【第二章 ギルドと魔王】第十一話 周辺国
「ティモン」
「陛下。御前に」
帝国の帝都にある。高級な宿屋の一室だ。7番隊の隊長であった、ティモンが、一人の男性に跪いて頭を垂れる。
「堅苦しい挨拶は必要ない。余と、貴様しかいない」
「はっ」
玉座の住人が、ひと目を避けるようにして、宿屋に来たのには大した理由はない。
面会の相手が、前7番隊の隊長であるためだ。7番隊は、表向きは解体されている。そして、隊長であったティモンは、責任を取る形で、辺境の”村”の領主となった。玉座では、余人に聞かれてしまう可能性があり、宿屋での面談となった。
「それで、魔王の様子は?」
「理知的です。共に歩むには理想的だと考えます」
「そうか・・・。しかし、この前、ギルドから最高峰の職人と話がしたいと言われたぞ」
「はい。その顛末はまとめてあります」
ティモンは、数枚の”紙”を皇帝に手渡す。
”紙”を受け取った皇帝は驚愕の表情を浮かべる。
「ティモン。これは?」
「魔王ルブランから提供された物です」
「・・・。何を考えている」
「お読み頂ければ・・・」
皇帝は、ティモンから渡された紙面に目を落とす。
最初の報告は型どおりになっているが、二枚目からは信じられない内容が綴られている。
「ティモン」
「陛下。何度も、確認しました。ギルドの・・・。新生ギルドのボイドにも確認をしています。全部が、真実です」
「おい。何の冗談だ」
「いえ・・・。信じられないのはわかりますが、魔王ルブラン。魔王城とは、それだけの技術的な開きがあります」
「そうか・・・。技術の提供を行うとあるが?」
「陛下。”これ”を作れるような技術を提供されても・・・」
テーブルには、ティモンが取り出した”鉄の板”が置かれる。
陛下が、手に取ってみるが、不思議な効果があるわけではない。どこにでも有る鉄の板に見える。
「ティモン。これは?確かに、この曲面加工は、驚くほど丁寧だが、それほど特筆した技術があるようには思えないのだが?」
「そうですね。一枚を作るだけなら、帝国の技術者も可能だと言っております」
「そうだろう?ん?一枚?」
ティモンがさらに追加で、数枚の色違いの板を取り出した。
「陛下。魔王ルブランは、この板だけではなく・・・・」
さらに、大小様々な大きさの球体を取り出す。一つではなく、3-4個ずつ。同じ大きさ、色違いで作られている。
「これは・・・」
「魔王城で作られている物です。陛下。お手に取っても大丈夫です。材質は、帝国の技術者が用意したものです」
ティモンの言葉を、しっかりと咀嚼して、言っている意味が解って、皇帝は驚愕の表情を浮かべる。
そして、目の前にある物を手に取り確認を始める。
板は、全てが寸分の狂いなく同じ大きさと同じ厚みをしている。
手触りは、材質により、差が出ているが、それでも似たような手触りになっている。それだけではなく、表面には、全く同じ模様が描かれている。色は、素材の色なのだろうが、それでも不思議な色合いをしている。
球体はもっと驚愕で迎えられた。
歪みが感じられない。同じ大きさの球体など、作られるはずがない。皇帝が持っている常識が崩れている音が聞こえてくる。
「ティモン。この球体は、表面を削っているのか?」
「はい。同じ色の球体で、削られている位置を揃えて並べてみて下さい」
ティモンは、最初から準備していたのか、球体を並べる窪みが作られた板を持ち出す。
板の窪みには、球体がしっかりとはめ込める。それだけではなく、寸分の狂いなく、球体が一列に並ぶ。それだけでも、技術的な差を感じてしまう。
「な?」
「陛下。お気づきですか?」
「・・・。あぁ」
皇帝は、球体の削っている部分を繋げた。しっかりと削った部分が繋がった。一つなら偶然で済むかもしれないが、全部の大きさが違う物が繋がっているのだ。笑うしか無い状況だ。
「ティモン。魔王ルブランは、これを作るのに、どのくらいの時間が必要だったのだ?」
「陛下。最初にお渡しした板を見て下さい。不自然な傷が中央にあると思います」
「あぁ触ったときに気になったのだが、あの傷は?」
「魔王ルブランに、素材を渡すときに、付けた傷です。魔王ルブランに言われて、素材に傷を付けて渡したようです」
「・・・。それで?」
「素材を持って、加工して帰ってくるまでに、掛かった時間は、鐘二つでした」
「ダメだな。職人に、魔王城の技術を追わないように、布告を出す」
「はい。それと、魔王ルブランから、加工品なら、城塞街で取り扱って良いと言われました」
「値段は?」
「素材で違いますが・・・」
ティモンは、”紙”に書かれた値段表を皇帝に見せた。皇帝が考えていた値段の1/20程度だ。
「これは・・・。そうか・・・。本当に、恐ろしい魔王だな」
「はい」
ティモンは、皇帝から”紙”を受け取り、持っていた魔道具を発動する。
魔道具の発動で、”紙”が燃え尽きるのを、二人を見つめている。
帝国は、魔王ルブランに全面降伏の状態だ。帝国、国内の反乱分子を魔王城に向かわせている。魔王が望んだことだ。皇帝も、ティモンも、ギルドのボイドから話を聞いている。魔王は、人を倒すことで、力を得る。それが、数名や数十名ならそれほど問題ではないが、千人や万人になれば話が変わってくる。大陸にいくつか存在する魔王城で、巨大な物はそうして人を倒してきている。大量の人の命が、魔王に力を与えている。
帝国が送った人数だけで考えても、魔王ルブランが倒した人は、現存が確認されている魔王城の中でトップクラスだ。
鬱蒼とした気持ちで、二人は消える火を見つめている。
—
「それで、朕に何を望む?」
「新生ギルドをご承認して頂ければ十分です」
「わかった。そのふざけたことを行っているのは、間違いなく”神聖国”なのだな」
「はい。我が首を賭けます」
「わかった。お主たち新生ギルドの設立を許可しよう」
「ありがとうございます」
城塞街にある、新生ギルド本部から派遣された者は、天子に深々と頭を下げてから、立ち去った。
立ち去ったのを確認して、天子は面白くなさそうな表情をする。
「誰か」
「天子様。御前に」
一人の男性が、天子の前に姿を表してひざまずく。
「監視は?」
具体的な指示ではなく、確認だ。
「付けております。一人は、ご指示の通りに、監視だと解るようにしております」
跪いた男は、頭を上げないまま、事実だけを告げる。
指示は、既に貰っている。確認だと解っている。余計な情報は必要ない。
「それならよい。それと、”呪”に関しては?」
「はい。調べさせております。概ね。新生ギルドからの情報通りです」
新生ギルドから、事前情報として”呪”の情報は貰っている。情報の裏付けをしないほど愚かではない。皇国の辺境を中心に、神聖国が教会を作りたいと言ってきた。税金と合わせて金銭での対価を支払うと言ってきた。他にも、建材は皇国から購入して、作業員も皇国の人間を使うと言ってきていた。
「朕の膝下でふざけたことを・・・。神聖国に、抗議の書簡を送れ。返事次第では、一戦も考慮する。推進した者たちを調べろ、神聖国に通じていたら、一族を始末しろ」
騙された格好になることが許せなかった。推進してきた者たちを抹殺する指示も忘れない。
「直ちに・・・。天子様。”呪”の解呪は?」
「すぐに行なえ。それから、皇国にある、神聖国の出先機関は全て潰せ」
「はっ」
「それから、朕の娘婿に、帝国の息子がいたな」
「はい。ランドルフ様です」
「呼び出せ」
「はい」
「構えなくて良い。帝国には情報交換をしたいと伝えろ、新しい魔王と、朕たち皇国が共栄できるか探るためだ」
「はっ」
静かな声で苛烈な命令が発せられた。
皇国は、良くも悪くも、天子が治める国だ。天子から発せられた命令は絶対だ。
天子が、神聖国からの返事で少しでも納得ができない内容ならば、戦争に突入することになる。
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