【第二章 裏サイト】第三話 調査と対策
ユウキは、翌日から塾に行くことに決まった。
連絡先を交換していた、早苗さんと待ち合わせて行くようだ。
オヤジが帰ってきていたので、軽く説明を行った。
もう塾内のパケット収集はできているようで、情報を流してもらった。そのまま、オヤジは風呂に入って、寝るようだ。オフクロは、夜勤のはずだ。桜さんは、署に泊まり込みだと言っていたし、美和さんは、最近顧問になった東京の会社に行っている。
パケットを精査していると、ユウキからの着信があった
『タクミ!』
「なんだよ?」
『タクミ。聞いて!いや、今日、おじさんと沙菜さんは?』
「オヤジは、さっき帰って来て、風呂入ったから寝ていると思うぞ。おふくろは、夜勤」
『わかった。そっちに行く!』
「あぁわかった。夕ご飯は?」
『食べてない』
「わかった。用意しておく。簡単な物でいいよな?」
『うん。肉をお願い。疲れたから、肉食べたい』
「はい。はい。塾からだと、20分くらいか?」
『うーん。30分くらいかな。早苗ちゃんを駅まで送っていくから』
「わかった」
そこで電話が切れた。
何か有ったのだろう。それにしても、動きが早いな。
ユウキが肉をご所望なので、冷蔵庫をあさっていたら、ひき肉が有ったので、簡単にハンバーグにする。来てから、焼いてもいいだろう。パンも有るし、付け合せに良さそうな、コーンとじゃがいももあるので、同時に調理を始める。
缶入りのコーンは、半分だけ簡単にバターで炒める。残りの半分は、コーンスープの具材にする。じゃがいもは、皮を剥いて芽を取ってから、一口大に切って、焼いておく。パンは、フランスパンだから切り分けておけばいいだろう。ハンバーグの味付けを少し濃くしておけば、乗せて食べるのには丁度いいだろう。
ひき肉と牛乳に浸したパン粉を混ぜる。たまごを落として、みじん切りにした玉ねぎを加える。
焼くときに成形すればいいだろう。ユウキは、チーズも好きなので、成形するときに、真ん中にチーズを入れてやろう。
じゃがいもとコーンスープの状態を見ながら、パケットを眺めている。
どうやら、SNS を使った連絡では無いようだな。頻繁にアクセスしているサイトが有るようだけど、認証が組み込まれているのか・・・。裏サイトか?
SSL が導入されていないようだな。ふぅ~ん。古風な・・・掲示板を使っているようだな。
玄関が開く音がした。
ユウキが来たようだ。まっすぐにリビングに入ってきて、テーブルに座る。自分の定位置とでも思っているのだろうか?
「タクミ!聞いて!早苗ちゃんのいじめって勘違いから始まっているみたいなんだよ!」
ハンバーグを焼きながら、ユウキの話を聞いた。
やはり、いじめは存在しているが、塾内での無視や、模試や講義の内容を見せないようにする感じのようだ。物を隠したり、嘘の話を広げたりは、”まだ”無いようだ。塾だから無視されても、困りはしないとは思うけど、休憩時間とかに一人で居るのはやはり寂しいのだろう。
ユウキが話しかけたときに、嬉しそうにしていたらしい。
肝心の理由だが、早苗さんが、そのいじめているグループの中心人物の”彼氏に色目を使った”が、発端のようだ。
その彼氏と言っていたが、ユウキが感じたところだと、彼氏でも何でもなくて、その男が調子がいいだけの”チャラ男”だという評価だ。それを、勘違いしているのではないかということだ。早苗さんに確認したら、”チャラ男”は同じ学校なので、一度偶然塾に来るときに一緒になった事が有るようだ。早苗さんは、気持ち悪いくらいなれなれしいと毛嫌いしていた。ユウキの評価も同じ様な物だ。
ユウキが、早苗さんと楽しく話していのを見た、いじめグループの連中が、ユウキがトイレに入ったところで、こと細かく、この辺りの事を教えてくれたようだ。
そして、早苗さんと付き合うなと忠告までしてくれたようだ。”チャラ男”=掲示板にかかれている”王子”で間違いないだろう。
そうなると、”ドロ猫”が早苗さんの事なのだろうか?
なになら、協定の様な物が有るようだ。これは、ユウキの話しから、近づくなとか、協定を破ったとか、いろいろ言われたので間違いはなさそうだ。
実につまらない。
裏サイトも、SSLも無ければ、認証もBASIC認証だ、ハッキングなんてしないでも、パスワードも普通に平文で流れているから読み取れる。IDとパスワードが一つだけだったので、一人だけかと思ったけど、どうやら、全員が同じ物を使っているようだ。
調査はほぼ何もしないで終了した。
原因も、ユウキが聞いてきた内容で間違いないだろう。なんと言っても、本人たちからの証言だ。裏サイトの存在も認識できた。
解決方法は、”早苗さんが辞める”のがいいように思えてしまう。塾の方は、裏サイトの監視を行っておけばいいだろう。塾なのだから、変な噂が立たなければ問題は無いのだろう。個人的には、その王子と呼ばれているヤツを辞めさせたほうが、塾のためにはなると思うが、それは塾が考えればよい事だ。
5つ目のハンバーグを焼きながら考えをまとめる。
700g近い分量を二人で食べたことになる。育ち盛りだからといえ食べ過ぎかもしれない。ユウキは、それにチーズも入っている。完全にカロリーオーバだろう。脳の筋肉が成長しない事を祈ろう。
「え?なに?タクミ。何か言った?」
俺口に出していた?
「ん?なんでもないよ。ユウキ。まだ食べるのか?」
「うーん。もういいかな?デザートも有るでしょ?」
「ないわ!」
「えぇぇぇ無いの?何か作ってよ」
「今からか?簡単なヤツでいいよな?」
「しょうがない。いいよ!」
「ユウキ・・・。まぁいいかぁ」
「やったぁ!」
牛乳とまぜるだけのヤツを作って出す。ぶつくさいいながら、全部を綺麗に平らげていた。
「タクミ。後で、お風呂もよろしくね」
どうやら、今日も泊まっていくようだ。着替え?この家には、ユウキの部屋がある。中二階の納戸だが、いつの間にか、オフクロと相談して、ユウキの部屋になっている。部屋と言っても着替えが置いてあるだけだ。寝るのは、リビングのソファーが好みのようだ。いそいそと自分の毛布を持ってきている。
ユウキが風呂に入っている間、俺は作業部屋にこもって、資料をまとめる事にした。
未来さんからの正式な依頼なので、フォーマットもしっかりした物を使う。
ネット的な解決方法はない旨も忘れないで書いておく。
”いじめ”の実態に関しては、ユウキの証言で十分だろう。捜査機関でもないので、顧客が満足できればいいのだ。
難しい説明は必要ないだろう。技術的な説明も殆ど省く。
技術的な事は別にして、裏サイトの実態調査だけはしておいたほうが良さそうだな。
サイトのURLがわかっているから、検索エンジンにインデックスが登録されていないかや、検索避けがされているのかや、キーワードでの調査を行っておく。
偶然サイトに訪れる可能性は低いようだし、知り合い同士で URL を送り合っているのだろう。
検索エンジンに関しての講釈は、オヤジに任せるとして、パケットから読み取れる事実だけを列挙しておく、ゲームサイトへのアクセスや、各種SNSへのアクセスも有るようだ。あとは、よその塾で行っている講義動画を見ているらしい事もわかってきた。
この辺りの事をまとめて、未来さんにメールで連絡しておく。
「タクミ!」
ユウキが風呂から出て落ち着いたのだろう。
「あ?」
「ジュースもらったよ」
「あぁユウキ用のヤツ?」
「うん!」
「わかった。あっユウキ寝る前に少し話しがあるけどいいか?」
「うん。何?」
ユウキが、炭酸のオレンジジュースを持って、部屋に入ってくる。
「早苗さんの事だけど・・・」
「うん」
「他に何か言われた?」
「うーん。王子に近づくなとか言われたよ。あと、なんかURLを渡されて、これを使ってくれとか言われた」
「URL?サイト?」
「うん。でも、何も表示されなかった。あっタクミに言われた通りに、アクセスしたよ」
「そうか・・・URLは?」
「ちょっと待って、紙持ってくる!」
ユウキがリビングに降りていった。
すぐに上がってきて、部屋に入ってきた。渡された紙には、QRコードが一つだけ書かれていた。
「僕はどうしたらいい?」
「明日から?」
「うん」
「塾・・・どうしようか?」
「今日は、体験入学だったから、行きたくなかったら辞めていいって言われたよ?」
「そう?ユウキ的にはどう?」
「うーん。受験対策だからね。僕には関係ないかな?電気工事士や電気通信設備工事の試験対策なら興味が有るけど、大学の受験対策は・・・」
「そうだよな」
「うん。早苗ちゃんの問題が解決なら、僕は塾には行かないよ」
「そうか、わかった、桜さんと美和さんには、俺から言っておくよ」
「うん。お願い!それで?」
「それで?」
「うん。ミクさんのところに行くよね?僕も行っていいよね?」
「あぁもちろんだよ。未来さんにも連絡をしているから、そのうち連絡が来ると思う」
「わかった。美味しいタルト屋さんを教えてもらったから、行く時に買っていこうね」
「はい。はい」
「うん。タクミはまだ寝ないの?」
「あぁさっきのQRを調べてから寝るよ」
「わかった、おやすみ。無理しないでね」
「あぁおやすみ」
ユウキが部屋に戻っていく。
QRコードか、パソコンのカメラで読み込んでから、解析を行う。
本当に、URLが一個だけ入っている。
面倒だな、短縮URLか・・・。あぁだから、ユウキの端末では弾いたのだな。
短縮URLを使う程度の知恵はあるって事なんだな。なんだよ。リダイレクトされるのか?
ん?検索エンジンに飛んだか?って事は、切り分けを行っているな。
Agent を偽装してみるか?
ビンゴ!Android 端末を偽装したら、サイトが開いた。コミュニケーションサイトへの登録?SSLもなく、入力フォーム?
まぁいいか・・・捨てメアドは作ればいいからな。こういう時のためのドメインも用意している。メアドから類推されるのも面白くないから、適当な羅列にしたメアドを作成して、サイト登録用のメアドにする。これで、このメアドにメールが来た場合には、ここから流出した可能性が高くなる。そこまでしているとは思えないけど、なんとなく嫌な予感がするからな。
フォームに情報を記述して、送信する。
あぁアプリをダウンロードしろ・・・かぁ正式サイトに飛んだから、流石に偽装を解除しないと駄目だろうな。
なんだこれ?
コミュニケーションツール・・・じゃないな。さてどうしようか、一応、正規サイトからのダウンロードだから、一定の基準は満たしているのだろうけど、連絡用アプリとなっているが、パーミッションが”ほぼ”すべてのパーミッションを要求している。
APK のダウンロードだけして、エミュレータで動かしてみるか?
駄目だな。パーミッションエラーで起動さえしない。
情報を抜き取ろうとしているとしか思えない。それほど大きくは無いから、大した事はしていないのだろうけど、さすがにメインで使っている端末では動かす気にはなれない。フリーSIMが入っている端末を用意して、フルリセットしてから、APKを動かしてみる事にした。
はぁ?
なにこれ?
そういう事だったのね・・・・。
積読本や購入予定の書籍の情報を投稿しています
小説/開発/F1&雑談アカウントは、フォロバを返す可能性が高いアカウントです