【第二十五章 救援】第二百五十五話
エクトルとテル・ハールが、ステファナと私が居る場所まで戻ってきた。
「ステファナ様。草原エルフの者たちで、姫からの使者です。我らに敵対する意思がないと確認しました」
「わかりました。案内をしてくれるのですよね?」
「はい」
「いきましょう」
ステファナ様が決断しました。
しかし、聞いておくべき事があります。
「お待ち下さい。ステファナ様。旦那様へのご報告はどうされますか?」
私たちだけで移動して治療を行って、ステファナ様のご家族への挨拶をして帰ってきても、旦那様は何も言わないでしょう。奥様は、旦那様との時間ができたと喜んでいらっしゃるだけかもしれません。
「そうですね。旦那様にはご報告をしないと・・・。それに、安否のご連絡も・・・」
「はい」
「モデスト。お願いできますか?」
「私が、離れるのは良くないでしょう」
「そうですね」
ステファナ様があたりを見回すが、ウミ様は戻ってこられていない。
あたりには、部下が居ますが、ウミ様が居ない状況で、配置の空きを作るのは好ましくない。
「モデスト。部下の1人に、旦那様にご報告をお願いできない?」
「可能ですが・・・」
ステファナ様が言っているのはわかるが・・・。
「エクトルも居ますし、草原エルフたちが襲ってきても、最悪は私と貴方と護衛の命だけです。旦那様と奥様にお知らせしておけば、カイ様とウミ様もいらっしゃいます。対処が可能なのでは?旦那様と奥様に、こちらの事情が伝わらない方が怖いです」
「・・・」
「モデストが、私のことを考えてくれるのは嬉しいのですが、大事なのは旦那様と奥様です。私の命など、旦那様と奥様と同列に扱わないでください」
「わかりました」
ステファナ様の言葉なので、納得します。が・・・。
旦那さまから出された命令は、”ステファナを守れ”です。旦那様のご命令を優先するならば、私はステファナ様の命令を退ける必要が出てきます。しかし、今のステファナ様に進言しても、強い口調で否定されて、命令を追加されてしまう。
部下を1人、旦那様のところまで移動させよう。
報告の指示を出して、ステファナ様を見る。
「どうしました?」
「いえ、旦那様への報告は、部下に任せました」
「わかりました。集落に進みましょう」
ステファナ様からの指示が出て、テル・ハールを先頭に変えて、里を目指します。
5分も進むと、草原に変化が出てきます。
「テル・ハール殿。障壁があるようだが、大丈夫なのか?」
「え?」
テル・ハール殿が、驚愕の表情でこちらを向く。
エクトルが、テル・ハールの肩に手を置きながら、こちらを見る。
「モデストも異常だと伝えただろう?」
テル・ハール殿は、なにかを悟ったようにこちらを見るが、障壁が気になってしまう。
どうやら一つのスキルではないようだ。複数を重ね合わせている。実現方法が解らないが、旦那様なら実現出来るかもしれない。
「エクトル。旦那様や奥様なら、これほど近づく前に障壁に気がつかれています。これだけわかりやすい障壁なら気がつくのは当たり前では?張り続けているようですね。スキルカードではないようですね。そうなると、だれかの固有スキルですか・・・。このような使い道があるとは、旦那様に頼んでみましょう」
「モデスト殿。この障壁がわかるのですか?」
テル・ハール殿が、独り言を聞いていたようで、質問をしてきた。
こんなにわかりやすい障壁では、近づけがいろいろと解ってくる。だから、近づく前に撃退したかったのか?
「ん?偽装を兼ねているのだろう?」
エクトルが呆れた表情で、テル・ハール殿になにかを告げています。
ただ結界で守るのではなく、障壁の上に偽装を行って、視覚を惑わす。面白い方法です。遠見スキルでは、見破れないでしょう。
だから、エルフ族の里を特定するのが難しいと言われているのですね。遠見スキルでは、障壁と偽装の効果で場所がわからない。近づかないとわからないが、近づいたらエルフ族が襲いかかってくる。そうなると、場所が不確かになる。
「・・・」
「あぁそうですか・・・」
「モデスト殿?」
「障壁は、円状に作っていないのですね。あっ違いますね。複数の障壁を展開しているのですか?それで、方向感覚や周りの景色を誤魔化して、里の位置を特定させないようにしていると・・・」
「モデスト。解析も大事ですが、まずは旦那様の」「そうでした。ステファナ様。もうしわけございません」
「いえ、いいのです。旦那様への報告は任せましたよ」
「はい」
ステファナ様の言っている通りだ。まずは、旦那様から言われている内容を遂行しなければ駄目だ。その上で、ご報告を行って、判断を仰げばいい。
「テル・ハール殿。障壁が無い所を進めばいいのですか?それとも、障壁を壊すのですか?」
「え?あっ大丈夫です。障壁は、私がいれば通過できます」
「ほぉ・・・。それは、一時的に、障壁が消えるのですか?それとも、テル・ハール殿の周囲だけ障壁に影響されないようになるのですか?」
「どうして・・・」
「旦那様にご報告するときに、情報として追加したほうが良さそうな話ですし、旦那様のお住まいになっている場所に同様の障壁を展開するときに参考にしたいと考えています。もちろん、話せる範囲で構いません。しかし・・・」
「モデスト。テル・ハールを苛めないでくれ・・・。これでも、里では上位の者だ」
「エクトル。それなら、なおさら、彼らは私たちに”借り”がありますよ?」
「それは、認めるが、モデストの考えだけで、貸しを使っていいのか?それこそ・・・」
「そうですね。旦那様のご意思を確認しなければなりませんが・・・」
ステファナ様を見ると、どうやら同じ考えのようだ。
エクトルを見ると、ステファナ様の表情から、何かを悟ったようだ。
テル・ハール殿がエクトルの静止を聞かずに、質問に答えてくれました。
「モデスト殿。貴殿が言っている2つの方法を両方とも使っている」
「ほぉ・・・」
「テル・ハール!」
「エクトル。大丈夫だ。それに、モデスト殿だけではなく・・・。障壁を、破壊できるだろう?破壊されては・・・。それに、方法が判明しても、簡単には突破できない」
障壁の突破には、それほど興味は無いのですが、テル・ハール殿がこちらの考えを誤解している状況は利用できます。ステファナ様も同じ考えのようです。
テル・ハール殿は、障壁の説明をしてくれますが、”障壁の形が変えられる”という事実はすぐにでも旦那様に知らせるべき情報です。そして、旦那様の居住する場所を単純な障壁から、エルフの里を守るような障壁に変更するように進言しましょう。旦那様の眷属に協力をお願いすれば、障壁の維持やメンテナンスは出来るだろう。
先頭を、エクトルとテル・ハール殿に譲ってから、何度か障壁を越えた。
「ほぉ・・・」
最後の障壁なのだろうか、一番強度が強い障壁を超えると、里らしき場所が見えてきた。
少しだけ小高い丘の上に集落は作られている。背後には、森が迫っていて、左右に流れる川が天然の堀の役目になっているのだろう。近づけば、丘の麓にも見えないように細工されている堀があり、かなりの深さのようだ。
川には橋がかかっていない。堀にある橋を渡るしか無いようだ。後背に迫っている森との位置関係はわかりにくいが、後背にも備えはあるのだろう。
旦那様の住居と比べると、防御には不安な感じはするが、天然の地形を利用した集落のようにも見える。天然のち京に頼ってしまっているので、壁などが無いので、遠距離攻撃が可能な者なら簡単に落とせそうな集落だ。堀で周りを囲んでいるように思えるのもいただけない。包囲するだけで、攻める必要も無いのだろう。旦那様の住居の安全性をあげるために、なにか参考になればと思ったが、障壁以外には見るべきところはない。
「モデスト殿。ステファナ嬢。もうしわけないが、待機していただけないでしょうか?里に知らせに行きたい」
ステファナ様を見ると、うなずかれているので、テル・ハール殿に許可を出す。
時間制限も忘れない。1時間以内に戻ってこなければ、”敵意がある”と判断して攻めるか引き返すかを選択すると通告した。
テル・ハールは、ステファナ様に頭を下げてから、集落の方に急いだ。
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