【第二十五章 救援】第二百五十四話
「ステファナ様」
モデストがステファナに話しかける。
ステファナも解っているので、頷くだけにとどめた。二人のやり取りを見ていたテル・ハールは不思議な感覚に捕らわれていた。
(主従ではないのか?)
「モデスト。連絡はどうしますか?」
モデストは、ちらっとテル・ハールを見た。
「必要ないでしょう」
ステファナが少しだけ意外そうな表情をするが、すぐにモデストの考えが解った。
先程まで近くに居たカイが姿を消している。ツクモの所に報告に言っているのだ。ステファナも、モデストも解っているので、何も言わない。そんな二人を、エクトルは羨ましそうな表情で見ている。
「エクトル!?」
「なんでもありません。それよりも、里に急ぎましょう」
「そうですね」
ステファナの決断で、里に移動することになった。
—
— テル・ハール Side
—
なんだ?!
この者たちは、妹を救うのが当然のような雰囲気を出している?
それだけではない。捕らえた者たちを解放するのも当然だと考えているようだ。最終的な判断は、主である”カズト・ツクモ”が下すと言っているが、ほぼ間違いないだろうと考えているようだ。
なぜだ?
敵対した我らを助ける。それだけではなく、驚異ではなかったと言っているが、襲ってきた者を無傷で捕らえて、何も要求しないで開放するのが”主”の考えだと言えるのだ?
エクトルは、命まで狙ったのに生かされている。隷属状態だと聞かされたが、実際に話を聞くと敵対行動は阻害されるが、他には誓約がかかっていない。
「テル・ハール殿。モデストやステファナが何を考えているのかわからないが、カズト・ツクモの考えならわかる」
「え?」
エクトルは、自分の主筋に、敬称を付けなかった。
「ん?あぁ敬称か、必要ないと言われている」
「え?」
「公式な場所では、付けなければならないが、普段は必要ない」
「な・・・」
「なぜ?あぁ俺も、気になって、カズト・ツクモに聞いた」
「え?」
「明確に答えたぞ・・・。”敬称を付けないことで、周りが自分たちを蔑むようなら、そんな奴らの手は握れない。そもそも、敬称が付いただけで偉そうにしている奴らが嫌い”だそうだ。それだけではなく、”甘く考えて、籠絡するのが楽だと思ってくれたら、こっちの手札が増えるだけ”とも”甘く見られても困らない”とも言っていた」
「エクトル殿。いいのか?それを、話してしまっても・・・。その隷属の誓約は・・・」
「あぁ問題ない。隷属も、いつでも解除すると言われている」
「え?」
「俺程度は敵ではないということだ。それに、さっきの話を教えても、警戒を強めることは有っても、甘くは見ないだろう?」
「あぁ」
「でも、本来なら、カズト・ツクモという人物は、その警戒を強めた状態で、対峙することが当然の人物だ」
「あっ」
そうだ。
カズト・ツクモという人物は、一つの街ではなく一つの大陸をまとめ上げている。それだけではなく、中央大陸にも拠点を持っているとも言われている。噂話が多すぎて、真実がなにかわからない状況で、長老衆はすべて虚構だと調べもしないで切り捨てている。エルフ族やハイエルフにはできない事を、人族のそれも若造が出来るわけがないと思っている。自分を大きく見せるために、多少の功績を巨大に膨らめて吹聴しているのだろうと考えている。
入ってくる情報にも矛盾が多い。そのために、長老衆は情報の全ては”虚構”だと切って捨てたのだ。
エクトルが捕らえられたという情報や送られてきた報告書も、エクトルが裏切ったのだと考えているようだ。
間違いだった。
エクトルの報告書は、一つの嘘も含んでいなかった。
それだけではない。カズト・ツクモという人物は、エルフ族が考えているような人物ではない。子供だと侮っていい相手ではない。
「テル・ハール殿。貴殿が何を考えているのかわかる・・・。つもりだ。悪手ではない。カズト・ツクモは自分を頼ってきたものを・・・。懐に入れた者を裏切らない」
「え?」
「頭を下げて、保護を、庇護を求めろ。ハイエルフは敵ではない」
「は?」
「姫の病が治れば、ハイエルフは姫を寄越せと言い出すだろう?長老衆もそのつもりで居る」
「・・・」
「姫と姫を慕う者たちを匿うくらいなら・・・。お前たちが望む環境にも心当たりがある。だが、交渉では駄目だ。懇願しろ。そして、跪け」
「考えさせてくれ・・・」
「あぁでも、時間が無いのは解っているだろう?」
「・・・。解っている」
—
— ステファナ Side
—
テル・ハールというエルフ族からの使者は、今まで遭遇したエルフ族とは違っている。
エクトルともなにか話をしている雰囲気が柔らかい。
それだけではなく、なぜか懐かしく感じる。
「ステファナ様?」
「モデスト様。私は・・・」
「何度も同じことを言わせないでください」
「・・・。わかりました。モデスト。それで?」
「はい。前方に3名ほどのエルフが居ます。敵対する雰囲気はありません。どうしますか?」
「どのくらいですか?」
「この速度で進めば、5分ほどです」
「・・・。わかりました。止まって、テル・ハール殿に確認しましょう」
モデストが、隊列を止めます。その後、後ろを歩いていたエクトルを呼び出して、話をします。
エクトルもすぐに事情を理解して、テル・ハール殿を連れて、エルフ族が居る所に向かいました。
「モデスト。ご連絡は無いのですよね?」
主語を省くような言い方になってしまったが、解ってくれたようで、頷いてから首を横に振った。
本当に、草原エルフとのことは私たちに一任してくださるようだ。
「そうですか・・・。どうしたらいいと思いますか?」
「ステファナ様。今回は多くの選択があります」
「え?」
「簡単な落とし所は、草原エルフの問題は、無視してしまうことです。エクトルの望みだけを叶えて、私たちは旦那様たちと合流を果たす」
「はい」
モデストが言っている話は私も賛成です。
今までのご主人さまに対する草原エルフたちの態度は許せません。
「もうひとつの簡単な方法は、草原エルフを始めとするエルフ族を蹂躙する方法です」
「え?」
「私たちだけでは難しい可能性もありますが、カイ様とウミ様がいらっしゃれば可能です」
「・・・。そうですね」
それから、モデストはいろいろなパターンを説明してくれた。
「わかりました。ご主人さま・・・。ツクモ様が考えて居られる可能性が高いのは、エクトルの想い人である”姫”と関係者の望みを叶えることでしょう」
「はい。旦那様なら、面倒で厄介な方法や事情を面倒だと口では言いますが、一度仲間だと認識されたエクトルの願いを・・・。約束を叶えられるでしょう」
「そうですね。”カズト・ツクモ”という人は、そういう人ですね」
私の、私たちのご主人さまは、そういう人だ。
仲間だと思った人には、どこまでも優しく、甘くなる。仲間同士の裏切りには、とことん厳しい対処を行う。自分に対する裏切りなら、裏切りさえも、理由に納得できれば許してしまう甘さがある。
「はい。ステファナ様。ならば」
「そうですね。誰が”そう”なのか見極めるのが、私たちの役割でしょう」
「はい」
そうです。
私たちの役割は、別に難しいことではない。旦那様や奥様の代わりではない。
私たちは、エクトルに頼まれたことを行えばいい。あとは、相手がダンスを申し込んでくるのか、剣戟を申し込んでくるのか・・・。それとも破滅を望むのか・・・。私たちは、旦那様が私にしてくれたように手を差し伸べればいい。鏡であればいいだけだ。
私は、モデストやエクトルを守らなければならないと思っていた。モデストも私を守らなければならないと考えていたようだ。
でも、根本が違う。私たちが守らなければならないのは、カズト・ツクモだけだ。奥様も同じ考えだろう。
だから、間違えていた。害する者を排除するのが役割だと・・・。
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