【第十章 エルフの里】第四話 出発

 

 ヤスの準備は終わったが、リーゼの準備が終わらなかった。
 主に、アフネスとラナからの説教が原因だ。

「アフネス。ラナ。確かに、リーゼは準備を、ファーストに投げて、カートで遊んでいた」

 リーゼは、ヤスがイワンとテントの打ち合わせに行っているときに、カート場でカイルとカート勝負をしていた。リーゼにも言い分はあった。

「ヤス!」

「”しばらく旅に出る”とカイルに話したら、勝負を挑まれた」

「うん。うん。僕は悪くない!」

「別に、私たちは、カートで遊んでいたのが悪いと言っているのではないのですよ!」

「リーゼ。準備を終わってからでも良かったのでは?カイルも、待っていてくれたでしょ?」

 アフネスとラナから正論を言われて、リーゼは何を言い返しても倍になって返ってくると思って、何も言えなくなった。

 ヤスは、リーゼとアフネスとラナを見てから大きく息を吐きだす。

「ファースト。リーゼの準備は終わっているのか?」

「はい。旦那様」

 ファーストが準備を行っていたのは、リーゼの着替えや野営のときに必要になる寝具をまとめていた。

「アフネス。リーゼの案内で、里に入って、集落に移動する必要があるのだろう?」

「あぁ」

 リーゼは、ヤスが説教に介入してきてくれたのを嬉しく思いながらも、自分が今なにかを口にしたら、説教が再開されると感じた。説教が再開されても被害を最小限におさめるために、黙ってヤスの後ろに移動した。
 リーゼの動きを、ヤスもアフネスもラナも認識していたが、指摘しないで見逃している。

「ファーストが準備した服装で問題はないのか?俺は、客人になるだろうから、一般的な服装でもいいだろうけど、リーゼは違うのだろう?伝統的な服装とかないのか?」

 ヤスの指摘で、アフネスとラナはリーゼが”あの格好”を嫌っていたことを思い出した。しかし、”あの格好”でなければ集落には移動できない。

「!!」「リーゼ?」

 アフネスとラナが、ファーストがリーゼのためにまとめた荷物を出すように言っている。リーゼは抵抗していたが、二人の圧力には抵抗出来なかった。
 服装のチェックなので、俺は距離を開けて荷物が見えない位置に移動した。ファーストが飲み物を持ってきてくれている。

 そうだな。アフネスもロブアンも酒を飲むよな。

「アフネス。里や集落に、蒸留酒ウィスキーを土産で持っていっても問題はないか?」

「ヤス!持っていくのはいいが、蒸留酒は辞めておけ、暴動が起こる」

「暴動?」

「今後も大量に持ち込むのならいいが、土産として1-2本を考えているのなら駄目だ。蒸留酒は、それだけの威力がある」

「そうなのか?」

「はぁ・・・。里にも集落にも、ミードしかない。ヤス。蒸留酒の作り方を教えようと考えるなよ!」

「・・・。おぉ・・・。わかった。手土産くらいは必要だろう?」

「あ!ヤス!ナイフを持っていこうよ!」

 ラナに説教を継続されていたリーゼが話しに割り込んできた。説教を無理やり終わらせるつもりなのだろう。
 ラナを見ると、諦めの表情と一緒に”どうぞ”という雰囲気を出している。

「ナイフ?」

「うん!イワンたちが打ったナイフなら、ちょうどいいと思う!神殿の店売りのナイフでいいと思うよ!」

 テンションが高いリーゼはおいておくとして、ナイフを土産に持っていっていいのか?
 ”縁切り”に繋がるから刃物は、相手が欲しがっていない限りは土産には適さないと思っていたのだが・・・。

「アフネス。どうだ?店売りのナイフなら、元々外に出しているし、数も揃えやすい。10本でも20本でも持っていけるぞ?」

 アフネスが少しだけ考えてから、蒸留酒よりはましだろうと返事をくれた。大丈夫だと言ったときのアフネスが、ヤスとリーゼを見て口元をにやけさせたのを見逃さなかった。

「ヤス!僕、イワンに話してくるね!」

 リーゼは、俺とアフネスとラナの静止を聞こえないふりをして、ファーストを連れて家から飛び出した。

「それで、アフネス。ナイフは大丈夫なのか?」

「あぁ・・・。刃物は、喜ばれる。それは間違いない」

 アフネスの言い方に不審な感じはしない。本当に喜ばれるのだろう。

「もしかして、鉄製品が少ないのか?」

「あぁ魔核を持っていくだけで歓迎されるだろう」

「そうなのか?魔核でもいいけど・・・。リーゼは、なんでナイフと言い出した?」

「それは、リーゼに聞いてほしい。多分、リーゼもそのつもりだ」

「わかった。道中は暇だしな。リーゼに聞いてみる。それで、アフネス。俺の格好は大丈夫なのか?」

 服装を気にするが、アフネスが見てもヤスの服装は簡素だが、失礼には当たらないと思えた。ヤスがあまりにも気にするので、”大丈夫だ”と、伝えた。
 里や集落の話を聞きたかったようだが、リーゼがイワン工房の所からナイフを20本ほど持って戻ってきた。代金は、ヤスが払うと伝えたと言われて、慌ててヤスが工房に向かった。

「イワンは?」

「ヤス様。工房長なら、奥に居ます」

「そうか、リーゼがナイフを持って来たけど、代金はどうした?」

「え?あっ・・・。もうしわけございません」

「ん?何を謝る?」

「え?ナイフの・・・。え?」

 ヤスが来たのを、工房の人間がイワンに伝えたのだろう。
 奥から、イワンが出てきた。

「ヤス。すまん。リーゼの嬢ちゃんに渡したナイフは、弟子の弟子が打ったような物で、店売りに出したとしても、10本まとめてじゃないと値段がつかないような物だ」

「ん?」

「ヤス様。工房長。リーゼ様には、しっかりしたナイフをおすすめしたのですが・・・。これで十分だとおっしゃられて・・・」

「リーゼが、大丈夫と言ったのなら、大丈夫だ。イワン。代金は?」

「必要ない。だが、神殿のナイフがあの程度だと思われるのは、気分が悪いから一本くらいはまともな物を持っていってくれ」

「わかった。イワンが適当に見繕って、届けてくれ」

「あぁ。代金は、セバス殿と交渉するけどいいな?」

「大丈夫だ。何か、欲しい素材でもあるのか?」

「果物園を、大きくしようと考えている」

「ん?どこ?神殿の中か?」

「いや、ウェッジヴァイクだ」

「うーん。相談はしてみるけど、期待するなよ?増やす果実は決めているのか?」

「それで十分だ。それに、ウェッジヴァイクなら果樹園の管理をする者を確保するのは簡単だ」

「あぁそうだな」

「増やすものは、ヤスに任せる」

 イワンと報酬の話をしていたヤスは、念話でマルスに話しかける。

『マルス。話を聞いていたな。任せていいよな?』

『了』

 マルスは、神殿と同じように、楔の村ウェッジヴァイクに果樹園を作成した。
 最初は、ドッペルを使って管理を行い。徐々に住民に管理を委譲した。

 ヤスは、工房からリーゼの家に戻った。
 準備は終わっているが、アフネスとラナの説教が続いていると考えたからだ。

「ヤス!」

 家に入ると、リーゼが駆け寄ってきた。説教は終わったようだ

「ん?アフネスとラナは?」

「宿屋で話をすると言っていたよ。出発前に、ラナの所に来て欲しいと言われた」

「わかった。荷物はいいのか?」

「うん。僕、あの衣装・・・」

 リーゼは、ハイエルフだけが身につけられる衣装が気に入らない。自分は、ハーフだと思っているために引け目を感じてしまうのだ。
 ただ、アフネスから”もう一つの意味”を教えられて、渋々持っていく事を承諾したのだ。

「そうか、嫌なら着なければいい。書簡を渡すためだけに行くのだし、衣装が問題になるのなら、その時点で書簡を渡して返ってくればいい」

「うん!そうだね。でも、僕・・・。衣装は着るよ。そうしたら、ヤスの手助けになるよね?」

「そうだな。集落に行くためには必要なのだろう?」

「うん」

 ヤスは、リーゼの家から神殿に戻った。
 マルスから果樹園の計画を聞いて、了承の意を伝えた。その後、荷物の確認を行ってから就寝した。

 翌朝、テンションが上がりきって周りに迷惑を振りまいているリーゼがヤスを待っていた。リーゼを神殿に残して、ヤスはラナの宿屋に向かった。

「ラナ。今日、出発する」

「ヤス様。アフネス様から、渡すように頼まれたものです」

 小箱を一つラナはヤスに手渡した。

「これは?」

「”鍵”だそうです」

「ふーん。行けばわかるのだな」

「はい。必要にならないほうがいいともおしゃっていました」

「わかった。リーゼではなく、俺に渡した意味もあるのだろうけど、わかった。預かる」

「はい。リーゼ様をお願いいたします」

「わかった」

 ラナから、小箱を受け取って、神殿の地下に移動する。リーゼは準備万端で待っている。傍らには、フェンリルキャスパリーグガルーダが控えていた。
「よし!行くか!」

「うん!」

 ヤスが運転席に、リーゼがキャスパリーグを抱えて助手席に、フェンリルはFITと並走するようだ。疲れたらモンキーの間に寝そべると言っている。ガルーダも、空を飛んで周りを警戒するが、疲れたら中で休むことにする。

 ヤスが、FITに火を入れた。
 地下から出て、東門に向かう。ユーラットにはよらないルートで、里に向かう。

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