ちょっとだけ切ない短編集の記事一覧
2022/01/08
【壊れたパソコン】第四話 鍵
部屋に帰って、変人の荷物を入れた段ボールを開ける。 変人と会話している雰囲気を思い出す。私の部屋に来た事はもちろんない。私の住所をしっていた可能性すらない。 でも、テーブルの向こう側に、変人がいつものように片足だけを椅子に載せて、座っている様子が見える。 そうやって、なんでも解っているような顔で、私を見ている。 そして、実際に私のミスを何度も助けてくれた。その都度、私を慰めてくれる。ミスした箇所ではなく、些細なことを褒めてくれる。ミスはしょうがない。ミスをした時の対応方法を教えてくれる。バグが消え…
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【壊れたパソコン】第三話 荷物
結局、変人のデスクで寝てしまった。 始発の1時間前に起きられたのは僥倖だ。作成した部分をコミットして、ポータルに結果と注意事項を書いておく、休むと言っても、咎められないのは解っている。荷物を受け取りに行くだけだ。でも、部長からは休めと言われた。 「笹原さん。貴方が生きていたら、私がこんなに苦労をしなかったのですよ?」 文句を言いたいのは、変人も同じだろう。理不尽に、無慈悲に殺された。通り魔は、翌日に捕まった。ただ、受験に失敗したという理由で勝手に絶望して、自殺が怖いという理由で、”死刑”になるために、…
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【壊れたパソコン】第二話 夢
あっこれは、いつもの夢だ。 会社で仕事をしていると、変人が話しかける。 「美穂さん」 ほら、そこで変人は私の作成した所の修正箇所を告げて来る。 変人が居なくなってから繰り返される夢。 夢だと解っていても、変人を目で追ってしまう。 ほら、今回も同じ。 注意される箇所も同じ。 私の返事も同じ。 そして・・・。翌日になって、修正したモジュールを提出しようとするが、変人は会社に来ない。 解っている。 時計を見る。目覚めたい。ここで、目が覚めれば、同じ苦しみを感じることはない。 でも、無常にも…
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【壊れたパソコン】第一話 変人
「あき!先に帰るね」 「うん。お疲れ様」 「うん。あきも無理しないでね」 「解っているよ。インターフェース部分のエラーが無くなったら帰るよ。週末は、頼むね」 「わかっているよ。あき。お疲れ様」 泉が、私が座っている場所以外の電気を消す。 タイムカードを押す音が響いて、扉が開く音がする。 エレベータが到着する音が響いた。 これで、このフロアに居るのは、私だけだ。 明日から、来週の月曜日まで、会社を休む申請を行っている。 ふぅ・・・。 煮詰まってしまったコーヒーを流し込む。舌と喉が刺激されて、眠か…
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