【第二十四章 森精】第二百四十七話
襲撃は、不発に終わったが、ステファナの事情を考えれば、今回の襲撃が最後ではないだろう。
自分やシロが原因ではない襲撃も久しぶりなので、俺たちに理由がないだけで気分はだいぶ楽だ。
「ステファナ。それで移動の準備は?」
「もうしわけございません。まだ、全部は終わっていません」
「わかった。今日は、もう休んで、明日以降に頼む」
「はい」
ステファナは、もうしわけなさそうに頭を下げるが、別にステファナのせいじゃない。襲撃してきた者たちに責任があり、原因もステファナに責任があるわけではない。
「あっステファナ!」
「はい。なんでしょうか?」
「宿屋に滞在の延長を頼んでくれ、それから、出発の予定は明後日にする」
「わかりました。二日後に出発ですね。モデスト様にお伝えしておきます」
「頼む」
「はい」
ステファナは、そのまま頭を下げて部屋から出ていった。
「カズトさん?明後日にしなくても、準備は間に合いますよね?」
「そうだな」
「それなら・・・」
「急ぐ旅でもないし、港町を、シロと一緒に歩いてもいいだろう?」
「え?僕と?」
「そうだよ。奥さま」
「あっ」
言われなれていないのか、下を向いて耳まで赤くなるシロが可愛くてしょうがない。
「それに、この港町なら、俺やシロを知っている人間も少ないだろう?モデストたちが影から護衛するだろうし、カイとウミが居るから大丈夫だろう」
「はい!」
シロが元気になってくれたのは嬉しいけど、護衛は必須だよな。
カイとウミでは実力行使になった場合の護衛には十分だけど、抑止力にはならないからな。でも、シロは、どうやら俺と二人で街を歩けるのが嬉しいようだからな。昨日の今日で新しい刺客が襲ってくることも無いかな?
俺たちの戦力を読み間違えたと考えてくれれば、数日は安全だろうと思うのだけど・・・。
「シロ。明日は、いろいろ見て回ろう」
「はい!カズトさん!」
嬉しそうにするシロを抱き寄せて、ベッドに倒れ込む。
シロは抵抗しないで受け入れてくれる。
—
「カズトさん」
「おはよう。汗を流したら、食堂で食事をしてから、街を散策するか?」
「はい!」
布団から起き上がると、シロの裸体が目に入る。
湯浴み用のお湯とタオルは既に用意してある。お互いの身体を拭いてから、服を着る。シロもやっと俺が進めていた、女性の下着を”女性が綺麗に見えるような物”にする計画を理解してくれて身につけるようになった。最初は、布の面積から抵抗感があったが、動きやすさや着心地から最近では喜んで身に着けている。
夜に身に着けている時に散々褒めたのが影響しているのかもしれない。
「マスター」
部屋を出ると、廊下でモデストが待っていた。
「どうした?何か、解ったのか?」
「はい。ステファナを狙っていたと証言を得ました。それから、シロ様の命を狙っていたようです」
「シロの?食堂で話を聞く」
食堂だと、他にも聞かれるかもしれないが、話の内容が問題になりそうなら、モデストが止めるだろう。
問題がなければ、食堂で話を聞いたほうがいいだろう。
「はっ」
問題は無いようだ。
「モデスト。それで?」
「はい・・・」
モデストからの説明は、ステファナの話を相手側から見た場合の話だ。自分たちに正義があると喚くばかりで、肝心の話はなかなか聞き出せなかったらしい。
聞き出した話は、ステファナの裏付けにしかならなかった。
シロを狙ったのは、シロを殺せば、ステファナを置いて帰ると考えたからだと言っていた。ずさんな計画で、何も考えていないことが手にとるようにわかる。
「そうか、わかった。他には、街に来ていないのだな?」
「はい。何度も確認しました。隠している様子もありません」
「全員、捕縛したと考えて良さそうだな」
「はい。人数も有っています。監視目的で数名はついてきている可能性がありますが・・・」
「それは気にしてもしょうがないだろう。監視目的なら情報を持ち帰ることを優先するだろう」
「はい」
丁度、朝食が出来たようなので、話を打ち切って、今日の予定を確認した。
ステファナから事情を聞いているので、ゆっくりと準備を行うことにしたようだ。俺とシロの護衛も離れて監視するに努めることになった。
やっと新婚旅行っぽくなってきた。
シロと二人(カイとウミと、離れた場所から、モデストが手配した護衛付き)で、街の散策を楽しんだ。欲しい物は無いが、土産に喜ばれそうな物がないか見て回っている。
「シロ。何か、有ったか?」
「フラビアとリカルダに買っていくお土産に、貝殻のネックレスとかいいと思うのですが?」
「そうだな。貝殻は、取り寄せないと難しいいし、綺麗な貝殻は自分で見ないとわからないからな」
「はい」
シロと、土産物や特産品を扱っている店を見て回った。
2-3軒の店でシロが気にいる物が見つかった。帰りに買うことも出来るけど、一点物は出会いものだから、見つけた時に買っておいたほうがいい。俺が出すと言ったけど、二人への土産とギュアンとフリーゼの土産は自分で出したいと言っていた。
この港には、街から離れた場所に浜辺が作られている。
入場料を払えば、住民以外でも入ってもいい場所になっている。二人分を支払って、浜辺を歩いた。
「カズトさん!」
シロが嬉しそうに、砂浜を走る。
砂浜デートだが、プライベートビーチではないので、服を着ているし、シロも全力で走っているわけではない。
波打ち際で遊べるのが嬉しいのだろう。
海がある世界だが、シロは教会に居るときには、閉じ込められるように街から出されなかった。
波打ち際が珍しいのだろう。楽しんでいる。足下を並に攫われる感覚が不思議なのだろう。靴を脱いで素足で遊んでいる。
「シロ!」
「カズトさん!楽しいです!」
「よかった。俺は、ここで見ているよ」
「えぇ一緒にやりましょう」
周りを見ると、俺たち以外も波打ち際で遊んでいる者たちが居る。
離れた位置で俺たちを見ている二人組が居るので、目線を合わせると会釈した。どうやら、モデストが手配した者たちのようだ。タオルを持っているので、濡れても大丈夫だと合図を出している。
「わかった」
靴を脱いで素足になって、シロを追いかける。
何が楽しいのか、シロは終始ご機嫌だ。
15分くらい波打ち際で遊んで満足したのだろう。砂浜に腰を降ろした。
「カズトさん。ありがとうございます」
「どうした?」
「僕の世界を広げてくれたのは、カズトさんです。本当に、ありがとうございます」
「シロ。誘ったのは俺だ。でも、シロが俺の手を取ったのがきっかけだ」
「はい。でも、ありがとうございます」
「わかった。シロ。まだ俺も知らない場所が沢山あるはずだ。二人で、いろいろ見て回ろう」
「はい!あっカズトさん。カイ兄やウミ姉やライや他の者たちと一緒です!」
「そうだな。皆で、いろいろ見て回ろう。そのために、ルートに頑張ってもらわないと・・・」
「やはり・・・」
「ん?」
「カズトさんは、ルート殿に地位を譲られるのですか?」
「うーん。正確な言い方をすると、クリスにトップに立ってもらって、ルートにはその補佐をしてもらいたい」
「え?」
「ルートは、一度、俺に牙を剥いた」
「はい」
「俺や元老院は、気にしていないが、商人たちが気にしている」
「??」
シロは可愛く首をかしげる。
頭を撫でてやると目を細くして嬉しそうな表情をする。
「商人たちは、俺がしていることを好意的にとらえてくれている」
「はい。教会も住民たちも同じです」
「そうだな。それで、俺に歯向かった経験があるルートがトップになると、俺がやっていたことを”否定”するのではないかと考えて忌避感を持ってる」
「あっ」
「ルートが、そんな面倒で誰の得にもならないことは・・・。ルートは、理性で動くことが出来る。俺も元老院も解っているけど・・・」
俺の襲撃も、自分一人で物事が終わればいいと思っていたようだ。
ルートは、損得勘定や一時の感情ではなく、理性で最適解を求めて動く。俺が、そう考えているだけで、真実は違うのかもしれない。
「・・・」
「人は、理性よりも、感情を優先する生き物だからな」
「そうですね」
シロは、何を考えているのかわからないが、遠い目をして波を見ている。
俺たちと同じように観光で来たいのだろう。子どもたちが、砂に文字や絵を書いている。波が、書いた文字や絵を海原に持っていくのを、シロは眺めている。
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