【第四章 スライムとギルド】第十五話 報告書の前に
ライが、カーディナルに乗って帰っていくのを見送ってから、階段ではない方から帰ることにした。
クロトとラキシは、おとなしいけど、さすがに外を歩かせるのには、リードがない?
”ニャウ!”
え?
リードがある?主殿から貰った?
アイテム袋の中に入っている?
はぁ・・・。
確かにリードだ。リードだけど、これは・・・。
私は騙されない。
これは、魔物の素材を使ったリードだ。手に持った事ではっきりとわかった。
でも、確かに見た目はリードだ。
手に持つ場所に魔石が埋まっていたとしても、これはリードだ。武器ではない。
通常は、リードだと紐がリールに巻かれている。このリードには、紐がまとまっている場所がない。それなのに、紐が伸び縮みする。
どうやら、紐は魔力で作られているようだ。
クロトとラキシが遊んでいた時に出していた魔力の紐だ。
うん。楽になったと考えよう。
そうだ、深く考えても無駄だ。
クロトとラキシにハーネス状になっている部分を取り付ける。
すんなりと受け入れてくれるのは嬉しい。
キャリーバッグは、アイテム袋にしまえば問題はない。そう、何も問題はない。楽になるのだ、問題なんてない。
ラキシは、歩くのが嫌なのか、私の肩に乗っている。
上空を見ると、スサノとクシナが飛んでいる。護衛をしてくれているようだ。主が貧弱なのでもうしわけない。
え?
「クロト!今、影に潜らなかった?」
”にゃにゃ!”
できるよ?
じゃないよ。
影に潜って、私の影に出てきた。
「影から影に移動できるの?」
”にゃ!”
条件はあるようだが・・・。
影移動ができるようになったようだ。
もしかして・・・
”ふにゃ?にゃにゃ”
やっぱり、私も影に潜れるようだ。遂に人間を辞めてしまったようだ。影に潜れる人間が居るとは思えない。
主殿の所で、いろいろな眷属から話を聞いて、クロトとラキシはレベルアップを果たしたようだ。その恩恵は私にもフィードバックされている。
考えないようにしていたけど、しっかりと把握しないとダメだろう。
ギルドに向かいながら、クロトとラキシから聞き取りを行った。
思考加速というとんでもない能力が備わっているようだ。
それから、危険察知が個人的には凄く嬉しい。
スキルは、私とクロトとラキシとスサノとクシナで共有される。
もちろん、種族的なスキルは共有されない。スサノとクシナの空を飛ぶという能力は、私やクロトやラキシには備わっていない。
しかし、危険察知のような汎用的なスキルは、共有できるようだ。
この危険察知はパッシブのようで、危険が迫るとアラームが頭の中で鳴り響く。
思考加速も同時に発動するので、周りを確認して、停止しているような状況の中で私やクロトやラキシやスサノとクシナだけいつもと同じように動ける。
とんでもないスキルだ。
私がこれを持っているのなら、主殿たちも持っているのだろう。
だから、あれだけの魔物を狩っても怪我もしないのだろう。他にも、何か特殊なスキルを持っているように思えるけど、この二つだけでも・・・。意識して、思考加速が使えれば・・・。私には、出来そうにない。スキルを認識することから始めなければ・・・。
だめだ。
この状況に慣れてしまっている。
ギルドが見えてきた。
ギルドが見えてきた。
大事なことなので、2回ほど考えたが、ギルドで間違いない。
2台ある車は・・・。ない。
ギルドは、シャッターで入口が塞がれている。
誰も居ない。帰ってきていない。
部屋の入口は別だ。
部屋に入ると、なんとなくだけど、主殿の所での出来事が、夢だったのだと思えて来るから不思議だ。リビングに置いてあるソファーに身体を委ねる。
”にゃ!”
”ニャウ!”
解っている。
夢ではない。その証拠に、ベランダの手すりに梟が・・・。
はい。はい。
解っている。
窓を開けると、スサノとクシナが嬉しそうに鳴き声を上げて部屋の中に入ってきた。
「スサノ。クシナ。止まり木は、あとで注文するからね。今日は、どこか適当に使って」
スサノとクシナの寝床やら休憩する場所を作らなくては・・・。
”にゃにゃ!”
はい。はい。
そうでしょう。そうでしょう。ライが、忘れるわけがないよね。
止まり木が、アイテム袋に入っている。
うん。
解っていた。
多分、ダメな奴でしょ?
やっぱり・・・。
聖樹の枝でしょ?
スサノとクシナの止まり木には・・・。ちょっと小さいかな?
え?
幼い字で、説明が書かれていた。
これ?
本気?
ここまで来たら、指示に従った方がよさそうだね。
円香さんや蒼さんや孔明さんや千明に見せれば、説明しなければならない事がどれだけ”大事”なのかわかってくれるだろう。
丁寧にプランターまで入っていた。
私は、荷物が増えた時に使おうと思っていた・・・。アイテム袋があるから、荷物が増えても大丈夫だ。服が増えても・・・。増える予定はないけど・・・。
玄関から近い部屋を空けておいてよかった。
部屋の端にプランターを置いた。
下には、指示に従ってブルーシートを敷いた。水は必要ないと書かれている。土も必要な分は作り出すから大丈夫だと書かれている。何が、大丈夫なのか説明して欲しい。
指示に従って、聖樹をプランターに寝かせるように置いた。そして、入っていた(主殿たち基準で)小さい魔石を入れる。全部入れる必要はないとは書かれているが、持っていても怖いので、全部入れてしまおう。そのあとで、なんの素材か解らないけど、魔物の素材でプランタを隠すように覆う。
次は・・・。
このまま放置で大丈夫?
それじゃ報告書を書く為に、リビングに戻ろう。
「クロト。ラキシ。スサノ。クシナ。この部屋は、君たちの部屋になるからね。壁や床や天井に傷をあまりつけないようにしてね。絨毯なら汚しても大丈夫だけど、あまり汚さないでくれると嬉しいかな?水場は、クロトとラキシは知っているよね?スサノとクシナに教えてあげて!」
皆から了承の意思が流れ込んでくる。
これは便利だ。
「リビング。最初に座った場所に居るから、問題があったら教えて!」
眷属たちの部屋は・・・。
こっちの部屋を選んでおいてよかった。眷属たちの部屋の窓から外に出ると、浅間神社方面で公園があるから、眷属たちが散歩に出かけるのにも適している。円香さんが使っている部屋だと、道路側になってしまうから、梟が窓から出入りしたら目立ってしまう。
スサノとクシナなら認識阻害を持っているから、目立たないだろうけど・・・。主殿の家と違って完全に防ぐことができない。これから、魔物を狩って、スキルを育てれば、可能性はあると言っていたけど、この辺りに魔物ができる場所はない(はずだ)。
余計なことを考えていないで、報告書にまとめないと・・・。
ワイズマンに提供した方がいい情報と、提供しても大丈夫(じゃないけど)な情報。
ギルド内だけで留めておいた方がいい情報。
報告はするけど、私の頭が疑われる情報。
あとは、是非皆と共有したい情報だ。
—
ふぅ・・・。
報告書が大作現代ファンタジーになってしまった。
事実は小説より奇なり。
この言葉をタイトルにして、それぞれの報告書を別々にして・・・。
27枚?報告書で?
これでも、アイテム袋の中身の説明や、売買契約・・・。あぁぁぁ思い出してしまった。
売買契約の雛形を用意しないと、委託販売契約は、ギルドでも数例だけど行っている。日本では、実例はないけど・・・。
千明に丸投げしよう。経緯の説明を追加しておけばいいよね?
時計を確認すると、22時を回っていた。
集中してしまった。前は、こんなことは無かったのに・・・。スキルのおかげ?それとも・・・。
ギルドのサーバに接続して、状況を確認すると、業務は終了しているようだ。
当然です。円香さんも、孔明さんも、蒼さんも、千明も今日はギルドには居ないようだ。明日は、朝から皆が揃う。報告を行う予定になっている。
私も、お風呂に入って、ひと眠りしよう。
その前に・・・。
見ておいた方がいいと”感”が告げている。
眷属の部屋のドアは開いていたはずだ。
珍しく引き戸なのが気に入っている。
嫌な予感がします。
でも・・・。
あぁ・・・。やっぱり・・・。
部屋の状況を確認して、膝から崩れ落ちました。
大きな声を上げなかった自分を褒めてあげたいです。
ふふふ。明日が・・・。もう、今日ですね。今日の会議が楽しみです。
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