【第三章 裏切り】第二十四話 交渉
/*** リン=フリークス・テルメン ***/
一旦、書類の半分を、ローザスに預ける事になった。
残りの半分は、ミルが持つことになった。ミルといいながら、実質的には、ギルドに管理を任せる事になってくると思う。
これで、ニノサからのふざけた依頼の半分は終了した事になる。
話しが一段落したのをみて、ローザスがミルに視線を送っている。ローザスが鑑定持ちなのは解っている。ミルのスキルの確認をしたのだろう。
「リン。この子僕にくれないか?」
「は?」
「だって、この子のスキル」「ローザス様!」
もうバレているから気分的には構わないのだろう、ファンと呼ばれた者—多分護衛だろう—が、ローザスをたしなめる。ローザスは、そういう言葉もしっかりと聞く護衛対象なのだろう。
「そうだったね。ごめんね。えっとぉ」
「ミトナル」
「ミトナルちゃん」
「いえ、かまいません。ここに居る人なら教えても構わない」
「そう?だって、ファン。興味ない?」
「お前と一緒にするな!」
「そう?すごいよ。ミトナルちゃんだけじゃなくて、リンの後ろの女の子なんて、宮廷魔道士並の魔力持ちだよ?パシリカを受けたばかりでだよ?これから、どれだけ伸びるか・・・興味ない?」
「え?」「は?」「なん・・だと?」
あっまだ一波乱あるの?
面倒事はイヤだ。
「うーん。リンとマヤちゃんだったかな。あまりにも不自然だよね?」
「不自然?」
「うん。僕は、ニノサとサビニから、君たちの事も聞いている。それなのに、なんで真命が揃っているの?」
しまった・・・言われてみればそうだ。俺とマヤが本当の兄妹でない事を知っている者にとったら、不自然に見えるのかも知れない。
俺の失態だ。マヤの事を隠そうと思って、間違った対応をしてしまった。
表情に出すな。絶対に、これ以上悟られるな。
「・・・」
「他にも、リン。君ジョブ名とスキルが合っていないよ?」
「別にそれはいいだろう?俺にも、事情がある」
「そうだね。ここに居た娘たちは、皆がアンバランスだよ。ねぇ書類とは別に、君たちにギルドを僕も絡ませてもらうとして、そのかわりに、君たち近衛の訓練に参加してみない?どうやってやったのかわからないけど、有益なスキルを隠しているようだけど、訓練しないで、いきなりスキルを使うと、大怪我するよ。いろんな意味でね。特に、ミトナルちゃんは、訓練すればするほど強くなって、君が本当に守りたい者を守れるようになると思うよ?」
少し考える。
「ローザス。それは、善意からなのか?」
「それ、直球で聞く?」
「あぁ面倒だからな。お前に腹芸で敵いそうにないから、さっさと結論を聞いた方がいい」
「そうだね。下心はあるよ。でも、女の子を囲いたいとかではないから安心して、僕は、ルナさえいれば満足だからね」
「へ?」
間抜けな声を出してしまった。
たしか、話で、ローザスの婚約者が、ルナが筆頭だって話は聞いた。宰相派閥の人間が邪魔をしていて、正式には決められていないという事も聞かされている。書類の件がうまく流れば、婚約は間違いなく認められるだろう。
ハーレイが”にが虫”を数百匹同時に噛み殺したような顔をしている。そうとう嫌なのだろう。でも、主筋には逆らえないという事だろう。
「だから、君たちが僕の大切な、婚約者殿を守ってくれるのは、僕としてもメリットがある」
それだけで無いのはすぐに解るが、表の理由としては十分だろう。
ようするに、ルナの護衛を育てたいという事に受け取れる。
「だってさ、イリメリ。どうする?」
こういう時は、イリメリだろう。
「ローザス殿下」
「殿下はやめて欲しいな。ここでは、ただのローザスでお願い。イリメリちゃん」
「それでしたら、私たちの事を、ちゃん付けしないで下さい。ローザス殿下」
ハーレイから、含み笑いが聞こえる。
「はい。はい。わかった、イリメリ。それで?」
「いい話だと思います。ギルドを運営するにしても、私たちの権威付けにもなります。前向きに検討させて下さい」
「うん。ありがとう。王宮に来て、ファンに取り次いでもらえば、あとは中の話を通しておくよ」
「ありがとうございます。それで、ミルはどうする?」
皆が、ミルに視線を向ける。
俺は、神崎凛ではない。ミルもそれは解っているだろう。
『ミル。俺はいい話だと思うぞ』
『うん。でも、リンから離れたくない』
『それは嬉しいけど、あまり、俺にくっついていると、疑われるぞ。フェムなんか、完全に疑っているからな』
『わかった。力は必要。ゴミどもを殺すためにも、わかった。話を受ける』
『ありがとう』
『うん。でも、お礼は形あるもので、そう、リンの子供とか?』
『ふたりとも、いい加減に、ミル。約束は守ってよね』
『マヤ。なんで会話に入れる?』
『リンにお願いしたら、繋げてくれた』
『リン・・・私を売ったの?』
『マヤも、ミルも、いい加減にしろ、俺は、お前たちと違って、魔力が少ないから辛くなってくる』
『あっごめん』『ごめん』
念話通話を切った。
ミルは少し考えるふりをしている
「僕は、近衛の訓練を受けてみる。魔法スキルの青・赤・黄・灰・黒。そして、スキルの魔法の吸収・剣技の吸収を活かすためにも、実戦とは言わないけど、訓練は必要。どこかでやろうとは思っていた」
沈黙が流れる。
「はぁぁぁぁなんだ、そのいかれたスキルは?すぐにでも、俺のミヤナック家に欲しい」
「だろう?ふざけているよな。ファン。ファン!」
「あぁすまん。ローザス様のいいたい事は解った。”魔法の吸収”や”剣技の吸収”は珍しいが、居ないわけではない。魔法に関しても同じだ。でも、それを全部併せ持つ者なぞきいた事がない。なにか、このミトナル嬢は、剣技や武技を見ただけで吸収して、魔法の詠唱を聞けば使いこなせるだけのスキルを持っているという事か?絶対に敵に回したくないな」
「だろう。すぐにでも、叙勲して、貴族か、近衛に加えたいだろう?それか、ファンの正妻に押したいよ!」
「あぁ今ここで、略式で授けても、誰も文句言わないと思うぞ。正妻はダメだろうけどな」
ファンは、ミルから漏れ始める殺気に気がついて肩をすくめる。
「いらない。僕は、守りたい人が守れればいい。その人のためだけに生きると決めている」
褒められて嬉しいのだろう。でも、嫁と言われて、殺気が漏れた事を反省したのだろう。
そして、改めて、認識したのだろう。俺の方を見ないで、うつむいてつぶやいたのが皆に決心の硬さを感じさせた。
「リン。書類は、僕が持っていると、訓練中に無防備になる。だから、マヤとリンが持っていて」
「そうだな。ローザス。それでいいか?」
「あぁ構わない。でも、貸し1つな」
「いいぞ、それじゃ貸しを返そう。ミル。ちょっと来てくれ」
「いいの?」
「あぁローザスとハーレイとコンラート殿とファン殿なら、誰かの身内みたいなものだろう?裏切ったら、その身内の者に責任を取ってもらうだけだ」
ニヤリと笑う。
そして、もう見せたから大丈夫だろうと思う。
ミルのスキルを隠蔽する。ついでに、ミルがジョブ名も変更する。
「ローザス。ミルはどう見える?」
触る前に、鑑定したのだろう。
「え?」
「そういう事だ。俺には、なぜかできる」
「・・・初代のスキル?そうか、サビナーニか・・・?」
「どうした!ローザス。サビナーニがどうした?」
ハーレイが言葉をを投げるが、ローザスの反応はない。
「ローザス!」
「あっすまん。ハーレイ。そうだ!リン。時間ができたら、王宮に来てくれないか?君と・・・マヤに話したい事がある。それに、頼みたい事もある」
「そうだな。一度、ニノサの馬鹿が帰ってきていないか、ポルタで確認してから、戻ってくるがそれからでいいか?」
「あぁ十分だ」
これで、本当に話しが終わった。
ローザス達が部屋から出ていく、ファンがミルになにか告げている。王宮に着いてからの手順なのだろうか。
ローザス達と入れ替わりに、皆が戻ってくる。
「聞いていた?」
「うん」
皆しっかりと聞いていたようだ。
書類の件ではない。近衛との訓練の話しだ。
「私は受けるべきだと思う」
フェムがいきなり切り出した。
「フェム。悪いけど、俺たちが帰ったあとで頼む。俺は・・・タシアナ。ナッセ・ブラウンは、ここに来るのか?それとも、孤児院に行ったほうがいいのか?」
「え?」「あっ!」
タシアナが思い出したようだ。
「ごめん。リンとマヤさえ良ければ、孤児院に来て欲しいという事です」
「わかった、いきなり訪ねて大丈夫なのか?それとも、タシアナと一緒の方が・・・」
「私が一緒に行って、お父さんと話をしてもらいたい」
「わかった。それじゃ案内頼めるか?たしか、アノーラ神の教会だったよな?」
「うん。オンボロだけどね。みんな、そういうわけだから、リンを案内してくる。ミルはどうするの?」
「ついていく!その後、王宮に行ってくる」
「ねぇミル。王宮から帰ってきたら、顔だして欲しい、どんな感じだったのか教えてくれる?」
ミルは、俺を見るがうなずいておく
「わかった。今日は、話を聞いてくる。訓練はその時次第」
「お願い」
タシアナが立ち上がったのを確認して、俺もそれに続く。
俺の後ろには、マヤとミルがついてきている。
「リン。でも本当にいいの?」
「なにが?」
「かなりの大金だよ?」
「あぁ寄付?問題ないよ。俺が持っていても使わないからな」
「お父さんすごく喜んでいたよ。でも、ニノサさんだっけ、名前出したら、すごく嫌な顔されたよ。”ニノサの息子”じゃなくて、”サビニの息子”って呼べと怒られたよ」
あっそうなのね。
ナナと一緒か?ニノサの迷惑料だと言えば受け取りやすいかな?
「ここの奥だよ!」
タシアナが示した場所は、お世辞にも綺麗とは言えない建物だ。
教会と言われなければ気が付かないだろう。中は、確かに俺の記憶にある教会と同じだ。
「タシアナ。あれは?」
地球だと、十字架が置かれたり、マリア象が置かれたり、している場所に、小さな男の子の象が置かれている、ちょっと”ゆう”に似ている。
「あぁマノーラ様の像だよ」
「へぇそうか、マノーラ様の教会だったよね?」
「うん。お父さん!お父さん。リンを連れてきたよ、ニノサ・・・じゃなかった、サビニの息子と娘だよ」
今までにない大きな声で、奥に呼びかける。
大熊を思わせる大きな身体をした神父が出てくる。足元には、小さな子どもが、まとわりついている。
「あぁタシアナお姉ちゃん!彼氏なの!」
「違うわよ。お父さん。彼が・・」
「サビニの息子か?」
「はい。俺・・いや、私は、サビニと残念な事に馬鹿との間に産まれた、リン=フリークス・テルメンです。お初にお目にかかります」
「僕・・私は、マヤ=フリークス・テルメンです」
「ナッセ・ブラウンだ。サビニとパーティーを組んでいた事がある。あと、馬鹿が1人と、魂の名前とかふざけた事を言っていた男も居たが、それは忘れたい話だ」
「ありがとうございます。でも、ナナには良くしてもらっています」
「アスタに会ったのか?」
「えぇそれで・・・」
タシアナと子供達を見る。
ブラウン殿も、タシアナも、ミルもマヤもわかったのだろう。
「リン。何か、食べ物ない?」
マヤが、子どもたちを連れて行ってくれるようだ。でも・・・ミルの方を見るとうなずいてくれる。解ってくれたようだ。
「マヤ。リン。僕とタシアナが相手してくる」
「あぁそうしてくれると助かる」
マジックポーチから、作りおきしてもらった、ポテチとジュースを取り出す。あと適当に肉だ。子供なら肉が好きだろう。
ミルとタシアナがそれを受け取って、子どもたちを奥に連れて行く。
「おぉすまんな。話は、儂の部屋で聞こう。それとだ、言葉は戻していいぞ、サビニの息子と娘に、そんな言葉を使われると、儂の方が緊張してしまう。それと、儂の事は、ナッセと呼んでくれ、ブラウンと呼ばれるのは好きじゃない。ニノサを思い出してしまう」
本当に、ニノサは何をしてくれたのだ?
ナッセの後についていく、執務室のような部屋に入った。
中は、執務室のようだが、一部似つかわしくない物が置かれていた。
大盾だ。それに、アックスハンマーというべきものだろうか、確実に使い込まれている。
タンクの役割を持っていたのだろうか?
少しくたびれているが、ソファーが置かれている。
俺とマヤが、ナッセの正面に座る。
「それで?サビニの息子と娘が、孤児院に何のようだ?あっ儂は、マヤ。お主の事はよく知っている。さっきのマジックポーチを渡されたという事は、事情は教えられているのだろう?」
この人も気持ちが”ど直球”で気持ちがいい。
これなら、下手な腹の探り合いは必要ないということなのだろう。
「わかった、ナッセ。いくつか聞きたい事がある」
「なんじゃ。女の抱き方とかなら、教えて・・・やる必要はなさそうだな」
マヤが俺の腕を握っているを見て、ニヤリと笑う。
「なっ!お前、ニノサの同類か!?」
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