【第五章 共和国】第八話 アルトワ町?え?

 

 うーん。
 町?

 確かに、入り口に掲げられている看板には、”アルトワ町”と書かれている。

 自称”町”が正しいように思える。うん。村だな。村でも誇大呼称に思える。集落?廃村?いろいろ、マイナスのイメージが浮かんでくる。

「カルラ。アルと一緒に、宿屋を頼む」

「かしこまりました。アルバン。行きますよ」

「うん!」

「カルラ様。アルバン様。お待ち下さい」

 クォートが二人を止めた。
 アルは、もう駆け出しそうになっていて、急にストップをかけた車のようにターンを決めている。

「なに?」

「馬車も一緒にお願いいたします。宿屋に寄っては、馬車を停める場所がない場合があります。お手数だとは思いますがお願いします」

「わかった。旦那様は?」

「旦那様は、私とシャープが付いております。町の中を散策することになりましょう」

 そうだな。馬車がなければ、不自然にならないように町の中を散策するのがいいだろう。

「そうだな。カルラ。アル。頼む。エイダは、アルのサポートを頼む」

『はい』

 エイダから明確な返事が帰ってきた。移動は、自分でできるのだが、”ぬいぐるみ”が動くのは、違和感を覚えるので、俺たち以外が居る場所では、”ぬいぐるみ”の真似をするように言ってある。エイダも、”ぬいぐるみ”の状態は都合がいいようだ。アルや俺だと軽く見る奴らを、欺いてエイダが魔法を発動して、撃退したことがある。エイダは、”ぬいぐるみ”に見える自分に誇りをもっている。エイダは、自分の存在すらも計算している。他人に、どう見えているのかを客観的に考えている。

 エイダを御者台に乗せて、隣にはアルが座る。
 ユニコーンたちを牽くのは、カルラだ。カルラも御者台に座ればいいのだが、町の中を移動するときには、誰かが馬—ユニコーンたちだが—を、牽くのがマナーになっている。共和国では違う可能性もあるが、自分たちが持っている常識で行動することにしたようだ。

「それでは行ってまいります。宿屋が決まりましたら、アルを使いに出します」

「わかった。ひとまず、3日くらいでいい。その先も宿泊が可能か聞いておいてくれ」

「はい。かしこまりました」

 カルラが、頭を下げてから、町?方に向かった。

「旦那様」

「ん?」

「どうされますか?」

「うーん。正直、町の中に見るものがあるとは思えないのだよな」

「はい。物資の補給は望めないかと思います」

 クォートの話と、シャープの分析だが、俺もそう思えてしまう。
 なんというか・・・。地方都市のシャッター商店街に似た雰囲気がある。どことなく、停滞を受け入れて、緩やかな滅亡に向かっている雰囲気がある。必死に生きているとは思うが、なにかを変えてまで生き残ろうとする雰囲気が感じられない。

「まぁいいよ。歩いてみよう。村民・・・。町民が居たら、話を聞いてみよう」

 そんな考えを持っていたけど、誰にもすれ違わない。姿さえも見ていない。
 馬車が向かった方角に行けば、建物があるのは解るけど、それ以外の場所には何もない。

「シャープ」

「はい」

 後ろを歩いていた、シャープが俺の横に来る。

「悪いけど、村・・・。あっ町がどうなっているか確認してくれ、スキルの使用を許可する」

「わかりました」

「クォートは、俺と一緒にこの辺りで休んでいよう」

「はい。旦那様。なにか、お飲みになりますか?」

「いいや。誰も居ないけど、目立つことは避けよう」

「かしこまりました」

 シャープが、姿を消した。
 スキルを発動したのだ。

 シャープが戻ってくるまで、動かないほうがいいだろう。

「クォート。周りの警戒を頼む。人が来た時には起こしてくれ、魔物が来たら、始末を頼む」

「かしこまりました」

 横になって目を閉じる。
 デュ・コロワ国は、アルトワ町を切り捨ているのか?

 メリットがない。デメリットしか思いつかない。でも、こんな状態では、切り捨てていると思われても不思議ではない。

 問題が発生していて、対処が出来ないのか?
 それなら、もう少し村が騒がしくても不思議ではない。村が静まり返っているのが不思議なのだ。国境の村なのだ。辺境には違いは無いが、ただの辺境ではない。王国から来た者たちを出迎える玄関口だ。

 すぐに壊れそうな柵と風で倒れそうな門と明日にでも落ちてしまいそうな看板。
 門番さえも居なかった。

 門を思い出すと、門番が居るべき場所には、誰かが居ただろう形跡がある。
 しかし、数日じゃない時間、そこには誰も居なかったのだろう。見ただけではわからないが、2-3ヶ月は誰も居なかったと想像できる。

 そして、目の前に広がる畑だ。
 収穫が終えているから、少しだけ荒れているのは解るが、それでも手を入れている雰囲気がない。

 俺も、畑はわからない。これが、この辺りの畑仕事なのかもしれない。前世でも、畑仕事なんてしなかったからな。

 廃村ではない。
 人の気配はある。こちらを伺っている雰囲気はある。村から見える場所。畑ではない場所で、下草が生えていた場所で横になってみたが、誰も寄ってこない。

『旦那様』

『シャープか?』

『はい。ご報告があります』

『どうした?』

『村人たちが、居ない理由がわかりました』

『俺も、村人って言っているけど、一応・・・。町人な』

『はい。もうしわけありません』

『それで、居ない理由?』

『はい。3ヶ月前に、この村・・・。あっ町を、盗賊が襲ったようです。そのときに、戦えるものたちで、撃退は出来たのですが、ほとんどの者が怪我をしたり、死んでしまったり、戦える者が減ってしまっている状態です。そのために、救援を求めに、動ける者が、近くの町に向かったのですが』

『帰ってこなかったのだな』

『はい。既に、3回ほど、町に救援を求めているようです』

『そうか、シャープ。それは、誰に聞いた?』

『井戸で水くみをしていた、女児です。お父様が帰ってこないと泣き出してしまったので、クッキーを食べさせて落ち着いたので、事情を聞きました』

『よくやった!』

『ありがとうございます!』

『村・・・。町の様子も聞いてくれ、あと、商隊とか、他の町から来る者がいるかとか、クッキーで釣れるのなら、食べさせてもいい』

『はい。女児は、母親にも食べさせたいと言っています。咳き込んでいて元気がないと言っています』

『口止めした上で、治療してやれ、大人なら、詳しい事情を知っているだろう』

『はい。かしこまりました』

 シャープからの情報は重要なことが含まれていた。
 盗賊が襲ってきたことではない。

「クォート!」

「はい。夜に、確認に行きます」

 シャープとの念話も聞いていたようだ。
 明確な指示をしなくていいのは楽だ。

「任せる。もし、俺の邪魔になりそうなら、殲滅してくれ」

「かしこまりました。旦那様?」

「あぁ十中八九・・・。他国の人間だろう。女児には悪いけど、父親は多分・・・」

「はい。旦那様。もし、他の町が絡んでいる場合にはどういたしましょうか?」

「そうか、その可能性もあるのか・・・」

 他国が絡んでいるのなら話は簡単だ。俺たちが、盗賊を退治してしまえば、この町の状態は、多少は改善するだろう。盗賊がすべての原因ではない可能性はあるが、それは俺が・・・。俺たちが考えることではない。

 しかし、ここから向かえる町が一つだった場合には、クォートが言っているように、同国の違う町が、アルトワ町の地位・・・。王国からの窓口を得ようとして、盗賊を雇っている可能性がある。
 この町が衰退して、玄関口として相応しくないとなったら、次の町が玄関口になるのだ。多少遠くても、王国に向かう場合には、その町で補給する方法しかなくなってしまう。そのために、同国の他の町を襲うとは考え難いが・・・。

 いや、その可能性の方が高いように思えてきた。
 そうなると、この国・・・。デュ・コロワ国の内情を調べないと、動けなくなってしまう。

 こっちの道を選んだのは失敗だったかもしれないな。

 うーん。
 考えてもわからないから、まずは情報が集まるのを待つか・・・。

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