【第一章 目覚め】第十一話 パシリカ

 

 アロイからニグラまでの行程は、荷馬車の上で過ごせた。ファボスさんの話を聞きながら過ごせた事も大きかったが、奴隷との話もいろいろ参考になった。
 マヤと僕が、どれほど世間知らずだったのかがよく分かる。特に、領主の評判は、僕達が思っていた以上に悪い物だ。生活には、それほど影響は出ていなかったが、商隊で訪れる時などは、他の領以上の税が課せられている。
 その為に、往来する商隊が減ってしまう。減ってしまった商隊からの税を補うために、探検者や護衛任務にも税が課せられるようになってしまった。そして、フリーでやっていた者たちが、ニグラや他の領に移動してしまって、更に税収が減ってしまう。領主の政策が間違っている。だが、僕には、どうすることもできない。

 そんな話を聞きながら、貨幣に関しての事を教えてもらった。
 一般的に、金貨・銀貨・銅貨・賤貨に区分されている。村では、銅貨と賤貨で事足りてしまう。
金貨1枚=銀貨100枚
銀貨1枚=銅貨100枚
銅貨1枚=賤貨100枚
 が、交換レートなのは知っていたが、金貨の上にも硬貨があり、大商人や国の取引に使われているとの話だ。

 使う事は殆ど無いだろうが
大金貨1枚=金貨100枚
白金貨1枚=大金貨100枚
 ファボスさんも、白金貨は一度しか見たことがないと言う話だ。

 農村部では、一年間で、金貨一枚程度の収入があれば多いほうだ。それ以下でも珍しくはない。
 領主の街などでは、年間で金貨2~3枚程度の収入になるらしい。

 ニグラで生活するためには、金貨で5枚程度の収入がないと生活が出来ないらしい。
 ファボスさんにそれとなく聞いた所、”コボルト魔核”は、金貨10枚程度にはなる。実際に見てみないと解らないと言う注釈が着いたが、もし今後魔物を倒してネームドの魔核が出てきたら是非売って欲しいと言われた。需要は増えているけど、数が少なくて供給が追いついていない。値段も上がり調子だと言う事だった。魔核は、小さい物なら、銀貨数枚程度になるが、大きくなれば値段も上がっていくとの事だ。

 ”コボルト魔核”が74個。かなり大きい魔核が999個あれば、一生生活が出来るかもしれない。

 ニグラの城門を通過して、ニグラの城下町に入った。
 正確には、まだ城下街ではない。トリーア王国の王城がある地区があり、その中に宗教都市ドムフライホーフがある。その王城と宗教都市ドムフライホーフを囲うように、城下街が築かれて居る。その周りを第一壁ファーストウォールがある。ファーストウォールの中は、大貴族や貴族お抱えたちが住む場所になっている。城下街と言ったときには、ファーストウォールの内側を指し、それよりも外の部分は、ニグラ街と呼ぶい。

 そして、ニグラ街の外側には、貧民が住むスラムが形成されている部分がある。
 僕達は、ひとまずニグラ街で宿屋を探す事にした。マジックポーチの中から、問題なさそうな物を売って宿代にしようかと思っていたが、マジックポーチの中に銀貨が200枚入っていた。金貨もあったがあえてスルーした。

 ファボスさんに安くていい宿を教えてもらった。
 目的の宿『朝の夢モーニングドリーム』は、すぐに見つける事が出来た。二部屋取ろうとしたら、マヤが”一部屋でベッドも一つでいい”と、横から口を出して、宿もそれなら丁度一部屋空いていると言われて料金を聞いた。

 食事なしでお湯のサービスがあって、一泊銀貨2枚。
 先払いで料金を払って、部屋に入った。

「さてどうしようか?」
「どうしようって?何を?」
「僕達は多分死んだことになっていると思うよ」
「あ!そうか、でも、身分証も手元にあるし、先にパシリカ受けちゃえばいいと思うよ!」
「そうだね。それがいいかな」

「ファボスさんが言うには、隊列は、どんなに急いでも後2日はかかるらしいから、今日休んで明日の昼間に行けばいいよね」
「うん。そうしよう」

 そう言うと、マヤが抱きついてきた。
 商隊と一緒に居るときには、見張りの順番もあり一緒に寝られなかったのが不満だったようだ。

「マヤ。女の子なのだから」
「大丈夫。リンにだけだよ」
「それは嬉しいよ。これじゃ好きな人とかできそうにないな」

「居るよ!?」
「え?誰?僕が知っている人?」
「うんうん。よく知っている!!」
「誰だろう、村の中でよく遊んでいる連中を知らないからな。マヤ。誰?」
「教えない。リンが、気がついたら教えてあげるよ」
「え~気になるな」
「そういうリンはどうなの?」
「僕?」
「そ」

 なんか、マヤの顔が少し緊張しているように見える。
 少し考えたが、好きな娘と言われても思いつく娘が居ない。

 僕が話すのは、マヤだけだからな。

「う~ん。居ないかな。マヤがいつも側に居るから、それでいいかな」
「そ(そういうことじゃないのだけどな)」
「ん?どうした?」
「ううん。なんでもない。それよりも、せっかくだから、ニグラを見て回らないの?」
「僕はいいよ。マヤ気になるのなら見に行ってきて、いろいろ教えてくれたら嬉しいよ」

「うん。解った。リン。軍資金頂戴!!」

 そう言って可愛くにっこり笑ったマヤは手を差し出してきた。
 その手に、銀貨一枚を載せた。

「それで足りるだろ?」
「武器や防具が買えないよ」
「それは、明日二人で一緒に行って買おう。後、服とかもね」
「うん。了解。それじゃ行ってくるね」
「気をつけるのだよ。街の中は安全って言っても何があるかわからないからね」
「うん」
「それから、夕方には帰ってきてね。一緒に御飯食べに行こう」
「了解」

 マヤが、ドアから出ていく音が聞こえた。
 さて、やっとマジックポーチの中身が確認出来る。全部出しながらやっていたら大変だな。
 何か書くものがあれば・・・楽ができそうだけどな。魔法の袋マジックポーチの中を探ってみた。

 マジックポーチの中を探していたら、”手紙”と”紙束”が見つかった。
 手紙は気になったので、取り出してみた。

 ”リン・マヤへ”と書かれた物だった。

 父さんが僕達に宛てた手紙が入っていた。

/*** ニノサからの手紙 1枚目 Start ***/
 これを読んでいる事から、アスタには会えたようだな。
 アスタが俺に関しての悪口を言ったと思うが全部ウソだからな。

 信じるなよ。

 何もなく無事で居てくれるのが一番だが、そうじゃないときには、このマジックポーチの中に入っている物を換金して逃げろ。

 困ったら、アスタに助けを求めろ。あいつなら信頼できるし悪いようにはしないだろう。そして重要な事を先に話す。

/*** ニノサからの手紙 1枚目 End ***/
 そこで一枚目が終わっていた。
 空白が十分にあるのに、何故かここまでしか書かれていない。

 二枚目につながるようだ

/*** ニノサからの手紙 2枚目 Start ***/
 リン。マヤに惚れるのはいいが、子供を作るのは、後六年は待て、若いお前が待てるか解らないが、俺は、40前でおじいちゃんと呼ばれたくない。

 ニノサに書かせていると横道に、逸れてしまう
 魔法の袋の中に、書類と書かれた紙の束があると思う。

 誰にも見せないようしなさい。アスタにも見せないようにしなさい。一人で居る時に、リンだけが見るようにしなさい。
 できれば、見ないで保存しておくようにしてくれると嬉しい。
/*** ニノサからの手紙 2枚目 End ***/

 あのバカ。何書いてんだ。僕一人で読んでいたから良かったけど、マヤが一緒だったらこれからどうするつもりだ。
 今度会った時にしっかり文句を言わないとダメだな。

 書類を取り出して見るか迷っている。もしかしたら、僕達が狙われた事に関連している可能性が高い。
 でも、見てしまった後では、ごまかせないかもしれない。嘘を見破るスキルが使える奴も居るかもしれない。
 そう考えると、なにかが起きてから見たほうがいいのかも知れない。僕とマヤは、書類の内容を知らない方が、安全かもしれない。
 魔法の袋マジックポーチが、僕にしか使えないから、ポーチ自体を盗まれても、書類が取り出される心配は無い。

 他に紙やペンが入っていなかった。
 宿の店主に話をしたら、店で使っている物を売っても良いと言われた。紙とペンで銀貨1枚と銅貨30枚だと言われた。
 相場がわからなかったが、妥当な気がしてその金額を払った。
 部屋に戻って、マジックポーチの物を書き出す事にした。
 三分の一程度書出した所で、マヤが帰ってきた。

「お腹減った。リン。ご飯に行こう」

 マヤと宿の店主に、安くて美味しいお勧めの食事が出来る場所を聞いたら、向かえにある『夜の蝶』がいいと言われた。
 近いし店から美味しそうな匂いもしていたので、その店に入る事にした。
 二人で、銅貨20枚の料理を食べた。料理は美味しくてボリュームもあってお腹いっぱいになった。

 マヤと朝の夢モーニングドリームの部屋に戻って明日の行動を確認したら眠気が来て、寝てしまった。

 朝目が醒めたらいつものようにマヤが抱きついていた。

”はっニノサの手紙。出しっぱなしだ”

 急いで手紙を探して、捨てるつもりで、丸めて床に投げておいた事は覚えている。夜の蝶から帰ってきてからの記憶が曖昧だ。マヤもすぐに寝てしまったと思う。
 床においてあるはずの手紙が見つからない。自分で何処かに捨てたのか気になって見回したがどこにもなかった。マヤが拾ったりしていないか荷物を確認したがなかった。マジックポーチの中にもなかった。まぁマヤが持っていなければ誰かに見られても困るようなものでもないからいいかな?

 いつもの様にマヤを起こして、食堂に向かった。朝は、簡単な食事がついてくる。
 食事を食べてから、店主に後二泊大丈夫かを聞いて、大丈夫との返答を貰ったので、その分の料金を払う。パシリカが終わってから、連泊して様子を見ようと思っている。パシリカを受ければ、僕達が生きている事も解ってしまうだろう。

 神殿にはパシリカを受ける人間の名簿があると言う話だ。

「マヤ。今日、パシリカを受けに行こうと思うけどいいよね?」
「うん。いいよ。リンに任せる」

 今日のマヤはすこぶる機嫌がいい。
 朝起こした時もいつもみたいにごねたりしないですんなり起きた。

「どうしたの?」
「いや、マヤ。なんか良いこと有ったの?」
「なんで?」
「なんとなくだよ」
「へんなリン。何にもないよ」
「ふぅ~ん。それならいいよ」
「うんうん。リン。早く行こう」
「そうだね」

 パシリカは一年間ならいつ受けても良いことになっているが、真命を授かって、スキルを手に入れると、能力が上がるので、なるべく早い段階で受ける事が推奨されている。
 今年のパシリカは、今日から行われる。

「さて行きますか」

 マヤとパシリカが行われる。宗教都市ドムフライホーフに向かった。
 城門の前は、既に人が並んでいる。今年、パシリカを受ける人なのだろう。獣人と呼ばれる者や、亜人と呼ばれる人たちも大勢居る。首輪をした奴隷も見られる。奴隷の主人は、パシリカを受けさせる義務がある。

 門では、パシリカ用の受付と、一般入場の場所が、別々に設けられている。僕達は、パシリカ用の受付に並んでいる。

 暫く待っていると、僕達の番になった。受付には、僕の頭くらいの球体が置かれていて、そこに手をかざすことで、登録されている人間なのかを判断していると説明された。僕が手をかざすと、球体は青く光った。受付の女性が、「ポルタ村のリン」そう僕の名前を告げた。相違ない事を告げて、受付で札を貰って進んだ。後ろを振り返ると、マヤが丁度球体に手をかざしていた。問題なく球体は青く光った。同じように札を受け取って中に入ってきた。
 札には、マークがかかれていて、その場所でパシリカを受けられると言う事だった。

 城門を通って、宗教都市ドムフライホーフに入った。
 道は綺麗に整備され、建物も綺麗に並んでいる。街を歩いている人も、ニグラ街と比べても高級感がある物を身に着けている。
 時折法衣の人も見かける。ポルタ村に来てくれている、教会の人たちと違ってすごく高級そうな法衣を着て、何人も引き連れて歩いている。もう、別世界と言っても良いのではないかと思える位だ。

 言われた通りに進んでいくと、マークが書かれた建物が見えてきた。僕とマヤは違うマークだったので、ここで一旦別れて、城門を出た所で待ち合わせをする事にした。

 僕のマークの所は人が少なく、前に一人女の子が居るだけだった。
 この辺りでは珍しい、黒髪の女の子だ。僕の髪の毛も珍しいが、茶色がかった髪の毛なので、それほど目立つ事はないが、黒髪だと目立つだろうなと見ていると、女の子が振り返った。
「あっ!!」
「・・・!!」
「昨日、家でご飯食べていった人でしょ?」
「!?」
「あっゴメン。私、”夜の蝶”って食堂の娘なの、貴方と一緒に居た娘が、すごく可愛い娘だったから、すごく印象に残っているの、同じくらいの年齢で子供だけだったから、パシリカに来たのかって思ったからよく覚えているの」

 一気に女の子はまくし立てるように話をした。夜の蝶では昨日確かに食事をした。でも、こんな女の子は居なかったと思うけどな。

 そう思っていたら
「厨房を手伝っていたから、貴方達が、気づかなかったのは当然だよ」
「そうだったんだね。僕はリン。確かに、昨日夜の蝶で食事をしたよ。多分、今日の夜も行こうと思っているよ」
「そうなんだ。私は、フェナサリム。フェムって呼ばれているよ」
「よろしくね。フェム」
「うん。リン。今晩のお越しをお待ちしています。その時に彼女も紹介してね」
「彼女じゃないよ、妹だよ」

 そんな話をしていたら、フェムの順番になって呼ばれて中に入っていった。
 後ろを振り返って見ると、何人か並んでいる。

『次入りなさい』

 僕の番が来た。ドアを引いて中に入る。
 右手に一人法衣を来た人が立っていた。
 正面に、受付と同じような球体が置かれていた。
 その球体の近くに、同じような法衣を着た人が立っていた。

 球体の近くの人が
『ここまで来て、札を前において、両手を球体に掲げなさい。』

 言われたように、球体の前に置かれていたお盆のような物に札をおいて、球体に両手を掲げた。
 手が少し暖かくなった感じがしたが、さっきのように球体が光出すような事はなかった。

 法衣を来た男性が
『我パンドンが命ず。この者に力を授け、真命を告げよ』
 そう言葉にした瞬間に、球体が透明に光った。

『エリフォス神の導きのまま』
 そう言って、法衣の男が外に出るように手で合図する。
 入り口に立っていた男が、入ってきたとは、別の出口に移動して、ドアを開けている。
 あそこから出て行けって事なのだろう。札は、言葉を発した男性が回収していた。

 ドアから出た瞬間。

(ドックン。ドックン。ドックン)

 心臓が壊れてしまうのではないかと思うくらい早く動いた。

 酷い頭痛がして、片膝を着いてしまった。
 受付の説明で、力を得た瞬間に身体に異変があるかもしれないけど、しばらくしたら落ち着くから大丈夫と言われていた。

 立つことが出来ないほどの頭痛がする。

 少し先に椅子がおいてある。前に入ったフェムも同じように頭を抱えて座っている。
 少し離れた椅子に座った。息も苦しい。

 徐々に頭痛も治まってきた。

 そして、すべて思い出した。

 僕は、『神崎凛』。日本人。転生させられた高校生だ!!!!

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