【第九章 神殿の価値】第十四話 ヤスの仕事
サンドラが、兄やジークムントやアーデベルトをリゾート区に案内するために、王都に向かっている時、ヤスは、自分の仕事を行っていた。
ヤスは、カートで遊んだり、東コースや西コースをS660で走り回ったり、工房でイワンと怪しい相談をしたりするのが仕事ではない。
外部から見たら、ヤスは神殿の主である。
したがって、いろいろと要望が上がってくる。しかし、それらはセバスやマルスが処理している。ヤスが目を通すのはごく一部だ。
今日は、そのごく一部の対応を行っていた。
「マルス。それで、設置は迷宮区の中でいいのか?」
「はい。マスター。新しい階層を増やします」
「わかった。場所はボスが居る階層を抜けた場所だよな?」
「はい。問題はありません」
迷宮区も階層が増えて、今では”公表”している階層は30階層にもなっている。実際には、51階層の深さになっている。
51階層目は、マルスが安置されている場所だ。今では、ヤス以外は立ち入りが出来ない空間になっている。50階層の奥に、セバスたちの本体が鎮座しているボス部屋がある天井の高さは30mにもなっている。攻撃力は皆無だが、体力と防御力と回避に優れた1cm程度の大きさで天井に張り付いているボスが居て、ボスを倒さなければ、先に進めない。しかし、先に進んでも神殿の攻略にはならない、最奥だと思っている部屋にあるのはダミーコアだ。
ダミーコアを破壊すると、即死級の魔法が発動される仕組みになっている。
ヤスが設定したのだが、設定後に考えると、”クソゲー”だなと呟いた。
階層が増えた事で、問題になるのは補給路の長さだ。
要望は、商人が迷宮の中に入られるようにして欲しいというものだ。
ヤスが要望を見て、考えたのは迷宮の中に小さな村を作ってしまう事だ。
しかし、その考えは却下した。健全ではないと思ったのだ。
そこで、ヤスが考えたのは不自然にならない方法で、商人が居られる場所だ。
階層を安全地帯にしてしまうのだ。そこまで、護衛を雇って、潜っていく。迷宮区では攻略した階層には移動できるようにした。なので、安全地帯の階層から、1階層下に降りれば、1階層手前には戻ってこられる。
商人がそれに気がつけば、安全地帯の階層で商売ができる。物資の輸送もできるような仕組みを作った。
商人が、安全地帯の使い方や有効性に、気が付かなければ、メイドの誰かに商店を開かせればいい。
「マルス。これでいいか?」
「はい。問題はありません」
ヤスが作った階層は、わかりやすく湖フィールドにした。
「次は?」
「マスターにギルドから依頼です」
「ギルド?ドーリスの所に行けばいいのか?」
「了」
ヤスは、マルスの返事を聞いて立ち上がった。
最近、物資の輸送が多くなっている。神殿内だけではなく、近隣の村や町への輸送だ。
カスパルたりが頑張ってくれているが、ダブルキャブや軽トラックでは、一度に運べる量が少ない。それでも、馬車よりも早く馬車の2-3倍は運べるので依頼はひっきりなしに来ている。ヤスは、カスパルたちに運べる距離を規定する資格を作った。カスパルが王都まで運べるようにはなっている。
エルスドルフとの交易は、ヤスからカスパルが引き継いで行っている。
ヤスが多く運べるのは当然だ。塩などの物資だけではなく、建材も用いる木材の輸送も行っている。
木材の輸送が喜ばれたのだ。魔の森は建材になる木材が豊富だ。それだけではなく、石も多く運べる。ヤスは、石や砂を運ぶときにダンプカーを使っている。石や砂は、いろいろな場所にあるように見えて、建材に適している物は少ない。ヤスは、イワンに聞いて神殿で石の採掘ができる場所を作った。工房の近くだ。そこで、石を加工して出荷した、均一の形にした石出使い勝手が良かった。結果いろいろな街から注文が入るようになった。
出してから気がついたのだが、形が揃っている石は使いみちが多い。家の建材にも使える。道の整備にも使える。石壁にも使える。しかし、石なので馬車で運ぼうとしても、運べる数には限界がある。
木材も同じだ。なので、ヤスのダンプやトレーラーに建材を積んで運ぶのは喜ばれたのだ。
多少、値段が上がっても問題はない。倍の値段になっても到着までの日時が違う。
ヤスは、サンドラに神殿に友好的な貴族領だけに輸送の手配をすると告げている。
サンドラは、ドーリスと話をして、神殿に友好的な貴族領にあるギルドからしか依頼を受け取らないと宣言した。ヤスに運搬を頼む場合には、必須条件とした。
「それじゃ行ってくる。ダンプカーかトラクターだろうから、両方とも出せるようにしておいてくれ」
「いってらっしゃいませ」
ヤスが神殿からギルドに向かっている最中に、マルスはヤスから命じられたようにディアナに指示を出す。
内容で使う車体を変えるのだ。討伐ポイントに余裕が出来た為に、ヤスが持っていた車体や工具の殆どが準備することが出来た。人が増えて、カタログも増えた。どういう理屈なのか、マルスにもわからない。もちろん、ヤスは考えるのを放棄した。
特殊車両と呼ばれる物まで交換できるようになった。
ただし、ヤスが元々持っていなかった物は、必要な討伐ポイントが高めに設定されている。初回限定だが、同じ値段帯のものと比べて2-3倍になっている。
カタログには、パーツが乗るようになった。これは、イワンを喜ばせた。作るのが難しいと思っていた物が作られるようになるのだ。工具も掲載されるようになった。魔物由来の素材で代替が出来ないか研究が始まっている。
「ドーリス。依頼があると聞いたけど?」
「あっヤスさん!よかった。エルスドルフを覚えています?」
「もちろん」
「あの辺りの地形は覚えていますよね?」
「あぁ」
「レッチュ辺境伯のギルドからの依頼で、エルスドルフか王都に向かう道幅を広げているのですが・・・」
「ん?」
「橋の工事を行っている最中に土台が崩れてしまって、大量の石が流されてしまったのです。道が崩れてしまって、人も通られなくなってしまって・・・。人が通られる程度までは復旧したいということです。石と土は、楔の村から運んで欲しいそうです」
「木材は?」
「そちらは、別に手配するそうです。穴が塞がれば、あとはなんとかできるという話です」
「わかった」
「ありがとうございます。それで、報酬は安くなってしまいますが・・・」
「ドーリスが適切だと判断できるのなら文句はない。もし、足りないというのなら、エルスドルフの米や大豆を送ってもらってくれ」
「わかりました。辺境伯領のギルドに伝えておきます」
「楔の村には話は通っているのだよな?」
「はい」
「わかった、出るから、そうだな・・・今日の夕方には、楔の村に到着すると伝えてくれ、明日の朝にはエルスドルフには到着できる予定だ。大きく予定が狂いそうな時には、マルス経由で連絡をいれる」
「はい。お願いします」
ヤスは、神殿に戻ってダンプカーに飛び乗って、楔の村に向かった。急げば、もう少し早く付けるが、ヤスが物流に関わる時には、大きな問題が発生する。
受け入れ側の体制が整っていないのだ。ローンロットのように、物流の拠点にしている場所は、24時間で動ける作業員が居る。荷物の受け取りや詰め込みを担当できる者たちが、存在しているが、拠点以外の場所では、ヤスが到着してから慌てて人を集めだす状態だった。
そのために、一度行ったことがある場所なら、ヤスは概ねの到着時間を告げてから、移動を開始する。人を集めておいてもらうためだ。
ヤスは夕方には楔の村に到着した。
慣れたもので、ヤスのアーティファクトが見ていたら、村長が出迎える。それから、聞いていた物資の搬入を行う。今回は、石や砂なので、地ならしで取り除いた石や砂をそのままダンプに乗せていく。魔法で、ダンプカーに乗せている。イワンたちが開発した魔道具も使っている。
積み込みをしている最中は、ヤスはいつも見守る。カスパルや他の者にも徹底しているが、荷物の搬入は、神殿の中以外で必ず立ち会うように言っている。眠かろうが、疲れていようが、絶対に立ち会う。荷物を下ろす時も同じだ。
ダンプにギリギリになるまで石と砂を積んだ、ダンプカーは王国側に戻っる道を進む。エルスドルフをナビに表示させて、移動を行った。
ローンロットで休憩を取り、あとは山道だ。
崩れた場所は、元々細い場所だった。原因はわからないが、道が途絶えてしまっていた。
ダンプカーで運んできた石や砂の2/3を使った所で、埋めることができた。残った、石や砂も使うとのことで、持って帰っても使いみちがないので現場に残した。
これで帰れば、ヤスもしっかりと仕事をしているのだと思えるのだが、ヤスも一人の健康な男性だ。
夜の街に行きたくなってしまう時もある。その時には、アーティファクトを置いて、護衛で連れてきている、狼を乗れるくらいまで大きくして、近くの街まで移動する。アーティファクトはディアナと他の眷属が守っているので大丈夫だとして、朝まで花街で過ごす。
ヤスは、そのために、イワンに髪の色と目の色を変える魔道具を開発させている。街ごとに、お気に入りを作る程度には、通っている。仕事が早く終わった時の息抜き程度だ。
今日も、新しい街に行って色街で遊んでから神殿に帰った。
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