【第六章 約束】第七話 共和国(1)

 

 アルノルトが、カルラとアルバンを連れてウーレンフートに向かっている頃。
 アルトワダンジョンを出たローザスたちは、アルノルトから提供された地図を使って進軍していた。

「殿下!」

「どうした?」

「αダンジョンの周辺を抑えました」

「わかった。最低限の人数を残して、δダンジョンに迎え」

「はっ」

 ダンジョンの名前は、デュ・コロワ国が名付けているが、ユリウスたちは、アルノルトが使っていたαβγという呼称で呼ぶことにした。攻略しているダンジョンの確保が最優先された結果だ。
 攻略順ではないが、攻略ダンジョンを遡っていく事で、王都への道が簡単に繋がっていった。

 奇襲が成功した形になる。
 当初の予定通りに、ローザスたちは、デュ・コロワ国の王都を包囲した状態で、共和国に属している他の国に、デュ・コロワの王都を包囲するに至った経緯を説明する書簡を出した。

 包囲して、7日が過ぎた。
 デュ・コロワ国は、何度もユリウスの所に使者を出しているが、講和条件に折り合いがつかない状況が続いている。

「殿下?」

「ダメだ」

 使者が持ってきた書簡を読んで、首を横に振る。
 時間稼ぎをしているのは誰の目にも明らかだ。

 ユリウスたちも時間が必要な状況になっている。実効支配しているダンジョンからの輸送物資が届き始めている。そして、それに合わせて人員も集結し始めている。

 当初・・・。時間は、デュ・コロワ国に味方するかと思われたが、ユリウスたちにも時間が微笑み始めた。
 王都を包囲して、主要街道を封鎖している。

 物資は、王都に入る前にユリウスたちが買い取っている。それでも、半分程度は王都に流れているが、王都の物資は半分以下に落ち込んでしまっている。ダンジョンに依存していた地域では、物資が足りなくなっている為に、王都に回す余裕が無くなってきている。
 ダンジョンからの採取が少なく絞られている状態では、今までの7-8割程度の物資になっている。王都では、最盛期の3割程度まで落ち込んでいる。それでも、最低限の食料は運び込まれている。しかし、その最小限の食料は、王侯貴族が独占している。

「ユリウス殿下」

「・・・。ギル。殿下は必要ない。何度も言わせるな」

「・・・。しかし・・・」

 ギルベルトは、周りを見回すが、ギードとハンスも何も言わない。

「わかった。ユリウス。公式の場所では、流石に”殿下”を付けるぞ?」

「それは、しょうがない。それで?」

「あぁ物資があまり始めているから、食料を使った炊き出しを行おうと思うが、許可を貰えるか?」

「炊き出し?」

「そうだ。昨日、王都から脱出してきた商人が言うには、王都では食料不足で、王都民が飢え始めているようだ」

「ん?食料は、多くはないが、通しているよな?」

「十分とは言わないが、流している。その十分ではない食料を、王族と門閥貴族が独占している」

「はぁ?デュ・コロワ国王は何を考えている」

「ん?何も考えていないと思うぞ?」

「・・・。ギル。炊き出しを頼む」

「御意」

「ユリウス殿下。ギルベルト殿。一つ、試したい事があるのですが、よろしいですか?」

「ハンス。珍しいな。なんだ?」

「はい。アルノルト様がデュ・コロワ国の者に襲われた事や、共和国に非があることを流したいと思います」

「・・・。そうだな。炊き出しの時に、噂話として流しても面白いかもしれない。ギル。頼めるか?」

「わかりました。文面は・・・」

 ギルベルトの問いかけに、ハンスもギードもユリウスも顔をそむける。

「わかった。ヒルダに問い合わせる」

「頼む」

 ユリウスたちも攻め手にかけている。
 強行突入を行えば、王都を落とせるのは解っているのだが、味方の被害も大きくなる。それだけではなく、王都民の被害も大きくなることが考えられる。そして、ユリウスたちが懸念しているのは、デュ・コロワ国の王侯貴族たちが、自らの安全を確保する為に、王都民を盾にすることが考えられたことだ。
 実際に、ユリウスたちが一つの門を破壊した時に、門を守っていた貴族が、王都民を盾にして自らは安全に逃げようとした。

 炊き出しが行われた。
 門から離れた場所から、王都に呼びかけるようにした。

 炊き出しに王都民が群がることはなかった。
 門の外側に居た者たちが、炊き出しに集まっただけだ。それでも、堅く閉ざされた門を揺るがすには十分な成果が得られた。

 炊き出しは、数日に渡って行われた。
 門から離れた場所で、同じ門ではなく、複数の門で行われた。

 その時に、王国が攻め込んできた理由を合わせて宣伝している。王都内には、十分な食料があることも合わせて知られている。

 共和国は、デュ・コロワ国をのぞいて、緊急会議を行った。ユリウスを呼び出す書状が届いたが、ユリウスたちは代官を送った。

 数日に渡る会議の結果が、王都を包囲しているユリウスの下に届いた。

「殿下」

「ご苦労。問題は?」

「ありません」

 送り出した代官と一緒に、共和国からの使者がユリウスの前で跪いている。

「それで、使者殿。共和国は、ライムバッハ家に連なる。アルノルトが害された件は、どうするつもりですか?」

「ユリウス殿下。共和国としては、預かり知らぬことで、ございまして・・・」

「解りました。ギード。ハンス。使者殿は、お帰りになるそうだ」

「お待ちください!殿下」

「何を待つ?貴殿は、共和国の使者として、私の前に居るのだろう?その使者が、”知らぬこと”だとおっしゃっている。私たちとしては、知る者として、デュ。コロワ国の国王に問いたださなければならない」

「そ、それで、関与がないとわかれば・・・」

「面白い事をおっしゃる。関与がない?それでも、今まで申し開きのチャンスは何度もあった。それを無視してきたのは、共和国に属する。デュ・コロワ国だ。ライムバッハ辺境伯軍ではない」

「それは」

「アルノルトは、怪我をした。二人の従者は、主人を庇って殺された。殺したのは、アルトワ町の長代行だ。共和国では、町の長は、国王に任命責任があると聞いた。違うのか?」

 強弁なのは、ユリウスも自覚している。
 しかし、アルノルトが害された事実を黙って見過ごすのは、いろいろな意味で許容できない。

「ユリウス殿下。王国は、ライムバッハ家は、何をお望みですか?」

「犯人の捕縛と、引き渡し、及び、背後関係の公表だ」

「なっ・・・。それは・・・。既に、害した者たちは処罰を与えたとお聞きしましたが?」

「ん?あぁそうか、貴殿たち、共和国は、人を傷つけた場合に、実際に切りつけたナイフや剣を罰すれば終わりなのか?それなら、ここで使者殿を害しても、共和国には害した武器を犯人だと引き渡しをすればいいのだな?」

「・・・。それは・・・。しかし・・・」

 ユリウスも無理なのは解っている。
 背後関係は帝国に繋がっている線があるだけだ。アルノルトから、帝国にある組織が関係していると教えられている。

「わかった。使者殿にも、立場があるのだろう。デュ・コロワ国でも、共和国でも好きになさればいいだろう」

「・・・。殿下は?ライムバッハ軍は?」

「我らも、好きにする。まずは、デュ・コロワ国の王侯貴族を始末する。そこに、アルノルトを襲った犯人が居なければ、近い国から順番に攻め落とす」

「そんなことが」

「できるわけがない?」

 使者は、ユリウスの顔を正面から見られない。
 それだけ、ユリウスの声は自信に溢れている。

「”出来ない”と考えるのは貴殿の自由だ。我たちは、貴殿の自由意志を尊重する。だから、我たちの自由を貴殿たちが阻害しないようにして欲しい。ただそれだけだ」

「待ってください。ユリウス殿下」

 ユリウスは天幕から出ていく歩みを止めて振り返る。

「20日。いえ、15日だけ待ってください。デュ・コロワ国からの謝罪と、共和国からの賠償を・・・」

「わかった。10日だけ攻撃を待つ。10日だ。それ以上は、待てない。各地に居るライムバッハ軍が、共和国の各地に無差別攻撃を行う」

 ユリウスは、振り返り本当に天幕から出た。
 残された使者は、呆然としながらも、自らが行うべき事が解ったのか、慌てて立ち上がって、天幕から出た。そして、護衛たちに声を賭けて、共和国の首都に向けて早馬の伝令を向かわせた。自分は、日数を計算して、すぐにでもデュ・コロワ国の王都に入りたかったが、門が閉ざされているために、無理だと悟った。使者の頭の中では、デュ・コロワ国を見捨ててでも、自らが属する国が生き残る道を考え始めていた。

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