【第二章 転生者】幕間 鵜木和葉

 

/*** 鵜木和葉 Side ***/

 この部屋とも、今日でお別れ。
 明日から、また、あの街に、戻ることになる。自分の意思で、戻る事にした。私の事は、誰も知らないはずだけど、それでも、何が、起こるか解らない。

 両親は、2年前に、車の事故を起こして、他人を巻き込んで死んだ。

 両親に、ある程度の資産があったことや、巻き込んだ相手が新聞記者だった事もあり、かなりマスコミで、騒がれた。私の事も、一部週刊誌が写真入りで、取り上げていた。親の遺産は、全部、私に相続されたが、叔父が、管理するといい出した。
 正直、どうでもいい話だ。叔父は、善人ではないが、悪人にもなりきれなかった人だ。どうせ、遺産は、叔父の赤字の会社に注ぎ込まれるだろう。遺産を、管理すると言いながら、大学卒業までは、面倒を見ると、いい出した。おかしな話だ。
 叔父の中では、私から管理を任されたという考えではなく、自分が遺産を貰ったと思っているのだろう。

 叔父の家も、好きになれなかった私は、叔父が家に来なさいという言葉を無視して、権利の中で、少しの現金と”あの街”の家だけをもらう交渉をした。ほかは、全部叔父に譲渡した。法律的な事は、事故の処理を行った叔父の会社から来た弁護士が全部やってくれた。

 そして、少しの現金を持って、母方の祖父母が、住む街に引っ越した。その街で、中学卒業まで過ごしていた。

 無事、祖父母の家から近い高校に受かって、1ヶ月が過ぎた頃。

 祖父が、農作業中に倒れて、そのまま帰らぬ人になってしまった。それから、祖母と二人暮らしになってしまった。祖母も、祖父の49日が終わって、少し落ち着いた時に、同じように、農作業中に、倒れてそのまま帰ってこなかった。一人残された私は、誰も頼る事がなくなってしまって、帰りたくはなかったが、両親と、過ごした街に、帰る事にした。幸いな事に、家から近い高校に編入する事が出来た。祖父母に引き取られた時に、養子申請して名字を、変えた事で、私が、”人殺しの娘”だと、思う人は居なかった。

 最初は、家に住もうかと思ったが、思い出が強烈過ぎて、家に入れなかった。両親との思い出が、頭をよぎって平常心で、居られる自信がなかった。

 それに、家に戻ると、知った叔父が、文句を言ってきた。面倒に、なってしまって、叔父に、生家を売ることにした。二束三文にしかならなかったが、祖父母が、残してくれた貯金と併せて、慎ましく生活すれば、大学卒業位までは、生活出来るだろう。
 新しい住処になるマンションの手続きをしている時に、祖父母の葬儀を取り仕切ってくれた住職から連絡が来た。祖父母が、生前相談していた弁護士が、来て話をしたいと言われた。

 もちろん、問題ないと伝えて、街まで来てもらう事になった。

 待ち合わせ場所で待っていると、女性が私に声かけてきた。

「鵜木さんですか?」
「そうです」

 女性弁護士は名刺を出してきた。上野美和と、名乗った。気楽に、美和と呼んで欲しいと言われた。

 そして、立ち話も疲れてしまうから、喫茶店にでも行きましょうと言われて、駅前の喫茶店『いつものところ』に、入った。
 美和さんも、この街の出身で、学生の頃に、よくここを使っていたと、笑って話してくれた。すごく安心出来る笑顔だ。

 注文した物が来て、一息つけた時に

「いきなり本題で、申し訳ないのだけど、鵜木和葉さんで、間違いないですよね?」
「はい」
「何か証明出来る物はありますか?」

 そう言われて、少し考えた。こういうときには、免許とかになるだろうけど、免許はないし、パスポートも持っていない。保険証では、写真がない。

「あっ学生証でいいですか?」
「えぇ問題ないですよ。本人確認が出来れば良いですからね」

 昨日貰った学生証を見せた。

 美和さんはにっこり笑って

「ありがとう。和葉さんで間違いないようです。鵜木ご夫婦と養子縁組したのは覚えていますか?」

「はい」

「あぁ大丈夫ですよ。事情は知っていますからそこの説明は必要ないですよ」

「あっはい」

「鵜木ご夫婦の遺言書を預かっています。」

「え?遺言書?」

「はい。既に一通は処理してあります。それ以外に、遺言がありまして、和葉さんにに確認してもらうために来ました」

「・・・・」
「なんの事かわかりませんよね?」
「はい」
 うなずく。

 そして、美和さんが、手に持っている物を、見つめてしまった。確かに、祖父の字で、私の名前がかかれている。

「私は、この遺言書以外にも、ご夫婦に、ある事を、依頼されて居ました。それに、ついての報告を、和葉さんに、しなければなりません。でも、それは、ご夫婦の意思ではありますが、和葉さんには、それを拒否する権利もあります。どうしますか?」

 変わった依頼を、受けているんだと思って、最初に気になった事を聞いた

「美和さんは、祖父母とは、どういう関係なんですか?なんか、すごく親身になってくれているように、思えるのですけど・・・」
「そうですね。昔、お世話になっただけでは、納得できませんか?」
「・・・・・(コクン)」
「そうですよね。あっ鵜木さんが、昔、先生をやっていたのは知っていますよね?」

「っはい」

「その時の、教え子だと思って下さい。そして、ご夫妻のおかげで、私は幼馴染を、大切な人を、失わずに済んだ」
「そうなんですか・・・」
「私の話は、今度、ゆっくり話すとして、和葉さんの、気持ちはどうなんですか?」

「教えてください。何も失う物はありませんから話して下さい」
「わかりました。それでは、場所を移動しましょう。内容が、内容ですので、ここではまずいです」

 カラオケに移動

 部屋に入って、適当にBGMになるような音楽を流し始める。80年代のJPOPだ。

 美和さんは、祖父母が、依頼していた事を話し始めた。

 娘夫婦が、起こした事故の詳細を、調べると言う途方もない事だ。
 そして、被害者家族の事情や、現在どうしているのかを、調べると言うことだ。

 なんで、そんな事をさせたのかわからなかった。被害者家族に関しては、すぐに調べる事が出来て、祖父母に伝えたとのことだ。

 私も、知らなかったが、被害者は、夫婦と子供2人の家族で、子供の一人は、事故当時既に、亡くなっていた。夫婦二人を、亡くして、子供一人が残された。
 私と同じように、祖父母に預けられて生活していら。私よりも、一年早く祖父母がなくなってしまって、一人になってしまって生まれ故郷の街に帰ってきていると言うことだ。

 そして、被害者家族の事を知った祖父母は、見舞金として毎月10万を、相手の祖父母に送っていたとのことだ。美和さんが、窓口になって、相手に届けていたとのことだ。

 口座に入れていくだけの作業で、一切手をつけられていない預金通帳が、出来上がっただけだったらしい。

 被疑者の祖父母がなくなって、それを知った遺族が、美和さんを呼び出して、通帳を渡して、祖父母に返して欲しいと、言われたそうだ。

「謝罪は、受け取った。自分一人になってしまったが、もう大丈夫だから、このお金は残された、加害者家族に、使って欲しい」
 と、言われて、祖父母にそのまま伝えた。

 祖父母は、その預金を、使って事故の真相を調べて欲しいと、言われた。

 ”酒が飲めない”娘婿が、飲酒運転するはずがないと、言うのが根拠だった。でも、父の会社の人の話や、立ち寄った店の話で、酒を飲んでいるのは間違いないと言うことで、飲酒運転の上での事故と処理されていた。

 美和さんが来た理由は、中間報告をする事と、このまま調査を続行するのか?

 それを、聞きに来たとの事だった。

 金銭的な、問題もあるから、きっちりと説明してから、私に判断して欲しいとの事だ。

 2~3日は考える時間が欲しいと伝えると、美和さんは、にっこり笑って、”もちろん”と答えてくれた。
 中間報告と、祖父母からの手紙と遺言を、私に手渡してくれた。

 遺言には、勝手に、被疑者家族の支援をした事への詫びと、寂しい思いをさせた事への懺悔が、書かれていた。
 そして、好きに生きて欲しいと、言う言葉が書かれていた。そして、好きな人と結婚して幸せになって欲しいと綴っていた。

 ”加害者への懺悔は自分たちでする。和葉は自分の事を考えて幸せになって”と、まとめられていた。

 遺産の目録を見た。

 祖父母はかなりの資産家だったようだ。山を、3つ保有して、それぞれの産物の権利を持っていた。
 信託していた資産もある。ただの農家だと思っていたが、自分たちで、使わない土地を、貸している所もある。某スーパの土地も祖父母の持ち物だと言う事が書かれてた。大きすぎてよくわからない。これは、今度美和さんと会うときに相談すればいい。

 中間報告も読む事にした。
 可愛い丸文字で、書かれた文章が続く、美和さんの文字なんだろうか?

 雰囲気は、出来る女性だけど、こんな可愛らしい文字を書くんだ、と思って読み進める。

 事故が、発生した時に、車からアルコール臭がしたと、報告が上がっていたが、当初は父親/母親からはアルコールが検出されなかったとされていた。しかし、警察が、調べていると、直前に合っていた人が、さそった店で、お酒を飲んでいたと、証言した事から、よっぱらい運転の可能性ありとなって、事故を、通報した運送会社の社員の証言が、”蛇行運転していた”と、言う話もあり、そのうえ、ブレーキ痕が、ないことは酔っ払って寝てしまったのではないかと言われている。

 当初警察では、事件の可能性もあると、調べていたが、証言が出てきたことから、酔っ払い運転の上、ハンドル操作を誤っての事故と、結論づけた。
 不可解な点も多いとされていた。これらの事は、今後調べる事になると書かれていた。

 最後のページに、被害者家族の名前が、かかれていた。

神崎進(死去)
神崎鈴(死去)
神崎凛
神崎悠(死去)

 被害者の名前は、勿論知っていた。子供が、居る事も知っていた。でも、名前に見るのは初めてだ。
 両親が起こした事故の、被害者を知るのが、怖かった。ニュースや雑誌も見ないようにしていた。祖父母に、引き取られてからは、余計にニュースや雑誌には、触れないで居た。

 名前を見た『神崎凛』。
 そして、当時の、私に向けられたわけではない笑顔の写真と、現在の何もかも諦めた目をしている写真。

 それを見た時に、涙が溢れてきた。

 小学4年の時に、クラスに馴染めないで、虐められていた私を、助けてくれた男子の名前が『凛』だった。同じ苗字が、多い地域だから、忘れていた。

 『神崎凛』だ!!

 私は、その男子のおかげで、徐々に女子の友達が出来て、小学5年に、上がる頃には、嫌がらせもいじめもなくなっていた。

 密かに、憧れていた。幼い恋心と言ってもいい。凛君には、幼馴染の女の子が、隣に居て、羨ましいとさえ思っていた。

 その凛君の両親を、私の両親が、奪ってしまった。取り返しのつかない事をしてしまった。

 中間報告には、現在の凛君の事が、載っていた。
 そう、私が、週明けに編入する高校名が、書かれていた。

 私は、幼い頃に、好きだった人と再開する。被害者家族と、加害者家族と言う立場で・・・。

 私は、真相を知りたい。両親が、本当に、お酒を飲んで、事故を起こしたのなら、凛君の前で死んで、詫びよう。
 そうじゃなかったら、凛君に、知られる前に、私の責任においてなんとかしよう。

 この書類は、スキャンしてメモリに保存しておこう。盗まれないように.・・・。

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