【第七章 王都ヴァイゼ】閑話 クラウス・フォン・デリウス=レッチュ辺境伯

 

 フォルツから報告を聞いた。
 神殿の主は、強者の雰囲気は一切纏っていないと説明された。フォルツが腰の剣を振り下ろせば殺せると思えてしまったようだ。

 しかし、フォルツが試しに殺気を神殿の主に向けて踏み込もうとした瞬間に自分が殺されているビジョンしか見えてこなかったと言っている。強者ではないが、逆らってはダメな人間だ。フォルツは、儂に進言してくる。

「クラウス様。神殿の主。ヤス様と敵対しないでください。敵対したときには、全力で逃げてください。何分間の時間を稼げるかわかりませんが全力で間に入ります。もしかしたら秒で終わってしまうかも知れませんがクラウス様が逃げる時間を稼いでみせます」

「フォルツ。お前がそこまで言うのか?」

 フォルツは王都で行われる武芸大会でも上位入賞の常連だ。
 隠れた強者も居るだろうが、王国で5本の指に入る強者であるのは間違いない。そのフォルツが殺される未来しか見えないと言っている。

「はい。クラウス様。私のスキルはご存知だと思います」

 もちろん知っている。
 フォルツのスキルは、”危険感知”と”未来予測”だ。数秒後の未来が予測できるというスキルだが万能ではない。フォルツが持っている経験の上でしか成り立たない。しかし、有用なスキルである。フォルツのスキルで命を救われたのは一度や二度ではない。

「スキルが今までに無いくらいに警告をしてきました」

「そうか、不気味だな。でも、それは神殿の主である。ヤス殿の個人の武勇ではないのか?」

「わかりません。個人の武勇かもしれません。しかし、第二分隊の奴らが全力で攻撃して傷一つ付かないアーティファクトはそれだけで驚異です。第二分隊の練度が低いと言っても・・・」

「そうか、それが有ったか・・・。個人でも、フォルスを超える武勇を持ち、アーティファクトを操るか・・・。敵対は愚の骨頂だな」

「はい」

「そうなると、第二分隊とランドルフの処遇はしっかりと考えないとダメだな」

「クラウス様」

「今は、儂とフォルスしか居ない。忌憚のない意見が欲しい」

「ありがとうございます。第二分隊の全員・・・。参加していない者を含めて、奴隷に落として、ランドルフ様の護衛にしてはどうでしょうか?」

「ん?護衛?そうだな。主人は?ランドルフにして、ランドルフが死んだら、奴隷も死ぬようにすればいいのか?」

 ランドルフは、死ななければならない。しかし、儂が死罪を言い出せるタイミングは過ぎてしまっている。
 暗殺の実行も領地内では好ましくない。やはり、ドーリス殿の提案に乗るのが良いのだろう。

「クラウス様?」

 フォルスを交えて詳細に決めなければならない。
 実行は、フォルスに・・・。いや、ドーリス殿はなんて言っていた?

 神殿を管理している者が居ると言っていなかったか?

「フォルス。悪いが、魔通信機を使う。一緒に来てくれ」

「はっ」

 魔通信機は、会話が遮断される部屋に設置している。小型の物もあるが、この屋敷に設置してあるのは大型のものだ。複数の人間が、一つの魔通信機で同時に会話ができる物だ。

 フォルスが部屋に入ったので、まずは会話が遮断される魔道具を発動する。これで、外部に話し声が漏れない。

 数回の呼び出し音で相手が応答した。

神殿の都テンプルシュテットギルド、マスター代理。サンドラ』

伯爵領レッチュガウ領都レッチュヴェルトクラウス・フォン・デリウス=レッチュ」

「同じくフォルツ」

『お父様?フォルツ?』

「サンドラに質問と状況を教えて欲しい」

『お父様。その前に、ヤス様は?』

「エルスドルフに塩を運んでもらっている」

『ドーリスは承諾したのですか?』

「承諾した。依頼として正式に受諾してもらった」

『わかりました。なぜ?エルスドルフなのですか?あっそうですね。リップル子爵領を避けたのですね』

「そうだ。それで、ヤス殿のアーティファクトに攻撃をしていた第二分隊を捕縛した」

『え?馬鹿なのですか?お兄さまの命令だったのですか?』

「今、調査中だ」

『わかりました。それで、神殿の都テンプルシュテットギルドにご連絡のご用件は?』

「話が早くて助かる。サンドラ。神殿を預かっている。セバス殿とはどういった方だ?」

『え?』

 フォルツにも聞かせていた話しだが、ドーリスの提案を話した。

「ドーリスの提案だが、儂は採用しようと思うのだが、不確定要素としてセバス殿が挙げられる。サンドラ。セバス殿は見えたのか?」

『お父様。私は、今神殿の都テンプルシュテットギルドの人間です。安々と情報をそれも大事な人に関係する情報を流すとお思いですか?』

「思っていない。思っていないが、教えて欲しい」

『セバス殿は”見えません”でした』

「そうか・・・。お前は、この提案はどう思う?」

『ドーリスとセバスが話をしている場に、私もいました。かなり怒り心頭だったのも事実です』

「わかった」

『お父様。お待ち下さい。セバスがギルドに来ました』

「是非、話をしたい」

『聞いてきます』

 なんとタイミングがいい。
 魔通信機に出たセバス殿は、物腰が柔らかそうな声をしていた。
 だが、ヤス殿への忠誠心は強いのだろう。アーティファクトに攻撃を受けたという報告をフォルスがしたときに、魔通信機から流れてくる声の情報だけだが殺気が伝わってきたと思えてしまった。フォルスも感じたのだろう。儂と魔通信機の間に割り込むように立ちふさがった。

 すぐに殺気は消えたが恐ろしかった。
 そして、セバス殿からお願いは告げられた。

『レッチュ辺境伯閣下。旦那様に攻撃を加えた者たちの処遇は私たちにおまかせいただけますか?』

「セバス殿。ヤス殿から、私たちに任せるという言葉を頂いています。セバス殿のお気持ちはわかりますが抑えていただけないだろうか?」

 フォルツが神殿の主からもらった言葉を盾にセバス殿への譲歩を引き出そうとしている。
 儂は、第二分隊とランドルフは神殿に差し出しても構わないと思っている。それで友好関係が結べるのなら安いものだ。

『フォルツ殿。申し訳ない。私の説明が足りませんでした。実行部隊を私たちにお任せいただけないでしょうか?』

「実行部隊?」

『はい。旦那様には眷属が居ます』

「クラウス様!セバス殿の話は・・・」

「しかし、セバス殿。よろしいのですか?第二分隊といえ戦闘訓練を受けています」

『それは、オーガ種を単独で倒せるレベルですか?隊としてオーガの変異種を数体まとめて倒せる練度ですか?』

「え?オーガですか?無理ですね。単独なら、ゴブリンの上位種が限界で、隊としてはオークと対等に戦えます」

『そうですか・・・。その程度なら、100や200でも対処は可能です。オーガの変異種を単独で撃破できるのなら、同数は必要だと思っていました。良かったです』

「・・・」「セバス殿?」

『大丈夫です。旦那様の眷属に魔物種も居ますが、私の眷属に帝国の武装をつけさせます。旦那様との関わりは隠せます』

「わかりました。セバス殿に一任で大丈夫ですか?」

『大丈夫です。それで、必要な死体は?』

「え?」

『旦那様への攻撃を行った愚か者を簡単に殺してしまっては、私がマルス様や他の者に叱責されてしまいます』

「そうか・・・。息子のランドルフが死亡したと思わせられれば十分だな」

『死体が必要ですか?』

「ん?」

『戦闘の後があり血まみれの死体が転がっている状況ならどうですか?』

「クラウス様!その方が・・・」

「そうだな。セバス殿。お願い出来ますか?」

『わかりました。第二分隊の中で、旦那様に攻撃をしなかった者は居ますか?』

「居るが?全員が奴隷落ちの予定だ」

『奴隷にしなくて大丈夫です。その代わり、攻撃に参加しなかった者を、先に引き渡していただくことは出来ますか?』

 セバス殿から詳細な作戦が語られた。
 ドーリス殿から伝えられた作戦よりも実行の手間が少なく得られる物が多い。何より神殿との繋がりが作られる。

『旦那様は関係がありません。セバス・セバスチャンが考案して実行します。問題はありませんよね?』

「問題ない。儂とフォルツは、第二分隊の数名をユーラットに向かわせる。サンドラに物資を届けるためだ。そして、ランドルフを使者として送り出す。護衛は、ランドルフが隊長になっている第二分隊の者たちだ。使者の役目として不安もあるので、ランドルフの母親も同行する」

 ランドルフの母親も一緒に送り出すのは決定事項だ。
 一緒に奴が領地から連れてきた侍女も送り出す。身の回りの世話が必要だろう。

 セバス殿には申し訳ないが、我が領の厄介事が一気に片付く。
 神殿に大きな借りができる形になるのだが、今更、借りの一つくらい増えても問題はない。セバス殿と秘密の共有が出来たことが大きい。

 魔通信機を切断した。
 結界を発動したままフォルツと話を詰める。

 神殿の主。
 どのような人物なのか・・・。セバス殿と話をして余計にわからなくなった。

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