【第三章 町?街?え?】第九話 アーティファクト?

 

「着きましたけど?」

 ヤスが後ろに居る二人に声をかける。

「え?」「は?」

 二人は、外の景色がそれほど見えているわけではなかったので”いろいろ”判断ができない。
 着いたと言われても何を言われているのかわからなかった。

「外で待つか?ここで待っているか?」

「ヤス殿?着いたとは?もう表門に着いたのですか?」

「あぁ」

 そこまで言われて、改めて外の景色を見ると、たしかにユーラット町の表門にたどり着いている。

「ヤス殿?」

「ん?」

「どのくらいの時間が経過したのですか?」

「うーん。5-6分って感じだな」

「え?」

 ダーホスもアフネスも絶句するしかなかった。かなり早く到着するとは思っていたのだが、二人の想定の5倍以上だ。ユーラットの町は小さな港町で、海の方向に伸びている。そのために、表門から裏門までの距離は、港側に比べて長いわけでは似。それでも、2-3キロメートルはあり歩けば30分位は必要になる。

 ヤスはディアナを停めて、二人を降ろした。

「ヤス」

「ん?」

「リーゼも座っていたのか?」

「あぁ」

「そうか・・・」

 それっきりアフネスは黙ってしまった。

「ヤス殿」

 今度は、ダーホスが話しかけてきた。

「ん?」

 この時点で、やすはかなり面倒に感じている。
 しかし、この後もしかしたら食料面で世話になる可能性が高い町の住民なので、なるべく冷たい態度は取らないようにしようと考えていた。

「いや、なに、少しアーティファクトに関して聞きたい事が有っただけだ」

「俺に答えられる事ならいいぞ?」

「世間話程度に聞いてくれ」

「あぁ」

 どうやら、ダーホスは考えながら話すのが苦手なタイプのようだ。
 回りくどい前段で保険をかけるような話し方をしている。

 実際に、ダーホスはヤスが”怖い”のだ。このアーティファクトだけではなく何かを隠していると感じているのだ。小さな町とは言っても、3つのギルドの責任者を兼ねる者だ、それなりの経験を持っている。直感で、ヤスを敵に回しては駄目だと感じている。
 それは、アフネスも同じなのだが、アフネスの場合は自分たちに”なにか”有った時にリーゼを守ってもらうために利用できないかと考えているのだ。

「ヤス殿。このアーティファクトは人を・・・。例えば、100名の人を運ぶ事ができるのでしょうか?」

「どうだろうな。正直わからない。でも、俺は人を運ぶような事はしたくないな」

「なぜでしょう。これだけ早ければ、それこそ貴族の移動や商人の移動で重宝されます」

「うーん。やっぱり、人だけを運ぶのは”なし”だな」

「理由を聞いても?今の言い方ですと、”できるけどやらない”に聞こえます」

「1つには、人の運搬が”戦争”や”紛争”に利用されない保証がない」

「え?」

「次に、移動距離として500km離れた場所に行くのに、2日程度は必要になる。一人で操作するのは流石に疲れる」

「それは、他の者に・・・」

「できるのか?アーティファクトは、俺が認証して、俺しか操作できないのだぞ?なにか、抜け道があるのかもしれないが、それは今の議論には必要ない」

「・・・」

「一番の理由は、人は文句を言うし、対応が面倒だ。大量の移送を依頼するような人間は、貴族や豪商なのだろう。それこそ対応が面倒だ」

「それは、ギルドが・・・」

「”できない事”は、言わないほうがいい」

 アフネスが割り込んでくる。

「アフネス殿。しかし、ギルドには」

「確かに権限はあるが、あの子爵家や、あの伯爵から、苦情を言われて、お主達は抑えられるのか?それこそ、第2王子派の連中が出てくるかもしれないのだぞ?」

「それは、そうですが・・・。このアーティファクトの能力を考えれば・・・」

「ダーホス。俺は、人は運ばない。ただ、俺が大切にしている物や人が危険に陥れば何でもする。そう考えてくれ」

「はぁ・・・。わかりました」

 ヤスの言葉を聞いて、一人は落胆して、一人はニヤリと笑った。
 リーゼが、ヤスの大切な存在になれば守られる。最低でも、神殿に匿ってもらう事位はできるかもしれない。

「なぁ俺からも質問していいか?」

「もちろんです」「・・・」

 微妙な反応を返す。ダーホスを無視して、ヤスは質問をする事にした。
 この世界の事は、リーゼから概要を聞いたのだがイマイチわからない。特に、皆が神殿にあんなに喰らいついてくるのが理解できないのだ。

「神殿を攻略していた時と、していない時の違いがわからない。ディアナ・・・。あぁこのアーティファクトがなにか絡んでいるのか?」

 ダーホスの顔が歪んだのを、アフネスは見逃さなかった。
 ヤスが知る前に、ヤスの情報を抑えておきたかったのだ。

「それは・・・」「ヤス。神殿を攻略していると、神殿に関する所有権は、攻略者の物になる。神殿を攻略していなければ、出てきたアーティファクトは、領主や国に納めなければならない可能性が出てくる。建前は、”買い取る”事になる」

 ダーホスが言葉を濁して避けようとした話を、アフネスは一気に言い切った。
 苦虫をまとめて噛み潰したような表情をしているダーホスとは対照的にアフネスは出し抜きが成功した事や、ヤスの目線からダーホスに不信感を持ち始めている事がわかった。

「そうか、なんか、リーゼからは、独立した国にする事もできると聞いたが?」

「可能だ」「可能です」

 二人の答えは簡潔だった。
 ダーホスもこれ以上情報を隠蔽してもしょうがないと考え、話や説明の方向性を変えた。

「うーん。国は面倒だな。独立は魅力的だけど・・・」

「ヤス殿。それならば」「ヤス。大丈夫よ。神殿の攻略が確定したら、誰も手出しはできないから」

「どういう事だ?」

 またしても、ダーホスの思惑はアフネスによって邪魔された。
 ヤスが国を興すつもりはないと聞いて、それならば、バッケスホーフ王国に属して貰えれば良いと考えたのだ。しかし、そのためにもどこかの派閥に属さなければならない。ダーホスとしては、ギルドに融和政策を取る辺境伯の派閥に属してもらいたいと考えたのだ。
 アフネスも、ダーホスが言いたい事がわかったので、先に潰す事にした。目の前に居るヤスが狡猾な貴族とやり会えるとはどう考えても思えない。アフネスは、オババ様に会ってもらって、エルフ・・・。できれば、精霊の加護がヤスに付けられないかと考えている。そのためにも、どこかの貴族や国の紐付きにはなってほしくないのだ。

 ヤスを挟んだ。ダーホスとアフネスの攻防戦が始まった。

「ヤス。亜人に偏見は?」

「亜人?なんだ?それは?」

 もちろん、ヤスは亜人を知っている。正確には、ラノベ設定の亜人に関しての知識を持っているのだが、あえて知らないフリをした。

「アフネス殿!」

 ダーホスが何かを言いかけたが、アフネスが手で制す。国に属するにしても、独立するにしても、亜人の話は避けて通る事はできない。アフネスの考えている事がわかったのだろう、ダーホスはそれ以上話を遮らないことにしたようだ。

「ヤス。私やロブアンやリーゼを見ても何も思わない?」

「ん?美形だと思うけど、それ以外で・・・か?」

「そっそう。ねぇヤス。私たちは、エルフ族と言って人族とは違うの?」

「へぇ・・・。それで?」

「それで?」

「だって、話ができて、コミュニケーションが取れるのだろう?何か問題でもあるのか?」

 ヤスの答えを聞いて、ヤスが記憶を失っている事に思い至った。

「そうね。ヤスは、記憶が無いのよね」

「覚えている事はあるが・・・」

「ねぇヤス。獣の因子を取り込んだ人族はどう?」

「ん?それは、猫のような耳やしっぽを持つ人や、犬の嗅覚を持つ人や、熊のような力を持つ人の事か?」

「知っているの?」

「いや、ディアナの・・・アーティファクトにそんな情報があったことを思い出しただけだ」

「純血種の事ね。私が言ったのは、混血種と言って人と交わった者たちのことよ」

「ハーフやクォータとは違うのか?」

「よく、そんな古い言い方を知っているわね。神殿の知識なら当然よね。概ね。その認識でいいわ。ヤスは、彼らの事をどう思う?」

「どう思うと言われても、俺や俺の大切な物に危害を加えなければ、別に気にならないし、危害を加えるのなら亜人だろうとエルフだろうと人族だろうと魔族だろうと関係ない。国や種族で分けるなんて無意味な事はしない」

 ヤスは、自分の考えを言い切った。

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