【第七章 神殿生活】第九話 案内
揉めるかと思ったが、ゲートを入る順番は最初から決めていたようだ。
最初は、ナッセ・ブラウンが入った。
フェナサリムが続いた、最後に残ったのは、イリメリだ。
タシアナの弟や妹たちは、まだ商隊と一緒に待機してもらっている。まずは、ギルドのメンバーと商隊の主要メンバーだけが、神殿に入ることに決まったようだ。順番や神殿に向かう人選は、関与していない。
俺とセバスチャンで、ゲートの周りを確認する。
「セブ。こっちは頼む。後で、眷属を向かわせる」
「わかりました。いってらっしゃいませ」
セバスチャンが深々と頭を下げるのを見てから、俺もゲートを潜る。
俺がゲートを出ると、皆が揃っていた。
周りを探してみるが、ミトナルとマヤは来ていない。どうやら、案内は俺がしなければならないようだ。
ゲートを潜った場所は、馬車での移動を考えて広めに確保している。
ギルドのメンバーと商隊のメンバーだけなら、余裕だ。
「リン君!」
「ん?フェム?どうした?」
「ここが、ゲートの入口?」
「そうなる。こっちは、貴族が使うゲートだ。貴族向けにも、同じような場所が3箇所・・・。豪商と下級貴族用。上級貴族向け。王族向け。に、分ける予定だ」
「そう・・・。ルナ!」
ルナとアデレードは、商隊の関係者の装いから着替えている。外装を脱いだだけだが、雰囲気が変わっている。
ここに居るのは、身内だけだと判断したのだろう。
「何?」
フェナサリムとルアリーナが何かを話始めている。
俺の所には、サリーカが来て、ゲートに関係する質問をしてくるが、答えられることではなかった。スキルの内容なんて、俺が解るはずがない。どうやら、サリーカとしては、ゲートをスキルで再現できないか考えているようだ。ゲートがスキルで代用できたら、いろいろ便利にはなるだろう。頑張って欲しい。
「リン君。ルナと殿下・・・。アデレードに確認したけど、やっぱり・・・」
話をまとめると、ゲートの前が広いのはいいけど、広すぎるようだ。
貴族が使うことを考えると、ゲートから繋がる場所に小部屋を用意した方がよいだろうと言われた。
小部屋を”格”で分けるほうが貴族は喜ぶらしい。よくわからない感覚だが、王族と辺境伯の娘が言っているので、大丈夫だろう。それから、王族用のゲートは必要がないだろうと言われた。
下級貴族用と上級貴族で分ければ十分で、豪商は、貴族用のゲートを使いたければ、”貴族に話をつけるだろう”と教えられた。
小部屋も、通路を作って、並べるようにした方がよいと言われた。
王宮にある控室が参考になるだろうと言われて、アデレードが説明をしてくれた。ゲートを中心にして、小部屋を用意すればいいと言われた。その先に検閲を行う場所を作れば十分らしい。
他にも、いくつか提案された。
ゲートは二か所にして、”入口”と”出口”で使い分けるほうがいいだろうということだ。
セバスチャンたちとの打ち合わせも必要になるが、辺境伯家の娘と王家の代表?と思われるアデレードが言っているのだ。大筋では、その方がいいだろう。話を聞いていると、セバスチャンたちの負担も少なそうだ。小部屋を専用にすれば、専用の従者を貴族が雇うだろうと教えられた。従者は、神殿の内部かアロイに常駐すればいい。
入口だけで時間を使ってもしょうがないので、あとでまとめて話を聞くことにした。
入口から、神殿の内部に入る。
建物の説明は、省略した。王都にあった街並みを真似している。
家具はまだ作っていないが、大まかに役割を持たせられるような建物にしてある。
やはり、ギルドのメンバーは”大浴場”に喰い付いている。上下水道もしっかり完備していると説明をした。
街並みを見ながら、アロイ側に作った”村”に向かう。
村の中を案内している時に、皆から表情が抜け落ちていた。
「リン君?」
「ん?」
「これは、村?」
「村だろう?」
「・・・。城塞都市じゃなくて?」
「あぁ”村”だ」
サリーカが何か言っているが無視する。
それに、村でなければならない理由がある。
村なら村長が統治すればいい。村は、開拓した者たちが住み着く場所だ。町になると、代官が置かれてしまう。街でも同じだ。セバスチャンから聞いている。だから、”俺が勝手に開拓した場所”だから”村”だ。
たとえ、1,000名以上が住めるようになっていても、城塞があり、立派な堀があり、水が蓄えられていても、ここは”村”だ。
城塞の上には、バリスタが置かれていて、防衛能力が有っても、ここは”村”だ。
「リン君。無理が・・」
「サリーカ。ここは、俺が開拓した。だから、ここは”村”だ」
「・・・」
納得してもらう必要はないが、ここは”村”だ。
どこの貴族の領地ではない。
「ルナ。ここは、俺が貰った土地だよな?」
表情を消していたルアリーナとアデレードが揃って頷いている。
事情は聞いているのだろう。
「”村”なのはいいけど、村長や村民はどうするの?」
「アロイで宿を出している人が知り合いだ。良心的な店舗を経営している人たちに来てもらおうと思っている」
「え?」
「俺の両親と一緒に、旅をしたことがある仲間・・・。らしい。もう一人は、俺とマヤがパシリカを受けるために、村から王都に向かう時に護衛をしてくれた人で、”まとも”な護衛だった人だ」
「へぇ・・・」
「渓谷越えのアロイは衰退するのが解っている」
「そうね。値段が、少し高い程度なら、神殿を使うのは確実・・・。そういうことね」
なにか、サリーカが一人で納得している。
「ん?」
「リン君?」
ルアリーナだ。
「ん?ルナ?もう説明したと思うぞ?」
「こっちの”村”はわかった。貴族が出入りする場所も教えてもらった」
「あぁ・・。そうか、メルナ側の出入口だな」
「そう。どうするの?」
ルアリーナの質問で、解っていないのは、アデレードとサリーカとタシアナだ。イリメリとフェナサリムは、ルアリーナの質問の意図が解っているようだ。
「森の中に、古ぼけた教会がある。そこから、神殿に入ることができる。そちらは、完全にギルドに任せようと思っている」
「わかった。開拓は?」
「まだだ。何が必要だ?」
「そうね。道は欲しい。メルナに繋がる道と街道から繋がる道があると、便利。この村の規模は必要ないとは思うけど・・・」
「わかった。どのくらいの規模が必要だ?」
「教会は、どの辺り?」
「森の中心だ」
「メルナの近くに広がっている森?」
「そうだ」
「森の中は、スコルやフェンリルが居るから注意が必要だぞ」
「そうなのね」
俺とルアリーナの会話は、言葉を濁しているが何が必要になるのか聞いている。
森は、アウレイアやアイルたちが、意識がない魔物たちを駆逐している。動物たちは、見逃している。生態系が多少崩れても問題にはならないと思っている。最悪の場合にはブロッホが教会に居るだけで、魔物は寄り付かないだろうと予測している。
ルアリーナからの要望は、やはり道だ。
道は、2か所。メルナに繋がる道は、当初の予定通りだ。俺が貰った屋敷から、伸ばしていけばいい。馬車がすれ違えるくらいでいいだろう。
もう一本は、街道から繋がるようにすればいいのか?詳細は、作るときに聞けばいいだろう。
「あぁ」
見回すと、少しだけ離れた場所で、サリーカがリカールと話をしている。
イリメリとフェムサリムも、商隊の人と話を始めている。
ここでしなくても・・・。
それに、メルナ側に残っている人たちも居る。
「神殿に戻って、詳細を話したい。それから、サリーカ!」
「ん?何?」
「セトラス商会への依頼になると思うのだけど、神殿で必要な物資の購入を頼みたい。支払いは、魔石になってしまう」
サリーカではなく、リカールが俺の前に出てきて要望を聞いてくれる。
「大丈夫です。足りない物は、王都以外で買い集めます」
リカールは解っている。
王都で、セトラス商隊が普段は買い集めない日用品や家具を買い集めたら、噂になってしまう。
「それから、王都以外での買い物の時に、奴隷を買い集めて欲しい」
「奴隷ですか?」
「そうだ。犯罪奴隷は必要ない。出来れば、口減らしにあったような者たちを頼む。借金奴隷は、借金の理由次第だ」
リカールは、俺が求めている人材がわかったのだろう。
条件付きだが、承諾してくれた。
セトラス商隊では、奴隷を買い集めるのは難しいから、知り合いの奴隷商に頼むことになると言っていた。なんとなく、話の筋が見えたので承諾した。俺の予想通りの人物が、大量の奴隷を従えて来てくれるだろう。
神殿に移動して、中央広場の中央にある。ギルド本部用の建物に、揃って入って、打ち合わせを行うことになった。
そこに、アイルと一緒にミトナルが現れた
肩には、妖精の姿でマヤが居る。皆に紹介しなければならないから丁度良かった。
「あれ?アデー?なんで、リンと一緒に居るの?」
「へ?」
マヤが部屋に入ってきて、アデレードを見つけて、話しかける。
アデレードも、マヤを見て、少しだけ考えて・・・。
「マヤ?」
そもそも、二人は知り合いなのか?
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