【第一章 目覚め】第七話 アロイへ

 

 ニグラにむかう為に、門の前に集まっている。
 領主からありがたいお言葉があるらしい。そこに現れたのは、領主の息子のウォルシャタだった

「ウォルシャタだ。俺がお前たちをニグラまで連れていく、安心しろ」

 領主が現れた

「護衛も腕利きを用意した。護衛の指示もウォルシャタが行う事になる。安心して行程を進んで欲しい」

 護衛が一人ずつ簡単に名前と役割を話していく。

 護衛のリーダらしき人間が日程の説明をしている。
 日程は以前から知らされている通りだったが、領主の息子が先頭を歩いて、村ごとに隊列を組んで歩く事になった。

 僕たちの村は、最後尾になっている。最後尾には、4人の護衛のうち一人が配置される事になっている。56人の隊列だが、村ごとの連携が密接とはいえない状態で、進まなければならない。先頭には、3人の護衛と領主の息子と取巻きが居る。

 街道を進んでいるときには、それほど危険を感じる事は無いだろう。
 危険なのは、イスラの森近くを通る時だが、距離的に、1日で通過する事が出来ないので、野宿する事になる。その時が、注意が必要だと、リーダが説明していた。
 出発に先立っての説明が終わった後は、村ごとに決められた食料や水を分担して持っていく事になる。
 領主の息子様は、護衛が持っている魔法の袋に入れていく事になるらしい。

 領主の街を出て、街道を進んでいく。街道には危険な動物や魔物が現れることも無く、進んでいく、休憩時にマヤが野うさぎを弓で狩って、護衛に褒められたりしていた。明日には、イスラの大森林近くを通る。これを乗り切って、アロイの街に付けば一息付く事が出来るだろう。

「リン。リン」
「ん?」
「何もなさそうだね」
「今のところは・・・・だな。明日から3日は周囲を警戒しながら寝るようにしないとならない」

「そうだね。森から動物や魔物が出てくるかもしれないからね」
「それもそうだけど・・・・」

 イスラの森近くの街道に入ったら急に、護衛から隊列を短くしろとの指示が入った。
 前後の間隔を詰めて歩いて行くと、山側に少し開けた所があって、簡単な柵で覆われている場所ある。

 今日は、あの場所で、休むことになる。

 後一泊。そうしたら、アロイの街につける。

 そんな事を思いながら、村の子どもたちと集まって休むことになった。次の日も同じように、歩いて開けた場所で休む事になった。

 明日は、アロイにつける。そうしたら、少しは安心出来るだろう、今日も何もなかった。

 取り越し苦労だったのならいいのだけど

 前方を歩いているはずの護衛のリーダが、何度か後方の護衛に指示のためなのか、下がってきた。

 その時に、僕とマヤを見つめているのが気になっていた。気のせいかもしれないとも思ったが、同じ事が数回続くと、気のせいではすまない。確かに、見られている、監視されていると思っていいだろう。
 リーダが持っているスキルは解らないが、戦闘系のスキルは持っているだろうし、魔法のスキルも持っているかもしれない。それに、護衛の一人は、確実に魔法職だと思われる。護衛全員とは思いたくないが、先頭の3人は、観察していた方がいいだろう。

 僕の袋や武器が奪われたのは、領主が何か絡んでいるかもしれない。

 率直に考えても、面倒な事だ。村長が知っているとは思いたくないが、最悪の場合は、父さんと母さんと合流して、村を出たり、国を出たりする可能性もある。

 遠くに見えていた、スネーク山が大きくなっている。イスラの大森林は、行く手を阻むかのように、存在している。

 中間地点である、宿場町アロイが近づいてきている。アロイで一泊して、次の日はマガラ渓谷を越える事になっている。ここまで歩いてきて疲れている事もあり、皆はアロイの宿でゆっくり休む事にしている。宿があり、野宿ではなく、宿屋に泊まる事にしている。
 父さんの友人の宿屋に泊まるつもりで居るの。荷物が無くなった時に、火の番をしていた、ウーレンとサラナも一緒の宿にしたいと言ってきたが、父さんの知り合いだからと丁重に断った。
 寝てしまった事を気にして何度か謝られたが、そう何度も謝罪されるような事では無いと伝えたて、謝罪を受け入れる事にした。

 野宿が辛いとは言わないけど、そろそろ身体も辛くなってきたし、ゆっくり安心して寝たい。
 マヤは、大丈夫だろうな。いつも一緒ではないけど、しっかり休んでいるようだ。

 今日も、何も発生しなければ、多少はゆっくりできると思っている。

 ゆっくりとマヤの寝息を感じながら意識を手放した。

 手のしびれで目を覚ました。マヤが、僕の腕を枕にして眠っていた。”腕枕”状態になっていた。腕を抜こうにも、マヤに関節を抑えられていて、腕を抜くことが出来ない。肘から先の感覚がない。かろうじて、二の腕の感覚が残されているだけだった。残された腕で、マヤを揺すって起こすことにした。

「マヤ。マヤ。起きて」
「ん??.」
「マヤ。起きないと食べ物がなくなるよ」
「…うぅん」
(もう少し揺すっていれば…)

「….リン」
「マヤ。起きて。もう出発の時間だよ」

「え?もう?」
「そうだよ。ほら起きて、腕が痛いよ」
「腕?」
「そう、腕が、マヤの下敷きになっている」
「ん?あぁリン。約得だね。美少女に腕枕したのだから」
「はい。はい。ありがとうございます。さっさと起きて支度しよ」
「なんか、誠意を感じないな」
「いいから、早く起きて、支度しよ」

 マヤは、やっと腕から離れて、自分の荷物をまとめ始めた。痺れていない腕で荷物をまとめることにした。

「リン。本当に器用だね。両方の手で同じ事が出来るよね?」
「父さんから言われて、右手でも左手でもどちらでも同じ事が出来るように、練習を繰り返しているだけだよ」
「そう言われて、私もやっているのだけど、なかなかうまくできないよ」
「練習あるのみ」
「そっ、そうだよね」

 荷物をまとめて、隊列に合流する。昨日と同じように、最後尾になるように列に加わる。
 しばらくして、隊列が動き出した。予定通りなら今日の夕方前にはアロイに到着する事になる。

「今日頑張れば、一泊はゆっくり出来るよね?」
「アロイにつけるから、僕はゆっくり休む事が出来るよ」
「なんか、トゲがある言い方だな」
「そんな事はありませんよ、マヤさん」

「ハハハ」

 どこからか笑い声がしてきた。

「仲がいいな。兄妹か?」
 護衛の一人が話しかけてきた。

「残念な事に、兄妹です」

「リン。残念って何?私が妹で不満なの?」

「ハハハ。昨日から思っていたが本当に仲がいいのだな」

「仲がいいかどうかはわかりませんが、家族ですからね。嫌う理由はないですよ」

「そうだな。家族は大事にしないと・・・な。俺も、護衛なんて仕事をやっているけど、この護衛が終わったら、娘と嫁さんとアロイで、宿屋を開業する事になっている」
「へぇそうなのですね」
「おぉぉ娘は、まだ解らないが、嫁さんは、計算のスキルを持っているから、商店や宿屋をやる事が良いだろうからな。俺は、”これ”しかないけどな」

 剣を揺らしながら護衛は、嬉しそうに話をしている。

「そうなのですね。計算のスキル、かなりレアですよね?すごいですね」

「だろ!!だから俺が頑張って、金稼いでやっとめどが立った!」
「それで、今回が最後なのですね。それで、アロイまでなのですか?」

「おぉ俺はアロイまでの付き合いだけど、代わりに俺の後輩が付くことになっているから安心しろ、俺よりは少し劣るけど、腕は確かだし、加速のスキル持ちだから、魔物に遅れを、取るような事はないだろうからな」

「へぇ。それじゃ安心してニグラまでいけますね」

「おぉ安心していいぞ」

 護衛は、アロイの街で宿屋をやって、魔物や動物を狩っていたり、薬草などを採取したり、宿に泊まった客に、売る商売をするとのことだ。アロイの街には、宿を取り仕切る元締めがあり、そこに、ある一定の金額を納めれば、宿屋を開く事が許されるらしい。その金額がやっと貯まって、支払いを済ませたとの事で、今は開業する宿屋を嫁さんと娘さんで、掃除したり、必要な物を揃えたり、しているとのことだ。最初は、宿だけだが1階に簡単な食事処を作る予定だと、楽しそうに語ってくれた。他には、嫁さんのノロケや娘が可愛い話しだったので、よく覚えていない。

 護衛がやる宿屋は、宿場町アロイのポルタ側街道の近くで、町外れにはなるが、立地は悪くなさそうだ。護衛が着いた翌日、僕たちが、マガラ渓谷越えを行う日にオープンする予定にしているとのことだ。

「そうだ、お前たちの名前を教えてくれよ。俺は、ラーロだ」
「僕は、リン。そっちの可愛い妹は、マヤ」
「マヤです。可愛い、可愛い妹をやっています」
「そうかぁそうかぁ、マヤにリンだな。嫁さんが作る宿屋は、ベイラ亭って言うから立ち寄ったときには、店に寄ってくれよな」
「了解だよ。覚えていたら顔出すよ。そうだ、ラーロさん」
「ん?」
「ラーロさんは、最初から最後まで、最後尾の護衛だったけど、何か理由があるの?リーダともあまり話している所を見なかったけど、なんでなの?」
「あぁここだけの話って事で聞いてほしいのだけどな」

 ラーロさんの話は、それほど難しい物ではなかった
 もともとは、もう1人リーダのチームから護衛が出るはずだったのだが、アロイで追加護衛の手配の必要があり、先に行くことになった。そして、街に丁度居て、アロイまで行く事にしていたラーロさんに依頼が来た。それで、チームでもない人間だから、ローテーションで前後を守るよりも、自分が率先して一人になる後方の護衛に付くことにした。

「そうだったのですね。ラーロさん。もう一つ聞いていいですか?」
「ん?なに?」
「50人規模の子供を護衛するのに、護衛が4人って普通なのですか?」
「いや。正直な所少ない。リーダと連絡係2名と後5名の8名程度が、最低ラインだな。俺が前居たチームなら、斥候役が、後2名と護衛に前後に2名ずつの4名加えているな。特に、領主の息子が居るなら、斥候役はもう少し増やすかもな」
「あぁやっぱりそうなのですか」
「普通は・・・な。8人に1人程度の護衛が、妥当だと思うぞ。それでも、少ないと感じるかもしれない」
「へぇ」
「それに、この陣形だと、”領主の息子と周辺しか守る気がない”と、思われてもしょうがない」
「やっぱりそうだよな。事実そうだろうな」
「後方には、俺が居るから大丈夫だけど、中央を襲われたら大変だろうな」
「・・・」
「でも、もう大丈夫だろうな。アロイも見えてきているし、この辺りには、魔物が出る事は少ないからな。あぁそうだ、マヤとか言ったかな?」
「ん?何?」
「うさぎの肉が残っていたら、売ってもらえないか?娘が好きだからな。お土産に持って帰ってやりたい」
「うん。いいよ。少ししかないけどいい?」
「あぁ十分だよ。いくらだ?」
「リン。どうしよう」
「そうだな。アロイももうすぐだし、食料が必要になる事はなさそうだからな。マヤの好きな値段でいいとおもうよ。思いっきりふっかけてもいいだろうからね」
「おいおい。貧乏護衛に払える値段にしてくれよ」
「・・・そうだ、ラーロさん。うさぎ1羽残っているから、この1羽で、ラーロさんの宿に女の子二人泊めてくれない?」
「おぉいいぞ。歓迎してやるぞ、お前たちが泊まるのか?」
「ううん。別の女の子、宿が無いと可愛そうだからね。素泊まりでいいよ。なんなら、掃除手伝わせてもいいよ」

「おぉわかった、連れてこい!」

 マヤは、ウーレンとサラナをラーロさんに紹介するために、探しに行った。

「ラーロさんいいの?宿代には全然足りないとおもうけど?」
「いいさ。リンとマヤへの祝儀みたいな物だ、そのかわり、お前たち、パシリカが終わったら、俺の宿に来い!必ずだぞ!」
「わかった。必ず、マヤと顔出すよ」
「いいさ。それよりも、アロイに入るみたいだぞ」

 隊列の進みが遅くなってきた。先頭がアロイの街に到着したようだった。
 ひとまず集まって、明日の事を決めてから解散になるようだった。
 ラーロさんにお礼を告げて、マヤと皆が集まっている所に移動した。

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