【第三章 復讐の前に】第十九話 訪問者

 

バイトが終わって家に帰ってきたら、今川さんからの着信に気が付いた。

今川さんには、俺の家に侵入した愚か者たちの身元を含めて家族やターゲットとの関係を調べてもらった。

7人は、警察に連れていかれたが、謝罪文とか訳の分からない物を学校に提出するだけで、退学にもならなかった。休学だけだ。

学校が与えた罰は、”休学10日”だ。笑いも出なかった。

吉田教諭たちも抵抗したようだが、子供が学校外で行った事で、”学校の罰が重いのはおかしい”という頭が悪い話が通ってしまった。教育委員会も再発防止を学校にいうだけで、おとがめなしだ。
もちろん、俺は何も聞かれもしない。謝罪文とかいう作文も見せてもらえていない。
吉田教諭がいうには、謝罪文は7人が殆ど同じ内容だったらしい。

警察で自分たちの非を認めなかったことや、未だに俺への謝罪がないことから、俺は被害届を取り下げていない。
警察からも何度もスマホに電話が入った。何度かタイミングが悪くて出てしまったが、弁護士の森下さんに連絡するように伝えてから電話を切った。警察が家に来た事もあったが、録音をするというと、勢いが弱まって、意味が解らない事を言って帰っていった。
そもそも、警官が一人で俺の家に来るのがおかしい。防犯カメラに映った警官の写真を、森下さんに頼んで問い合わせをしてもらった。

『ユウキ。調べたぞ!』

「ありがとうございます」

『お前の鍵で暗号化して送っておいた』

「わかりました」

スマホを確認すると、添付が大きくてダウンロード出来ていないメールがあった。
すぐにダウンロードを開始した。

『そうだ。ユウキ。来週に載るぞ』

「え?どの話ですか?」

『学校と警察と教育委員会が、”生徒の犯罪を隠蔽している”という感じの内容だ』

「それは、面白そうな内容ですね」

『だろう。学校名や地域は・・・。地元なら解るような内容だ。それに、学校の不祥事ではなく、警察の不祥事を論うような記事になっている』

「今川さんの力作ですか?」

『俺は、ネタを提供しただけだ。証拠を固めたのは、週刊誌の連中だ』

「へぇ。まだ、そんなマスコミが残っていたのですね」

『ははは。違う。違う。サポートする派閥が違うだけの話だ』

「敵対している組織に情報が渡ったのですね」

『そうだ。騒がしくなるかもしれないぞ?』

「大丈夫ですよ。それこそ、望む所です」

『そっちは大丈夫なのか?』

「大丈夫ですよ。夜襲でもくるのかと思ったのですが・・・」

『夜襲はないだろう。一応、資料には書いたけど、一人、大物が混じっているぞ?』

「へぇ?大物?」

『村井という奴だ』

「村井?」

『そうだ。議員先生のブレーンをやっている。簡単に言えば、ブローカーだ。それも、どちらかというと、裏と渡りを付けている奴だ』

「いきなり、釣れましたね。小物界の大物?大物界の小物?」

『小物界の大物だな。地方限定の力だ。あぁ表では、蕎麦屋をやっていることになっている』

「”やっている”こと?実際には、運営はしていないのですか?」

『人を雇ってやらせている』

「そうなのですね。それで、あの議員先生の会合では、蕎麦屋が使われるのですね」

『そういうことだ』

「ははは。ありがとうございます。今度、蕎麦を食べに行ってきますよ」

『味は悪くないという話だ。高いらしいけどな』

「わかりました。味のレポートでもだしますか?」

『必要ない。俺は、蕎麦屋は、”かんだやぶそば”と決めている』

「今度、東京に行った時におごってください」

『おい。ユウキ。俺よりも、お前の方が、金を持っているのだぞ?』

「今回の件が片付いたら、食べに行きましょう」

『そうだな。ユウキ』

「はい?」

『無茶はするなよ?』

「大丈夫です」

そこで、電話が切れた。
今川さんや森田さんや馬込先生が、俺の心配をしてくれている。

ありがたい。
そして、心配が心地よい。俺がやりたいことを、正義や悪で判断をしない。間違っていると思えば指摘してくれる。その時に、俺の考えを優先してくれる。レナートの国王夫妻を思い出す。

『自分たちでは手伝えないが、手伝えることなら言って欲しい』

俺たちが、国王に謁見した後で移動した別室で言われた言葉だ。
もちろん、条件も提示された。俺たちのメリットやデメリットもしっかりと説明してくれた。それでも良ければ、王国として”俺たちを受け入れる”と言ってくれた。俺たちのことも考えたうえで、話なのが解って嬉しかったのを覚えている。

今川さんから送られてきた資料は、スマホでは読みにくかった。
復号をスマホで行って、ネットワークから切断しているパソコンにスマホを繋げて、パソコンで資料を広げる。

7人の身元が書かれている。今川さんたちが使う身上書のような物だ。
サイン指紋の捺印された調書もある。警察の調書なんてどうやって入手したのか知らないけど・・・。俺が、口を滑らさなければ大丈夫だろう。口を滑らしても、尋問に来た警察に聞いたことにしてしまえばいい。

それにしても、本当に、ふざけた奴らなのは間違いなさそうだ。犯罪の揉み消しも今回が初めてではないようだ。特に、侵入してきた3名は酷い。
警察での調書ももともと決められていたことをしゃべっているようにしか思えない。
7人の証言がぴったりと一致しているのが気持ち悪い。

それだけの記憶力があれば、学校の成績はもっといいだろう?

『犬を殺すつもりはなかった』?アインスたちシルバーフェンリルでなければ、致死量だ。大型犬でも十分に殺せる農薬が仕込まれていた。

どうやら、警察の内部も割れているのだろう。
呼び出したのが3人ではなく、7人なのは捜査をしっかりとしてくれている派閥がある。しかし、買収されている組織もあるのだろう。

しかし、偶然なのか?
主犯格の3名は、商店や飲食店の子息で、後ろに居る4人は公務員の子息だ。

時計を見ると、22時を回っている。
夜襲をしてきてくれるように、夜は電気を消している。帰ってきて、電気を少しだけ付けてから、消して過ごすようにしている。灯りが無くても、スキルで暗闇でも見えるようになっている。

玄関のベルが鳴らされた。
10人近い大人が、腕を組んだり、辺りを見たり、話をしている様子が監視カメラを通して見る事ができる。

今日は帰ってもらおう。
どう考えても、歓迎できるような人たちではない。

無視を決め込んでいると、ドアベルを連打してくる。
ドアを叩いて、怒鳴り始める。どう考えても、まともな人たちではない。

全部を録画している。
歓迎できるような訪問者ではない。このまま、騒がしくされても、俺は困らない。近所に民家はないので、誰かが警察を呼ぶこともないだろう。

詫びるような雰囲気でもない。
そもそも、謝るつもりなら、犯罪者である子供たちを連れてこなければ意味がない。

ウミとソラが起きだして、準備運動を始める。
眠りを妨げられて機嫌が悪いのだろう。

アインスたちが”撃退するか”と聞いてきたが、無視するように伝えた。
匂いを覚えておくように伝えた。俺が居ない解きに来ても、アインスたちが無理に対応することはない。

徐々に声が大きくなってくる。
ドアベルを鳴らす間隔が短くなってくる。実際には、外に大きな音がするだけで、家の中には音は響かないようになっている。

次に、ドアを叩いたら、森田さん謹製のアラームが流れるだろう。

叩きやがった。

”不法侵入と器物破損の疑いがあり、10分前からの監視カメラの映像を保存しました”

本当に、面倒だ。

今度は、”動画を消せ”とか言い出している。

面白い動画の撮影が出来た。
今川さんに送っておこう。

さて、遮音結界を展開して、玄関以外には入らないように、結界で守って・・・。

寝よう。
さすがに、朝には帰っているだろう。

怒らせるだけ怒らせた方が、強硬手段に出てくるだろう。

今川さんの予想では、拉致まではないだろうと言っていた。
大人数で囲んで説得恫喝してくるのが限界だろうと予測されていた。

それでは、この件が終わってしまう。
それでは困る。せっかくの事件だ。次に繋がるような種は残したい。

F1&雑談
小説
開発
静岡

小説やプログラムの宣伝
積読本や購入予定の書籍の情報を投稿しています
小説/開発/F1&雑談アカウントは、フォロバを返す可能性が高いアカウントです