【第四章 スライムとギルド】第五十九話 退場する者

 

 ギルド日本支部が本格的に施設の拡張と人員の確保を始めていたころ・・・。

 その裏では、日本ギルドが看板を降ろしていた。
 日本ギルドが入っていた雑居ビルの部屋には、ブローカーと言われる男が入居を行っている。部屋の内装もそのままになっていたために、居ぬきでの契約だ。追加したのは、シャワールームくらいだが、それも家主が負担した。

 家主が次の入居可に配慮するほどに、日本ギルドの最後は酷かった。
 幹部連中は、連日のように打ち合わせを行っていたが、徐々に参加者が減っていった。そして、参加者が減れば、その参加者が連れてきた支援者が日本ギルドに詰めかける。”連絡が取れなくなった”という理由だ。中には、裏社会の連中を使って脅しをかける者まで現れた。ドアには靴の跡が残ることは日常茶飯事だ、警察が出動することも頻繁に発生した。それでも、日本ギルドはなんとか体裁を保っていた。

 しかし、日本ギルドの理事をしていた議員の秘書が、静岡のホテルで自殺したのをきっかけに、さらなる崩壊が始まった。
 議員が、日本ギルドから得た情報を、一部の団体に流していた。その団体が、魔物が存在しない地域であり情報を使って、日本の国益を脅かしたのが問題になっていた。
 秘書は、ギルド日本支部から情報を盗んでいたことその情報を日本ギルドに渡してから情報を流出させていた。ギルド日本支部の人間を日本ギルドの名前を使って脅していたこと、企業に魔石を法外な値段で横流しをしていたこと、それらの事実を認めて、命で罪を償うと遺書を残していた。

 しかし、とある映像がネットに流れた。
 自殺したと報道されていた秘書が、静岡のホテルの部屋ではない場所で首を縛られて殺される映像だ。そして、遺体をホテルに運び込んで、自殺に偽装した。警察が遺書だとした物も最初は見つかっていない。公設秘書が静岡に到着して、自殺した者が私設秘書で、議員を含めて皆で行方を捜していた。と、いう情報を警察に渡した。そして、私設秘書から議員に届いた遺書と思われる封書を渡した。

 静岡県警は、当初は自殺・他殺の両面で捜査を行っていた。
 しかし、公設秘書が連れてきた警視庁が捜査を引き継ぐと宣言した。ろくな捜査をしないで、翌々日には自殺と断定された。遺体は遺族に戻される前に、火葬された。ホテルの部屋も、自殺と判断する前に、ホテル側に引き渡している。

 これらの情報が各種サイトに流れた。

 議員は、ネットの情報が確認された翌日に、”持病が悪化した”と言って地元の福岡にある自らが経営する病院に入院した。自称”正義の執行者”の動画配信者が病院に押しかけた。議員は、伝手を頼って持病の権威がいるという中国に渡った。議員は、その後にマスコミが探しても見つからなかった。

 議員が中国に渡ったという記事を読んでいた円香が呟いた。

「尻尾を切ったのか?奴が本体ではないのか?」

 表示されている記事を消してから、円香は顔を上げる。

「円香?」

「なんだ?」

「貴子嬢から、”動画はどうします?”と問い合わせが来ている」

 スキルを使った諜報活動の結果、大量の動画が保存された。褒められた方法ではない。

「千明に渡して欲しい。解析して、情報として使えるようなら、舞に提供する」

「わかった。それにしても、眷属が見た内容が、動画になるとは・・・。なんでもありだな」

「そうだな。そうだ!孔明。日本ギルドの事務所に入った奴は大丈夫なのか?」

 日本ギルドに入ったのではなく、日本ギルドが入っていた雑居ビルの日本ギルドが使っていた部屋を新たに借りた者が現れた。。

「大丈夫だ。IT系のブローカーだ」

「そうか・・・」

 居なくなった議員は小物だ。

「円香?」

「日本ギルドから押収した盗んだ書類の精査は?」

「手分けして見ている。いろいろ出てきているぞ?」

 書類というにはお粗末な物が多い。通帳が見つかったのが大きかった。最新の通帳ではないが、有益な情報が詰まっていた。お粗末な物だったが、日本ギルドが使っていた帳簿も見つかっている。

 不正に関係するような情報は、関係する機関に流している。

「貴子が欲しいと言っていた情報は?」

 孔明は首を横に振った。

「そうか・・・」

 円香が孔明に問いただしたのは、スライムになってしまった少女が望んだ、”なぜ父と母と祖父母が死ななければならなかったのか?”に迫る情報だ。

「大筋は解っている。記事にもなっている。しかし、該当者が存在しない。アンノウンだ」

 孔明が言っている通り、事件はニュースにもなっている。
 当時は新聞にも掲載されていた。それなのに、何も情報が残されていない。当事者になるはずの自衛隊にも情報がない。

「アンノウンとはいい表現だ。そもそも、事件は発生しているのだろう?」

 見えているのに見えない?そもそも存在しているのか?

 存在が消されてしまっている者が存在している。矛盾しているが、実際に事件は発生している。そして、記事にもなっている。記事では、実名で報道されている。しかし、それ以降の話が出てこない。国家権力が関わっていなければ不可能な状況だ。誰から指示しなければ発生しない。悪意なのか、思惑なのか、誰かなのか?組織なのか?曖昧な状況だけが解っている。

「あぁ当時は記事にもなっている。すぐに、芸能人の浮気報道や大学の大麻汚染が取り上げられて、下火になって忘れ去られた」

 孔明は、当時の記事を円香に見せて状況を簡単に説明した。
 別の記事で、興味を逸らす方法は昔から行われてきた手法だ。

 しかし、事件を起こした者たちは存在しているはずだ。
 綺麗に痕跡が無くなってしまっている。

「ん?あの当時なら、ギルドが制定されたばかりで、世間の関心は高かったと思う?それに、自衛隊員が絡んでいるのだろう?」

「あぁ不思議に思って調べたら・・・。当時のギルドが日本ギルドと結託している」

 円香も当時の状況を覚えている。
 腐った連中がギルド日本支部に居たことも把握している。円香が知っている者たちには、マスコミを動かす力はない。御用記者に情報を流すくらいはできるだろうが、記事を握り潰したり、都合が悪い記事を上書きさせたり、情報を操作できるような繋がりはない。

「結果は?」

 円香と孔明の話を聞いていた蒼が横から質問をした。
 蒼としては、事件の結果ではなく、情報の上書きの結果を知りたかった。

「半分は成功だ」

 円香が首を横に振りながら蒼に答えた。

「半分?」

「あぁ貴子が生き残った」

 円香の言葉に、蒼だけではなく、孔明も声を上げた。

「なっ!」

 驚いたのは蒼だ。

「そうか・・・。そこに繋がるのだな」

「孔明?何かあったのか?」

 孔明は、旧ギルドメンバーの情報から一つの書類を円香と蒼に見せる。

「旧ギルドのメンバーが何を求めていたのか・・・。まぁ金と権力だろうが・・・。それはいいとして、アンノウンの奴らが求めていたのは、日本ギルドに情報があったぞ」

 蒼が提示した書類には、山を入手する方法と、大凡の金額が書かれていた。
 由比の倉沢地区にある山だ。1軒の民家が含まれている。

「そうか・・・。狙いは、裏山か?しかし・・・」

 蒼が書類を見ながらうなっている。
 不自然な書類だ。そもそも、入手していない裏山の売買契約を匂わすような書類だ。

「あぁ”なぜ”何もない山が狙われた?」

「円香。孔明。それは、千明が見つけた・・・。と、いうか気が付いた内容がヒントになる可能性が・・・。ある」

「なんだ」

 中途半端な言い方だが、蒼も確かな情報だとは思っていない。ライの身元を調べる時に、県境にある山の情報を入手して、千明が不自然な状況に気が付いただけだ。

「簡単にいうと、あの嬢ちゃんが所有する山は、3000メートルを越える火山に近く、地権者が一人だけの山だ。そして、自然が多く残されている」

「どういうことだ?」

「千明が・・・。見つけた・・・。違うな、気が付いたのだけど、嬢ちゃんが所有する山は、地権者が一人だけだ」

 同じことを繰り返しただけだが、地権者が一人というのは珍しい状況だ。

「あぁそれで?」

「他の山は、地権者が複数になっていたり、所有者が不明な場所があったり、国や県だけではなく企業が所有者になっている」

「蒼?」

 孔明は、先ほどから同じことを繰り返している蒼の手元の資料を覗き込んだ。

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