【序章】第五話
分かれ道を、右側に行く。
勾配のゆるい坂道を上っていく、今度は、ほんの少し歩いただけで、広い空間にたどり着いた。
おぉぉ沢山溜め込んだようだな。
でも、ゴミばかりだな。
その場所に有ったのは、錆びた剣や壊れた盾や防具。
ナイフの様な物もあるが使えそうにない。水筒の様な水差しや鍋の様な物まである。
ゴブリン共が、襲った人族から奪ってきたのだろうか?
通貨になりそうな物はなさそうだな。
丸められた、羊皮紙が数個見つかる。こんな物まで溜め込んでいたのか。
一つは、周辺の地図なのだろう。小川が書かれているから、この辺りの図面なのかもしれないが、縮尺とかが適当な様な気がする。検証は後回しだな。
もうひとつは、伝令の文章の様だ。
ダンジョンを見つけて、ダンジョンの所有を宣言する文章のようだ。”サラトガ”から”アンクラム”という国?街?に、送った文章の様だ。面倒事の匂いしかしないから、証拠隠滅してしまえ。一通だけって事は無いだろうから、大丈夫だろう。
うーん。
もう一通は、プライバシーの問題があるので、読まなかった事にしよう。宣言書と共に燃やしてしまおう。
地図に関しては、少し考えないとならない。
縮尺の違いは当然有るとして、岩山と小川の距離から、一番近い街?までの距離を計算してみると、多分200km近い距離がある。静岡-京都が、240km程度だったと思う。歩くのは無理だな。諦めよう。
俺が最初に降り立った場所が、”サイレントヒル”と、呼ばれていたのは驚きだが、かなりの広さを持っているようだし、この森も”ブルーフォレスト”と呼ばれているのか・・・。神様よぉ!?。本当に、偶然なのだろうな?
まぁいい。地理的な事もわかったし、ダンジョン・アタックを行ってもいいかもしれない。
ダンジョンまでの距離は、20~30kmだろう。問題は、所有を宣言している、国?が、囲い込んでいないかだけど、その場合には、戻ってくればいいだろう。
『カズト様。死骸は、ライが全部吸収しました』
死骸の処理を終えた、カイたちが戻ってきた。
『持っていた物や装備品も、ライが持っています』
ライが、持ってきた物を吐き出し始めた。
かなりの収納できるようだ。そうなると、遠征時の食料や飲料の持ち運びを考えたくなる。
ラノベ設定では、スライムは汚れなんかを食べてくれる。ゴブリンが溜め込んだ物も綺麗にできるのではないか?
「ライ。この水筒の汚れを落とせるか?」
ライが、水筒を見て、カイと何か話しているようだ
『カズト様。ライが言うには、どれが汚れかわからないし、”表面の汚れだけを消化するなんてできない”と、いう事です』
「そうか・・・残念だ。あっライ。お前が悪いわけじゃないからな。俺も、できたら嬉しいな程度で考えた事だからな。気にするな」
うーん。ゴミが大量にあるし、これをライに片付けさせるしかないのか?
使えそうな物はなさそうだからな。
ん?
そう言えば、俺の固有スキルの、創造は何ができるのだ?
// 固有スキル:創造
// 融合:複数(レベル依存)の物体を一つにまとめる。
// :複数(レベル依存)のスキルを、一つのスキルにまとめる。スキルの発動条件は、融合時に付与する
// 分離:一つの物体を、複数(レベル依存)の物体に分ける
// 変形:物体を変形させる
十分すぎるほどのチートスキルだな。
これがあれば、使い道がなさそうなゴミたちにも意味が出てくる。
まずは、絶対に水筒の確保だな。
木で栓をする形のようだが、汚れているし、中も汚い。魔力を使うことになるだろうけど、大丈夫か?
それとも、異世界知識チートの定番。石鹸を作ったほうがいいか?
いや、ここは、創造スキルの実験を兼ねて、スキルでやってみよう。
まずは、汚れを落とすか。ゴブリンの皮脂や、土やカビだろう。一個一個指定しながら、スキルを発動する。それだけで、徐々に綺麗になっていく。中の加工も雑だし、穴も空いている。
これなら、棍棒から作り直したほうが良さそうだ。どうせ、ゴブリンが持っていた棍棒なんて他に使い道が無い。加工してしまおう。
カイとライに、数本棍棒を持ってきてもらう。ウミは、相変わらず、俺の膝の上で丸くなっている。
持ってきてもらった、棍棒の表面の汚れを落として、創造スキルの変形を発動する。
水筒と呼べる物になってきた。何度か形を調整しているが、似たような物が、11本出来上がった。このくらいあれば、水には困らないだろう。ライの収納にどれくらい入るかわからない。重さなのか、体積なのか、数なのか、いろいろ試しているが、限界に達した雰囲気はない。
剣を使って、鍋やフライパンなんかも作っていく、棍棒がまだ残っているから、融合させて、まな板にする。
作った物をライに収納してもらった。
剣や棍棒や、よくわからない物がまだ残っている。
そうだ!寄木細工でドアを作ろう。表側を、岩で偽装すれば、洞窟の入り口だとは気が付かないだろう。鍵を作る代わりに、寄木細工にしておけば”おもしろ”そうだ。
寄木細工は、生前?に趣味で作った事がある。簡単な仕掛けで十分だろう。表の岩を動かして、”99”になるように移動したら、扉がスライドできるように作った。
”押す”でも”引く”でもなく、引き戸だ。
それを、洞窟から、2m程度入った場所に設置する。
融合と分解を駆使した作業を行う事、4時間。満足できる物ができた。
『カズト様。それは?』
何か作っているのは解っていたのだろう。
終わって、俺が少し洞窟から離れたタイミングで、カイが話しかけてきた。
「あぁ俺たちの住処を荒らされないためにな。こうしておけば、洞窟があるとは思わないだろう?」
洞窟の中に空気穴が何個か空いているのは確認しているので、完全に塞いでも問題ないだろう。上に少し隙間をのこしてあるので、そこまで神経質になる必要もない。
水と、果物の確保はできそうだが、タンパク質が心配だ。
言葉を選ばずに言えば、”肉が喰いたい。”だ!
無いものはしょうがない。米も無ければ、麦もない、蕎麦も無い。穀物を手に入れようと思ったら、街に出るしか無いのだろうけど、なんとなくまだ出ないほうがいいような気がしている。別に、100kmを移動するのが面倒だからでは・・・ない。
果物を、先に摂りに行ってから、小川に向かった。
『カズト様』
「ん?」
『ライが、何をしているのかと聞いています』
「あぁ水を、この水筒に入れて持っていこうと思ってな」
ライとカイから、何か”どうしよう”という間が感じられる。
『カズト様。ライなら、そのまま水を持っていけますし、必要なときに、必要なだけ取り出す事ができます』
「え?どうやって?」
ライが、小川に、ストローの様に伸ばした触手を入れて、水を取り込む。しばらくしてから、水を同じように触手のようにした場所から吐き出している。水が若干綺麗になっているようにも思える。
え?
あぁライが不純物を取り除いているのか。
「おぉぉすごい。それなら、ライ。できる限り、水を取り込んでおいてくれ」
水を取り込んでいるライを見ながら、これからの事を考える。
使命は何もないと言っていたが、何もしないのも気が引ける。その上、戦闘訓練をしないと、簡単に死んでしまう世界である事は間違いないようだ。それに、スキルを定期的に入手できる手段を考えておかないと、街に出たときに困ってしまいそうだ。
ダンジョン・アタックも考えないでも無いが・・・。
『カズト様』
「あっごめん。終わった?」
『はい!』
「それじゃ戻ろう」
洞窟の中で、カイとウミの説明になかった場所が有ったな。安全を確保する為にも、確認しておいたほうがいいのだろうな。
洞窟のドアには、誰も触れていないようだ。
さて、剣は持っているが、もう少し武装をしておきたい。
カイやウミやライが持てそうな物は無いか確認くらいはしておいて、寝てから、確認をしても遅くないのだろう。
武装は無理だったが、面白い物がいくつか見つかった。
// スカーフ
// スロット:空き×2
が、二枚
// 腕輪
// スロット:空き×3
が、3個
それから、スキルカードではないカードが10枚ほどで、全部が人の名前らしき物が書かれている。
称号に、盗賊 や 殺人鬼 とあるので、なんらかの犯罪を犯した奴らなのだろう。
そして
// 速駆の指輪
// スキル:速駆
// スロット:空き×2
スキルが付与している指輪が一つあった。
// スキル:速駆
// 魔力の続く限り、”速く”走れる
多分、価値はすごいのだろう。戦力アップに直結するような物がなかったのが残念だ。
スカーフは、何か、適当なスキルが付けられたときに、カイとウミに巻くことにしよう。スロットが無いスカーフが、あと8枚ほどあったので、多分、人がお揃いで付けていたのかもしれない。
指輪と腕輪は、俺が付ける事になった。
カイとウミとライにつけようかと思ったが、無理だった。正確には、3人から拒否されたのだ。スキル創造の変形を使えば、サイズの調整はできるのだが、重くなるのでいらないとはっきりと言われてしまった。
装備は何も変わらなかったが、ゴミだった物が整理できただめでも良かったと考えよう。
スカーフの汚れを分解して、結合して簡単な掛け布団にした。何が原因かわからないが、スロットができたのは、ご愛嬌だろう。
ライの収納に余裕が有るらしいので、掛け布団も持って歩くことにする。
今日は、岩壁によりかかりながら、カイとウミとライと一緒に、掛け布団をかけながら眠ることにした。
/***** ??? Side *****/
ドアをノックする音が聞こえる。
「はいれ!」
ドアが開けられて、3人の若者が一礼して部屋に入ってくる。
「それで?」
3人の中で一番豪華な鎧を身に着けた者が一歩前に出て
「はい。ブルーフォレストに向かったのは間違いないようです」
「そうか・・・やはり、目的は、ダンジョンか?」
「だと思います」
4名は、苦虫を噛み潰した様な顔をしている。
「奴らが宣言した場所で間違い無いのだな」
「・・・わかりませんが、ブルーフォレストに向かった事から考えますと、まず間違いないと思われます」
「そうか、ご苦労。休んでくれ、これは報酬だ」
老年の男が、複数のカード上の物をテーブルに投げる。
3人は、カードを受け取り、立ち上がって、一礼してから、部屋から出ていった。
老年の男性は、部屋から出ていった事を確認して、窓から外を眺めている。
「愚か者が・・・スキルでどうにかできるような物では無いのに、どうしてわからないのだ・・・・」
/***** ??? Side *****/
カードを受け取った3人は、屋敷から自分たちが拠点にしている宿屋に向かった。
「ねぇよかったの?」
「何がだよ」
「あの辺り、ブルーフォレストって、サラトガの連中が取り逃がした、盗賊ギルドが逃げ込んだ場所でしょ?」
「大丈夫だろう?護衛も連れて行ったらしいからな」
「でも・・・」
「それなら、お前が、領主様に、お伝えすればいいだろう?」
「え?」
「そうだな。それで、お前が、ブルーフォレストに確認に行けばいい。俺は、面倒な事は嫌だからな」
「そんな・・・」
3人の間に沈黙が流れる。
カードはいつものように、レベルだけが解るようになっていて、内容は隠されている。
レベル5のカードが15枚ある。一人、5枚ずつだ。宿屋の料金が、一晩レベル4を3枚で食事が1食ついてくる。半月近く宿に止まる事ができる。かなりの収入になった。これをもらって、知らんぷりを決め込むか、再度調べた情報として、領主に告げるか。
男性二人は、さっさと自分の取り分を持って、部屋に戻っていった。
取り残された女性は、残されたカードを、持ってノロノロと立ち上がった。自分の正義感との戦いだが、どうやら、男性二人のように、カードを持って部屋に戻るようだ。
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