【第二十一章 密談】第二百十七話

 

魔物の移住は考えていた以上にスムーズに行われた。
スーンが”格付けをした”と言っていたが・・・。大きな文句を言ってくるような者は居なくてスムーズに進められた。移動は当然だが、割り振りも文句が出なかった。多少、環境に注文が来たくらいだ.。

「旦那様。移住を取り敷きました代表の者がお会いしたいという事です」
「わかった。どこがいい?」
「・・・」
「どうした?なにか腹案があるのか?」

スーンがなにかを考えているようだ。

「いいぞ?言ってみろよ?」
「はい。旦那様。チアルダンジョンの最下層にあります神殿はどうされていますか?」

神殿?
チアル?

あっ!

「そうか、あの最上階がベストだと思っていいのか?」
「はい。多少は演出の為に手直しは必要かと思いますが、ベストだと思います。謁見風にすれば魔物関連の謁見に今後も使えると思います」

ゲームをやっているであろうチアルを呼び出す。

「わかった。チアル!」

チアルもだけど、ダンジョンコアたちがホームでシロにべったりしているだけではなく、ゲームで遊んでいるようだ。
今までは移動もできなかったが、クローンを使う事で移動ができるようになって、ゲームを通せば太刀打ち出来ないようなモンスターを倒す事ができる。
喜ぶのはいいが順番で喧嘩をしたりしないで欲しい。

そして、呼び出されて不機嫌になるなよ。

「なんですか?」

「最下層の神殿はそのままだよな?」
「はい」

機嫌を直してくれよ。話が終わったら、ゲームならいくらでも相手してやるからな。

なんて事を言う必要がない。

「改修していいよな?」
「もちろんです。マスターの好きな様にしてください。それだけでしたら、下がらせてもらいます。早く帰らないと、クローエに順場を抜かされてしまいます」
「あっあぁわかった」
「失礼いたします」

いきなり消えた所から考えると次元を越えていったのだろう。

「スーン。これでいいか?改修はどうする?ダンジョンだから、決めてくれれば、俺が改修するぞ?」
「外観や周辺はお願いいたします」
「わかった。内装は?」
「魔物が出ない状態にしていただければと思います」
「ん?最上階に転移門を作れば良くないか?」
「いえ、最下層にお作りください。巨大建造物を持っている旦那様を偉大だと感じるはずです」
「そんな物なのか?」
「はい。神殿の高さなら畏怖するはずです」
「わかった。でも、かなり歩くぞ?大変だぞ?」
「それがいいのです」
「うーん。外回廊をつなげておくのはどうだ?」

内側を回るのはあまり良くない。
魔物を出現させなくするのは問題にはならないと思える。やはり特別な方法で外回廊を作った方がいいのではないか?侵入者がある時には、外回廊を消せばいい。

「旦那様のご負担が少ないやり方でお願いいたします」
「了解。内装は任せるな。あと、会談の日付が決まったら連絡くれ」
「かしこまりました」

スーンが執務室から出ていった。

さて、拡張ができたRADを起動して、チアルダンジョンも改修しますか?

最下層だけでいいと言っていたからな。
まずは、転移の場所を作るか・・・。

いきなり目の前に神殿が見えるのもいいけど、部屋から出たら、神殿がそびえ立っている方が、インパクトがありそうだな。

最下層に前室が入る屋敷を作ろう。そこから、廊下を作って、神殿に繋げよう。神殿の3階層くらいから外周を作り始めるか?
通常の通りに攻略してきたら、最下層から神殿の1階層に入ってから、階層主たちを倒しながら上がってくる事になる。これらの仕組みは変えたくない。

転移門から入った場合には、前室に入ってそこから廊下を通って3階層から作った外周を周っていく回廊に繋げよう。

外観は、スーンから指示が来るだろうから、今は回廊だけを付けておく事にしよう。
そうだ。柱は必要だな。

ダンジョン内の不思議建物だから、崩れる事は無いだろうけど、気分的に回廊には柱が必要だろう。
太い柱から徐々に細くしていこう。

オリヴィエとリーリアがお茶を持ってきてくれた。

「マスター。今回は申し訳ありません」
「ん?あぁ気にするな。魔の森を管理できる奴らが見つかった思えば、俺にとってはすごいメリットだし、それだけではなくて、新種の情報も得られているのだろう?」
「はい。リーリアから報告させます」

「ご主人様。新種なのですが、ロックハンドを襲った物と同じようです」
「1種類なのか?」
「話を総合すると、1種類のようです」
「個体数は?」
「わからないのですが、時系列に並べまして考えますと、同時に出ていた場所はなく、順番に襲われたそうです」
「そうか・・・。撃退した所は無いのか?」
「無いようです。それで不思議なのが・・・」
「どうした?」

「エントとドリュアスからの話なので明確な事は言えないのですが」
「構わない。今は情報が欲しい」
「はい。どうやらエントとドリュアスが草木になっている時には襲われないようです」
「どういう事だ?」
「はい。まっすぐに移動するので、折られる事を忌避してバレて攻撃される事はあるようですが、草木になっているときには、攻撃されないようです」
「うーん。もう少し詳しく知りたいな。人型の時でも動かなければ襲われないとか・・・」
「それは無理だったようです。この話を聞いた他の種族が岩の様に横になったりしたようですが、攻撃されたようです」
「そうか・・・。なぁリーリア。オリヴィエ。エントやドリュアスが草木になっている時は、体温や呼吸はどうなる?」
「え?」「は?」

「いや、死んだ者は攻撃されないよな?」
「はい。それは間違いありません」
「それで、動かない事と、草木の違いはなんだろうと思ったら、体温と呼吸だろう?」
「!!」
「姿形とかなら、エントやドリュアスが動いたからって攻撃されないだろう?」
「はい」
「それで、動いているかどうかなら、寝てしまって動かないようにすれば大丈夫という事になる」
「はい」
「ドワーフとかからも聞いたが、家とかも破壊しているだろう?」
「されていると思います」
「そうなると、体温・・・」

ピット器官でも持っているのか?

「マスター。草木になっているときには、体温は草木と同じです。動く時に熱が発生します」
「そうか、やはり体温や熱を感知していると考えるのがいいだろうな」

熱を感知した近い者を襲うようになっているのか?
攻撃対象を換えるタイミングがわからないな。

「あっ!」
「ん?」
「ご主人様。一部のドリュアスですが、未確認な上に眉唾ですが・・・」
「構わない。どうした?」
「はい。新種が通った後で、数名の人族らしき者が通ったと言っていました」
「そうか・・・」
「はい。それから」
「なんだ?」
「数名のエントが戦った感想なのですが、新種は同じ個体なのに、動きが違っていたと言っています」
「ん?それは、新種が二体以上いるのなら当然じゃないのか?」
「いえ、その者が言うには、自分が付けた同じ傷を持つ個体が存在していて、1箇所なら偶然かもと考えたらしいのですが、複数の傷が同じ物なのに、動きが全く違っていたという事です」
「そうか・・・。ありがとう。オリヴィエ。リーリア。少し考えたい事がある。1人にしてくれ」
「はい」「かしこまりました、隣の部屋に控えています」
「わかった」

ふぅー
新種は、もしかしたら俺たちがゲームで作った物に近いのではないのか?

後ろからついてきていた人族が気になる。
そんな情報は今までなかった。

エントやドリュアスだからか?
ロックハンドに現れた奴は近くに、関係者以外の気配はなかった。

距離か?
それとも、なにか違う方法なのか?

ルートガーがまとめている資料を最初から時系列を追って読み込んでみるが、人族が確認された事や個体識別の事が書かれていない。

どういう事だ。
エントやドリュアスが鍵になってくるのか?

それとも、操作している人族を探すのが早いのか?

熱が鍵になってくるのか?
それなら・・・ゲームで使った・・・。ダメだ。数の用意が・・・できるな。

ゲームは、今空前のブームになっている。
もしかしたら、対策ができるのではないか?

「オリヴィエ!」
「はい」
「すまない。リカルダ・・・。いや、ルートガーを呼んできてくれ」
「はい。かしこまりました」

光明が見えたか?

どこでやる。
一番は、中央大陸だろうな。

リヒャルトの所か?
どうする?

「ご主人様。紅茶を替えましょうか?」
「あぁありがとう。珈琲にしてくれ」
「はい。かしこまりました」

冷えた紅茶をリーリアが下げて珈琲を持ってきてくれた。

砂糖もミルクもしっかり入っているようだ。
身体が甘い物を欲しがっていたようだ。偏頭痛がおさまってくる。

「ありがとう」
「いえ、ご主人様」
「どうした?」

リーリアがテーブルの床に両膝を付いて上目遣いで俺を見る。

「お一人で抱えないでください」
「わかっている。無理をするのは嫌いだからな」
「ご主人様がお倒れになることこそ・・・。いえ、なんでもありません」

部屋がノックされた。
リーリアが俺の膝に置いた手を持ち上げてから、立ち上がった。

扉まで移動した。

「ご主人様。ルートガー殿です」
「入ってもらってくれ」
「はい」

ルートガーが入ってくる。

「ツクモ様。およびと伺いました」
「まずは座ってくれ」

俺の正面に座らせる。

「同じ物でいいか?」
「はい。お願いします」

リーリアが一旦下がってから、珈琲を持ってきた。
砂糖とミルクは入れていないようだ。

「それで?」

ルートガーが珈琲に砂糖を2杯入れてかき混ぜながら聞いてくる。

「リーリア。さっきの事を、ルートガーにも話してくれ」

リーリアが俺の後ろに立って、エントとドリュアスから聞いた話を繰り返す。

「ふぅ・・・。エントやドリュアスは友好的な対応ができる魔物の移住はスーン殿に聞いていましたが・・・」
「悪いな。決定後に知らせる事になってしまって」
「それは大丈夫なのですが、新種の問題はどうされるのですか?」
「どうするのがいいと思う?その前に、エントとドリュアスの事を話そう」
「そうですね。お願いします」

ルートガーが二口目の珈琲を飲む。
カップをソーサーに置いたタイミングで、話し始める。

「エントとドリュアスは、魔の森の管理を頼もうかと思っている」
「そうです。それはお聞きしましたが、ブルーフォレストはよろしいのですか?」
「あぁブルーフォレストは問題にはならない。魔物が産まれて対処が可能だからな」
「・・・」
「過剰と思えるくらいの戦力が固まっているぞ?」
「そうですね。主に、ログハウス周辺と迎賓館ですけどね」
「そう言うなよ。しょうがないだろう?」
「しょうがないので諦めていますが、そうですか・・・魔の森ですか・・・」
「ん?反対か?」
「いえ、いい判断だと思っています」
「なんだよ?なにか言いたいことがあるのなら言えよ」
「いえ。本当に、何もありません。ただ、なぜ俺が元老院かに呼び出されて叱責されなければならなかったのか・・・。それだけです」
「悪かった」
「いえ、それは本当にいいです。それで本題は?」

俺の考察をルートガーに説明した。

「それが本当なら、可能性はありますね。それで?」
「ん?それで?」
「え?俺が呼ばれた理由をお聞きしたいと思っただけです」

「ゲームは、今どんな感じになっている?」
「・・・」
「ルート?」
「ツクモ様。彼らを前線に出すのは反対ですよ」
「当然だよ。俺も、彼らが戦えるとは思っていない。それに仮説が正しいからってゲームを舞台装置にできるわけでは無いからな」
「・・・?」
「新種が魔物ではなく、俺と同じ様な物を作っていたりするのなら」
「するのなら?」
「操作している奴らをなんとかすればいいのではないか?」
「・・・。それはそうですが?辿れるのですか?」
「無理だな」
「ですよね」

「でも、まずは試す必要があるのは間違いないだろうな」
「試す?」
「あぁ俺の予想が的中していたら、スキル操作で乗っ取れるはずだ」
「そうですか・・・でも、試せませんよね?」
「それを相談したい。リヒャルトの所に、ダンジョンを作ったのは知っているよな?」
「はい。お聞きしました。まさか!」

「試しに、ゲームを配置してみようと思っているけどダメか?」
「ダメですね」
「どうしても?」
「どうしても・・・です」
「絶対に?」
「はい!ダメです。諦めてください」
「こっそりでも?」
「ダメです。絶対にダメです!」
「なぜ?」

「あんたが、言ったのだろう?」
「うーん。ダメだよな。SAやPAの特徴にしちゃっているからな」
「それに、リヒャルト殿はいいけどどうやって説明する?ダンジョンのことも秘匿しているのだろう?転移門の話とか?」
「あぁ何も言っていない」
「諦めるのが一番だ」
「わかった・・・!!」

「?」
「なぁルート・・・こういうのを・・・。こうして・・・。こうして・・・。な。これなら・・・!」
「ダメに決まっている。あんたは何を作るつもりだ!」
「え?スキル操作を、クラッキングして乗っ取る為のスキル道具?」
「もういいですよ。好きに作ってください。あとは、俺と元老院で考えます」
「わかった。できたら連絡する。あと、数日後にエントやドリュアスたちとの謁見を行うからな。お前も・・・あっ無理しなくていい」

目が笑ってない。
怒っている?なぜ?

「ルート?」
「ツクモ様。それは、どこでやるつもりですか?まさか、迎賓館に魔物を連れてくるとか言いませんよね?」
「それは大丈夫。スーンからの提案で、チアルダンジョンの最下層にある神殿を改装して使う事にした」
「ふぅ・・・。それなら問題は無いでしょう。良かったです。誰が出席予定なのですか?」
「まだ決めてないけど、こっち側は、俺とシロとスーンと眷属じゃないかな?」
「スーン殿が出られるのですね?」
「そのつもりだよ。格付けをしたとか言っていたからな」
「わかりました、それなら俺は出ません。出ない方が、表と裏で別れているのでちょうどいいと思います」
「わかった。また何か話が進んだら連絡する」
「そうしてください。できたら今後はなにか思いついたら連絡してください。お願いします」

少しぬるくなったであろう。
珈琲を一気に飲み干してから、リーリアとオリヴィエに一言二言越えをかけてから執務室を出ていった。

 

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