【第二章 スライム街へ】第十六話 最終確認

 

 円香が、テーブルの上に放り投げた資料は、以前に見せてもらった”ファントム”に関する物だ。

「そうか、ファントムか・・・。結界のスキルを持っている可能性があったのだよな?」

「あぁ。しかし・・・。この中に”ファントム”が居るとは思えない」

 円香は、キャンプ場に集まっているマスコミや自衛官や警察官や消防官を見回している。

「そうなのか?!」

 蒼は、驚くが、俺もこの中に”ファントム”が居るとは思えない。

「ファントムが、どんな移動手段をもっているのかわからないが、自衛隊や警察の関係者である可能性は低い」

「そうだな。自衛隊も警察も、スキルの管理をされている。調べるための方法も確立している」

 蒼の言っている通りだ。
 それに、作戦行動でスキルを得たのなら申請は”ほぼ”強制だ。スキルを得れば、スキルの種類で配属が変わってくる。希望は聞いてもらえるが、命令される場合が多い。それに、基地に入る時には、スキルの検査が行われる。テロ行為とは言わないが、安全保障上の手順だ。
 警察や消防といった組織も同じ状況だ。

「円香。それでも、マスコミや野次馬に、ファントムが居るとは思わないのか?」

 無理だな。

「”無い”と思う。マスコミ関係者に、ファントムのようなスキルが有るのなら、この状況にはなっていないだろう」

 俺も、円香と同じ意見だ。
 マスコミは、スキルを持っていたら、それも、ファントムのように、”異常”だと思えるスキルを持っているようなら、自分だけで突っ込んでいる可能性もある。公表しない理由がない。スキルを持つのは、それだけ難しい。

 野次馬も、同じだ。
 もし、ファントムが実在しているのなら、そもそもスキルを得る為に、魔物の存在がわかっている場所に来る必要はない。

「そうなると、ファントムだと考えるのには無理があるのでは?」

 蒼の言っていることも解る。
 禅問答のようになってしまうが、この状況を引き起こせる可能性があるのは、”ファントム”だが、”ファントム”でありえない理由も大量に存在している。そもそも、”ファントム”が存在している前提で話をしているが、”ファントム”が1人だとは、俺は考えていない。何かしらの団体やチームならまだギリギリ納得ができる。

「円香。孔明。ファントムだと仮定すると、ファントムが結界を張った理由はなんだ?」

 理由は、魔物を抑えるため?

「そうだな。良い方に解釈すれば、これ以上の犠牲者を出さないためか?」

「犠牲者?」

「ファントムが、人類の味方だと仮定すれば、魔物に対応できる者がいない人類と魔物を分離するのは意味がある」

「そうだな。それに、ファントムが魔物と戦うと想定すれば、邪魔にしかならない者たちを排除するのは、理に適う」

 円香と蒼で、結界の意味を考えたが、一つの仮定を唱えれば、同じだけの説得力を持つ別の仮定が産まれる。
 ファントムと仮定しなかった場合には、そもそも何のための”結界”だという話になってしまう。結界なのかも怪しくなってくる。

「そう言えば、円香」

「なんだ?」

「スキルでは何もわからないのか?」

「無理だ。何もわからない」

「そうか・・・。なぁ結界だけど、向こう側は見えているよな?」

「蒼。何を言いたい?」

 天子湖とキャンプ場が書かれた地図を見ていた、蒼が急におかしなことを言い出す。

「円香。孔明。スキルって、俺たちが想像できる物に近いことが多いよな?」

「そうだな」

 スキルの基準はわかっていない。
 魔物を倒して、スキルを得られるのはわかっているが、”なぜ”が未だに不明だ。それだけではない。スキルの種類が、物理限界を超えるような物も存在しているが、人間が行えることの延長だ。
 攻性のスキルでも、結局は自然現象が根本に存在している。人が行える行動を強力にしたものだと思われている。

 それらを踏まえると、”回復系のスキル”や”アイテムボックス”や”結界”は、物理法則にも、自然現象にも該当する物がないために、スキルでも不可能ではないかと思われている。

「円香が、スキル結界を想像したらどうなる?」

「どういうことだ?」

「もし、俺が”スキル結界”を得て、発動したら・・・。こうなると思う」

 蒼は、地図の中心から円を書くように指でなぞる。
 そうだな。俺も、蒼と同じだ。結界は、同心円状に広がるだろう。球体になると考えるほうがわかりやすい。または、一方にだけ壁を出現させるかだ。

 そうか・・・。

「あまりにも、不自然だと言いたいのだな?」

 円香も、気がついたようだ。

 マスコミと警察と自衛隊からの情報を書き込んである地図を見ると、キャンプ場というよりも、魔物が居る場所を結界で覆っているように思える。小屋の周りは、まだ調査中だと言われているが、似たような物だろう。

 話は、ここまでとなりそうだ。
 茜嬢が、俺たちを呼ぶ声がしている。食事が出来たのだろう。

 それが終われば、主導権争いをしている奴らの所も戻って状況を整理できればいいのだけど・・・。難しいだろうな。

 一度、人になって、ライと簡単に模擬戦を行った。
 そのあとで、素晴らしいスライムボディに戻る。人の姿は、戦闘をしたり、料理を作ったり、調べ物をしたりするのには向いているけど、スライムボディの気楽さを知ってしまうと、どこか落ち着かない。全裸に慣れてしまった変態のような発言だけど、服を来ている状態に違和感を覚えてしまう。
 もしかしたら、気持ちも”魔物”に近づいてしまっているのかもしれない。実際に、人が死んでいるところを見たり、食べられたり、嬲られている状況を見て、”気分が悪い”という感情は芽生えたが、怒りに似た感情や悲しいという気持ちは芽生えなかった。

”ライ。皆は?”

 ダークとナップが中心になって、安全地帯を作ろうとしている。
 フィズとキールとアイズとドーンは、周りに居る魔物たちを釣ってこようとしている。ライの分体が着いているので、その場で倒すことにはしているが、集団になっている理由がわかれば、対処を考えたい。

「討伐は無事に終了しました」

”え?早くない?”

「ご主人さまが居る場所を安全にするために頑張った結果です」

”そっそう?ありがとう”

「魔物の集団を倒して、わかったことがあります」

”え?何?”

「強い個体が、群れを率いるようです」

”それで?”

「はい。魔物の集団ですが、統率されたような動きをしていたので、強い個体から倒したときに、倒さなかった、弱い個体がこちらに合流を求めてきました」

”え?魔物が?”

「正確には、魔物になってしまった。猪と鹿でした」

”角は?”

「猪には角がありました。鹿にはありませんでした」

”そう。意思の疎通ができたの?”

 裏山には居なかったけど、少しだけ離れた場所の山に居た。角ありの鹿が居た。その時には、意思の疎通が出来なくて、討伐するしかなかった。

「ボスを倒したら出来ました。でも、魔物はボスを倒しても、意識が繋がりません」

”なにか、条件がありそうだけど、動物から魔物になったと思われる者は倒さなくても、ボスを倒せばよさそうね”

「はい」

”そうなると、キャンプ場に居る動物から魔物になった者たちは倒さないほうがよさそうね”

「え?」

”私たちの群れに合流するのでしょ?そのまま、一部は、キャンプ場や周辺を守ってもらったほうがいいよね?”

 安全地帯を守る者たちが必要だと思っていた。
 家族から順番に行ってもらおうかと思っていたけど、地元で育った者たちが居るのなら任せたほうがいいだろう。

「あっ。そうですね。アイズやドーンが残る予定でしたが、最初から居た者たちが居れば安心です」

”うん。皆に、この方針を伝えて、たしかナップやキルシュなら無力化できるよね?”

「はい。皆に伝えます」

”うん。皆には、しっかりと休んでもらって”

「はい」

 空を見上げるが、まだ漆黒の闇の中に星々が光っている。
 夜明けまでには、まだ時間がありそうだ。私たちができることは少ないだろう。それでも、人を含めた動物たちが安全に過ごすために、できる限りのことをしよう。