピは、こうやって作られている物という事を言っているだけで、同じ物は作るなと言っていると思ったようだ。
特殊な道具や行程があり、熟成も必要となれば、簡単に作られない物だと思ったようだ。
食べ物ではない嗜好品に近い酒は、勝手に作るなと思ってしまったようだ。
「もしかして、自由に作っていいのですか?」
「そのつもりだけど?」
「お願いがあります」
「ん?なに?」
「蒸留酒に関しては、ドワーフ族とは言いませんが、許可制にしてください」
「どうだろう。俺が決めていいものではないと思うけどな」
「ルートガー代表には、ツクモ様の許可があれば大丈夫と言ってもらっています」
「そう?うーん。皆に飲んでもらいたいのだけど、許可制の方がいい?」
「粗悪品が出回ってしまうことを考えると、許可制にして、それ以外は偽物として扱いたいと思います」
粗悪品か、それは考えていなかったな。
「でも、レシピを公開しているぞ?今更、許可制にして効力はあるのか?」
「あります」
「ん?」
「ツクモ様。蒸留酒を作る為の装置は今どこで作られていますか?」
「そうか、装置を作る所を許可制にすればいいのか?あの装置なら、簡単に作られないという事だな」
「はい。現状、レシピ通りに作るとしたら、かなりのスキルカードが必要です」
「わかった。それなら、許可制にするけど、ドワーフが蒸留酒を独占する様な事があったら・・・。わかっているよな?」
「はい。重々承知しております。ルートガー代表にも同じ事を言われました」
「わかった。許可証の発行も誰かがやらなければならないだろう?どうやって作る?」
「どうやってとは?」
「例えば、酒造りをするためだけの場所を作って、そこで酒造りだけをするのだったら、どこかのダンジョンを使うのが安全面を考えてもいいだろう?」
「そんな事が・・・」
「できるよ。簡単ではないし場所を選ぶ事になるけど問題はない?」
「ないですね。酒が作られて、飲める環境ができるという認識で合っていますか?」
「そうだな。一大生産地にしてもいいかもしれないな。わかった、ルートガーと少し相談する」
「ありがとうございます」
細かい事は、ルートガーと話してもらう事にはなるのだが、ダンジョンを一つ用意して、決めた者しか出入りできない場所を作ればいいかな。
とりあえず、ルートガーの所に戻ろう。
「ツクモ様。それで、彼らは?」
「あ?お前の入れ知恵どおりだぞ」
「入れ知恵ってひどいな。独占しなければ、作りたい者に作らせるのが一番だと学んだだけですよ」
「だれだ、そんなろくでも無いことを教えたのは?」
「目の前に座っている人です」
「それじゃしょうがないな。それで、ルートガー。どう思う?」
「いきなりですね」
「本題に入った方がいいだろう?」
「そうですが・・・。いいですけど、どこかで作らせるのは賛成ですが、どこかのダンジョンからの販売は反対です」
「そうか?でも、転移門を使っての輸送は避けたほうがいいだろう?」
「もちろんです」
「・・・。あの・・・ツクモ様。ルートガー代表。酒の販売なら、それこそチアル街の商業区で行えばいいと思いますが?」
代官のセリフだが、これが一番確かな方法で間違いが起こりにくい。
商業区の本来の使い方だ。
今日の話し合いの結果。
まだ使われていないミュルダダンジョンで酒造りを行わせる事になる。
ミュルダでは、酒造りを行う事が決定したが、事実として知っているのは代官と一部の者だけにする。
作った酒は、商業区に運ばれて販売される。
ドワーフたちの報酬は、ルートガーから渡す事にする。
ひとまず、酒造りに関しての話し合いはこれで終わりとなった。
材料の輸送の問題はまだ残されているのだが、ひとまずは蒸留酒を作る為の道具作りから始めるようだ。
道具作りは、ドワーフたちに教える部分は少ない。
自分たちでレシピ通りに作ってくれる。
調子に乗って、他の酒のレシピも教えておいた。
これで、酒に関しては勝手に彼らが研究するだろう。
値付けも商業区で勝手にやるだろうから、考える必要がなくて助かる。
「あの・・・。ツクモ様」
「ん?」
「ミュルダダンジョンは、酒造りに使う事はわかりました」
「うん。何かあるのか?」
「ドワーフたちが飲む酒は・・・」
「もちろん、出荷する時に、何割か・・・。ルートガーと相談にはなるが、税として酒を納付させればいいと思うけど、ダメか?」
代官は少しだけ考えてから
「問題ありません」
「それじゃ、率はルートガーと相談してくれ。いいよな?」
「はい」「わかりました」
ドワーフたちがミュルダに集まる事になりそうだな。
「ミュルダとして、ドワーフが集まるのは大丈夫か?」
「今更です。獣人族も多いですし、ドワーフが増えても問題にはなりません。それに、ミュルダこそがカズト・ツクモの出発地点だと自負していますので、それに恥じない運営をしていきます」
俺の出発点?
ルートガーを見るが、諦めの表情をしている。
詳しく話を聞くと、ミュルダが言い出した事ではなく、ミュルダから妥協点を引き出す為に、他の元街や港が言い出した事のようだ。
俺が出発点を決めるのなら、やはりサイレントヒルだろう。
それもブルーフォレストの近くにある丘が出発点だと認識させるだろうけど、それを言っても意味が無い。
「ツクモ様。それで、ミュルダに、銅像を建てる計画があ」「却下だ!ルートガーなら許すが、俺とシロの銅像は絶対に却下だ!」
「ツクモ様。俺もイヤですよ」
「銅像は諦めてくれ」
「・・・。わかりました。そのかわり、ツクモ様の【出発の地】と宣伝する事は許していただけないでしょうか?」
「・・・。わかった。そうか、ミュルダは他の場所と違って特色が無いのだな」
代官を見ると頷いている。
酒は特色になるけど、独占させる気はない。それこそ暴動が起こるかも知れない。
穀倉地帯にしてしまう事も考えたのだが、各ダンジョン内に自然発生している。
果実園も同じだ。各ダンジョンで作った物は、管理をしている場所の取り分としている。足りなかったら、他所から買ってくるか余剰物資と交換する事になっている。
商隊がひっきりなしに大陸中を移動している。
余剰物資を必要な場所に届けているのだ。
酒を作るのだから、別階層で発酵食品でも作るか?
納豆は俺が食べないが誰かが食べるかも知れない・・・。でも、最初に作る物じゃないな。
「そうだな。味噌や醤油がベストなのだけどな。後は、各種調味料とかを作る工場になる感じではどうだ?」
「味噌?醤油?ですか?」
「かなりの試行錯誤が必要だけど、できたら間違いなく名産になるし、他では作られない物になるぞ」
「試行錯誤ですか?」
「その間の研究費は俺が出す。それに、日本酒という酒や焼酎も作られるようになるだろうな」
「わかりました。その味噌や醤油をミュルダで研究開発を行います」
「レシピは渡す。でも、必ずできるような物でも無いからな。発酵という物だけど、時間がかかるから、時間を短縮するスキル道具を作って渡す事にする」
「ありがとうございます。あと、調味料とは?」
「使っているだろう?塩や砂糖も調味料の一種だ。この種類を増やそうと思う。ミュルダダンジョン内で栽培すれば、ミュルダ区に居る人間の働き口にもなるだろう?」
「はい。でも、ダンジョン内に人をそんなに入れて大丈夫なのですか?」
ダンジョンの権能を説明していなかったから当然の疑問だけど、全部を説明するのも面倒だな。
「そうだな。3種類の人間を作る事はできる」
「一つは、ツクモ様たちですよね?」
「そうなる。残りは、ドワーフたちとそれ以外という区分で切り分ける事ができるだろう」
「そうですね。ドワーフたちの酒と私達が作る酒と調味料と発酵食品なら、他の街に対抗できます」
少しだけ呆れ顔のルートガーにあとの事を任せて、俺はホームに帰る事にした。
その場で帰っても良かったのだ、問題が発生した時に混乱しないように、一度ブルーフォレストダンジョンに抜けてから、洞窟に入ってからホームに向かった。
もうそろそろ密談は終わりにしたいと思っているのだけど・・・。
多分、ダメなのだろうな。
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