【第三章 帝国脱出】第六話 おっさん認識を改める

 

 馬車に戻ったおっさんは、残っていた飲み物を一気に喉に流し込む。
 一息ついて、また目を閉じる。

”にゃぁ”

「バステトさん。一緒に寝ますか?」

 おっさんが膝を叩くと、バステトは床からジャンプをして、おっさんの膝の上に乗って、くるくると回って、何かを確認してから、丁度いい場所が見つかったのか、前足で”カシカシ”とおっさんの膝を掻いてから、その場所で丸くなる。

 おっさんは、丸くなったバステトの背中をなでながら、また目をつぶる。

「まー様。少しだけお時間をいただきたいのですが、よろしいでしょうか?」

 おっさんは、ノックの音で目を醒ました。馬車の外から聞こえてくる声が、イーリスだとわかると、返事をした。

「大丈夫」

「ありがとうございます」

 イーリスは、馬車に乗り込んできて、おっさんの前に腰掛ける。
 バステトさんも起き出して、おっさんとイーリスの顔を見て、おっさんの膝の上から、イーリスの横に移動した。

「それで?出発か?」

「いえ、今日は、この場所で野営にしようと思っています」

「街道から外れているし、距離を考えれば丁度いいのだな?」

「はい。おっしゃる通りです」

 おっさんは、少しだけ考えて、了承の意を伝えた。
 急いでいるが、急に何かが変わるわけではない。それに、おっさんは予感めいた物を感じている。

 王都での出来事や、様子を考えると、辺境伯たちが”何か”をしようとしているのは、わかっている。イーリスもそれに絡んでいるように思える。おっさんとカリンを逃がすという建前で、イーリスと若手の騎士たちを逃しているようにも思えた。
 事実、護衛に付いてきたのは、成人したばかりの者たちばかりだ。熟練の騎士はいない。

「イーリス。辺境伯は・・・。いや、止めておこう。それよりも、カリンは急に魔法を使いだしたけど、大丈夫なのか?」

 おっさんは、辺境伯の言葉から一つの結論を導き出しているのだが、イーリスに聞いても答えないだろうと思っている。
 他所から来ている自分たちが、関わるべきことではないと思っている。そして、カリンを巻き込ませたくないのは、辺境伯やイーリスと同じ気持ちだ。そのために、途中まで言いかけて止めて、ごまかすように話を変えたのだ。

「大丈夫とは?」

「俺たちの、元居た世界では・・・。定番な設定で、初めて魔法を使うときには、魔力の枯渇で苦しむことがある。最悪は、”死”とかな・・・」

「え?まー様の世界には、魔法はないのでは?」

 イーリスは、おっさんの言い方で勘違いをしてしまった。

「言い方が悪かったな。俺たちの元の世界の読み物・・・。物語。想像での話だ」

「そうなのですね。あっ・・・。もうしわけございません。魔力が枯渇しても、発動が失敗するだけです」

 イーリスの言い方で、おっさんはひとまず安心する。
 魔法の使いすぎで”死”が無いのなら、カリンが練習を繰り返しても、心配することはない。即座に実戦になる可能性だけ注意していればいい。

「そうか・・・。それなら、戦いの時にも、魔力の残量を気にしながら戦えば・・・。そう言えば、魔力は自然回復だよな?他には手段はないのか?」

 実戦を考えれば、魔力の回復アイテムは必要になる。
 RPGの知識から、おっさんが思いつくのは当然の話だ。

「え?魔力は自然に回復しますよ?」

「あぁ悪い。俺たちは、魔力とかに馴染みがなくて、わからない。自然回復を助ける方法はないのか?」

 おっさんは、マナポーションのような物が存在していると、考えていた。

「ポーションですか?」

 イーリスは、びっくりした表情をしながら、おっさんに”ポーション”のことかと聞いている。

「あぁポーションも知識としてはあるけど、俺たちが知っている物と同じなのかわからない。もう少しだけ、詳しい説明をしてくれると助かる」

「はぁ・・・。もしかして、まー様やカリン様の知識は、その・・・。知識は物語から得ているのですか?」

 イーリスは、質問をされているが、どうしても確認をしておきたかった。カリンと話をしていても、魔法に関しての造詣が深いことや、理解力が有りすぎるように感じているからだ。

「そうだな。俺たちの元居た世界には、ポーションも魔法も存在していない」

 初代の日記からも、魔法やポーションが存在していないのは知っているが、改めて言われると驚いてしまう。

「それなら、病気や怪我を治すのは?」

「薬だな。最初は、薬草を煎じて飲んだり、軟膏にして塗ったり、それから、化学物質は説明が難しいな。上位の薬だな。それを使って、それでも治らなければ、手術だな」

「手術?」

「説明は難しい。悪くなった部分を切り離すと考えてくれ」

「はぁ・・・。あっ。それで、ポーションなのですが、キュアポーションなら体調を整えて、ヒールポーションは怪我を治しします。魔力を回復させるポーションは、ありません。文献には存在していますが、現在では幻となっています」

 イーリスは、怖い想像をしてしまった。
 切り離すと言ったおっさんの言葉をそのままの意味で考えてしまった。腕が怪我をしたら、腕を切り離すと考えてしまったのだ。人口の違いはカリンからきいているので、人が多いから多少は乱暴に扱っても問題が無いような場所だと思ったのだ。
 魔物も戦争もない場所だと聞いているので、それでも問題にはならないのだろうと勝手に解釈をした。

 そして、ポーションでの魔力回復で驚いた理由をおっさんに告げた。

「ん?幻?材料がないのか?手法がわからないのか?」

「材料と手法がわかりません」

「ちなみに、キュアポーションとヒールポーションは、薬草から作られると考えて良いのか?」

「はい」

「そうなのか?キュアポーションの材料や、ヒールポーションの材料は、公開されているのか?」

「公開?」

「あぁ・・・。俺が、キュアポーションを作ろうとしたら、どうしたらいい?」

 おっさんは少しだけ戸惑っていた。
 言い方を変えて、作る方法を聞いた。

 特許に似た仕組みがあるのに、情報の公開や手順の明文化が済んでいないように思っていたのだ。一子相伝のような物なら、どこかで伝達が出来ていなくて、手法が伝われなくなっても不思議ではない。
 しかし、ギルド制度が確立している状況で、手法の損失が発生する理由がわからないのだ。

「それなら、本があります。薬草・・・。キュアポーションなら、キュア草を使うのですが・・・」

 イーリスは、おっさんに知っている内容の説明をした。
 おっさんは、自分が思っているポーションの作成との差異をイーリスに質問をして知識として持っている認識を改める。

「そうか、俺が思っていのと、かなり違うな。ポーション作りは、錬金術とかの範疇かと思ったけど、誰でも作ろうと思えばできるのだな」

「はい。しかし、錬金術師が作ったポーションのほうが高品質になりやすいのは、間違いではありません」

「そうか・・・。何が、違うのか、研究はされているのか?」

「え?いえ・・・」

「そうか、わかった。もし、錬金術師ではない者でも、ポーションの品質が上げられる方法が見つかったとして、錬金術師に恨まれるか?」

「え?大丈夫だと思います。一部の錬金術師は、怒るかもしれませんが、ポーション作りだけを行っている錬金術師は少ない・・・。居ないと思うので大丈夫だと思います。錬金術を学ぶ時の最初の仕事ですので・・・。弟子に作らせている人がほとんどです」

 イーリスは、王都での現状をおっさんに告げる。
 実際に、辺境伯領でも、領都以外には錬金術師は居ない。ポーションは、行商人が少しだけ持って売っているだけだ。おっさんが考えているのは蒸留で不純物を除くことでポーションの品質が上がらないかと考えている。

 実際に、やってみなければわからないことだが、錬金術師が作成するとポーションの品質が上がるのなら、蒸留でも上げられるのではないかと考えたのだ。地域や社会の仕組みが、まだわかっていない状態で、地球の知識を組み込むのは危険かもしれないと思い始めている。

 おっさんは、イーリスと知識のすり合わせを行った。
 イーリスは、当初の”魔法”の危険性を伝えるのをすっかりと忘れてしまっている。

 おっさんの知識を知るのは、イーリスも楽しい時間だったのだ。”秘匿魔法”を注意しようとしていたことを思い出すのは、カリンが魔力切れで馬車に戻ってきてからだった。

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