【第八章 リップル子爵とアデヴィト帝国】第三十話 塩と砂糖と胡椒

 

『はぁ・・・。ヤス。まぁいいけどな。まずは、リップルからでいいか?』

「頼む」

『その前に、サンドラ嬢。ディトリッヒは居るか?』

『いますよ。ミーシャと後ろに控えています』

『そうか、まずは、ディトリッヒから、塩と砂糖がどうなったのか報告させたほうがいいと思うが?』

 ヤスが承諾したので、ディトリッヒがサンドラに変わって、前に出て説明する。ヤスとルーサは聞いていた話だが、黙ってディトリッヒの報告を聞いた。サンドラは、父親からの説明を受けていたので、実際の現場以外で行われていた内容を補足するように説明した。

 ディトリッヒの報告は簡潔だ。
 神殿の使者として、王都に『神殿から採取された、塩と砂糖と胡椒を献上する』目的で馬車を動かした。

 レッチュ辺境伯も協力を申し出て、道中の護衛を約束して、息子のランドルフに最後のチャンスとして王都までの護衛を命じた。

 想定していた場所ではなく、リップル子爵領を通り過ぎた場所で強盗に襲われた。
 ディトリッヒは、強盗を数名だけ倒したが、その場から撤退する。強盗とランドルフは積荷を持って、リップル子爵領に消えていったという。ディトリッヒの後ろから斬りかかろうとしたランドルフを逃してしまったのが、痛恨の極みだと言っている。サンドラは、苦笑しただけで終わったが、ミーシャはランドルフがリーゼに言い放った言葉をまだ覚えていて、なぜ殺さなかったとディトリッヒに詰め寄った。
 ヤスが、ランドルフは殺さないと言ったので、ディトリッヒは殺さなかったのだと説明されて、やっと怒りが鎮静した。

 サンドラの補足は、その後の積荷の動きだ。
 ランドルフの配下に手のものを忍び込ませている。定期連絡で受け取った内容は、予想の範疇を出ていなかった。リップル子爵は、すぐに塩と砂糖と胡椒を商人に鑑定させた。寄り親になっている伯爵に貢いで、公爵に取り次いでもらい、塩と砂糖と胡椒を通常の10倍以上の価値があると触れ込みを行い。献上を行った。
 公爵は子爵の対応を評価し、定期的に入手する方法を模索するように命令する。

 その頃には、レッチュ辺境伯が王家に”神殿産の塩と砂糖と胡椒”を、献上していた。

 サンドラの補足は、ランドルフの処遇にまでおよんだ。
 ランドルフが、領都を出立してから、ランドルフが密かに使っていた倉庫を強襲した。不正の証拠や、今までの悪事を公にした。神殿から帰ってからの最初の仕事となった。廃嫡は決められていたが、貴族籍からの除籍及びレッチュ領からの追放を宣言した。同時に、派閥貴族家からの絶縁も宣言された。あわせて、夫人に関しても数々の問題や不正行為を公表して離縁した。侯爵家には、離縁の理由を告げて、王家からの許可ももらったと告げている。侯爵家としてはうなずくしか無い状況だったのだ。

「さて、ルーサ。ディトリッヒとサンドラの報告に補足はあるか?」

『そうですね。ランドルフですが、死にましたよ』

「へぇ死んだのだな。殺されたのではないのだな?」

『そうですね。殺されたですね』

「ふーん。殺したのは、侯爵家の者か?」

『・・・。ヤス。お前・・・』

「状況を考えるとそうなると思っただけだが、合っているのか?」

『ルーサさん。ランドルフは、殺されたのですか?お父様に連絡したほうがいいですか?』

 サンドラは、ランドルフの悪行を知って、余計に嫌悪感をつのらせていていつの間にか敬称を付けなくなった。敬称だけではなく、兄とも呼ばなくなっていた。

『サンドラ嬢。そうですね。ヤスが言った通り、侯爵が手を回したようです。奥方も、王都に向かっている最中に盗賊に襲われて殺されました』

「あれ?でも、ランドルフの母親はそれほど高い地位じゃなかったよね?」

『いえ、ヤスさん。あの人は、侯爵家の次女ですので、ランドルフが戻ってしまうと、継承順位が変動します。そして、戻ってきたら、地位や領地を与えないわけには行かないと思います』

「ふぅーん。面倒だな。証拠はないよね?」

『もうしわけない。流石に、侯爵家が使うような者だ、証拠は残していない。俺たちが知ったのも、もしかしたらわざとかも知れないと思っている』

「わかった。神殿としては、動く必要がないし、ランドルフの生死にはそれほど興味がない」

『はい。ヤスさん。お父様に連絡を入れておきます』

「うん。お願い」

『ヤス。それで、子爵家は王都に荷物を運んでからが面白かったぞ』

「ん?」

『侯爵と公爵に自慢した塩と砂糖と胡椒を持って、王宮に行ったらしいが、そこで出された紅茶に自分が持ってきたのと同じ砂糖が使われていた。それで、謁見の間ではなく、通されたのは通常の執務室で、対応したのは王家ではなく、宰相だった。王宮では、後見として公爵と侯爵の執事が一緒だったらしいが、宰相の執務室から出てきた二人は激怒していたという話だ』

「へぇ塩と砂糖と胡椒に、10倍・・・。いや、20倍の価値があるとでも言って、献上したのかな?それも、子爵家単体ではなく、侯爵と公爵の名前も使ったのではないのか?」

『ヤス。見てきたように話すなよ。詳細は、多分サンドラ嬢が後で詳しく辺境伯から聞くだろうから、置いておいて、公爵も侯爵も子爵家からかなりの塩と砂糖と胡椒を購入して、取り巻きに売りつけたようでな。恥をかかされたと言われているようだ』

『それで、帝国への出兵計画が遅れているのですね』

『それはわからないが、子爵家が孤立し始めているのは、間違いではない』

「ルーサ。子爵家は、トーアヴァルデの存在は知っているのか?」

『ヤスさん。神殿と同じに考えないでください』

『サンドラ嬢の言っているとおりです。ヤス。お前は少しだけ神殿が異常だと知っておくべきだ。イワン殿。あんたも同類だ!』

『ルーサ。儂は、関係がないぞ!ヤスが作って欲しいと言うから作っているだけだからな!ドワーフは、新しい物が作れて、研究できて、うまい酒精があればいいだけだ!』

『このクソドワーフ!確かに、武器防具は一流だし、酒精もうまい。だが、限度という物があるだろう。限度が!』

 ルーサとイワンの口喧嘩はしばらく続いたが、解決する見込みは一切ない。
 ルーサもイワンも相手を認めているから喧嘩をするのだ。

「解った。解った。ルーサには、俺からウィスキーを数本届ける。イワンには、新しい自転車を渡すから研究してくれ、話を続けてくれ」

 ヤスが仲裁にもならない仲裁を行った。話を聞いたサンドラは眉間を押さえて頭を振った。また新しいおもちゃをドワーフに与えると言っているのだ、何が出来るのか解ったものではない。エアハルトにしてもヴェストにしても、ルーサにウィスキーが渡るとしたら、しばらくは仕事にならないと解っている。仕事が滞ってしまう可能性を考えたのだ。関所の村アシュリではルーサは飾りになっているが、書類が滞ってしまうのは問題なのだ。

「ルーサ。サンドラ。いやがらせの第一段階は成功したと思っていいのか?」

『あぁ思った以上の効果を発揮した』

「自業自得なのだけどな。塩と砂糖と胡椒を得たときに、レッチュ辺境伯に返していれば、報奨金を貰えて終わったのに・・・」

『そうだな』

「サンドラ。ルーサ。調べて欲しいことがある」

『はい』『なんだ?』

「リップル子爵領の特産物だ、できれば、同じ特産物が生産出来る他の領も調べてくれると助かる」

『可能ですが、どうされるのですか?』

「いやがらせ第二弾だな」

『??』『??』

「ローンロットを大きく動かす。エアハルト。倉庫には余裕があるよな?」

『はい。まだ、塩と砂糖と胡椒と少量の香辛料があるだけです』

「サンドラ。今、リップル子爵領から物を買うのは何故だ?」

『・・・。あっそうですね。ローンロットに遠方から物資を運んできて、そこから近隣に輸送すれば、コストも押さえられる。品質も同等以上の物が手に入る』

「それだけじゃない。税が抑えられると思うし、安くなるだろう?ローンロットから出す分には税をかけないと約束してもらっている。ようするに、直送したのと同じだ」

『・・・。はい』

「リップル子爵が追い込まれたら、税を上げるだろう?」

『間違いなく』

「ほら、そのときに、同等の品質で物が安くはないが同等以下で買えたらどうする?」

『買いますね』

「ということで、ルーサとサンドラは情報収集を頼む。あと、ヴェストには駐屯している者たちの訓練と哨戒を頼む」

 ヤスの指示を受けて皆が行動を開始する。

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