【第十章 ワンクリック詐欺】第一話 日常?

 

 セキュリティ大会から始まった問題は終息した。
 結局、前会長美優さん前副会長梓さんを脅していた、上地から始まった病巣の残り滓が、悪化したのだ。

 少なくない退学者と留年者をだして騒動は終了した。1クラス分の人間が学校を辞めていった。数万の金を得るために道を踏み外したのだ。

 上地が残した負の遺産はそれだけではなかった。

 北山が部費を流用して用意した、SDカードやUSBメモリカードは、部活連に渡っていた。必要だからと言うわけではなく、ただ欲しいという理由だった。回収は、遅々として進まなかった。北山が誰に渡したのかを覚えていなかったからだ。欲しいと言われて渡していたので、相手を確認していなかったのだ。

 俺は、吸収する形になってしまった部活連が持っていたパソコンや機材と、パソコン倶楽部が所有していたパソコンや機材を、生徒会室の隣にある部屋に持ってきて、調査をしている。北山が、部費を流用して購入したパソコンは、まだ警察に保管されているが、学校の備品として申請をしているので、北山が何を言っても、学校に戻される。同様に、北山の親に一連の流れを説明して、北山の部屋にあるパソコンと機材で警察が押収していかなかった物を根こそぎ回収した。部費の補填に使うためだ。北山は、退学は決定している。部費の補填をしなかったら、学校から訴える可能性を、示唆した。

 問題は、部活連のパソコンもパソコン倶楽部に置いてあったパソコンも、メモリが抜かれていたり、HDDが容量の小さい物に代わっていたり、状態が良くなかった。
 ひとまず、元々のスペックから、本来のあるべき姿を調べて、抜かれているパーツを調べる。かろうじて動くものもメーカサイトでスペックを確認する。

 全部を調べるのに、2週間もかかってしまった。

 結果を学校側に資料として提出した。
 まーさんから渡された詳細な資料は、オヤジと桜さんと美和さんが出しても大丈夫なように修正してくれた物を学校に提出した。

 パソコンや機材の調整は、電脳倶楽部が引き継いでくれた。サーバとして動作していたパソコンも部活連にあったので、外部回線を含めて調査をお願いした。

 電脳倶楽部の初仕事が、パソコン倶楽部と部活連の後始末になってしまった。

 俺から手離れしたので、ユウキと買物に出る。
 まーさんへの報酬を買って送付するためだ。問題になったのは”宮原の海苔”だが、オヤジに聞いたら教えてくれた。あとの物は、それほど難しくない。ツナ缶工場に行って、ツナ缶を買う。干物は、”ネコサイ”が漁に出ていればいいけど、出ていなければ、清水港に行って、河岸の市にでも行けばいいだろう。

「タクミ。まずは、どうするの?」

「さきに、おばさんに挨拶していく、宮原に連絡してもらう」

「おばあちゃん?」

「あぁ俺がいきなり、宮原に行って、海苔が買えるとは思えない。オヤジからもおばさんを頼れと言われた」

「まーさんの名前を出せば?」

「どうだろう?ダメだったら、いろいろ迷惑がかかるからな。遠回りでもおばさんを頼るのが一番だと思う」

「そうだね。どこに居るか知っているの?」

「あぁ今日は、バイパスの店に居るらしい」

 ユウキをバイクの後ろに乗せて、バイパスを東に向かう。
 30分もすれば、桜さんのお母さんが営んでいる店に到着する。

 挨拶もほどほどに本題を切り出す。
 すぐに、宮原には連絡をしてくれた。2万円分の海苔が買えるらしい。2万円分の海苔を買う約束する。
 そのあと、工場への連絡を頼んだ。最近では、観光客も来るようになって在庫が怪しい時があるようだ。

「それで、タクミ。誰に渡す?」

「ん?まーさん」

「まーさんと言うと・・・。あぁ奴か、それなら、直販所の物でなくていいね?」

「え?」

「奴なら、中身が重要だろう?缶に傷が合っても気にしないだろう?」

「指定はされていないから大丈夫だと思うけど、一個は贈答品を送ろうと思っている」

「わかった。用意しておいてやる」

「ありがとう」

「いいさ、婿の頼みだからな」

「え?」

「なんだ、ユウキを貰ってくれるという話だと思ったけど違うのかい?」

 ユウキは俯いて耳まで赤くしている。ユウキは、祖母が苦手なのだ。嫌っているわけではない。どうやって甘えて良いのかわからないだけだ。

「貰います。でも、高校を卒業してから、時期は考えます」

「ハハハ。今は、その答えで許してやる。あとは、干物か?」

「はい」

「”ムラマツ”に話しておく、取りに行きない。干物は、何でも良いのだろう?」

「指定はされていないので、大丈夫です」

「ほら、早く行きな」

 店を追い出されるように出る。
 ユウキは、こういうのが苦手なのだ。

 バイクに跨って、宮原を目指す。バイパスを隣町まで進んでから旧国道に入る。かなりの距離を戻ると、宮原がある。店の看板などは出していない。
 高級海苔の卸をやっている場所だ。安い物で、1帖2,000円。飛び込みで買えるような店ではない。その海苔を10帖分・・・。2万円分を購入した。
 ユウキが、桜さんと美和さんの子供だと知っているので、懐かしそうに見てからお土産をくれた。
 端海苔だ。成形する時に出た海苔だ。傷海苔も大量に持たせてくれた、すごく嬉しい。
 その後、ムラマツに行くと、1万円分の干物がすでに用意されていた。真空パックされた物を発泡スチロールの箱に詰めてあった。ありがたくそのまま購入した。次は、工場に向かう。荷物が多くなったが、ユウキが持ってくれている。

 工場に行くと、おばさんからの伝言が来ていた。
 主任と名乗る人が出てきて、商品にならない缶詰を大量に安く譲ってくれた。傷が有ったり、缶が凹んでいたりするだけで、中身には影響しない。
 ツナ缶だけではなく、ミカンの缶詰や桃缶もあった。贈答用を含めて、2万円分の缶詰を購入した。流石に、持って帰られる重さではなかったので、工場から配送してもらった。一緒に海苔や干物も頼んだ。配送料を払って、出ようとしたら、ユウキがミカンや桃の缶詰を欲しがったので、持てる量だけ追加で購入した。

 おばさんにお礼の為に電話をすると、暇が出来たら店の手伝いに来いと言われてしまった。

「タクミ。どうするの?」

「ん?何か食べて帰るか?」

「うん。僕、中華焼きそばが食べたい!」

 また面倒なことを・・・。そうだ!

「ユウキ。スパに寄って帰るか?」

「スパ?興津川の?」

「そう。中に中華屋が有っただろう?時間的に微妙だから、風呂に入ってまったりしていれば、いい時間になるだろう?」

「うーん。もうひと押しが欲しいな」

「そうだな。確か、水着を借りれば、プールがあったよな?」

「うん。泳ぐ感じじゃないけど、温水プールだったよね」

「あそこでまったりするか?」

「うん!いいね!」

 目的地が決まった。15分くらいバイパスを走れば目的地に到着する。
 サイフの中にはまだ余裕がある。

 受付を済ませて二階に上がる。ここで男女に分かれる。
 ユウキは、伊豆旅行の時に覚えた”アカスリ”をやりたいらしい。アカスリをしたら遅くなるから、温水プールは諦めると言い出した。
 2時間後に、1階の休憩所で待ち合わせをする。

 スパが用意した浴衣に着替えて、1階の休憩場に向かう。1階にはゲームセンターがある。2世代くらい前のゲームだがたまにやると面白い。ユウキがムキになって勝つまで止めないので競い合うゲームはやらないほうがいいだろう。休憩場に入って、入口近くのテーブルをキープした。
 少しだけ早かったようだ。まだユウキの姿は休憩場にない。

 笑いがこみ上げてくる。
 日常とはこういう日の積み重ねを言うのだろう。

 オヤジたちの話は、オヤジたち以外からいろいろ聞いた。特に、同窓会での出来事やそれに連なる事件は・・・。

 オヤジたちから比べたら、俺とユウキがやっていることは、親や知人の大人たちに助けられて、知恵と権力を使ってゴリ押ししているだけだ。それが悪いとは思っていない、悔しいという思いはある。しかし、ユウキや俺の世界を彩る人たちが助かるのなら、プライドなんて捨ててしまえばいい。俺は、まだ高校生の餓鬼だ。

「タクミ!」

「お」

 ユウキは、スパが用意している浴衣を着ている。
 アカスリも満足したようだ。この周りにある店は、注文をすると休憩場まで料理を持ってきてくれる。

 ユウキは、鉄板ヤキソバの大盛りと杏仁豆腐とドリンクバーを頼んだ。
 俺は、違う店のもりそばと稲荷寿司のセットとドリンクバーを頼んだ。

 早い夕飯を食べてから、帰ろうとしたら、やっぱりプールに入るとユウキが言い出したので、水着を借りてプールに入った。プールには誰も居なくて貸し切り状態だ。俺に寄り掛かるようにしてくるユウキを抱きしめた。プールでまったり過ごしてから、スパを出た。

 帰り道に、ツタヤに寄ってDVDをレンタルして発売していた本を購入して家に帰った。

 なんてこともない日常だが、こんな日をユウキと重ねられたらと思う。

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