【第三章 裏切り】第二十五話 孤児院
/*** リン=フリークス・テルメン Side ***/
ナッセとの話は、簡単に終わった。
寄付金と、ギルドマスターへの就任要請。
ギルドマスターへの就任要請は、タシアナから説明してもらった。
寄付金に関しては、そんなにいらないと言われた。それよりも、ギルドに金を渡して欲しいと言われて、ナッセは、フェムやタシアナと交渉して、孤児院の維持するための資金を得るつもりだと笑っていた。
それに、ギルドの話を聞いた時に、それなら、子どもたちにも雑用をさせる事はできそうだなと、言っているので、なにか考えが有るのだろう。
善意の押し付けは害悪にもなるので、ナッセの意思を尊重する事にする。
俺が持っている、白金貨は、ナッセにあずけて、ギルドに使うなり自由にしてくれと言っておいた。
「リン。これは、いらんと言っただろう?」
「あぁそれなら、どっか別の孤児院に寄付するなり好きにしてくれ、ニノサから貰った物だからな。ナッセに今までの迷惑料として渡したい」
ナッセは少しだけ考えてから
「解ったそういう事なら受け取ろう。お前も、ニノサに迷惑を受けているのだろうな」
「どうだろうな。いきなりこんな物をナナに頼んで渡すようなバカには違いない。それに、こんな書類もな、既に半分は、ローザスに渡した」
「ローザス?皇太子か?」
「えぇそうだと思うがわからない。俺の前では、ローザスとだけ名乗っていましたからね」
「そうか・・・その書類。儂が見てもいいのか?」
「そうですね。問題ないですよ。でも、その前に、このメモを見て下さい。そして、俺に助言を下さい。お願いします」
ニノサが残していった、多分俺や昔の仲間たちへの懺悔のメモを見せる。
/*** ナッセ・ブラウン Side ***/
儂は、今、サビナーニの息子と娘に会っている。
娘の事は理解している。ニノサとサビナーニに相談された。
だが、それはいい問題は、息子と名乗る、リン=フリークス・テルメンの事だ。娘の、マヤ=フリークス・テルメンの事情は知っている。今日は、おとなしくしているようだ。
リン=フリークス・テルメン。何かがおかしい。ジョブ名が聞いたことがない。いろいろな所を旅をして、いろんな種族にも会ったが、聞いたことがないジョブ名だ”村人”だと・・・そもそも、村人だとしても、何らかのジョブが定着する。
それが無いとでもいいたいのか?
後で聞けばいいのかも知れない。
今は、その謎が多い息子が持ってきたメモと書類だ。
マジックポーチから取り出した事から考えても、リン=フリークス・テルメンが、サビナーニの血を引いているのは間違い無いだろう。残念な事に、ニノサの血もだ。
メモを読んで、思わず、息子の顔を見てしまった。
どういう表情をしていいのかわからない。わかったのはすぐに、あのバカを殴り飛ばしたい気持ちになったことだけだ。できることなら・・・。
「マヤ。ごめん。タシアナとミルを呼んできて欲しい。書類の件で話があると言えば解ると思う。それで、マヤ。悪いけど、子どもたちの相手してくれる?」
「うん。解った!」
娘を遠ざける?
このメモの内容は知らせていないのだろう。
そして、あのバカのメモには、二組の協力者の名前が書かれている。
”エルンスト”と”セラミレラ”だ。1つは、知らないが、もう一つはよく知っている。
「ナッセ。二人にはまだ話していない。このメモを見せたのも、ナッセが最初だ」
今、二人と言ったか?
1人は解る。もうひとりは・・・。そんな偶然があるのか?
「リン。何?」
儂の考えがまとまる前に、二人が来てしまった。
タシアナは、儂の隣に座る。もうひとりの女の子は、リンに寄り添うように座る。
「あぁナッセに、書類を預けようと思うけど、二人の意見を聞きたい」
ミルと呼ばれていた子が儂を見ている。あれは、鑑定が有るのだろうか?
「僕はいいと思う。タシアナのお父さんだし信頼できる」
「うん。私もお父さんなら大丈夫だと思う」
リン=フリークス・テルメンは、いきなりそんな事を言い出す。
「ナッセ。書類を預かってくれないか?その保管料として別途料金を払う。そして、ローザスやハーコムレイが取りに来たら渡して欲しい」
「保管料はいらん。さっきの話・・・ギルドを作る時に、儂の部屋を・・・ギルドマスターやらの部屋を作ってくれるのだろう?その時に、儂の頼みを聞いてくれるだけでよい」
「俺はそれでかまいませんが、ギルドに関しては、タシアナやミル。後、発案者が別に居ます。俺は、資金援助をしているだけですので、交渉は別に行って下さい」
資金援助か・・・ニノサのバカやサビナーニの世間知らずの事だ、膨大の金貨が眠っていたのだろうな
「資金援助はどの程度なのか?」
「そうそう、お父さん聞いて!リンは、バカなの!」
「タシアナ。バカは酷いだろう。必要だろうと思って渡したのだからな」
「限度って物が有るでしょ?限度って物が!」
タシアナは、少し怒りながら、実際には怒っては居ないだろうが、話し始めた。
「リンとか言ったな・・・お主は、やっぱり、ニノサの息子だ。間違いない。それで、サビナーニの息子でもあるな」
頭が痛くなった。
コボルトの魔核が70個以上に、こぶし大の魔核が999個。すぐに換金できない物は、ミヤナック家が預かったようだから問題にはならないだろうが、それ以前にそれだけの大量の魔核を放出したら、市場がおかしくなる。
そして、袋の中にはまだ魔核が999個あると言っている。
ニノサとサビナーニの二人なら、そのくらい集められるだろう。対魔物特化スキルを二人は持っている。
それにしてもやりすぎだ。
「本題に入りたいと思う」
メモの話しをするつもりなのだろう
「ナッセには、見せた物だが、これは、まだ、マヤにも見せていない。だから、マヤには話さないで欲しい。それが条件だ。それを守ってくれるのなら、俺は、ここで殺されても文句は言わない」
驚いた。
確かに、それだけの文章である事は間違いない。
まずは、ミルと呼ばれた少女がメモを見ているが、眉1つ動かさない。読み終わったメモを、そのままタシアナにわたす。
「!!」
「・・・」
「リン!」
タシアナは立ち上がって、リン=フリークス・テルメンを睨む。
少しだけ睨んでから、息を吐き出して、座りなおした。
メモを、リン=フリークス・テルメンに返した。
手が震えているのが儂にも解る。
「タシアナ。儂は」
「お父さん。ううん。いい。リンに聞きたい。なぜ見せた?そのメモって本当なの?」
リン=フリークス・テルメンは、大きく息を吸い込んでから
「まずは、”なぜ見せた”だけど、タシアナとミルには見る権利が有ると思ったからだ」
今、見る権利と言ったか?
どういう事だ?
「次に、”本当なの”って問いかけだけど、俺もそれが気になって、ナッセに意見を聞きたいと思った。俺は、否定して欲しいとさえ思っている」
そこで言葉を切って儂を見る。
「すまん。儂には、ここに書かれている事が真実だとしか思えない。ニノサのバカは、そう、あのバカは冗談が好きで、ふざけた事をするが、人の生死に関する事で、ふざけた事は一度もない!」
/*** リン=フリークス・テルメン Side ***/
やはりだ。
このメモに書かれている事は本当なのだろう。
ニノサとサビニが、ポルタ村にやってきたのは偶然ではなかった。
サビナーニが母親の本当の名前だ。サビナーニは、今の陛下の妹だが、いわゆる庶子に当たる。当時のメイドに産ませた子供なる。要するに、俺は、ローザスの従兄弟という事になる・・・で、いいよな?
まぁいい。王家の血が入っているのは間違いない事になる。なんで、そんな事になったのかは、ニノサのバカの言葉を信じるのなら、ニノサがサビナーニに惚れて、庶子である事やスキルにも問題が有ったために、ヘンゼルト公爵家によって幽閉されていたのを、連れ出して、逃げたらしい。この辺りは、二人の秘密だとかふざけた事が書かれていた。
それから、数年後に陛下が崩御された。その後、当時の皇太子が王位を次ぐことになったようだが、王弟と宰相が手を組んで邪魔をした。
ミヤナック辺境伯は、当時かくまっていた、ニノサとサビニの二人に、ポルタ村に赴いて、宰相と王弟に資金を流しているであろう、アゾレム家とドワイト家を調べるように依頼する。
ニノサは、当時から付き合いがあった。夫婦に、アゾレム家とドワイト家に移り住んでもらって、内部情報を集めてもらっていた。
その夫婦の名前が、”エルンスト”と”セラミレラ”だ。タシアナ=エルンスト・ブラウン、ミトナル=セラミレラ・アカマースの両親になるのだろう。
俺は、二人から名前を聞いてから、二人の両親の可能性が高いと考えている。
ニノサのメモには、時期なども明記されている。
タシアナの両親と思われる人物が強盗に扮した、前ドワイト家の領主が雇った者に襲われたのが、約10年前。ニノサ達が駆けつけた時には、既に村は半壊して、エルンスト夫妻は死んでいた。家も破壊されつくしていた。無事だった家に預けられていた、女の子を、ニノサは、古くからの友人であるナッセに預ける事にした。
もう一つのセラミレラに関しては、このメモを書く寸前約半年前の出来事のようだ。
アゾレムに潜入していた、セラミレラが決定的な証拠を掴んで、ニノサの所に送ってきた。これ以上の証拠を掴むと潜入を続行したようだ。潜入の成果はわからないが、一度村に戻ると連絡来た。そして、ニノサの所に、アゾレムが、セラミレラの村に兵を送ったと連絡が入った。
ニノサとサビニは、メモを残して、今まで得ている書類をマジックポーチに詰めて、昔なじみのアスタへの託した。そして、俺はそれを受け取った。
”リン。マヤ。これを、お前たちが見ているのならば、俺とサビニは、もう死んでいるだろう。いいか、俺たちの復讐なぞ考えるな。書類を、アルフレッド=ローザス・フォン・トリーアか、ハーコムレイ・フォン・ミヤナックか、リンザー・コンラートか、ナッセ・ブラウンに、渡して、お前たちは好きに生きろ。できれば、ミヤナック領か、違う国に行け。いいか、復讐は考えるな。俺とサビニは、俺たちのために、動いてくれた者たちのために動いただけだ。お前たちまで、縛るつもりはない。何度でも言うぞ、復讐なぞ考えるな。リン。マヤ。二人は、俺たちの自慢の息子で娘だ。マヤ。リンを頼むな。リン。マヤを泣かせるなよ”
ニノサの・・・あのバカの言葉だ。
/*** タシアナ=エルンスト・ブラウン Side ***/
なにこれ?
それが私の最初の印象だ。
思わず、リンに当たってしまった。
1番悲しいのは、リンなのかも知れない。私は覚えている。パパとママが、”恩人”に受けた恩を返すのだと張り切っていた事を、”恩人”が誰だったのかはわからなかった。パパとママが言っていたのは、その恩人が居なければ、私は生まれてこなかったと言うことだ。
前世?と同じではないかと思ってしまう。
そう、私の前世とも違うが、韮山里穂のパパとママも、高校生の私から見たら、10年前・・・私が、7歳になる時に死んだ。別々の場所で同じ日に死んだ。ううん。殺された。犯人は見つかっていない。パパは、川に突き落とされた。その前に、刺されていたとも言われた。ママは、ひき逃げだ。そして、私は、7歳から施設で育った。
10歳になった時に、両親の事でバカにされて、女子のボスを殴ってしまった。それから、いじめられるようになってしまった。そんな私を助けてくれたのが、凛君だった。凛君は覚えていなかったみたいだけど、私は覚えている。いじめられている私の手を引っ張って、担任の先生の所に行って、事情を話してくれた。担任の先生が、いじめなんてなかったと言った時には、証拠を持ってくれば認めるのですか?と、とても小学校の子供ではない受け答えをしたのを強烈に覚えている。その後、校長先生にまで話をして、私を助けてくれた。それから、私は凛君を意識するようになった。なんで、私を助けてくれたのか?それが聞きたかった。
凛君の弟さんが死んでから凛君は変わってしまった。両親と同じ新聞記者になると言っていた凛君は総てを諦めたような目をしていた。それから、数年後に今度は、凛君の両親が車の事故で死んでしまった。
凛君の事ではなく、私の事だ!
なんで、地球での出来事と同じ事が発生しているの?
里穂のパパとママも、恩人のために、なにかを調べるのだと言っていた、あの二人が居なかったら、私は里穂は生まれてこなかったと言われた。7歳の時と3歳の時。私は、二回両親をなくした。
そして、私は知っている。
里穂のパパとママが調べていたのが、立花議員と西沢と言う。コンサル業をしている奴だ。
そして、立花はアゾレムで、西沢はゴーチエだ。偶然だとは、絶対に思えない。
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