【第三十一章 本腰】第三百十九話

 

 久しぶりに忙しい日々を過ごしていた。
 シロは、相変わらず体調の調整が出来ないようで、邸で休んでいる。エントやドリュアスたちが看病をしている。フラビアとリカルダは、シロの代わりに湖の集落を見てもらっている。二人同時に行く必要が無くなった為に、交代で湖の集落に行ってもらっている。

 シロが邸に籠っている関係で、クリスティーネには負担を掛けてしまっている。
 俺やルートガーでは、無難に進められない場所には、クリスティーネやヴィマやヴィミやラッヘルやヨナタンが出向いている。特に、女性が主体になっている行商は、女性からのお願いのほうが、素直に従ってくれる。
 俺が行くと、いろいろ問題が発生する。ルートガーが出向くと、クリスティーネが居るのに、色目を使ってくる代表が存在するようだ。俺とルートガーで出向くと、雑談を引き延ばそうとする。前は、シロやフラビアやリカルダが出向くか、俺の代理として、シロが名代になって、補佐としてカトリナが着いて行った。
 カトリナは、カトリナで忙しそうに動いている。

 アトフィア教の情報も集まってきた。

「それで?」

 まとまった情報は、ルートガーとクリスティーネがまとめている。
 最初は、長老衆に担当を命じたのだが、長老衆からルートガーとクリスティーネに任せたいと伝えられた。最終的には、俺が許可する形で、アトフィア教に関する情報は、ルートガーとクリスティーネが取りまとめることに決まった。

「ツクモ様。まとめた資料は?」

「読んだ。クリス。俺は、お前たちの見解を聞きたい。アトフィア教の奴らが、行った客観的な証拠は、積み重ねた証拠を数字として現せば、誰でもできる。ルートとクリスには、その先を聞いている」

「憶測が混じるぞ?」

 ルートガーが苦々しい表情で答える。

「むしろ、憶測を聞いている。まとめた数字は、報告書を読めばいい。話を聞いているのは、資料に書かれた情報を踏まえて、お前たちが何を考えて、感じたのか・・・。説明を聞きたい」

「はぁ・・・」

「ルート。私が、説明していい?」

「わかった」

 クリスティーネの宣言で、ルートガーがソファーに背中を預ける。ルートガーが持っていた資料を、クリスティーネが受け取る。

「ツクモ様」

 クリスティーネがルートガーを見てから、二人の見解を話し始めた。

「アトフィア大陸の情報が、以前よりも集まりやすくなっている状況を合わせて考えれば・・・」

 ルートガーが、クリスティーネの言葉が足りない所を補足しながら、クリスティーネの説明が続いた。
 二人の考えの説明なので、資料が作られていない。

 資料は、考えを補填する意味しか持たない。資料を探し出して、補填に利用する。証拠と言ってもいい。考えの基盤が資料に則っている。
 絶対に必要なことだ。自分たちがまとめた資料にない数字や状況を語っても、それは憶測ではなく、妄想になってしまう。

 時折、ルートガーが表情を歪めて俺を見て来る。
 早く終わらせたいのだろうけど、クリスティーネが説明を止めない限り、俺が止めることはない。解っているのに、俺に止めさせようとするのはルートガーの悪い所だな。心配なら、正直に言えばいい。

 20分近く、クリスティーネが説明を行っている。

「・・・。ツクモ様。アトフィア大陸は、荒廃が始まっていると思います」

 最後の言葉なのか、クリスティーネは、冷めた紅茶で喉を潤してから、座りなおして、ルートガーを見つめた。

「ルート?」

「俺とクリスの考えでは、アトフィア教が何かの実験を行って、偶然なのか、必然なのか、新種が産まれた」

「なんの、実験だと思う?」

「わからない。解らないが、アトフィア教の考える事だ、ろくでもないことなのだろう。そうだな。”神”でも作ろうとしたのではないか?」

 ルートガーの言葉に、クリスティーネが同意するように頷いている。
 そうか、「人工の神」か・・・。人が傲慢になった時に、作り出すのは、”悪魔”ではなく、”神”だ。

「”神”か・・・。成功したと思うか?」

「成功していたら、奴らのことだ・・・。もっとアトフィア教の権勢を強めるために使っているだろう?」

「違いない」

 それに、成功していたら、魔物の輸入が終わっていても不思議ではない。
 資料を捲れば、最近まで魔物の素材を輸入している。

 チアル大陸からアトフィア大陸へは、輸出を禁止している。食料だけは許可している。

「ルート。クリス。魔物由来の食料は?」

「前から変わっていない。クリス」

 クリスティーネが資料を探し出して、提示してくれた。
 確かに、微減という感じだが、変わっていないと捕えられる。

 食料も同じように、減っているよな?

 食料は、基本が地産地消だ。
 アトフィア大陸も同じだが、少量だけど輸入を行っている。主に、食肉だけだが、その中には魔物由来の食料が含まれている。

「ルート。奴らは、輸入した魔物由来の素材を、実験に使っていると思うか?」

「増え方を見れば、使っていないと・・・。考えるのは、難しい」

「だよな。禁止するか?」

「禁止したら、やつらは、また魔物を捕縛しようとする。魔物の素材への税を増やしてみるのはどうだ?」

「あまり、好きなやり方ではないが・・・。しょうがない」

「一度、長老衆に判断を投げておく」

「頼む」

 クリスティーネとルートガーが頷いてから、書類をまとめている。

「そうだ。ルート。お前の所感を聞かせてくれ、アトフィア教は、シロかクロか?」

「そうだな。アトフィア教の全体がクロだとは思えない」

「なぜだ?」

「そうだな。全体で行っているのなら、アトフィア大陸に魔物を移動させる必要はない。それこそ、中央大陸で、アトフィア教に協力的な都市や街で行えばいい。秘密裡に進めるために、動いているように思える」

「ふむ。そうだな。敵の敵が、味方になると思うか?」

「それは無理だ。お前が、チアル大陸が仮想敵国なのだろう」

「クリスも、チアル大陸が、仮想敵国だと思うか?」

「はい。間違いなく、アトフィア教は、チアル大陸を、ツクモ様を妥当したいと考えていると思います。それこそ、”魔”を束ねる”王”として宣言してでも、人類の敵にしたいと思っていると考えています」

「そうおもう理由は?」

「はい。アトフィア教が、魔物素材を仕入れようと考えれば、チアル大陸から買い付けるのが簡単です。チアル大陸は、アトフィア大陸の商人を完全には締め出してはいません」

「そうだな。制限はしている。教会関係者の大陸内への侵入は制限しているだけだ」

「はい。しかし、表立って、アトフィア教に関係する商人が出入りしないのは不自然です」

「そうか?」

「はい。中央大陸を経由して、他の大陸の商人の資格を持つ者だけがチアル大陸に来ています」

「それは、慎重に取引を行う為なのでは?」

「慎重になっているとは考えられますが、それでも全ての商人に偽装を命令する必要は皆無です」

 そうだよな。
 偽装するには中途半端だけど、チアル大陸を狙っていると考えるには弱すぎる。

「ルート。クリス。整理ができた。少しだけ考えてみる。長老衆への説明と税の話は、任せる」

「わかった。他に、無ければ、下がるけどいいか?」

「あぁ。そうだ。クリス。後で、シロに会いに行って欲しい。時間があるときでいい」

「え?わかりました?」

「シロが、クリスに会いたいと言っていただけだ。女子会?女性だけで話がしたいらしい。フリーゼやカトリナや・・・。女性と言えるか解らないけど、メリエーラも誘って欲しいようだ」

「わかりました。シロ様に会って、話を詰めてみます」

「頼む」

 ルートガーが、俺を睨んでいた視線を緩めた。
 どうやら、本当に、女性だけの集まりを企画したいようだと解ってくれたようだ。

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