【第四章 スライムとギルド】第二十一話 報告(2)
「売りましょう。スキルが付与されていない物ですし、ギルドが持っていても意味がありません」
「茜。いいのか?魔石は、鑑定石で使うのではないのか?」
「そうですね。他にも、いろいろ使い道があるのは解っています。でも、アイテムボックスの中にあるものは売っても大丈夫です。数が多いので、全部売れるのか・・・。そちらの方が心配です」
「茜嬢。魔石は、有ればあるだけ売れる。売ってしまっていいのなら、日本国内だけではなく、海外にも欲しがる者は多い。でも、いいのか?残さなくて?」
「大丈夫です」
私は、両手をテーブルの上に置きます。
数回しか練習をしていませんが、できるはずです。私は、”やればできる子”なのです。
ほら、出来た!
手から、”コロン”と小さな魔石がテーブルに転がります。
よかった。よかった。無事に成功した。
「あ、あか、茜!な、な、何をした。お前は、い、いつから、手品が得意になった!」
蒼さんが動揺しています。それが欲しかった反応です。円香さんも、孔明さんも、怖いです。睨まないで欲しい。二人に反応してしまっている。クシナとスサノが怖いです。スキルの発動はしないように言っていますが、怖いです。
「ははは。そうですね。主殿の所で、魔石を産み出す手品を教えてもらいました」
冗談にしてしまおうかと思ったのですがダメですよね。
解っています。
「茜!」
円香さんが、テーブルを叩きます。
「魔石は、スキル持ちなら作ることが出来ます。ただ、コツが必要なので、簡単には出来ないと思います」
「え?」
ほら、”私を殴りたい”という表情になった。
「すまん。茜嬢。聞き直しで悪いが、今、”スキル持ちなら作れる”と聞こえたが?」
「はい。そういいました。主殿は、”私以外では試したことがない”と言っています。でも、スキルを持っていれば、できるというのは正しいと思います」
「そうか・・・。俺にもできるのか?」
「そうですね。まずは・・・」
私は、千明を見ます。
「え?私?」
「うん。千明。私の手を持って?」
「え?あっ。うん」
手を交差するようにして、手を繋ぎます。
そこから、主殿がしてくれたように、魔力を循環させます。千明の魔力は、主殿と違っています。でも、動けば大丈夫です。
「え?え?え?茜。なんか、動いているよ。気持ち悪い」
魔力を動かすなんて情報は、ワイズマンも持っていません。
でも、魔力を身体の中を循環させることは出来るのです。血液とは違うし、なんの物質なのか解りません。
でも、確かに存在はしているのです。
不思議な感覚です。
目に見えない。
匂いもしない。
触ることも出来ない。
でも、存在はしている。
そんな物質の様なのです。
「少しだけ、我慢して、動いている感覚を覚えて」
この感覚を掴むまでが難しいのです。
ふふふ。
これが出来れば、ほらアトスも千明を見ています。多分、アトスなら解るのでしょう。
糸を出しています。
魔力の放出ができています。
あの魔力の糸を調べれば、どんな部室なのか解るのでしょうか?
楽しみです。
そもそも、魔石を調べているのに、いまだに物質の特定ができないのが不思議でしたが、自分で魔石を産み出せるようになって解ってしまいました。
魔力や魔石は、私たちが知っている科学の埒外にあるのでしょう。
「うん」
「いくよ!」
一気に魔力を流し込む。
そうしたら、両手に異物が出来るのが把握できる。
「え?」
両手に魔石ができる。
「ほら、千明。今度は一人でやってみて!」
次の報告の為に、魔石があと一つ必要だ。
千明は素直に手を握って集中する。1分くらいの集中で、小さく「できちゃった」と呟いた。
「ね」
「”ね”じゃない!茜!これが、どれほどの事なのか解っているのか!」
「円香さん。座ってください。これが、”私を殴りたくなる”報告の一つです、ね。殴りたくなるでしょ?」
「なにを・・・。ふぅ・・・。それで?」
「それで?」
「この技術は公開していいのか?」
「あぁ主殿の思惑ですか?」
「そうだ」
「なにも・・・」
「え?」
「この程度の事は、『ギルドでは知っていますよね?』という雰囲気で雑談の中で出てきた話です。公開も何も、既知の情報だと思われています」
「はぁ?」
「あぁ次の報告をしますね」
「まて、まて、茜!」
「いえ、待ちません。魔石関連は、まとめて報告します」
テーブルの上に転がっている4つの魔石を集めます。
極小の魔石で、スライムの魔石程度の大きさです。
四つを手で覆います。
一つになるように念じます。
一つになった小さな魔石がテーブルに転がります。
上手くできた。
「ユグド」
「小を3つでいい?」
「うん」
ユグドが、小さな魔石を3つテーブルの上に出します。
もちろん、ユグドは動いていません。正確には、動いているのですが、テーブルが盛り上がって、魔石が産まれたように見えます。
同じように、魔石小を4つ持って、一つにします。
「ユグド?スキルがついている?」
「うん。あっ、ない方が良かった?それなら、こっち」
新しく、3つの魔石が出てきます。
先に出てきた魔石から、新しい魔石に切り替えます。これなら大丈夫だ。
大きめの魔石ができる。
オークの魔石くらいの大きさで、100万くらいの価値があるらしい。
皆の視線が魔石に注がれる。
「茜。お前、人間を辞めたのか?」
「円香さん。酷いですよ。人間ですよ。これも、スキルを持っていれば誰でもできる事ですよ。多分」
また、質問攻めです。
でも、まだ報告の続きです。
「ちょっと待ってください。この大きめの魔石ですが・・・。魔力を流しながら、形が変えられます。主殿は器用に指輪を作っていました。私は、まだ丸にすることしかできません」
「指輪?」
「はい」
「それは、スキルがついていてもできるのか?」
「出来ます。本命は、そちらですね」
円香さんが、大きく息を吐き出します。
わかります。聞かなければよかったと思っていることでしょう。この技術の取り扱いだけでも、かなりの爆弾です。でも、”まだまだ”です。まだ、序盤です。
「茜嬢。ちなみに、これは?」
「え?もちろん、知っていますよね?レベルです。聞いて後悔してください。取り扱いは、ギルドに一任されています」
ふふふ。
その顔が見たかった。
「俺は、疲れた。あとは、孔明と円香に任せていいか?」
「え?蒼さん。疲れたのですか?甘い物でも舐めますか?」
「ん?甘い物があるのか?」
「ありますよ。ユグド、出してあげて、クラッカーがあったから、一緒にだして」
「うん!」
ユグドが、パタパタと部屋から出ていく、別にキッチンに行く必要はないけど、キッチンに行くようです。
「茜。あの子は?いったい?」
「あぁ後で説明します。部屋の様子にも関係することで、本当に、本当に、本当に、聞いたことを後悔して、頭を抱えて、私を殴りたくなります。だから、最後に報告をおこないたいと思っています」
「はぁ・・・。わかった」
円香さんが納得してくれました。
丁度、ユグドが戻ってきました。
人数分の紅茶も持ってきました。
確かに、あの蜂蜜を使うのなら、紅茶がいいかもしれない。
クラッカーも持ってきてくれています。
皆の前に、新しく入れた紅茶と蜂蜜とクラッカーが置かれます。
「茜嬢。これは?」
「蜂蜜です。紅茶に入れてもいいですし、クラッカーに付けても美味しいと思います」
孔明さんが、小指に蜂蜜をつけて舐めます。
目を見開きます。わかります。美味しいですよね。
孔明さんの様子を見て、皆が舐めます。
「茜嬢。これは?なんだ?」
「なんだと言われても、主殿が売りたいと言ってきた”蜂蜜”です。審査を受けていないので、解らないのですが、食用です。それに、数値的な事はわかりませんが、魔力が回復します」
「茜。この蜂蜜は売るのか?」
「売れたら、売りたいと言っています。主殿の中では、この蜂蜜くらいしか売り物にならないと思っている様子でした。あっ!定期的に売れると思います」
「はぁ?」
「ミツバチ?の魔物が居て、蜂蜜を集めていました」
ほら、ほら、その顔です。
まだまだ続きますよ。
まだ、序の口です。
積読本や購入予定の書籍の情報を投稿しています
小説/開発/F1&雑談アカウントは、フォロバを返す可能性が高いアカウントです