【第七章 王都ヴァイゼ】第七話 領主からの依頼

 

 ヤスはエミリアに命じて結界を解除した。

「ヤス殿。感謝します」

 コンラートが近づいてきて、まずヤスに感謝の言葉を口にした。

 ヤスはコンラートの言葉を流しながらドーリスに話しかける。

「いや、それは良いけど・・・。ドーリス。もう出られるのか?次の街に行こう」

「いえ、領主から依頼がありまして、その関係で彼らに来てもらいました」

 襲撃犯を完全に無視してヤスとドーリスは話をしているのだが、目の前で拘束された連中がなにか文句を言っている。

「・・・。はぁ・・・。ドーリス。そこで転がっている芋虫以下の奴らは潰していいか?うるさくてたまらない。セミトレーラなら簡単に潰せるぞ?」

 もちろん、実行するつもりは無いのだが恐怖を与えるには十分なセリフだ。
 第二分隊の連中はヤスの言葉を受けて、ディアナがエンジンを”ふかした”だけで黙ってしまった。

 鎧を着込んだ1人の男性がヤスの前に出て頭を下げる。

「神殿の主様。第二分隊の処遇は守備隊に預からせて欲しい」

「え?」

「ダメでしょうか?」

「いや、もともと俺が捕縛したわけではないし、必要ない。むしろ連れて行って欲しい」

「感謝いたす」

 隊長は深々と頭を下げた。

「それだけですか?」

 ヤスは本題が別にあるのは、ドーリスのセリフからわかっていたのだが、どんな依頼なのかわからないので自分から聞けなかった。

「いえ、失礼しました。私は、守備隊の隊長をやっている。フォルツと言います。神殿の主様。領主からの依頼があります。受けていただけませんか?」

 ヤスは、ドーリスと一緒に来ていたコンラートを見る。
 しかし、動かないので、自分が話を進める必要があると判断した。

「フォルツ殿。私のことは、ヤスと呼んで欲しい。神殿の主と呼ばれるのは好きじゃない。それで、依頼とは?物品を運ぶしか出来ないぞ?」

「わかりました。ヤス様。領主の依頼は、”とある村に塩を運んで欲しい”とのことです」

「塩?」

「塩の供給が途絶えると死活問題です。村には定期的に塩を運んでいたのですが、スタンピードやその後の問題で運び手が集められなくて、ヤス様なら運べるのではないかと期待しております」

「ドーリス。村の所在は聞いているのか?」

 ヤスは、ドーリスが知っていると考えて、カマをかける意味もありいきなりとドーリスに聞いた。

「場所はわかります」

「わかった。ドーリス。コンラート。冒険者ギルドで依頼として処理できるのか?」

 コンラートがドーリスを手で制してからヤスに答えるようだ。

「ヤス殿。冒険者ギルドでは受けられません。ドーリス殿が神殿の街にあるギルドの代表として依頼を処理しなければなりません」

 え?という顔をするドーリスだったのだが当然だ。
 ヤスは独立した国”相当”と考えられる。そのために、ドーリスが正式な就任前だが、神殿の街にあるギルドとして依頼を処理する必要があったのだ。

 だが、ドーリスとしては最後の依頼として領都の冒険者ギルドが処理を行うものと考えていた。

「そうか?それでは、ドーリスが受け付ければいいのだな?」

「はい」

「ドーリス。頼む。運送料は、ドーリスに任せる。相場がわからないから俺が口出ししないほうがいいだろう」

「わかりました。それで、ヤス殿。塩は馬車に積んでほしいのですが、全部を載せられますか?」

 ヤスは、後ろから来ている馬車を見る。

「2台だけか?」

「そうです」

「塩は、ツボかなにかに入っているのか?」

「いえ、木箱に入っています」

「それなら積み重ねても大丈夫だな。十分に持っていけるぞ」

 それから、コンテナの一つを開けて馬車で持ってきていた塩の積み込みを始める。
 ヤスが積み込みを監視しながらコンラートが塩が入っている箱の個数を数える。

 ドーリスと隊長のフォルツは離れた場所で運搬費の相談をし始めた。ヤスの承認を得ていると言っても安い料金で受けるわけには行かない。今回限りの料金設定をしても問題ないのだが、今後を考えるとある程度の形を決めた料金にしたほうがいいのはお互いにわかっている。
 荷物を運ぶのは小規模の商隊にとっては糧を得るために丁度いい。そして、その商隊を護衛する者たちにも糊口を凌ぐためにも無いと困る依頼なのだ。アーティファクトを基準にすると料金が安くなってしまう。護衛が必要ないので当然だろう。

 二人の出した結論は、料金は通常の商隊に依頼する場合の2倍にする。『時間を買う』や『安全を買う』と認識してもらうのだ。依頼場所までの移動費も含まれるために実際にはそれほど高くないのだが、依頼が続発しても対応できない。アーティファクトが使える者が増えてきたら値引きも考慮するという話で落ち着いた。

「ドーリス。積み終わったぞ?」

「え?全部ですか?」

「他にその村に持っていく物があればまだ余裕が有るぞ?」

 セミトレーラに積まれたコンテナの扉が開けられているのを、二人は唖然として見る。

「・・・。ドーリス殿。あの鉄の箱の中身が空だと知っていましたか?」

「いえ、知っていたら、2倍ではなく、3倍か4倍と言いました」

「そうですよね。私も箱と箱の間に積み込みが行われるものと思っていました」

 大型の馬車二台分の塩がコンテナの中に積み込まれている。コンテナは1/3も入っていない。

「ヤス殿。動くのですか?」

「ん?あぁ大丈夫だ。この・・・。あ!これは、コンテナというのだけどな。これが満杯になっても大丈夫だ。速度は出ないけど、動くぞ?ユーラットから神殿に向かう程度の山道じゃ問題なく上がれるぞ。2つとも満杯にしても問題ない」

「え?前の箱も中身は空なのですか?」

「そうだぞ?見てみるか?」

「いえ、大丈夫です。そうですか・・・。馬車10台分以上の荷物が詰めるのですね」

「うーん。これは、セミトレーラというアーティファクトだけど、フルトレーラにしたらこの倍は詰めるぞ?山道はつらいけど・・・。タイヤを変えればなんとかなるだろう」

 ヤスの言葉を聞いて二人は頭を抱えた。輸送量と時間を考えると2倍でも安いと感じてしまう可能性が高い。

 ドーリスがヤスの言っていた内容を思い出した。

「あ!ヤス殿。でも、人は運ばないのですよね?」

「あぁ道案内が必要な場合は別だけど人は運ばない」

「どんなに金貨を積まれても?」

「人を運ぶのは面倒だしいろいろ制約がある」

 二人は、ヤスの言っている制約をアーティファクトの制約だと解釈した。ヤスが言っている制約は、日本に居たときの法律的なことだ。日本の法律のおよばない場所なのだから、”関係がない”と言えるのだが、なんとなく人だけは運ばないと決めているのだ。

「ドーリス殿?」

「フォルツ様。ヤス殿は人を運びません。したがって、行商人には該当しないと思います。運んだ先で商売をしません。大量の物資を運ぶだけです」

「だから・・・。あ!そうか、それなら、さっきの設定で問題ないのだな」

「そうです」

 ドーリスがフォルツと決めた契約に納得したので、正式に契約を行う。場所は、コンラートがギルドに用意した。
 馬車は第二分隊の連中を載せて領主の館に移動する。ヤスとコンラートとドーリスとフォルツはギルドの個室に入って契約を締結した。

「ヤス様。お願いいたします」

「物資の運搬なら俺の仕事だ。しっかりと運ぶよ。村で運ばれた塩の確認をしてもらえばいいのだよな?」

「はい。ヤス様。領主様からの書簡をお渡しいたします。村長に渡せばわかるようになっています」

「わかった。村長に渡して、受領書をもらってくればいいのか?」

「受領書?」

「ん?村長が確かに受け取ったという書類がなければどうやって荷物が届いたと証明する?」

 ヤスは思い違いをしていた。
 領都からユーラットに武器や防具を運んだときにも受領書はなかった。依頼した物が届かない場合が多い世界だ。届いた受け取った場所で料金の支払いがを行う。今回の様なレギュラーな輸送の場合でも、護衛に守備隊がついたり、第三者が一緒に村まで行ったり、信頼する者が確認するのだ。そのために、受領書という考えは無い。ヤスの場合には、荷物だけを預かって確実に届ける。届いた荷物の確認は、先方とヤスで行うので、受領書がないと困ると考えたのだ。

 ヤスの考えを聞いて3人は関心をした。
 新しい考え方だが、アーティファクトを使った運搬では必要になる。今回は、ドーリスがギルドの人間として村に話をして輸送を見届ける。
 王都からの帰りに、領都に寄って守備隊から料金をもらう契約になった。

 契約に納得したヤスは、ドーリスと一緒にセミトレーラに乗り込んだ。
 もちろん、コンテナを確認した。しっかりと固定されているのは当然だとして荷物が偏っていないことを含めて入念に行った。

 エンジンに火をいれて、アクセルを踏み込むとゆっくりとした動きでセミトレーラが動き出した。
 それを、塀の上からコンラートとフォルツは見送ったのだ。

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